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規模の経済(スケールメリット)と経験曲線(エクスペリエンスカーブ)の比較
間違いだらけの「コスト削減」の罠…従来型製造業モデルの終焉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20151112-00010006-bjournal-bus_all
Business Journal 11月12日(木)22時31分配信
・利益 = 収入 − コスト
本連載「『itte』の経営学」の第9回は、この当たり前の公式から始めます。
いうまでもなく、企業が存続するための必須条件は利益を上げること。企業活動が永続するためには、適切な利益を出し続けなければなりません。
冒頭の公式に従えば、企業は利益を上げるために収入面とコスト面でそれぞれ活動を行います。収入面では、顧客数を増やしたり、販売数量を増加したり、販売頻度を高めたり、商品単価を上げたりして、収入を増やす活動を行います。一方コスト面では、より安く調達したり、調達数量を減らしたり、単位あたりの生産性を上げたりして費用削減に取り組みます。利益を増やすための活動には、このどちらかの活動しかありません。
ここではコスト面に着目します。コスト削減には、大きく分類して2つの方法があります。ひとつは、規模を生かしたコストダウン。通常、「規模の経済(スケールメリット)」と呼ばれています。もうひとつは、経験に裏打ちされた「コストダウン」。「経験曲線(エクスペリエンスカーブ)」といわれているものです。
前者の規模の経済は、多くの経済学や経営学の教科書に登場していますので馴染み深いかもしれません。その定義は、生産規模が拡大することによって、一単位あたりの費用を逓減させる効果があるというものです。
冒頭のチャートの左側は、規模の経済を説明したものです。たとえば、物価や労働賃金の安い経済圏に大規模工場を建設することは、規模の経済を追求した活動の例です。また新たな調達先から、原材料などを大量に購入して単価を下げることも規模の経済に相当します。これらの活動は、ある一時点でのコスト削減を狙った経営判断といえます。
一方で、経験曲線は継続的なコスト削減活動に相当します。過去からの経験量の蓄積がコスト削減の源泉です。それは一時的にもたらされる効果ではなく、持続的に少しずつ改善され、コスト削減効果が現れてくる類(たぐい)の活動です。
冒頭のチャートの右側にあるように、経験曲線は組織力の蓄積であり、それは決して一時的でなく長期的な視点でとらえたコスト削減です。つまり、地道な改善活動の積み重ねが経験曲線の基本中の基本です。例えば、取引先との協力のもと、毎年2%ずつのコスト削減を進めるような活動は、経験曲線の考えに相当します。
●規模の経済の限界
18世紀の産業革命から始まった大量生産型の製造モデルは、今日その変革が広がりつつあります。
米GEのジェフリー・イメルトCEO(最高経営責任者)は、製造業への回帰を唱えてIoT(モノのインターネット)化を推進しています。具体的な例としては、大量の3Dプリンターを活用して、発電用タービンの部品を生産する試みなどを推進しています。
そのほかの例としては、工場の製造ラインで人と同じようにモノを扱うアーム型のロボットなどが挙げられます。机の上が工場になったようなデスクトップ・ファクトリー。これらの例も、新しい生産モデルを模索する試みです。
このような例が示すように、従来のように生産規模の拡大のみでコストを下げるという製造モデルは見直しが進んでいるのです。3Dプリンターもアーム型ロボットもデスクトップ・ファクトリーも、これまでのような生産規模の拡大のみを追求したモデルではありません。
いうなれば、規模の経済の追求だけでは市場の要求に応えられない、顧客のニーズやウォンツを満たせない、競合他社に対して優位性を築けない経営環境になってきたのです。
一方で、経験曲線の考えの要諦は、コスト削減の活動を継続できるかできないかにあります。業務改善の活動が組織の中に埋め込まれているのかそうでないのか、と言い換えてもよいでしょう。簡単にいえば、コスト削減に資する活動が通常業務の中に位置付けられているか、そうでないかという点が重要です。
経験曲線の教えは、例えば原材料の購入であればその単価を下げる、その使用量を減らすという活動を継続せよ、となります。生産性であれば、単位コスト当たりの生産量を増やすために、生産に直結する活動を見極めてそのスピードを上げ、一方で生産に直結しない非生産活動を減らしていくことが相当します。
●コスト削減を長期的に継続させる
新しい生産モデルを導入するとしても、経験曲線がものをいいます。新しい工場における単位コストの低減は、その工場が積み重ねてきた業務活動の蓄積量に比例します。ですから、組織としての経験を積み上げること、より早く新たな生産モデルに取り掛かって試行錯誤を繰り返すことが成功確率を高めることになるのです。
よい経験を積み重ねている企業がある一方で、よい経験を積み重ねることができていない企業があるものです。「規模」を生かしたコストダウンに頼るだけでなく、「経験」に裏打ちされたコストダウンにも取り組むこと。このコスト削減に対する考えと行動の差が、結局のところ企業の競争力の源泉となり、組織力の進化に直結するのです。これが経験曲線から学べる点です。
業務改善活動のプロセス、コスト削減のプロセスを組織の中に埋め込んでください。経験曲線から学べることは、コスト削減を長期的に継続させることにほかなりません。
文=森秀明/itte design group Inc.社長兼CEO、経営コンサルタント
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