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焦点:日銀、次回会合で政策維持の公算 景気判断も据え置き(ロイター)
http://www.asyura2.com/15/hasan102/msg/615.html
投稿者 赤かぶ 日時 2015 年 11 月 16 日 13:17:40: igsppGRN/E9PQ
 

11月16日、日銀は18─19日に開く次回の金融政策決定会合で、年間80兆円の保有国債残高の積み増しを柱とする現行の量的・質的金融緩和(QQE)政策の現状維持を決める公算が大きい。写真は日銀本店。6月撮影(2015年 ロイター/Toru Hanai)


焦点:日銀、次回会合で政策維持の公算 景気判断も据え置き
http://jp.reuters.com/article/2015/11/16/boj-nextmeeting-idJPKCN0T508Y20151116
2015年 11月 16日 12:59 JST


[東京 16日 ロイター] - 日銀は18─19日に開く次回の金融政策決定会合で、年間80兆円の保有国債残高の積み増しを柱とする現行の量的・質的金融緩和(QQE)政策の現状維持を決める公算が大きい。政策運営の目安である消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)は前年比で下落しているが、エネルギーの影響を除いた基調的な物価は順調に上がっているためだ。景気判断も「緩やかな回復を続けている」との表現を据え置く見通しだ。

日銀では、10月30日の前回会合から2週間強しか経過しておらず、大きく経済・物価見通しを修正する材料はないとみている。

足元の金融市場では、堅調な米雇用統計を背景とした米国の年内利上げ観測が再燃し、中国経済の減速懸念も薄まりつつあり、世界的に株価が持ち直している。

為替相場も円安傾向で推移。追加緩和観測が高まった前回会合で政策維持を決定した後も、市場の動揺はみられておらず、日銀の経済・物価見通しに追い風となっている。

コアCPIは8月、9月と前年比マイナス0.1%と低迷しているが、エネルギーと生鮮食品を除いた日銀版コアコアCPIは9月に同1.2%まで上昇しており、物価の基調は順調に上昇しているとみている。

輸出・生産は横ばい圏内の動きが続いており、景気の明確なけん引役はみえにくいが、9月の機械受注が4カ月ぶりに前期比でプラスに転じたほか、スマートフォン向け部品や自動車のモデルチェンジで、生産も10─12月に好転すると現時点では想定している。

7─9月期の実質国内総生産(GDP)が2四半期連続のマイナス成長となったこともあり、会合では強めの計画に比べて実現が遅れている設備投資のほか、物価の基調を構成する需給ギャップなどの動向を入念に点検する。

最大のリスク要因と位置づけている新興国経済の見通しも、引き続き活発に議論される可能性が大きい。

もっとも、雇用情勢の改善が続く中で人手不足に伴う賃金上昇圧力は続いており、賃金と物価が緩やかに上昇していくとの見立ては崩れていないとみている。

目標とする物価2%の達成のカギを握る来年度の賃上げ議論の行方を注視しながら、次回会合では現行の金融政策を維持し、大規模緩和継続で経済・物価を支援していく方針を確認する見通しだ。

(竹本能文 伊藤純夫 編集:田巻一彦)

 

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コメント
 
1. 2015年11月16日 20:03:15 : jXbiWWJBCA
コラム:内憂外患の日本経済、追加緩和は必要か

岩下真理SMBCフレンド証券 チーフマーケットエコノミスト
[東京 16日] - 東京時間13日の金曜日は平穏に終わったが、海外時間にパリで同時多発攻撃が発生、改めて地政学リスクが意識される状況となった。

過去に大都市で発生した大規模攻撃と言えば、2001年9月11日の米同時多発攻撃、2004年3月11日のスペイン・マドリード列車爆破事件、2005年7月7日のロンドン同時爆破事件が挙げられる。

米同時多発攻撃当時の市場の反応は一時的にドル安・株安というリスクオフ相場となったが、いずれも1カ月程度でテロ前の水準に戻した。他の2つの爆破事件では、さらに一過性のショックにとどまった。今回のパリ同時多発攻撃の場合、発生が週末だったことで材料を消化する時間があったこと、直後の20カ国・地域(G20)首脳会談で議論されることなどから、リスクオフ相場の長期化に至らずに済むと思われる。

なお、ロンドン同時爆破事件当時の英国は景気が停滞していたため、同事件発生から1カ月後に英中央銀行は利下げに踏み切った。その点を考えると、ドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁はすでに、12月3日の理事会で追加緩和の要否を判断すると明言しており、ECBの追加緩和決定の可能性は極めて高くなった。筆者は、中銀預金金利の引き下げを予想する。

一方で、リスクオフ相場が長期化しないという前提に立てば、既定路線になりつつある米国の12月利上げは実施されるはずだ。ただし、あくまでも金融政策の正常化であり、その先は不透明感が漂う。インフレ動向にこだわれば、米国の利上げは1回で終わってしまう可能性がある。

足元では原油だけでなく、非鉄金属でも商品価格は下げ止まらない。年内の米利上げ観測が高まってから、ファンド筋の売りが止まらず、代表的な国際商品指数であるロイター/ジェフリーズCRB指数は13日、13年ぶりの安値をつけた。世界的な需要減少、供給増加のミスマッチのもと忍び寄るデフレ圧力は、インフレ目標のある中央銀行にとっては当面の悩みの種となりそうだ。

<日米欧景気に温度差>

16日朝発表の日本の7―9月期実質国内総生産(GDP)1次速報値は、前期比0.2%減、年率換算で0.8%減と2四半期連続のマイナスとなり、市場予想平均の年率0.2%減からやや下振れた。

しかし、予想を下振れたのは在庫の部分であり、在庫を除いた最終需要は前期比0.2%増。4―6月期に弱かった個人消費は回復し、在庫調整は進捗(しんちょく)、さらには輸出も持ち直すという形で、見た目の悪さに比べると中身は改善した。ただし、今回も設備投資の弱さは続いており、過去最高の企業収益および完全雇用に近い状態になっても、景気は足踏み状態と言わざるを得ない。

同じ7―9月期実質GDPの前期比年率の伸びは、速報値で米国が1.5%増、ユーロ圏が1.2%増であることに比べると、日本の0.8%減は弱く見えてしまう。それでも7―9月期は過去の数字であり、重要なのは10―12月期以降に持ち直していけるかだ。

米国では、アトランタ連銀のGDPナウが、13日時点で10―12月は2.3%増と堅調な見通し。ユーロ圏では、けん引役であるドイツで中国経済減速の影響とフォルクスワーゲン問題、フランスで今回の多発攻撃の影響が考えられ、回復の勢いが持続できない可能性がある。

日本では12日発表のESPフォーキャストの11月調査(回答期間は10月29日から11月5日)では、予測平均で7―9月期の落ち込み(前期比年率0.13%減)から10―12月は持ち直す姿(同1.37%増)が示されている。以下、個別項目をチェックしてみよう。

<日銀は様子見の可能性大>

まず7―9月期の個人消費は前期比0.5%増と、4―6月期の同0.6%減からプラスに転じた。プレミアム商品券を使った消費の活発化に加え、4―6月期にあった天候要因は剥落、軽自動車は増税による販売不振から持ち直した。

雇用者報酬は前年同期比で実質1.6%増と、4―6月期の同0.7%増に続き、2四半期連続のプラスでプラス幅も拡大。所得面の後押しもあったとみられる。10―12月期については、新車販売が10月分で前月比2.5%増(当社季調値)と3カ月連続のプラスであり、滑り出しは順調。今後も新車投入効果が期待されている。

また、冬季賞与支給に伴い、所得環境の改善が続くと見込まれること、冬場の値上げ報道が少ないことなどから、消費は底堅く推移すると予想される。12日時点の日経・東大日次物価指数の1週間平均を見ると、前年比1.47%(直近ピークは9日の1.66%)上昇、月次では10月1.25%(9月1.25%)上昇と物価上昇に一服感が出てきた。

ただし、設備投資は前期比1.3%減と、4―6月期の同1.2%減に続き2四半期連続のマイナスとなり、各種設備投資計画の強さとは対照的な弱い動きが続いている。設備投資の先行指標である機械受注(除く船電・民需ベース)は、7―9月期が前期比10.0%減と2009年1―3月期以来の大幅マイナス。海外経済の先行き不透明感を背景に、受注の手控えが浮き彫りになった。10―12月期は前期比2.9%増と持ち直す見込みだが、手控えムードが続くようなら、下振れる可能性が高い。

それゆえに、今年の官民対話は設備投資を促すことから始まり、アベノミクス第2ステージの具体的取り組みの一番に、法人税改革(早期に20%台に引き下げ)や省力化・省エネ・環境対応投資の促進、規制改革などが挙げられている。政府は税制や制度面を整えるので、あとは民間が取り組むかどうかである。民間にボールが投げられており、不確実性が伴う。

最後に輸出は前期比2.6%増と2四半期ぶりのプラス。好調な米国向けに対して、当面はアジア向けの弱さが懸念される。

なお、10月の米中製造業景況指数の新規受注が好転し始めた。筆者は前回コラムで、生産統計について季節調整の歪みか生産構造の変化の可能性を指摘した。8―9月生産の前月比の振れ方は、8月の天候要因、今年9月についてはシルバーウィークの影響もあるが、ITサイクルが従来のパソコンOSからスマートフォンに主役交代、短期化が影響している可能性が大きいと思われる。

10日の米ニューヨーク市場では、iPhone受注減少との見方でアップル株が下げた。今後、10―12月期の計画から下方修正はやむなしだが、7―9月期から持ち直す方向性は見えている。また、インバウンド消費(非居住者家計の国内での直接購入=輸出に含まれる)は実質ベースで2.84兆円(4―6月期2.54兆円)、GDP全体への寄与度もプラス0.1%となったのは明るい材料だ。

結局、日本のGDPは2四半期連続のマイナスとなったが、日銀のシナリオが大きく崩れるわけではない。その対応は政府の補正予算だけで十分と筆者は見ている。

6日の黒田日銀総裁講演では、新興国経済減速の影響を見る上で重要なポイントは、「企業のコンフィデンス」と明言した。筆者は12月14日発表の12月短観での事業計画(企業収益、設備投資)の下方修正はやむなしと見るが、問題はその下方修正度合いだろう。それでも日銀が最後の追加緩和を検討する可能性があるなら、物価の基調が弱まる、もしくは企業のコンフィデンスが大きく下振れる場合(賃金動向で来年4月)か、急激な円高・株安進行時だろう。

*岩下真理氏は、SMBCフレンド証券のチーフマーケットエコノミスト。三井住友銀行の市場部門で15年間、日本経済、円金利担当のエコノミストを経験。2006年1月から証券会社に出向。大和証券SMBC、SMBC日興証券を経て、13年10月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(こちら)
http://jp.reuters.com/article/2015/11/16/column-mariiwashita-idJPKCN0T50HP20151116?sp=true


2. 2015年11月16日 20:26:57 : jXbiWWJBCA
焦点:原材料安でも進まぬ値下げ、人手不足や高級化で「デフレ」抑制

[東京 16日 ロイター] - 商品・燃料相場の下落、中国景気の減速など世界経済に「デフレ」圧力が高まる中、食品・外食各社などが値下げに二の足を踏んでいる。人件費などの上昇に加え、「プチ贅沢」に支えられた値上げ戦略が効果をあげているためだ。

ロイター調査によると、来年度にかけ値下げを予定しているのは回答企業の1割程度。コストアップと高級化需要の高まりが、デフレ対応に傾斜しかねない企業心理にブレーキをかけている。

<激しい人材争奪戦、研修コストも上昇>

ロイターが資本金10億円以上の中堅・大企業400社を対象に10月26日から11月6日に行った調査によると、下期から来年度にかけて値上げを予定している企業は回答企業250社の12%にとどまり、今年4月調査の4割程度より大幅に減少。価格据え置きの企業は78%、値下げ予定の企業は10%だった。

日本企業がデフレ戦略に傾いていない理由の一つは、国内で続いている人件費の上昇だ。特に、人件費率の高い外食企業にその傾向は強く、松屋フーズ (9887.T)は、2016年3月期の売上高人件費率を期初計画の34.4%から34.6%に修正した。前年比からは4.7%増加しており、売上高の2.1%増計画を大きく上回っている。

同じ牛丼業界の吉野家ホールディングス (9861.T)の河村泰貴社長は、主原料の牛肉価格がピーク時の半値程度に下がっているものの、恒常的な値下げを実施するような状況にはないと話す。同グループの冬の定番商品「牛すき鍋膳」も、昨年と同じ並盛630円という価格設定だ。牛肉以外のコストが上がっており、なかでも「求人費用は年々上がっている」と人件費の増加に懸念を示す。

リクルートジョブズによると、三大都市圏の9月アルバイト・パート募集時平均時給は、7カ月連続で上昇、4カ月連続で過去最高を更新している。

「アルバイトやパートを集めることに苦労しているほか、新卒採用もメーカーに負け始めている」とサイゼリヤ (7581.T)の堀埜一成社長はいう。各社による争奪戦で従業員の入れ替わりが早く、サービスの質を維持するための研修や教育費、福利厚生費も増加していると説明する。

メーカー側も、現段階では値下げに慎重な姿勢だ。明治ホールディングス (2269.T)では、足元で想定より原材料価格の上昇は小さいとする一方、「再び為替が円安に動き始めている。来年の原材料コストの見通しについて、決して楽観的なことは考えていない」(塩崎浩一郎・執行役員)と、調達コストが上昇に転じる可能性を指摘する。

<消費者に浸透した値上げ戦略>

企業が値下げに慎重なのは、今年前半にかけての一連の値上げでも販売数量が落ち込まなかった商品があったことも一因だ。値段が高くても付加価値を評価すれば購入するという「プチ贅沢」、「プレミアム志向」が根強く残っている。

15年1月出荷分から主力商品「カップヌードル」などを5―8%値上げした日清食品ホールディングス (2897.T)。値上げにもかかわらず、4―9月期で、カップヌードル、シーフードヌードル、カレーヌードルの主力3品の販売数量は前年同期比10%伸びた。

カップヌードルの値上げは08年以来のこと。この時には、売上げは大きく減少し、別の商品で数量確保に努めたという。

安藤徳隆専務は「08年に比べて、値上げ浸透はかなりスムーズに進んだ」と話す。「具材充実」に加え、「値上げが相次いだ外食に比べて安く、価格に比べて価値があったと消費者が判断した」と分析する。

さらに、健康ブームで拡大したカカオ含有量の高いチョコレートや機能性の高いヨーグルトなどは、通常商品よりも価格が高いにもかかわらず、売り上げを伸ばし、「消費者の二極化」(ロッテの河合克美専務)を鮮明に映し出した。

政府は、来年春も賃上げを実施するよう企業に要請しており、高付加価値化路線を支える2極化消費がさらに続く可能性もある。

<デフレ圧力は拡大、局面の転換も>

9月から10月にかけて、牛丼各社が実施した期間限定値下げは大きな売り上げ増加につながった。年明けからは業務用小麦の出荷価格が引き下げになるなど、世界的なデフレ傾向に企業の価格戦略が揺れ動く局面も予想される。

SMBC日興証券アナリストの沖平吉康氏は「半年から1年後には、食品業界全般に原料安を引き金としたデフレ局面を迎えるリスクが懸念され始めている」と指摘する。来年度は、2010年度以来6期ぶりの原料安局面を迎える可能性が高まっている。

日銀が12日に発表した10月の国内企業物価指数では、食料品・飼料の円ベースでの輸入物価は前年比0.3%の下落となり、9月の0.2%下落から下落幅を拡大させた。バークレイズ証券では「川下では食料品価格の上昇が物価上昇を牽引している。そのけん引力が鈍化するリスクを見極めるためにも、食料の輸入物価には今後も注目したい」としており、来年は、企業の価格戦略が注目される年となりそうだ。

*写真を差し替えて再送しました。

(清水律子)
http://jp.reuters.com/article/2015/11/16/focus-material-price-idJPKCN0T50NB20151116


3. 2015年11月16日 20:55:44 : jXbiWWJBCA

異次元緩和は失敗だった。クルーグマンの『Rethinking Japan』を読む=吉田繁治 2015年11月15日ニュース
米国の量的緩和は金融危機への対策でした。ユーロも同じです。しかし日本の量的緩和は脱デフレ、つまりインフレ目標(2年で2%)の達成を目的としました。金融危機に効き、リフレと経済成長にも効く量的緩和(※1)は、万能薬と見られているのかもしれません。しかし実際には、量的緩和は万能薬ではありません。
リフレ派の理論的支柱でノーベル経済学者のポール・クルーグマン氏は10月20日、NYタイムズ紙のサイト上に持つ自身のブログで『Rethinking Japan』と題したコラムを発表しました。
今回はこのコラムを翻訳しながら考えていきます。結論を言うと「日本の量的緩和策、リフレ策は失敗した」ということが読み取れます。(『ビジネス知識源プレミアム』吉田繁治)
クルーグマンは日本経済の何を読み違えたか?対処法は――
リフレ派の理論的支柱、クルーグマンの心変わり
17年前の1998年、リフレ策を日本に最初に勧めたのはクルーグマンでした。当時の日本は、資産(不動産と株)バブルが崩壊した後の金融危機にありました。
インターネットで、気鋭のエコノミスト・クルーグマンの『流動性の罠』と題した論文を見つけ、メールマガジンで紹介したことを覚えています。日本は「日銀がマネー増発策をとることになる」という主旨の紹介でした。
当時翻訳はありませんでしたが、現在は、山形浩生氏が2001年に翻訳したものが公開されています。
※復活だぁっ!日本の不況と流動性トラップの逆襲[PDF]
残念なことに、日本の経済学は、米国の経済学者が書いたものの“翻訳”です。物理学、化学、生理学・医学、文学の分野では24人がノーベル賞を受賞していますが、経済学では1人も出ていません。
このクルーグマンの『流動性の罠』論を、内閣府参官房参与(2012年12月〜現在)に就任した浜田宏一氏が安倍首相に分かりやすく説明して紹介したのです。安倍首相は、これを「円を増刷すれば経済は成長する」と理解しました。
簡単に言うと、「日銀が国債を大量に買ってマネーを増発すれば、それが需要の増加を生んで、デフレからは脱却でき、経済は成長に向かう」というものです。
多数派の支持を得て政権に就いた安倍首相は、この論を政策として採用し、量的緩和は効果がないとして消極的だった白川方明氏に変えて、浜田氏が推薦していた黒田東彦氏(総裁)と岩田規久男氏(副総裁)を日銀に送り込みました。
この黒田・岩田体制で始まったのが2013年4月からの「異次元緩和」です。「2年をめどに、マネータリー・ベースを2倍にし、消費者物価を2%上げる」というリフレ策でした。黒田総裁が、「2年、2倍、2%」と書いたフリップを持って、記者に馴染みのなかったマネタリー・ベース(ベース・マネーとも言う)について説明しました。
マネタリー・ベースは、現金紙幣と、銀行・証券・政府が日銀にもつ日銀当座預金の金額を言います。日銀が債券市場で国債を買ったとき代金を振り込む口座が、この日銀当座預金です。本稿ではマネタリー・ベースを増やすことをマネーの増発と言っています。
2015年11月4日時点では、現金紙幣が92.6兆円、当座預金が247.2兆円であり、マネタリー・ベースは339.8兆円にも増えています。買い上げた国債が317.7兆円で、貸付金が35.3兆円です。日銀はすでに、国債・地方債の総発行額(1022兆円:15年6月末)の31%も買い切っています。
異次元緩和開始前のマネタリー・ベースは、現金紙幣83.4兆円、当座預金58.1兆円で、141.5兆円でした。2年7ヶ月で198.3兆円のマネーが増発されています。マネタリー・ベースは2倍を超えて、2.4倍です。
※営業毎旬報告(平成27年10月31日現在) – 日本銀行
ところが、政府・日銀が異次元緩和の目標としていた消費者物価指数(CPI)は、価格変動が激しい食品と、原油下落の影響が大きいエネルギーを除くコアコアCPIですら、6月0.6%、7月0.6%、8月0.8%、9月0.9%の上昇に過ぎません。
※消費者物価指数 全国 平成27年(2015年)9月分(2015年10月30日公表) – 総務省統計局
岩田副総裁は、就任時の記者会見で、「2年で2%の物価上昇を果たせないときは責任をとって辞任する」とまではっきりと言い切っていましたが、2年経った2015年4月の記者会見でそのことを質問されると、「言葉が足りなかった」としどろもどろの言い訳をしています。この人物は、武士のような潔さとは無縁の人格です。
リフレ派の理論的支柱はクルーグマンだったと言えます。浜田氏や岩田氏の著作を読んでも、その内容は、クルーグマンが1998年に書いた『流動性の罠』で提唱されたマネー増発論の引き写しに過ぎないものでした。浜田氏は「これが国際標準の現代経済学です」とも言っていましたから、量的緩和の効果に関する是非は経済学論争でもあったのです。
そのクルーグマン氏は10月20日、NYタイムズ紙のサイト上に持つ自身のブログで『Rethinking Japan』と題したコラムを発表しました。
流動性の罠と量的緩和は、マネー、金融、経済がからみ、相当に難しい経済理論ですが、今回はこの『Rethinking Japan』を翻訳しながら考えていきます。結論を言うと「日本の量的緩和策、リフレ策は失敗した」ということが読み取れます。
以下の本文では、意訳を加えつつ翻訳し、難しい概念には例を交えて解説します。当方の翻訳に間違いがあるかもしれませんので、クルーグマンによる原文も引用します。
1. 日本経済における需要は、弱くなっている
It’s a bit self-centered, but I find it useful to approach this subject by asking how I would change what I said in my 1998 paper on the liquidity trap. Hey, it was one of my best papers; and it has held up pretty well in many respects. But Japan and the world look different now, and trying to pin down that difference may help clarify matters.(1)
少し自己中心的に見えるかもしれないが、私が1998年の『流動性の罠』で言ったことから、考えがどう変化したかを述べるのは有益だろう。あれは私が書いたもののうち、ベストな論文のひとつだった。多くの点で、相当有効なものだった。しかし現在、日本と世界の経済は変化した。その変化を究明することは、われわれが直面している諸問題を明確にするのに役立つだろう。<翻訳(1)>
出典:Rethinking Japan – The New York Times
17年間で経済の状況が変わった。状況が変わったから、『流動性の罠』論に不適なところも出てきたと言うための準備部分です。
It seems to me that there are two crucial differences between then and now. First, the immediate economic problem is no longer one of boosting a depressed economy, but instead one of weaning the economy off fiscal support. Second, the problem confronting monetary policy is harder than it seemed, because demand weakness looks like an essentially permanent condition.(2)
当時と現在では、違いは決定的であるように見える。第一に、2015年の直下の経済問題は、もはや、不況化した経済を持ち上げることではなく、財政の支援から脱却することだからだ。二番目に、量的緩和の効果が出ないという問題は、想定していたことより大きいことだった。その原因は、日本の需要の弱さは本質に根ざすため、永続的な経済の条件に思えるからである。<翻訳(2)>
出典:Rethinking Japan – The New York Times
量的緩和が、目的とした効果、つまり2年で2%の物価上昇を招かなかった理由は、日本経済の本質に根ざすようになってきた需要の弱さによるのではないかという、クルーグマンの見解です。
量的緩和は、それなりに需要を増やす効果は上げたが、日本経済の需要が弱くなっているため、物価を上げるところまでは行かなかったということです。経済学で言う「日本経済の需要」とは、日常用語における「商品需要」と「投資」を含むものです。
需要=GDP=世帯消費+住宅建設+企業の設備投資+在庫増+政府消費+公共投資+輸出−輸入、です。
この需要の合計が小さいとき、商品供給力が超過して、経済は不況になります。具体的に言うと、世帯消費が増えないと企業の商品生産力に余剰が出て、不況化します。
10億円は売ることができる店舗があるのに9億円しか売れないという事態、100億円の生産能力があるのに、売れないため85億円しか生産できないという状況が需要不足です。輸出は外需と言われます。
クルーグマンは1998年と比べて、日本における2012年からの需要つまりGDPの弱さは「本質に根ざすため、永続的な経済の条件」に見えるとしています。ここが、今回のクルーグマンの論でもっとも肝心な点です。
Next: 2. 日本経済は、何から脱却せねばならないのか?
The weaning issue :
Back in 1998 Japan was in the midst of its lost decade: while it hadn’t suffered a severe slump, it had stagnated long enough that there was good reason to believe that it was operating far below potential output.(3)
何から脱却するのか:
1998年にさかのぼると、当時の日本は失われた10年のただ中だった。厳しい不況ではないにせよ、潜在生産力のはるか下の状態と思える停滞した動きでしかなかった。<翻訳(3)>
出典:Rethinking Japan – The New York Times
経済の「潜在生産力」は重要な概念です。これは、雇用が完全で、企業の設備が100%稼働した状態のときの商品供給力を言います。1998年の日本は、この「潜在生産力」は高かったのに、バブル崩壊後の金融危機によって実際の需要が大きく減っていました。
クルーグマンが『流動性の罠』論を書いた1998年に、日本では金融危機が起こっていたのです。リーマン危機よりはひどくなかった。それでも、金融機関には200兆円の不良債権が発生していました。
This is, however, no longer the case. Japan has grown slowly for the past quarter century, but a lot of that is demography. Output per working-age adult has grown faster than in the United States since around 2000, and at this point the 25-year growth rates look similar (and Japan has done better than Europe): (4)
しかし、現在は事態が異なっている。日本の過去4半世紀は、人口問題を除けば、緩やかだが成長していたからだ。労働人口1人当たりの生産高の増加を見ると、ほぼ2000年ころからは米国より高く、過去25年を見ても米国とほぼ変わらない。(日本は欧州よりいい)<翻訳(4)>
出典:Rethinking Japan – The New York Times
過去25年とは、1990年のバブル崩壊から今年2015年までです。この間、日本経済は、生産年齢人口の減少から来る問題以外では、ゆるやかな成長をしていたとクルーグマンは言います。
「労働人口1人当たりの生産高の増加を見ると、ほぼ2000年ころからは米国より高く、過去25年を見ても米国とほぼ変わらない。(日本は欧州よりはいい)」からです。これは事実です。
つまり、
 1人あたりGDPでは、米国や欧州より成長していたが、
 労働人口の減少のため、GDP全体の伸びが低いのが日本だった
のです。
GDP=1人当たりGDP×生産年齢人口(15歳〜64歳)×就業率(約78%)です。
働く現役世代である生産年齢人口は、わが国の場合、世界でもっとも早く、1998年の8726万人を頂点にして減少しています。2015年は7682万人です。17年間で1044万人(12%)も減っています。就業率の78%には大きな変化はないので、生産年齢人口の減少率が働く人の減り方を示します。1年平均で61万人(0.7%)減ってきたのです。
※生産年齢人口が32年ぶりに8000万人を下回る[PDF] – 総務省統計局
直近2015年から2020年の間に、生産年齢人口は7682万人から7341万人へと、341万人の減少となります。やはり1年に「341万人÷5年=68万人(0.9%)」の割合で減っていきます。
これは、1人当たりGDPで年率2%という、21世紀としては高い成長をしても、GDPの成長は1%にしかならないことを示します。
日本は、1990年から2015年まで、1人当たりGDPでは米国よりも早く成長していた。当然、欧州よりも良かった。しかし、ドイツ、英国、イタリアにも先駆けた生産年齢人口の減少により、全体のGDPは低くなっていたとクルーグマンは言っています。
You can even make a pretty good case that Japan is closer to potential output than we are. So if Japan isn’t deeply depressed at this point, why is low inflation/deflation a problem?(5)
日本は、米国よりも潜在成長力に近いケースと見ることは、極めて妥当なことだ。現在、日本がひどい不況でないとすれば、なぜインフレ率の低さ(あるいはデフレ)が問題になるのか。<翻訳(5)>
出典:Rethinking Japan – The New York Times
経済の実力である潜在成長力とほぼ同じGDPが実現されているときは、不況ではありません。不況とは、生産力の実力が、需要の少なさにより発揮されていないときです。需要が少ないときは、ケインズ的な有効需要を増やせばいい。これが、日本が1990年以降とっている、年間35〜40兆円の財政拡張政策です。金融面では、赤字を補う国債の発行になります。
ところが日本は、生産年齢人口の減少で低くはなっているが、潜在成長力に近いGDPは実現している。
内閣府の試算では、潜在成長力は1年0.6%です(2014年)。日銀の推計では、2014年10月でのもっとも新しい潜在成長力は0.2%と、内閣府より低い。以上が意味するのは、日本経済は実質で1年に1%成長すれば、潜在成長力を超える好況であるということです。
これは、個人の平均所得の成長で、物価上昇をマイナスした実質で1%の上昇に相当します。
Next: 3. GDP成長率が潜在成長力に近い日本で、なぜインフレ率の低さが問題になるのか?
では、なぜインフレ率の低さが問題だと言われるか?
The answer, I would suggest, is largely fiscal. Japan’s relatively healthy output and employment levels depend on continuing fiscal support. Japan is still, after all these years, running large budget deficits, which in a slow-growth economy means an ever-rising debt/GDP ratio: (6)
答えは、財政的なものだと推測する。日本の比較的に良好なGDPと雇用水準は、財政からの継続的な支援によるものだ。日本は、近年はずっと、結局は大きな財政赤字(※年間35〜40兆円)を出し続けている。その財政赤字は、低い成長率の経済が、GDPに対する政府の債務比率を恒常的に上昇させていることを意味するからである。<翻訳(6)>
出典:Rethinking Japan – The New York Times
日本経済は、経済の実力に近い実質GDPの成長率を続けている。そのことが問題になる理由は、毎年の財政赤字が大きいことだ。GDPに対する政府債務の比率(2015年現在は240%)がどんどん拡大すると、財政危機を迎えるからである、と言っています。
クルーグマンが示した2014年のGDPに対する基礎的財政収支(プイマリーバランス)の赤字は、日本が6%、米国が2%。欧州は1%のプラスです。
つまり、日本は毎年の基礎的財政赤字のGDPに対する比率が6%と大きいため、低いGDP成長では「好況」であっても足りない。物価上昇を含む名目GDPの成長が6%以下の場合、GDPに対する債務比率は、どんどん膨らんでいくからです。
4. 日本政府のGDPに対する債務比率
So far this hasn’t caused any problems, and Japan has clearly been much better off than it would have been if it tried to balance its budget. But even those of us who believe that the risks of deficits have been wildly exaggerated would like to see the debt ratio stabilized and brought down at some point.(7)
今のところ、この財政赤字の大きさは何ら問題を引き起こしてはいない。日本は、均衡財政をとったときより、はるかにいい経済状態にあることははっきりしている。しかし、財政赤字の危機は大げさに言われ過ぎていると思っている我々ですら、債務比率が安定するか下がって、ある地点に落ち着くことを望みたい。<翻訳(7)>
出典:Rethinking Japan – The New York Times
GDPに対する政府債務比率が、現在の240%を超えて高まると、財政危機に向かうからです。現在の傾向では、これは毎年6%くらいずつ増えていきます(2015年240%→2016年246%→2017年252%……2020年270%……2030年300%)。
5. 流動性の罠からの脱出。リフレ策の目的は実質金利をマイナスにすること
And here’s the thing: under current conditions, with policy rates stuck at zero, Japan has no ability to offset the effects of fiscal retrenchment with monetary expansion.
The big reason to raise inflation, then, is to make it possible to cut real interest rates further than is possible at low or negative inflation, allowing monetary policy to take over from fiscal policy.(8)
政策金利がゼロにはりついている現在の状況では、日本は、財政緊縮で経済が縮小する結果を、マネーの拡張で相殺はできない。インフレにもって行くべき大きな理由は、低いインフレあるいはマイナスのインフレのときより、実質金利を下げることが可能になるからである。実質金利がマイナスに下がれば、財政政策に変わる、金融の拡張政策が可能になる。<翻訳(8)>
出典:Rethinking Japan – The New York Times
「政策金利がゼロにはりついている現在の状況では、日本は、財政緊縮で経済が縮小する結果を、マネーの拡張政策で相殺はできない」は、若干理解が難しい部分です。
クルーグマンは、短期金利がゼロのときは(=現在の日本は)、日銀が量的緩和によりマネタリー・ベースを増発しても、それが、企業や世帯によって使われることにはならないということを書いています。これも、確かにその通りです。
日本にインフレが必要な理由は、インフレ率が高くなると、実質金利がマイナスになるからだと言うのが、クルーグマンの『流動性の罠』の治療法です。
リフレ派は、「物価を上げることで、実質金利をマイナスにする」ことを、金融政策の目的にしています。
名目金利は、われわれの預金や借り入れの金利です。これは0%が下限です。政府・日銀が、銀行預金の金利をマイナス2%にすれば、預金者は皆、預金を引き出してタンス預金に変えます。これでは全銀行が破産するからです。
ゼロ金利になると、金融政策は無効になります。ゼロ金利のときは、現金需要が無限大に向かって発散し使われず退蔵されることを、ケインズは流動性の罠と名付けたのです。
流動性の罠から脱するには、経済をインフレにもって行き、実質金利をマイナスにすることです。「実質金利=名目金利−予想物価上昇率」です。
例えば、住宅価格がインフレのため、年率で4%は上がると人々が予想する場合です。ローン金利を30年固定で1.5%とします。この場合のローンの実質金利は、「名目金利1.5%−住宅価格の予想上昇率4%=実質金利マイナス2.5%」です。
4%のインフレとは、10年後の住宅価格では「1.04の10乗=1.48倍」が予想される状態です。現在3000万円で買える住宅が、4440万円へと1440万円も上がることが予想されます。こうなると、1.5%の金利を負担し、新しい住宅に買い替える人も増えるでしょう。
このように、将来物価に対する人々の予想を上げて、実質金利をマイナスにし、需要と設備投資を増やすのがリフレ策です。
実質期金利がマイナスになれば、政府の債務比率も低下する
実質金利がマイナスになれば、GDPに対する政府の債務比率を増やし続ける財政拡張策の代わりに、金融策をとることができるとクルーグマンは言います。財政の赤字を少なくし、政府が財政支出を減らしても、民需の増加(世帯と企業の需要増加)で、財政支出の減少を補うことができるからです。
需要の増加による予想インフレ率が4%になれば(クルーグマンの主張は4%です)、企業もインフレで売上が増えると予想し、生産力、販売力を大きくするための設備投資を増やすからです。例えば、地域の消費需要が物価上昇により金額で4%も増えると小売業が予想すれば、出店ラッシュが起こります。
I’d also add a secondary consideration: the fact that real interest rates are in effect being kept too high by insufficient inflation at the zero lower bound also means that debt dynamics for any given budget deficit are worse than they should be. So raising inflation would both make it possible to do fiscal adjustment and reduce the size of the adjustment needed.(9)
もうひとつ付け加える。ゼロ金利限界の中の不十分なインフレのため、実質金利が高止まりしている事実が意味していることは、所与の財政赤字に対する債務ダイナミクスが、あるべき水準より悪いことである。インフレ率を上げれば、財政赤字比率に適合し、調整の規模も縮減することができる。<翻訳(9)>
出典:Rethinking Japan – The New York Times
債務ダイナミクスとは、名目経済成長率が金利を上回ると、政府のGDPに対する債務比率は下がっていくことを言います。物価上昇を含む名目GDPの成長が6%と高くなれば分母の名目GDPが大きくなるため、政府の債務比率はGDP比240%が、238%、236%と下がっていき、懸念されている財政危機は雲散霧消します。
ところが日本は、予想インフレ率(=期待インフレ率)が0%近くと低い。名目金利が短期金利で0%、長期でも1%未満と低くても、実質金利は高い。実質金利が高いと、設備投資や住宅購入のための借入れが増えず、GDPの成長は低いものになります。
GDPの成長率が低いと、毎年30兆円以上(GDP比6%以上)の財政赤字があるため、政府の債務比率は大きくなり続けるのです。
Next: 6. インフレの実現のためには何をするべきか?
But what would it take to raise inflation?
Secular stagnation and self-fulfilling prophecies
Back in 1998, when I tried to think through the logic of the liquidity trap, I used a strategic simplification: I envisaged an economy in which the current level of the Wicksellian natural rate of interest was negative, but that rate would return to a normal, positive level at some future date. (10)
インフレのためには何を行うべきか
長期停滞と自己達成的な予言
1998年にさかのぼって言えば、私は流動性の罠の論理を通じて考えようとして、戦略的に単純化した。つまり、当時の自然金利をマイナスとし、それは将来のいつか正常なプラス金利に戻ると予想していた。翻訳<(10)>
出典:Rethinking Japan – The New York Times
聞きなれない「Wicksellianの自然金利」とは、インフレもデフレも起こさないレベルの金利です。その国のGDPの潜在成長率に近い値になります。
クルーグマンは、ここで当時の日本経済への認識を言っています。
 1998年は、(金融危機のため)日本の自然金利はマイナスになっているが、
 将来は自然金利はプラスに戻り、日本経済の潜在成長力もプラスになると認識していた
2つ目がクルーグマンの間違いでした。そしてこの、日本経済の潜在成長力はプラスであるという1998年当時の認識から、量的緩和の政策を導いたと述懐しています。ここが肝心な点です。
This assumption provided a neat way to deal with the intuition that increasing the money supply must eventually raise prices by the same proportional amount; it was easy to show that this proposition applied only if the money increase was perceived as permanent, so that the liquidity trap became an expectations problem.(11)
日本経済の潜在成長力がプラスなら、マネー・サプライを増やせば、物価はその増加割合に応じて上がるという直観を与えてくれた。マネーの増加が永久的と受け取られるときのみ、これが成立することを説明することは容易である。このため、流動性の罠は、人々の、将来への予想(期待)の問題になる。<翻訳(11)>
出典:Rethinking Japan – The New York Times
潜在成長力とは、完全雇用と、設備稼働が100%のときの経済成長力です。完全雇用とは、日本では、職業の移動期間の失業である3%の失業率です。これを自然失業率と言います。12年勤務で4ヶ月くらいは職業移動のための失業があるのが平均的でしょう。日本人は平均で言うと生涯に3回会社を変わります(2015年4月の我が国の失業率は3.3%です:総務省)。
不況とは、潜在成長率に達していないことであり、失業率が自然失業率より高いときです。しかし、1998年の失業率は3.5%であり高くはなかったのです。
2015年の失業率も、完全雇用に近い3.3%です。完全雇用のときのGDP成長が潜在成長率です。ところが、2015年11月の実質経済成長は0〜0.6%程度でしかない。
クルーグマンが、将来は高くなると見ていた日本の潜在成長力は、実は、低いものだったのです。
このため、日銀が国債を買ってマネタリー・ベースを増やしても、企業と世帯が新たに借り入れることによって増えるマネー・サプライの増加にはならなかった。
つまり量的緩和は、デマンド・プル型の需要増加によるインフレを引き起こすことはできませんでした。(注)デマンド・プル型のインフレは、需要増>供給力により物価が上がること。
マネタリー・ベースは、異次元緩和前の2.4倍の、339.8兆円に増えています。ところが、企業と世帯の預金が主であり、実体経済で使われるマネー・ストックは前年比で2.9%しか増えず、1227兆円(M3:2015年10月)です。
※マネーストック速報(2015年10月)[PDF] – 日本銀行
2%台のマネー・ストックの増加は、異次元緩和前と同じです。日銀が198.5兆円兆を増発した異次元緩和は、マネー・ストックの増加としては何ら効果を上げていません。
このマネー・ストックの増加が4%以上でないと、日本では、デマンド・プル型のインフレにはならない(岩田規久男氏自身が書いた『デフレの経済学』)のです。
Next: 7. 日本の潜在成長力の低さの原因は、人口問題だった
The approach also suggested that monetary policy would be effective if it had the right kind of credibility – that if the central bank could “credibly promise to be irresponsible,” it could gain traction even in a liquidity trap.(12)
これは、金融政策は正しい信頼をもたれるとき、有効になることも示唆している。中央銀行が、信用をもって無責任であると約束できるなら、流動性の罠の中でも、牽引力を獲得できるだろう。<翻訳(12)>
出典:Rethinking Japan – The New York Times
credibly promise to be irresponsible(信用をもって無責任)とは、クルーグマン特有の難しい表現です。具体的には、「インフレになった後も、量的緩和を続けるのが日銀だ」と国民から予想されることを言います。
もっと具体的には、黒田総裁は、インフレ目標2%が達成されたあとも、量的緩和を続けると予想されることを指します。
クルーグマンは、量的緩和が物価上げる効果を生むには、日銀が、通貨の価値を守る番人としては無責任だと思われることが必要と言っています。さらに重要な条件として、日本経済の潜在成長力が数%のプラスでなければなりませんが、実際は、潜在成長力1%以下です(2014年)。
But what is this future period of Wicksellian normality of which we speak? Japan has awesomely unfavorable demographics:(13)
Which makes it a prime candidate for secular stagnation. And bear in mind that rates have been very low for two decades, fiscal deficits have been high that whole period, and at no point has there been a hint of overheating. Japan looks like a country in which a negative Wicksellian rate is a more or less permanent condition.(14)
しかし、Wicksellianが言った潜在GDPの成長率と一致する金利は、いつ来るのか。日本は人口の生産年齢人口の面から、経済成長が低くなる、ひどく好ましくない人口構造をもっている。<翻訳(13)>
日本の永続的な停滞にとって、どちらが早く来るか。大きな財政赤字がずっと続く中で、20年も超低金利だったことを考えると、資金需要の過熱の時期は来そうもない。日本は、多かれ少なかれ、マイナスの自然金利が永久に続くように見える。<翻訳(14)>
出典:Rethinking Japan – The New York Times
ここも、クルーグマンのリフレ論のポイントです。日本経済のGDPの潜在成長力が、生産年齢人口の減少のためマイナスなら、日本の自然金利もマイナスになります。自然金利がマイナスなら、インフレで実質金利を例えば2%のマイナスにできても、効果は上がりません。
実質金利=名目金利0%−予想インフレ率2%=マイナス2%
自然金利がマイナス2%なら、実質金利のマイナス2%は、資金需要を増やす効果がない。住宅価格が2%下がる予想されているとき、ローン金利が仮にマイナス2%でも、住宅需要を増加させる効果はない。
「日本は、多かれ少なかれ、マイナスの自然金利が永久に続くように見える」(クルーグマン)恐らくこれです、住宅ローン金利が1%を割っても、事実、住宅需要は増えていません。1980年代は、ローン金利は7%と高くても、住宅購入は増加していました。住宅価格は、年率10%は上がると予想されていたからです。実質金利は、「名目金利7%−住宅価格の予想上昇率10%=マイナス3%」でした。
If that’s the reality, even a credible promise to be irresponsible might do nothing: if nobody believes that inflation will rise, it won’t. The only way to be at all sure of raising inflation is to accompany a changed monetary regime with a burst of fiscal stimulus.(15)
マイナスの自然金利の継続が実際のことなら、日銀が無責任になるという約束が信頼されても、何も起こらない。インフレになると思う人がいなければ、インフレは起こらないからだ。このとき、確実にインフレを起こす唯一の方法は、金融政策のレジームを、爆発的な財政刺激に変えることである。<翻訳(15)>
出典:Rethinking Japan – The New York Times
クルーグマンの変節は、ここです。
日本は、マイナスの自然金利になっていた。このため、日銀が量的緩和の継続で無責任になるという約束が信頼されても、何も起こらない。
「インフレになると思う人がいなければ、インフレは起こらないからだ」
では、日本は、どうしたらいいのか?
「このとき、確実にインフレを起こす唯一の方法は、金融政策のレジームを、爆発的な財政刺激に変えることである」
例えば、GDP比6%(30兆円)の公共事業を追加することだと言います。財政赤字は、現在の35兆円に30兆円を加えて65兆円になります。新規国債の発行も、65兆円になって倍増しますが、それは全部を日銀が買いとるということです。
しかし実際には、それは絶望的だとクルーグマンは言います。
Next: 8. 急激な財政拡張策は、日本の政策にはならないだろう
And this in turn suggests something counterintuitive: while the goal of raising inflation is, in large part, to make space for fiscal consolidation, the first part of that strategy needs to involve fiscal expansion. This isn’t at all a paradox, but it’s unconventional enough that one despairs of turning the argument into policy (a despair reinforced by yesterday’s meeting …)(16)
これは代わりに、直観に反することを示唆する。インフレ率を高めるのは、多くの場合、財政再建の余地をつくることであるのに対して、最初は財政の拡張をしなければならないからである。これはパラドックスということでは毛頭ないが、この議論を政策にすることは絶望的という点で型をはみだすものだろう。(昨日のIMFでの会議でこの絶望感は強くなった)<翻訳(16)>
出典:Rethinking Japan – The New York Times
日本に残された財政拡張策は、財政赤字をますます大きくします。このため、実際的な政策にはなることは絶望的だと、クルーグマンは言っています。IMFの日本経済をテーマにした会議でも、日本に残された財政拡張策は否定されたようですね。
9. 日本に必要なインフレ率は、2%よりはるかに高い(4〜6%)
Suppose, bad instincts aside, that we really can go down this road. How high should Japan set its inflation target? The answer is, high enough so that when it does engage in fiscal consolidation it can cut real interest rates far enough to maintain full utilization of capacity. And it’s really, really hard to believe that 2 percent inflation would be high enough.(17)
財政拡張は、政策的に無理だという直感はさておき、この道をとったとして仮定してみよう。日本はインフレ目標をどれくらいの高さにすべきか。答えは、財政の再建をせねばならない時期に来たとき、経済のフル活用ができるように、実質金利を低くできるインフレの高さである。このため、2%のインフレ目標では、全くもって不十分である。<翻訳(17)>
出典:Rethinking Japan – The New York Times
クルーグマンは、2%のインフレ目標では、日本が財政危機から脱するのは不可能と言っています。彼の想定は何%か?たぶん4〜6%です(別の書籍でこれを書いていました)。
This observation suggests that even in the best case Japan may face a version of the timidity trap. Suppose it convinces the public that it will really achieve 2 percent inflation; then it engages in fiscal consolidation, the economy slumps, and inflation falls well below 2 percent. At that point the whole project unravels – and the damage to credibility makes it much harder to try again.(18)
以上の見解から言えるのは、最良のケースでも、日本は、今度は「臆病の罠」に直面することである。国民に2%のインフレが確実と確信させた場合、財政の再建に取り組まねばならず、経済は不況になって、インフレは2%の相当下のレベルに低下するだろう。その地点に至ると、全体の政策がバラバラになって、政策への信頼は、回復不能なダメージを蒙る。<翻訳(18)>
出典:Rethinking Japan – The New York Times
財政赤字を現在の6%より大きくすることによる、2%を超えるインフレ目標は、日本は政策化できないということです。
それじゃ、結局どうなるのか。ここが、クルーグマンの最後の処方箋です。
What Japan needs (and the rest of us may well be following the same path) is really aggressive policy, using fiscal and monetary policy to boost inflation, and setting the target high enough that it’s sustainable. It needs to hit escape velocity. And while Abenomics has been a favorable surprise, it’s far from clear that it’s aggressive enough to get there.(19)
結論:日本が採らねばならないのは、財政と金融を使いインフレを高める、真に積極的な政策である。インフレ目標を、財政が維持可能なレベルに高くすることだ。そのためには、重力圏を脱する速度が要る(米国と欧州も日本と同じ道をたどるが)。アベノミクスは好ましい驚きだった。しかしそれが、その速度に至れるかどうか、まるで分からない。<翻訳(19)>
出典:Rethinking Japan – The New York Times
重力圏(引力圏)を脱する速度とは、形容詞的表現です。クルーグマンがここで言うのは、財政が維持可能なインフレには、日本は至らないということです。
この意味は、政府財政が維持可能でなくなること、つまり財政危機です。問題はそれが来るのがいつかです。10年債の金利が2.5%に上がった時です。2015年11月現在の10年債の金利は、0.3%付近です。
内閣府の想定では、経済再生ケースの場合、2018年の長期金利が2.7%です。名目GDPが十分に(3%以上)成長して好況だった場合、金利の上昇は早く来ます。この場合、2020年の名目GDPは、現在より94兆円大きな594兆円。これが600兆円シナリオです。
他方、GDP成長成率が低いベースラインケースでは、2021年の長期金利が2.3%、2022年2.4%、2025年25%です。経済成長が低いベースラインケースでも、2020年の名目GDPは、現在より52兆円も大きな552兆円です。
(※中長期の経済・財政に関する試算 – 内閣府(2015年7月22日)[PDF] 長期金利はP4〜5にあります)
まとめ
結局、グルーグマンは、
 量的緩和は失敗だった
 自分が日本経済の自然成長率は高いと間違えたための失敗だった
と言っています。
内閣府は、中長期の経済・財政に関する試算で、
(1)経済再生ケースでは、名目経済成長率の今後9年の平均は3.4%(2023年の名目GDPが663兆円)
(2)ベースラインケースでも、2013年の名目GDPは574兆円で、年率平均の成長率は1.8%
としています。
1998年の名目GDPは504兆円でした。17年後のいま2015年は500兆円です。17年間の名目GDP成長は、マイナス4兆円です。人口の減少の問題は、今後、厳しくなります。名目で1.8%の成長も危ういでしょう。それにしても内閣府は、このようなクルーグマンの認識変更と反対に、なぜ2000年代よりはるかに高い名目経済成長を描くのか?
その理由は、財政破綻しないためには、これくらいの名目GDP成長が必要であると、目標から逆算しているからです。
【関連】異次元緩和第3弾を阻む「黒田日銀の説明責任」=久保田博幸
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『ビジネス知識源プレミアム:1ヶ月ビジネス書5冊を超える情報価値をe-Mailで』(2015年11月11日号)より一部抜粋
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http://www.mag2.com/p/money/6246/6 


4. 2015年11月16日 21:08:48 : jXbiWWJBCA

>結論:日本が採らねばならないのは、財政と金融を使いインフレを高める、真に積極的な政策である。インフレ目標を、財政が維持可能なレベルに高くすることだ。そのためには、重力圏を脱する速度が要る(米国と欧州も日本と同じ道をたどるが)。アベノミクスは好ましい驚きだった。しかしそれが、その速度に至れるかどうか、まるで分からない

>クルーグマンは、
 量的緩和は失敗だった
 自分が日本経済の自然成長率は高いと間違えたための失敗だった
と言っています。


明らかにクルーグマンは、現状のアベノミクスでは不十分(もっと財政拡張と緩和すべきだ)と言っているのだが
吉田繁治も、わかっていないらしい。



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