1. 2015年11月10日 13:44:32
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日本で「Uber」のドライバーをやってみた乗せる側に立って感じたこと 2015年11月10日(火)井上 理 先月、日本で「Uber(ウーバー)」のドライバーになるという稀有な体験をした。用意したのは、クルマとスマートフォンのみ。あとは、ウーバーのドライバー専用アプリをダウンロードしただけだ。 先月、筆者は「Uber(ウーバー)」のドライバーとなり、都内を走った(撮影:陶山勉、以下同) といっても、二種免許を持たず、国土交通省から営業許可も得ていない筆者が、お客を乗せ、代金をもらったら違法。「白タク」容疑で検挙されてしまう。あくまで合法的に、しかし、欧米や中国、インドなどで活躍する、100万人以上もいる一般のウーバードライバーの気分を味わうことに成功したのだ。
日本人がまだ知らぬウーバーの裏側 「シリコンバレー出張で思い知った『Uber』の威力」という記事を、このコラム「記者の眼」で書いたのは今年7月のこと。 日本でもウーバーの日本法人が昨年から営業を始めているが、実態は提携したハイヤー・タクシーの配車サービスにとどまっており、自家用車を持ち出した一般人ドライバーとお客をマッチングする、ウーバー本来のサービスは、残念ながら展開できていない。 この手のサービスは実際に使ってみないとその良さが分からない。米国出張で使い倒した筆者は、「安い!便利!安心!」という率直な感想を前回の原稿にぶつけた。同じような思いを抱いた記者はほかにもいる(関連記事:「移動が面倒くさいインドで役立ったあのサービス」)。 ただし、ウーバーが全世界で受け入れられているのは、何も利用者側だけにメリットがあるからではない。ドライバー側にも大きなメリットがあるからこそ、需給のマッチングが成立している。 ドライバー側も経験してみたい。そんな思いを募らせていた折、何とも都合のいい募集があった。ウーバーが1日限定で、リサイクル可能な衣類を回収して東北に届けるというチャリティーイベントを開催。そのドライバーにならないか、というものだ。 イベントの名は「UberRECYCLE」。その日、ウーバーのアプリを開くと、通常のハイヤーやタクシーの配車に加え、「RECYCLE」というメニューも現れた。衣類を寄付したいと思ったら、ハイヤーやタクシーを呼ぶ感覚で、ウーバー車を呼ぶ場所をワンタップするだけだ。 「UberRECYCLE」当日、ウーバーのアプリにイベント参加の告知(左画面)とメニュー(右画面の右下)が出現した。画面の範囲では、5台のリサイクル車が確認できる 余談だが、この日、寄付する側としてウーバーを自宅に呼んだ記者が編集部内におり、「ウーバー、日本で個人車利用に布石」という記事を書いている。イベントの詳細はそちらに譲るとして、短期間に本稿も含め4本もウーバーネタが「記者の眼」に載るのは過剰とのそしりを受けても仕方がない。
しかしである。記者がウーバーに乗ったという記事はあっても、記者がウーバーを運転した、という日本語の記事は見当たらない。 米国駐在の某新聞記者が果敢にトライしようとしたが、ビザの問題でウーバー側からドライバーになることを許されず、断念したという話も聞いた。つまり、日本人がまだ知らぬウーバーの裏側を知る貴重な機会。というわけで前置きが長くなったが、以下に体験記を綴る。 ドライバーアプリもシンプル 1日限定のイベントで衣類を運ぶといっても、ドライバーの環境は世界のウーバードライバーとまったく同じである。 ボランティアドライバーに応募し、選ばれた十数人の一般人がイベント前日夜、Uber Japan(渋谷区)のオフィスに呼ばれた。イベントの簡単な説明があった後、各自のスマートフォンにドライバーアプリをダウンロード。これまた簡単なレクチャーを受けた。 このアプリは全世界のウーバードライバーが実際に日々、使っているもので、一般の日本人がインストールしたのはこれが初めて。ユーザー側のアプリを使い慣れていた筆者には、利用方法を教わらずとも使えるほど、シンプルで直感的なものだった。 与えられたドライバーのアカウントでログイン。「オンラインにする」というボタンをタップすれば、即、配車待ち状態となる。あとは、呼ばれるのを待つだけ。通知があったら、慌てなくてはならない。 ウーバーでは、ユーザーがクルマを呼ぶと、最も近くにいるオンラインのドライバーを自動的に選び、ドライバーアプリに通知している。そのドライバーが15秒以内に通知をタップしなければ、次に近いドライバーに通知が行く。イベントも同じ仕組みだ。 ドライバーアプリの画面。通知(左画面)をタップすると配車が確定し、現在地から迎え先までのルート(右画面)が表示される 通知を逃さず配車が決まると、アプリには迎えに行く住所とユーザー名が表示される。一般的なウーバー車はそのまま、アプリ内のナビ、あるいはグーグルマップのナビに従って迎えに行く。今回のイベントでは念のため、ユーザーに電話してから向かうルールになっていた。
電話は、ドライバーアプリ内でユーザー名をタップ、次に「連絡する」ボタンをタップすればかけられる。筆者が米国でウーバーを利用した時は、「一方通行だから道を渡って乗ってくれ」など、到着間際に電話をかけてくるドライバーもいた。ドライバーと利用者が確実に会える仕組みを担保しているとも言える。 迎え先に着いたら衣類を受け取り、「乗車を開始する」ボタンをタップ。人を乗せる場合は、行き先に着いた時点で「乗車を完了する」ボタンをタップするのだが、今回は衣類の回収のみなので、開始と完了を一気に行い、また配車待ちにする。 予想外に忙しかった2時間 レクチャーが終わったら、顔写真、車検証、保険証明などの登録を済ませる。こうした情報(顔写真、車種、ナンバー)は、配車された場合、衣類を寄付する人のアプリにも表示される。これも世界共通だ。 かくして翌日の本番を迎える。ドライバーは午前と午後のグループに分けられ、それぞれに割り当てられたエリアで2時間半、オンラインにするよう伝えられた。筆者の担当は、東京・恵比寿周辺。路上にクルマを停め、午後0時30分きっかりにアプリをオンライン状態にした。 前述の通りイベントの告知は大々的になされておらず、当該時間帯、対象エリア内で、たまたまウーバーのアプリを開いたユーザーにイベントの紹介が表示されるくらい。本当にお呼びがかかるのか、半信半疑で待っていると、ものの10分くらいでドライバーアプリがピーンピーンと鳴った。 迎え先は5分ほどの距離の目黒駅近辺。ルールに従いアプリから電話連絡を入れると、「Hello?」の声。1人目は外国人だった。ウーバーのアプリは世界共通。使い慣れた自国語のアプリを開いたら、たまたまイベントに気づいたという。参加理由は「普段からいいことをしようと心掛けている。それだけ」。45リットルのゴミ袋2つがパンパンになるほどの衣類を寄せてくれた。 記念すべき1人目はサッド・エバンスさん。迎え先の指定などはアプリで完結するため、外国人でも利用しやすい ここからが忙しかった。恵比寿に戻るや否や、今度は世田谷区某所から呼ばれた。迎え先までの時間は20分以上。そちらの方にも担当ドライバーはいたのだが、たまたますべて回収中で、システムが筆者のクルマを選んだようだ。
待っていたのは大手広告会社に勤める20歳代男性。友人のツイートでイベントを知り、「持っていくのは面倒だけれど、家まで取りに来てくれるんだったらいいかな」と思い、参加したという。無事、回収してオンラインの状態にしながら恵比寿方面へ戻ると、またすぐに通知。次は15分ほどかかる表参道からだった。 1時間半でいきなり実践 細い路地を縫って到着すると、そこにはショップが。なんと女性の店長が店の新品の商品を寄付してくれるという。ありがたく頂戴したところで時間は午後2時30分。終了まであと30分残っていたが、すでにトランクが満載となっていたため、アプリをオフラインにし、荷降ろし場に指定されていた虎ノ門へと向かった。 ほどなく、ドライバー仲間が次々と到着。「どうでした?」などとドライバー談義に花が咲く。どのクルマも大量の衣類を積んでいた。忙しかったのは筆者だけではないようだ。当然、皆、素人。ドライバー体験を通じて最も強く感じたのは、その「敷居の低さ」である。 前日夜のレクチャーや登録に要した時間は実質1時間半。いきなり実戦に投入された格好だが、皆、結果を出していた。 諸外国でのドライバー登録も簡潔だ。必要書類の提出はオンラインで済む。犯罪歴や事故歴、保険の適用範囲など第三者機関によるチェックをクリアすれば、 基本的には登録完了だ。ドライバーアプリの講習会やウェブサイトでの映像などの学習機会が別途、用意されているものの、すぐにでもドライバーとして活躍できる仕組みとなっている。 利用者の中には、たったそれだけで大丈夫なのかと心配する向きもあるだろう。しかし、素人だからこそ、より慎重で親切になる、という側面もある。熟練だが、態度が横柄で運転が雑なタクシーに遭遇したことがある人は多いだろう。事実、筆者は米国でウーバーに不快を感じたことはなく、皆、タクシーより親切でフレンドリーだった。 さらに、ドライバーは必ずユーザーから5段階の評価を受ける。この平均評価が一定を下回れば、契約を解除されることもある。筆者もイベント当日は評価の対象となった。将来、ウーバーのドライバーを目指しているわけではないが、丁寧に務めようという気にさせられた。結果、幸いなことに全員が5をつけてくれたようだ。 安倍首相が解禁を示唆するも…… 筆者は人を乗せたわけではない。が、疑似体験をしたようなものだ。こう言っては何だが、「こんな気軽に稼げるのか」とも思った。 今回はイベントのため、稼働時間が決まっていたが、諸外国のウーバードライバーは、いつでも好きな時間に働くことができる。仕事をしたければアプリをオンラインにすればよく、逆に休憩したい、疲れたからやめたい、という時はオフラインにすればよい。 日本で始まれば、職業としてドライバーを目指す者だけではなく、フリーターや子育て中の主婦などにも、すそ野が広がる。実際に米国では、「クルマで子どもを学校に送り迎えするお母さんが、空き時間に稼いでいたりする」(Uber Japanの高橋正巳社長)という。 さて、一般ドライバーによる本来のウーバーが日本でいつ始まるのか。高橋社長は「早く始めたい」とするが、こればかりは政府の規制緩和を待つしかない。 10月20日、安倍晋三首相は国家戦略特区諮問会議で、自家用車を使ったタクシー営業を解禁する意向を示した。ただし、対象は地方を中心とする国家戦略特区。国交省の猛反発も予想され、都市部での解禁にはまだ時間がかかりそうだ。むしろ、都市部の方が潜在的なドライバーも実需も多いと思うのだが、行く末はいかに。 イベントに協力した一般社団法人 日本リ・ファッション協会と、Uber Japanのスタッフ。高橋正巳社長(左から2番目)もボランティアドライバーの1人として活躍した
このコラムについて 記者の眼
日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。 http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/221102/110900100/?ST=print |