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パイロット不足深刻化…給料低下、減便続出 さらなる規制強化の真相
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20151109-00010002-bjournal-bus_all
Business Journal 11月9日(月)22時31分配信
世界的な航空需要の増大に伴い、2030年には現在の2倍以上のパイロットが必要とされるといわれている。特にアジア・太平洋地域でのパイロット需要の伸び率は他地域と比較して数倍ともいわれており、日本の航空行政当局もこの問題への対応に苦慮している。いかに多くのパイロットを養成するかが喫緊の課題であり、なんとか短期間で多くの乗員を養成するべくさまざまな方策が検討されている。
そんな中、米国ではパイロット養成促進の流れに逆行するような法改正が昨年の夏に施行された。飛行学校を卒業して必要なライセンスを取得した飛行時間250時間程度のパイロットでも、乗客を乗せた航空機の副操縦士として乗務してはならないというものだ。そして今後は、副操縦士として乗務するためにはATPLという機長資格を保持することが義務付けられた。そのATPLを取得するためには1500時間以上の飛行経験が必要で、加えてその取得に当たっては大型機のシミュレーターによる失速回復訓練を含む訓練課目を一定時間こなさなければならないのだ。
乗客にとってはパイロットがより高精度で厳しい訓練を受けてくれることは好ましいことには違いないが、問題は今回の法制化がはたして安全性の向上に本当に必要なのかということである。
今回の法改正のきっかけになったのは、2009年2月に米ニューヨーク州バッファローで起きた航空機墜落事故であった。この事故では地上で巻き込まれた1名を加えて50名の犠牲者が出たのだが、この事故の1カ月前にはハドソン川に不時着水してひとりの犠牲者も出さなかった事故があり、米国中で航空機事故に対する強い関心が沸き上がっていたことが大きく関係している。
そこで、航空機運航の安全性を確保するためにこれまで以上に厳しい規制を設けるべきだという新たな法律が議会で承認され、それを受けてFAR(米国連邦航空規則)の改定となったのである。
●軍からエアラインへのパイプ強化
では、その結果何が起こったか。
今、米国は深刻なパイロット不足に陥っている。若年パイロットのエアラインへの供給が途絶えてしまったからだ。米国の中小エアラインは軒並み減便を強いられ、その経営自体も危機に晒されている。さらには有資格者である飛行学校の教官は次々とエアラインに引き抜かれ、飛行学校は現在教官不足となってしまっている。また、仮に飛行学校でライセンスを取得できたとしてもその後エアラインに就職するのが容易ではない。就職できたとしても給料は決して高くはない。コンビニの従業員並みである。
では、米国政府はこのまま現状を放置しておくのであろうか。
ここからはあくまで筆者の推論である。前国防長官チャック・ヘーゲル氏は昨年2月に、米国議会による大幅な歳出削減計画を受け、米国陸軍8万人規模の削減、空軍のA10攻撃機の全廃などの軍事予算削減策を発表した。余剰となったパイロットの受け皿をどうするか。大きな問題に違いない。
現在米国メジャーエアラインのパイロット数2万8000人の内、約50%が軍出身である。日本の場合は自衛隊出身者の割合は数%にすぎないが、米国ではパイロットの供給ソースとしては最も一般的になっている。この軍からエアラインへのパイプをさらに太くするために、民間出身のパイロットのエアラインへの道を今回の規制強化により狭くし、民間からのパイロットの供給を抑えようとしているとみることができるのではないか。いわば、政府による民業の圧迫である。
飛行の安全性はパイロットのみが担っているわけではない。航空機の設計・製造メーカー、整備士、管制官、飛行場施設やその管理者、その他多くの人や組織がそれぞれの役割を十分に果たして初めて安全性の向上が達成されるものである。もちろん、パイロットが最終的な責任を負っていることは否定できないのも事実である。
安全性の向上という錦の御旗を掲げているので、若い民間パイロットたちには不満があってもそれを口にできない。こんなことが今、米国の空で起きているのだ。
文=風間秀樹/航空経営研究所主席研究員
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