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ITは進化、生産性は低下の謎 世界のエコノミストが大論争 金融市場異論百出 2015年11月12日 加藤 出 [東短リサーチ代表取締役社長] 現代人の生活に欠かせない、検索サイトや地図アプリなどのインターネット上の無料サービスは、生産性を向上させているのか Photo by Takahisa Suzuki 現代のわれわれはインターネット上の多くのサービスを無料で利用している。
検索サイト、電子メール、地図アプリ、「フェイスブック」「ツイッター」などのソーシャルメディア、動画共有サイト「ユーチューブ」、無料オンライン百科事典「ウィキペディア」の閲覧等々、料金を払わずに使っていながら、日常生活で重要なものは多い。 そういった無料サービスはわれわれに多様な利便性をもたらしている。しかし、GDPではどのように捕捉されているのだろうか。一部はサイトに登場する広告費を通じて、間接的に消費者がコストを支払っているといえる。しかし、全体として見ればお金に換算されていない部分がかなりある。 他方、最近多くの先進国で、成長率の鈍化や生産性の低下が議論の対象になっている。経済協力開発機構(OECD)によれば、2001〜07年と07〜13年の7年間を比べて、労働生産性の伸びが低下した国は、先進国を中心とする34カ国中、32カ国にも及んでいる。 IT革命は生産性を向上させてきたはずだが、近年の動きは統計上、必ずしも明確ではない。マサチューセッツ工科大学の研究者(エリック・ブラインジョルフソン教授ら)は、無料インターネットサイトにより、消費者は07〜11年に年平均1060億ドル(GDPの0.74%相当)の利益を得てきたと推計している。ただ、それはGDPや生産性の公式な統計には反映されていないという。 米グーグルのチーフエコノミスト、ハル・ヴァリアン氏は統計と現実のずれを盛んに主張している。「シリコンバレーで起きていることが評価されていない。生産性はGDPを基に計測される。GDPは1930年代に鉄や穀物の産出を測るためにつくられたもので、デジタルな商品の産出を測るためのものではない」(米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」)。 現在はIT革命がまだ過渡期のためにGDPに貢献できていない、という解釈も聞かれる。例えば、洗濯機、皿洗い機、掃除機の登場は家事労働を大幅に軽減した。それは女性の労働市場への参加を可能とし、経済を拡大させた。 一方、現時点では、インターネットを使って節約できた時間が所得の増加につながっているケースはまだ限られている。だが、近い将来、車の自動運転が広く普及するようになれば変わるかもしれない。通勤時間中にパソコン等で仕事ができる人が増えるからである。 もっとも、より冷めた目でこの議論を語るエコノミストもいる。電気、蒸気機関、電話などの発明に比べると、近年の“イノベーション”は実はさほど革命的ではなく“小粒”だという説がある。 また、アラン・ブラインダー米連邦準備制度理事会(FRB)元副議長や、イングランド銀行チーフエコノミストのアンディ・ホールデン氏は、先進国の成長率が低下している主因は別のところにあり、企業が十分に投資していないからだと指摘している。ROE(株主資本利益率)を上げるために自社株買いに熱心な企業が多過ぎるという批判である(米誌「ファイナンシャルレビュー」)。 このように議論は多岐にわたってかんかんがくがくと行われている。ジャネット・イエレンFRB議長も、「持続的な生産性の向上は、人々の収入を増加させる上で必要だ」と語っていた。生産性の伸びや賃金の動向はインフレ率にも影響を与えるだけに、世界の多くの中央銀行にとっても前出の議論は気になるところと思われる。 (東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出) http://diamond.jp/articles/-/81388 フィンテック企業の時価総額は今や日本のメガバンクに匹敵 【第37回】 2015年11月12日 野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問] 特に送金・決済分野でのフィンテックの成長は目覚ましい 金融業務に情報技術を応用する「フィンテック」として、多数の新しいサービスが登場している。急成長した企業の中には、伝統的な大銀行に匹敵するほどの時価総額になったものもある。なぜこのような急成長ができるのか? 今後の成長可能性はどう評価されるか? これに答えるには、フィンテックと呼ばれているサービスを整理し、各々の分野ごとにどれだけの需要があり、将来の可能性がどうなるかを分析することが必要だ。 フィンテックには、3つの主要分野がある。第1は、送金や決済。第2は、銀行を介さずに融資を行なう「ソーシャルレンディング」。そして第3が、コンピュータを使った投資アドバイスだ。 どれも重要だが、成長が最も目覚ましいのは第1の分野だ。そこで以下では、送金・決済分野でのフィンテック企業とサービスを見ることとしよう。この分野はさらに「オンライン決済サービス」と「モバイル決済」に分けられる。 ネット販売に不可欠の オンライン決済サービス オンラインショップで支払いを行なう場合、最もよく使われるのは、クレジットカードだ。しかし、個人や零細企業がオンラインショップを運営している場合、カード決済を導入するには、カード会社の審査に合格する必要がある。それに通っても、登録費用や月額費用がかかる。だから、個人や零細企業がクレジットカード決済を導入するのは、簡単ではなかった。 そこで登場したのが「オンライン決済サービス」だ。オンラインショップがカード会社と直接契約しなくても、ウェブサイトにクレジット決済を導入できる。初期費用や月額料金は無料で、受け取り金額に対して課金される場合が多い。 クレジットカードでは、月末締め後の1〜2ヵ月後に入金される場合が多いが、オンライン決済では、最短で数日での入金が期待できる。 オンライン決済の元祖PayPal 創設者はテスラモーターズのCEO PayPalは1998年に始まったオンライン決済サービスだ。テスラモーターズやスペースXのCEOとして知られるイーロン・マスクが創設した。 アカウントを取得すると、資金をプールする口座を持つことができる。これを銀行の口座のように用いて、購入代金を支払ったり、販売した商品の代金を受け取ったりすることができる。つまり、インターネット上の財布のように使える。 送金先のメールアドレスを指定し、PayPal口座から送金を行なう。このプロセスでは、PayPalが金銭の授受を仲介するため、取引先にクレジットカード番号や口座番号を知らせる必要がない。そのため、安全なサービスであるとされている。口座の残高が不足する場合は、クレジットカードや銀行口座から引き落とされる。 アカウントにプールされた受け取り代金は、銀行口座に引き出すことができる。 送金者に手数料はかからないが、受け取り側には金額に応じて手数料がかかる。なお、日本では、銀行からPayPal口座への振り込み入金はできない。 さらに簡便なサービスが出現 Stripeは通貨の変換も容易に可能 最近、オンライン決済の世界に新しい動きが生じている。より簡便なサービスを提供する事業者が出現しているのだ。 その代表が、2011年に設立されたStripeだ。 サイト内にコードを数行埋め込むだけで、同一画面内での決済機能を簡単に追加できる。さらに世界のユーザーを相手に決済機能を提供するサービスの場合、他国通貨との変換が容易にできる。 14年5月、日本でのサービス開始を発表した。三井住友カードと提携して国内向けにサービスを展開する。国内の決済手数料は一律3.6%。 もう1つは、Braintreeだ。13年9月にeBayによって買収された。サービス内容はPayPalのそれに近いが、決済に関わるさまざまなサービスを簡単に実装できる。 SPIKEは無料の決済を提供 日本でもシェアを急拡大中 SPIKEは、メタップスという会社が運営するオンライン決済サービス。2014年4月から日本でオープンベータ版の利用が可能になり、日本で急速にシェアを拡大している。 個人事業主や小規模事業者向けの「フリープラン」は、初期費用、月額費用、決済手数料が無料で、月間100万円までの決済に利用できる。 同様のサービスとしては、国内ではWebPay(15年2月にLINEによる買収が発表された)や、ヤフーのYahoo!ウォレットFastPay、楽天ID決済などがある。 オンライン決済サービスを広い範囲の業者が利用できるためには、コストを下げる必要がある。 しかし、クレジットカードに依存している以上、手数料率を3%程度以下に下げるのは難しい。そこで、ビジネスモデルの工夫が必要だ。 このために、「フリーミアム・モデル」が用いられることが多い。これは、高度な内容のサービスは有料にし、それによって得られる収入を用いて、普及型サービスを低料金または無料で提供するものだ。 なお、15年11月、Bitwalaは、世界中のPayPalアカウントへビットコインの送金を可能にすると発表した。仮にビットコイン送金が広く用いられるようになれば、送金コストを大幅に下げることが可能になるかもしれない。 スマートフォンを決済端末に 零細店舗でも導入可能なモバイル決済 オンライン決済サービスはウェブでの支払いを念頭に置いているが、「モバイル決済」は、現実のショップでの支払いを容易にする仕組みだ。とくに、小売店やサービス業など、小規模事業者向けのサービスである。 これまでのクレジットカード決済では、レジの横などにある読み取り端末にカードを通す。このシステムを導入するにはコストがかかるので、零細店舗では、導入が難しかった。 モバイル決済では、スマートフォンなどをクレジットカード決済端末にする。「スマートフォン決済」とも呼ばれる。 なお、これと似ているが別の概念として、「モバイル支払い」がある。これは、携帯電話のキャリアが行なっているもので、「キャリア決済」とも呼ばれる。買い物の支払いをスマートフォンの料金と一緒に支払う。 Twitter創業者が設立したSquareで 一気に拡大、Appleも参入 Squareは、2009年に始まったモバイル決済のための仕組みだ。Twitterの創業者であるジャック・ドーシーがジム・マッケルヴィと設立した。 切手サイズの端末「Squareリーダー」をスマートフォンやタブレットのイヤホンジャックに差し込み、専用アプリ「Squareレジ」をインストールすることで、スマートフォンなどをクレジットカードリーダーとして使える。 これにより、高額なカード決済機器を導入するのが難しい零細店舗でも、支払いの際にカード決済に対応できるようになる。代金は、最短で翌営業日には銀行口座に振り込まれる。 12年、PayPalは、スマートフォンのイヤホンジャックに小型端末を挿すことでクレジットカード決済端末として利用できるスマホ決済サービス「PayPal Here」を発表し、アメリカなどで展開していた。そして、日本にも参入した。 その後、同様のサービスは一気に広がった。日本のスタートアップ企業のコイニーが12年10月にスマホ決済サービス「Coiney」を、楽天が12月に「楽天スマートペイ」を開始した。13年5月にはSquareが日本市場に参入したことで一気に競争が激化した。しかし、「PayPal Here」は3位に留まっている。 Squareは、日本参入にあたり、3.25%という低率の決済手数料を導入した。これに対抗して、先行してサービスを提供していた「楽天スマートペイ」が4.9%から、「PayPal Here」が5%から、「Coiney」が4%から、揃って決済手数料を3.24%に引き下げた。 モバイル決済技術が急伸したことにより、今では1500社近くのサービスが提供されている。乱立気味ともいえる。 2014年10月に、Appleがモバイル決済サービス「Apple Pay」を始めた。 これは、クレジットカードや銀行カードなどの情報をiPhoneに登録し、店頭でワンタッチで支払いを済ませたり、アプリ内で決済したりできるサービスだ。iPhone 6および6 Plusには、NFC(Near Field Communication:近距離通信)機能が内蔵されており、対応している支払端末にかざすだけで支払いが完了する。 触れればすぐ決済できるという点で、Suicaなどのプリペイド式電子マネーのように気楽に使えると言われる。しかし、店舗の側の対応が進まず、いまのところ、それほど普及しているわけではない。 学生に人気の個人間送金アプリVenmo フェイスブックも同様のサービス開始 以上で述べたものの他に、個人間(P2P)送金サービスもある。 アメリカでは、「Venmo」というアプリが登場し、学生の間で流行っている。 Venmoでの送金は、Venmo口座の残高、デビットカード、そして銀行口座を用いる場合は無料。クレジットカードを用いる場合は3%程度の手数料がかかる。 レストランやカフェ、小売店などに働きかけ、店舗から数パーセントの手数料を徴収することを計画している。 これと似たサービスとして、フェイスブックは、メッセージングアプリ「Messenger」上での個人間送金サービスを開始すると発表した。 アメリカのP2P送金サービスは、いま急速な拡大の途上にある。 PayPalの時価総額はみずほFGと同程度 金融機関の利益を浸食して急成長 PayPalは、2015年7月に、それまでの親会社であったeBayから独立して再上場を果たした。時価総額は、eBayを上回る500億ドル、約6兆円となった。 PayPalは最初のIPOから間もない2002年7月、eBayに15億ドルで買収された。その企業が、最終公開評価額の33倍の価値を持つに至り、親会社を抜いたのである。 eBayが運営するのはネットオークションだが、それより送金サービスのほうが成長率が高かったわけだ。 ところで、日本のメガバンクの時価総額は、以下のとおりである。三菱UFJフィナンシャル・グループが、11.2兆円、みずほフィナンシャルグループが6.2兆円、三井住友フィナンシャルグループが7.0兆円。 つまり、PayPalは、すでにみずほと同じくらいの時価総額の企業になっているわけである。しかも、きわめて高い成長率で成長を続けている。 前回述べたように、「ソーシャルレンディング」と呼ばれる金融仲介機能を行なうアメリカの「レンディングクラブ」が14年12月に上場し、時価総額が約1兆円になった。横浜銀行の時価総額は現在約9600億円だから、それを抜いている 送金の分野のスタートアップ企業でも、同程度の時価総額の企業が誕生している。ウォールストリートジャーナルのThe Billion Dollar Startup Clubによれば、最近時点でのSquareの時価総額は60億ドル、Stripeのそれが50億ドルだ(注)。 これらも、日本の大手地銀と比較できる時価総額だ。 なぜこのような高価値を実現できるのか? PayPalの運用には銀行が不可欠である。しかし、銀行は定常的な業務を提供するだけで、そこから大きな利益を得ることができない。つまり、フィンテック企業は、伝統的な金融機関を排斥してしまうのではなく、そのサービスを利用しつつ、最も利益率が高い部分を侵食していくという方法で成長していったのである。 (注)Squareは、現在、上場を申請中である。11月6日のウォールストリートジャーナルは、「これまで企業価値は60億ドル程度と考えられていたが、実際には39億ドル程度だろう」と伝えている。 http://www.wsj.com/articles/square-outlines-ipo-terms-1446812826 http://graphics.wsj.com/billion-dollar-club/ http://diamond.jp/articles/-/81505 |