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アマゾン、圧倒的強さの秘密は「売れない」ニッチ商品の多さ?売上分布から解剖
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20151106-00010000-bjournal-bus_all
Business Journal 11月6日(金)22時30分配信
●ビッグデータは「量」よりも「バラエティ」が重要
本連載前回の記事で、ビッグデータ時代のマーケティングでは「全体」より「部分」、そして「代表性」より「詳細性」が重要になると述べました。その後、最近の米ウォールストリート・ジャーナルの記事で、同じことをデータベース・マネジメントの第一人者が主張しているのを知りましたので紹介したいと思います。
その第一人者とは、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でコンピュータ・サイエンスと人工知能を研究するマイケル・ストーンブレーカー教授です。2014年にコンピュータの世界におけるノーベル賞といわれるACMチューリング賞を受賞している斯界の世界的権威。そんな教授が、ビッグデータで大事なのはデータの「量」ではなくデータソースの「バラエティ」だと述べています。
データウェアハウスにより多くのデータを貯め込み、統合すればいいという流れに対して、教授はそれがいかに困難かが理解されていないと批判します。これからはむしろ「データキュレーション」が大事で、データウェアハウスに納まりきれない何百万という種類のデータの「ロングテール」を管理しなくてはならない、というのです。
キュレーションやロングテールという言葉をご存知の方も多いと思いますが、簡単に説明しておきましょう。美術館で展示品を収集・鑑定・管理する職業はキュレーターと呼ばれていますが、キュレーションとはまさにそうした仕事のことです。インターネット上では、キュレーション・メディアなるものも成長しています。
一方、ロングテールとは、分布の裾(尻尾)が非常に長いことをいいます。小売業のアイテム別売り上げ分布でいえば、その大半を占めるごく少数のアイテムがある一方、売り上げが非常に小さいアイテムが無数に存在する状態がそうです(図1)。一般に、オンライン小売業はオフライン小売業に比べて、売上分布がロングテールになる傾向があります。
ビッグデータについても、情報の分布がロングテールになっているとストーンブレーカーは指摘しています。筆者はデータベースについてはまったくの門外漢ですが、彼の指摘はビッグデータの本質を捉えているように感じます。そこで、今回はロングテールという概念に注目して、ビッグデータ時代のマーケティングについて考えてみましょう。
●ロングテールを「発見」した人々
ロングテールという概念を世の中に送り出したのは、当時「ワイアード」という雑誌の編集長だった、クリス・アンダーソンという人物です。彼はその後も、無料経済について『フリー』、3Dプリンタ等の技術がもたらすインパクトについて『MAKERS』という本を書いて注目を集めました(注1)。今後のビジネス環境に関する水先案内人の一人だと思います。
ロングテールは、オンライン小売業において顕著に見られる現象です。その存在を学術的に示したのは、MITの経済学者エリック・ブリニョルフソンらによる2003年の論文でした(注2)。ブリニョルフソンは最近、テクノロジーの進歩が人々の仕事を奪うことを論じた啓蒙書を立て続けに出版しており(注3)、やはり水先案内人の一人です。
ブリニョルフソンたちが調べたのは、アマゾンとみられるオンライン書店の売り上げ分布です。アマゾンがアイテムごとの売り上げを公表しているわけではないので、独自の方法でそれを推定しています。その方法をめぐっては批判もありますが(注4)、アマゾンのアイテム別売り上げが、程度の差こそあれロングテール型の分布をしていること自体は、間違いないといえるでしょう。
●なぜロングテールから利益が生まれるのか
ロングテールが話題になったのは、売り上げが非常に小さなアイテムを切り捨てるのでなく、品揃えに残すことによって、全体として大きな利益を生み出せると主張したからでしょう。邦訳書の副題には「『売れない商品』を宝の山に変える」とあります。これを文字通り受け取ると、まるで魔法のような話に思えます。
ニッチなアイテムを多数取り揃えるだけで本当に大きな利益を生み出せるのでしょうか。
アンダーソンの本を読むと、実はそういう話ではないことがわかります。そこでは、いわゆる売れ筋やヒット商品と、売り上げ分布の裾・尻尾(テール)にあるニッチ・アイテムを組み合わせる戦略が語られています。
ニッチなアイテムを扱いながら利益を確保できる理由として、アンダーソンはオンライン小売業(特にデジタル財)では在庫の追加費用が非常に少ないことを挙げています。しかし、それだけで十分な説明になるのかは疑問です。私自身は、ニッチなアイテムを扱うことで生じる優良顧客を引きつける可能性に注目しています。
図2は、ある小売事業について、オンラインとオフラインのチャネルで、顧客の総購買金額とニッチ・アイテムの購入比率の関係を示したものです。そこから、総購買金額が多い優良顧客ほどニッチを買っていることがわかります。購買金額が非常に少ない顧客もニッチ購入比率が高いのですが、そのアイテムを買うためだけに来店したと考えられます。
優良顧客ほどニッチなアイテムを買っているとすれば、これらを品揃えから外すと、彼らが今後この店舗を訪れなくなるおそれがあります。売れ筋製品は他の店でも売っているので、ニッチな品揃えが来店の鍵になっている可能性は大いにあります。実際のデータを使って研究を深めたいテーマのひとつです。興味がある企業には、ぜひ研究にご協力いただけますと幸いです。
●ビッグデータ時代の成功の鍵はロングテールが握る
話をビッグデータに戻しましょう。ストーンブレーカーがいうように、ビッグデータもまたロングテールの構造を持つとしたら、小売業がそうだったように、ニッチな情報の生かし方が成功の鍵になるのではないでしょうか。小規模で分散的で異質な情報を巧みにつなぎ合わせるには、コンピューティング・パワーとアルゴリズムの発展が期待されます。
細部に宿る情報を巧みに利用して個別の顧客の欲求を満たせば、顧客満足度は高まります。しかし、それだけで大きな利益が生まれるわけではありません。その点で学ぶべきなのは、ロングテール・ビジネスの雄とでもいうべきアマゾンです。アマゾンの強さは、ロングテールと規模・範囲の経済性を結びつけていることだと私は考えます。
アマゾンの顧客に対する強みは、普通の店舗を圧倒的に上回る品揃えで、非常にマニアックな注文にも応じられることです。しかし、それだけで終わらせず、顧客に普通の店舗でも売っているメジャーな製品まで購買させ、さらには「定期おトク便」で顧客と長期的な取引関係をつくることにより、安定した収益を得る仕組みを確立しています。
このような見方は、購買力の大きな顧客ほど特定分野に関してマニアックで、ときにニッチなアイテムを求めるという前提に立っています。小売りの世界だけでなく、情報の世界でもそうなら、私が定義した意味でのロングテール・ビジネスモデルの成功例になるでしょう。果たしてそうなのか、今後も研究を続けたいと考えています。
なお、ロングテールに関するもう少し詳しい解説については、拙著『マーケティングは進化する』(同文舘書店)の9章をご覧ください。
(文=水野誠/明治大学商学部教授)
(注1)
『ロングテール』早川書房 http://www.amazon.co.jp/dp/4150504083
『フリー』NHK出版 http://www.amazon.co.jp/dp/4140814047
『MAKERS』NHK出版 http://www.amazon.co.jp/dp/4140815760
(注2)
E. Brynjolfsson, Y. Hu, and M. D. Smith, Consumer Surplus in the Digital Economy: Estimating the Value of Increased Product Variety at Online Booksellers, Management Science, 49(11), 1580-1596, 2003.
(注3)
『機械との競争』日経BP社 http://www.amazon.co.jp/dp/B00ED7SB16
『ザ・セカンド・マシン・エイジ』日経BP社 http://www.amazon.co.jp/dp/4822250997
(注4)服部哲弥『Amazonランキングの謎を解く:確率的な順位付けが教える売上の構造』化学同人 http://www.amazon.co.jp/dp/475981339X
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