http://www.asyura2.com/15/hasan102/msg/701.html
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年収300万円世帯と1000万円世帯では、子どもの学力がはるかに違う〜広がる「教育格差」。施設支援から厳しい現実が見えた
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46448
2015年11月19日(木) 森山 誉恵「いつか親になるために」 現代ビジネス
■子どもたちの教育格差を生む「4重の壁」
私が代表理事を務める3keysは、虐待や貧困などの困難を抱える家庭に育ち、かつ必要な社会資源が十分に届かない状況にある子どもたちをサポートする非営利団体です。
児童養護施設で学習ボランティアをする大学生の有志団体として立ち上がり、2011年に法人化しました。親や行政だけに子育ての負担を強いるのではなく、民間の立場で、子どもたちの社会保障の充実を目指しています。
子どもたちの自立をサポートするための活動の中の一つが「学習支援事業」です。学習支援事業では、これまで主に保護者のいない児童や被虐待児などを対象にしてきました。このように、家庭での養育が難しい児童に対して、公的な責任として養護を行うことを「社会的養護」と言います。つまり、家庭に代わって、社会保障費(我々の税金等)で子どもたちを育てることを指します。
その中でも、里親など家庭に近い環境で暮らす子どもたちではなく、児童養護施設をはじめとした、児童福祉施設で暮らす子どもたちを対象に、勉強を教える家庭教師(チューター)を派遣し、子どもたちの勉強をサポートしています。
社会的養護の下で暮らす子どもたちは現在、全国に5万人近くいます。社会的養護については、より詳しく書いた記事があるのでこちらをご覧ください。(50,000人の子どもたちが親元で暮らしていない今。子どもたちが暮らす8つの形態、全て言えますか?/虐待・育児放棄・貧困……この国には施設で暮らす子どもが4万人もいる!あなたの身近にも必ずある施設の実態とは?)
学習支援事業では、一般的な家庭教師の派遣と同じように、チューターの研修や選抜、フォローを担うことで、子どもたちの現状や要望に合ったチューターを施設に派遣しています。チューターの満足度を上げることも含め、子どもたちが学習を続けやすい仕組みづくりに努めています。
一般的な家庭教師派遣会社との違いは、チューターはボランティアであること。さらに、チューターの管理やサポート等の運営費は家庭からもうらのではなく、個人や法人の寄付・協賛によって賄われています。家庭の「経済格差」が子どもの「教育格差」につながらないようにするためです。
児童養護施設等で暮らす子どもたちは、学習に苦手意識を持ち、結果理解が遅れてしまうケースが少なくありません。そこには子どもの能力や意思の前にある、「構造上の問題」が潜んでいます。
私たちはそれを「4重の壁」と呼んでいます。子どもたちがぶつかっている「4重の壁」を見ていくことで、社会保障、公教育、児童福祉、医療など、あらゆる側面から、子どもたちが置かれている厳しい現状を実感できるはずです。
子どもたちが学習でぶつかる「4重の壁」
■「家庭の経済力」=「子どもの学力」の時代?
最初に立ちはだかるのは「家庭環境の壁」。私自身活動をしていて、これまで育った家庭環境が子どもたちに与える影響の大きさをひしひしと感じます。
私たちが支援している子どもたちの中には、小学2年生でひらがなが十分に書けない子や、小学4年生で一節の文章を読むことに苦労する子、中高生でも九九が覚えられていないため、指を使って計算をする子もいます。
一方で、そんな子どもたちの同じクラスには、幼稚園から日本語はおろか英語やプログラミングスキルを身につけている子どもたちもいます。勉強だけでなく、複数の習い事をしているため、スポーツ万能で一芸に秀でた子どももいます。
つまり、「家庭の経済力」が、「子どもたちの学力」に直結しやすくなっているのです。
図1.世帯収入と子どもの学力 (対象/小学6年生)
2008年度全国学力テストの結果分析 出典:文部科学省、専門家会議(2009年度報告)
図の引用:公益財団法人チャンス・フォー・チルドレンのホームページ
また現在は、保護者の同席無しに外で遊ぶことができない時代で、スポーツをするにもお金を払ってクラブや習い事に通わなくてはいけません。放課後も親が働き詰めであったり、金銭的に余裕がないと子どもたちは外で遊んだり、スポーツをすることもできないのです。
子どもたち自身は、それが「環境の差」だと客観的に理解することはできないため、「自分はバカだ」「勉強が向いていない」「スポーツができない」と判断し、自信や意欲さえも失ってしまうことがあります。
勉強に必要な体力や集中力も養われず、周りの子たちに比べて学力が劣ってしまう。自信や肯定感を失ってしまい、家に帰っても声をかけて、慰めてくれる人もいない。親と一緒に暮らしていても、親は仕事で疲れ果てているため、話しかけるのも気が引けるという子どもたちもいます。
図2.世帯種類別、親が子どもと過ごせる時間
図2からは、母子家庭の15%、父子家庭の25%は、子どもたちと一緒に過ごす時間を1日のうち2時間も持てていないことがわかります。2時間は、ごはんを食べて、お風呂に入り、連絡帳にサインをする程度であっという間に過ぎてしまいます。
子どもたちが学校で何に困っているのか、例えば九九の7の段に躓いているといったことに、十分に気づける余裕がない状況なのです。
■子育ての負担が親だけにのしかかってしまう現代社会
図3.地域社会があった頃の子どもたちを取り巻く環境
かつては子どもの周囲には親だけでなく、親族や近所の人等、たくさんの大人たちがいました。たとえ親が忙しくても、「家にごはんを食べにおいで」と言ってくれるおばちゃんや遊んでくれるお兄さん、叱ってくれるおじちゃんなど、たくさんの大人が、子どもたちに必要な知識・サポート・愛情をそれぞれができる形で提供し合っていました。
図4.現在の子どもたちを取り巻く環境
しかし、核家族化した現代は親戚が遠くに住んでいることも多く、隣近所との付き合いはほとんどありません。3組に一組が離婚をする時代、家庭によっては子どもの周りには親一人しかいないケースも多く、その親が何をできるかが、子どもたちが得られるものに直結しがちです。
かつてはあらゆる人たちが役割分担していた、子どもの教育を親であるたった二人(あるいは一人)で担う、あるいは、お金を払って、塾や夜間保育、習い事等の代替機関を探さなくてはなりません。
しかし、ここでも代替機関を探せるかどうかは親の経済基盤によってきます。現代は社会に出る上で、様々な経験やスキルが必要である高度な社会です。
テクノロジーが進歩する中で、単純な仕事は機械に取って代わられ、人間には、高度な専門スキルを身につけたスペシャリストか、複数の分野をまたがり総合的に判断・処理できるジェネラリストといったように高いレベルが求められるようになっています。
ますます親がどれだけ子どものためにアンテナを張り、時間を割き、お金をかけるかによって子どもたちが得られる経験やスキルに大きな差が生まれる時代になっていると私は感じています。
図5 子どもに継承されやすい、親の格差
子どもたちが勉強に意欲を持って取り組んでいけるかどうかは、子どもの能力や意思以前に、子どもたちが置かれている家庭環境によって左右されてしまうのです。これが一つ目の「家庭環境の壁」です。
■福祉である「一時保護」が子どもの学習機会を奪う
二つ目は児童福祉の構造上の問題をはらんでいる「一時保護の壁」です。
児童相談所は、家庭に虐待や育児放棄があるとわかった場合、家庭訪問や親との面談を行いながら、子どもたちを保護すべきか、家庭でそのまま育てるべきかを判断します。
虐待や育児放棄の程度が深刻な場合、子どもを一時保護し、親元から引き離すことがあります。一時保護から家に戻る場合もありますが、児童養護施設をはじめとした、社会的養護の下で育つことになる子どもたちもいます。(児童相談所についてはこちらの記事で詳しく書いています→20年間で児童虐待の相談は70倍増。児童虐待の相談等に対応する「児童相談所」ってどんな場所?)
図6.虐待の相談の流れ
データ引用元:東京都福祉保健局 採用職種ナビ
実は、この一時保護中に学習に大幅な遅れが出やすいのです。一時保護されると、保護期間中は学校への通学も含め、外部との接触は一切禁止となります。一時保護所は、保護を目的としているため、親や周りの人に子どもの居場所が分からない形になっています。
本来一時保護所は、虐待後の子どもの保護や養育方針等を定める期間に、子どもたちの安全を確保するための場所です。しかし、近年虐待相談件数が大幅に増えている中で、人手も足りず、一時保護の先にある児童養護施設等の保護施設の空きも少ないため、長期間一時保護所に待機せざるを得ない状況にあります。
私が知る中で、最も長く一時保護されていた子どもは1年間一時保護所で暮らしていたといいます。つまり、1年間学校にいけない期間が児童福祉の体力不足によって生まれてしまっているのです。
データ引用元:時事ドットコム「児童虐待、8.9万件=24年連続で最多更新−厚労省」
2014年度に児童相談所が対応した児童虐待の件数は9万件近くとなり、前年度に比べて約1万5000件ほど増えています。ここ数年は、非常に残念ながら年間1万件ペースで増えており、毎年最高値を記録し続けています。
にもかかわらず、平成11年(西暦1999年)から平成23年(西暦2011年)の約10年間で、児童相談所の数と虐待の対応を行う児童福祉司の数は2倍程度しか増えていません。その一方、虐待件数はこの間、約6倍増となっています。単純に考えて児童相談所の対応力は1/3になったと言えるでしょう。
データ引用元:2012/04/25全国児童相談所長研修資料、厚生労働省雇用均等・児童家庭局編
一時保護所は一時的に暮らすための最低限の生活機能と学習機能しかなく、保護所の外にいる友人や先生とも接触ができない中で、一時保護期間中の勉強がごっそり抜けている子どもたちも多く見かけます。
図7.一時保護中の学齢児(小学生以上)の日課
これは、一時保護中の学齢期の子どもの日課です。一見勉強ができる時間が確保されているようですが、実際に関係者に話を聞くと、計算ドリルと漢字ドリルが配られ、小学校1年生から高校3年生までが同じ部屋で、職員一人(大半は教員ではなく、児童福祉の職員)が保護の一環として見ている程度とのことです。学校に通っている子どもたちが受けている教育とは大きな差が生まれてしまっているのです。
たとえ、「家庭環境の壁」を乗り切ったとしても、この一時保護期間中、精神的にも不安定な状況の中で、学習への意欲や自信、学力そのものが低下してしまう可能性を多くはらんでいるのです。
三つ目、四つ目の壁については、後編にご期待下さい。
つづく。
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