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日本は知らぬ間に「景気後退局面」に入っていた〜なんと2四半期連続のマイナス成長。それでも消費税を上げる気ですか?
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46443
2015年11月19日(木) 安達 誠司「講座:ビジネスに役立つ世界経済」 現代ビジネス
■日本経済は本当にリセッションに入ったのか
11月16日に発表された2015年7-9月期の実質GDP成長率(一次速報)は、季調済前期比年率換算で-0.8%と、2四半期連続のマイナス成長となった。景気循環での定義を単純に当てはめると、日本経済はリセッション(景気後退局面)に入ったことになる。
もう少し細かく内訳をみてみると以下のようになる。
2014年4月の消費税率引き上げ後に急減し、多くのエコノミストが懸念していた「実質家計最終消費」は、季調済前期比で+0.5%(年率換算では+2.1%)と予想外に堅調であった。
また、円安の進行にもかかわらず、回復がみられず、景気の足を引っ張っているとみなされてきた「実質輸出」も、季調済前期比+2.6%(年率換算では+10.9%)、実質輸入を差し引いた「純輸出」は+0.1%(年率換算では+0.4%)と、プラス寄与となり、悪い数字ではなかった。
一方、主に成長率を押し下げたのは、「民間在庫品増減」(前期比の寄与度は-0.5%、年率換算では-2.1%)と「民間設備投資」(季調済前期比-1.3%、年率換算-5.0%)であった。
2014年4月の消費税率引き上げ後、日本経済が停滞している大きな理由は、家計消費の落ち込みであるとされてきた。その落ち込みを埋め合わせるために、低所得者向けの給付金等の「所得再分配政策」が必要であるというのが、コンセンサスになりつつある。だが、今回のGDP統計の結果は、必ずしもその見方に沿った内容ではなかった。
このように、家計消費の悪化がみられなかった(むしろ、わずかながら回復している)ことから、「日本経済がリセッションに入っている」という見方は悲観的過ぎると思われる。ただ、だからといって、日本経済について楽観的な見方をしてよいということではない。問題はもっと根深いのではないか。
■企業の「予想インフレ率」はなぜ改善しないのか
では、何が問題なのか。
筆者は、10月15日の本コラムで「企業の予想インフレ率の低下にともなう実質金利の上昇によって、今後は設備投資の減速が懸念される」ことに言及した。実際に、今回のGDP統計でも、成長率の低下に大きく寄与したのは民間設備投資であった。
設備投資は、投資の回収までの期間が長いため、企業が将来の収益環境をどのように予想するかでその動向が決まってくる。そこで、企業の利益が「マージン(利益率)×売上数量」で決まると単純化すると、デフレが長期間持続するという予想のもとでは、まずは、企業は提供する財・サービスの販売価格を引き下げざるを得なくなる。
その結果、企業にとってはマージン(利益率)が低下することになる。将来的にマージンの改善が見込めない環境下では、企業の設備投資に対するインセンティブが大きく損なわれるのは自明であろう。
そこで、日本銀行は、QQE(量的質的金融緩和)政策によって、このデフレ予想を払拭する姿勢を明確にした。QQE政策の波及経路、及びその手法を巡っては様々な意見があるが、ひとまずは、企業の予想インフレ率(例えば、日銀短観の「販売価格判断DI」など)を引き上げることに成功した。
その結果、日銀短観の販売価格判断DIの結果をみると、QQE政策実施以降、販売価格を引き上げることによってマージンを確保しようともくろむ企業の割合は着実に高まってきた。
ところが、2014年4月の消費税率引き上げを契機に、企業の予想インフレ率はピークアウトし、逆に低下基調を強めた(これは、2014年4月の消費税率引き上げの影響によるものだと推測されるが、10月15日のコラムでも指摘したのでここでは言及しない)。
■日本経済にも当てはまる「長期停滞論」
だが、筆者がそれよりも深刻だと考えるのは、QQEによって(少なくとも消費税率引き上げ前までは)順調に予想インフレ率が上昇したにもかかわらず、企業の将来の予想実質成長率が一向に改善しなかった点である。
これは、前述の議論でいえば、むしろ、売上数量に関連する。企業の利益は、マージン×売上数量でほぼ決まる。だとすれば、売上数量が増える見通しが立たないと、企業は設備投資のインセンティブをもたない。
マクロ経済的には、売上数量の予想増加率は、中長期の「予想実質経済成長率」に連動すると考えることが可能であるが、リーマンショック前までは、この中長期の予想実質経済成長率は企業の予想インフレ率と正の相関関係にあった(もっと詳しく述べると、「金融緩和で予想インフレ率が上昇すると、その1年後の中長期の予想実質経済成長率が上昇するという先行・遅行の関係があった)。
すなわち、日本銀行の金融政策が、予想インフレ率の上昇に寄与することができれば、これは、1年程度のタイムラグで、企業が予想する将来の実質成長率をも引き上げることができた。これは、とりもなおさず、金融政策が予想名目経済成長率を引き上げることが可能であったことを意味する(図表1)。
だが、リーマンショック以降、この関係は崩れている。すなわち、QQEによって、企業の予想インフレ率が上昇したとしても、中長期の予想実質経済成長率は、ほとんど変わらない(例えば、内閣府の「企業行動に関するアンケート調査」における「今後5年間の平均実質GDP成長率」は、2009年以降、前年比+1.3〜1.5%で安定的に推移している)。
つまり、QQEは、企業の予想インフレ率を引き上げることには成功したものの、同時に中長期の予想経済成長率を引き上げることはできていないのである。
さらに、同様のことが、予想インフレ率と企業のフリーキャッシュフロー(ここでは、「税引き後利益+減価償却費-設備投資」で定義)の間にもみてとれる(図表2)。
リーマンショック以前は、予想インフレ率と企業のフリーキャッシュフローは逆相関(予想インフレ率が上昇すると、それが設備投資の回復に波及し、結果として企業のフリーキャッシュフローは減少、外部資金調達需要が増大する)の関係にあった。
ところが、リーマンショック後、両者の関係は崩れている。例えば、2013年以降は、QQEの効果で企業の予想インフレ率は大きく上昇したが、同時にフリーキャッシュフローはむしろ増加している。
これは、日本経済が、「長期停滞論」が妥当する位置にいることを示唆するものである。
■今の日本には思い切った政策出動が必要だ
プリンストン大学教授でノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマン氏は、最近、IMFのパネルディスカッションで、長期停滞が続いた日本は、「Timidity Trap(臆病者の罠)」に陥っており、もはやQQE政策のみで、この長期停滞を脱出できないであろうと述べた。
この「Timidity Trap(臆病者の罠)」は、まさに、将来の実質経済成長率を過度に悲観的に予想して、キャッシュポジションを積み上げている日本企業の行動そのものであろう(これと同様のインプリケーションを持つと考えられる「長期停滞論」の論文が、Benigno and Fornaro[2015]によって提示されている)。
ところで、このクルーグマン氏の「変節」は、現在の日銀の金融政策に批判的な論者らに熱狂的な歓喜をもって迎え入れられたが、残念ながら、そのインプリケーションは、彼らが期待したものとは全く正反対である。
クルーグマン氏は、「日本がこの『臆病者の罠』から抜け出すためには、よりアグレッシブな金融緩和を実施すると同時に財政支出も拡大すべきだ」と提案している。そして、これは、「長期停滞論」の提唱者であるローレンス・サマーズ元米財務長官をはじめとした「長期停滞論」に関する論文の執筆者にも共通する意見である。
だが、安倍晋三首相は、現時点では、2017年4月の消費税率の再引き上げは「予定通り実施する」という方針をあらためて強調している。このような「緊縮財政」路線をとった場合、景気の失速はないものの、日本経済の停滞をより長期化させてしまう懸念があると筆者は考える。
こうした状況下で、ジャック・ルー米財務長官が日本政府に対し、積極的な財政拡大で景気を刺激するよう要請したことは大きい。これによって、日本政府が、経済政策スタンスを変更させるかどうかが、今後の日本経済にとっての焦点となろう。
ともかく、今は、目先の消費浮揚よりも、企業にとっての将来不安を払拭させるような思い切った政策出動が必要な局面ではなかろうか。
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