4. 2015年11月06日 16:57:06
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コラム:揺れる米利上げ観測に潜む厄介な問題=鈴木敏之氏 三菱東京UFJ銀行 シニアマーケットエコノミスト [東京 6日] - 10月28日公表の米連邦公開市場委員会(FOMC)声明は、利上げ開始の意向を強く示すものだった。しかし、それでも市場参加者は米連邦準備理事会(FRB)が12月15―16日のFOMCで利上げ開始を決定する確率を58%と見ている。弱い指標でも出れば、利上げ先送り観測に傾斜しそうな弱い数字である。米国の利上げ開始は、今年の相場シナリオの根幹をなす前提だったはずだ。市場とFRBのコミュニケーションに、いったい何が起きているのだろうか。 <「影のFF金利」は今年に入って2%上昇> FRBは昨年、俗に「QE(量的緩和)」と呼ばれた大量資産購入による資金供給の段階的縮小(テーパリング)を進め、年末にそれを終了した。その後、危機対応の金融政策から脱し、正常化を進めるとして、2015年半ばの利上げ開始を示唆していた。ところが、第1四半期に寒波と港湾ストの影響で経済が落ち込み、まず6月の利上げ開始を見送り、8月には世界的な株式市場の動揺もあって、9月にも見送りを余儀なくされた。 その後、市場の動揺もいくぶん収まり、イエレンFRB議長は9月24日の講演で、多くのFOMCメンバーが年内利上げ開始を支持しており、自らもその一員であると公言した。10月28日のFOMC声明には、前回利上げサイクル直前の2004年5月4日の声明で使った「堅調な(Solid)拡大」との文言を取り入れ、さらに次回(12月)FOMCで利上げを検討するとまで言った。それでも金利先物市場では、前述の通り12月の利上げは58%しか見込まれていない。 市場の見方が割れる理由は複数あると思われるが、一番大きなものはやはり米国経済に対する不安だろう。第3四半期の国内総生産(GDP)は前期比年率1.5%の成長でしかなかった。10月のISM製造業景気指数は9月の50.2に続いて50.1と、景気の拡大・縮小の分かれ目となる50割れ目前であり、利上げどころか緩和をしなくてよいのか問われそうな数字だ。在庫圧縮の動きが景気にブレーキをかけている様子も見える。 FOMC声明は、消費と設備投資に関しては堅調に拡大しているとの認識を示しているが、非農業部門雇用者数の伸びは8月、9月と前月比20万人を割り込んでいる。雇用情勢全般を示す労働市場情勢指数(LMCI)は9月に0.0まで低下している。新学期セールも勢い不足で、年末商戦もせいぜい平年並みと見込まれる中、FRBに早期利上げを迫る力強さは米国経済には感じられない。 設備投資については、そもそも、どこが堅調なのかという疑問がある。インフレ率は、表面上の指標ではほとんど上昇しておらず、賃金も低迷している。市場には、次回雇用統計で賃金の伸びが注目されるとの声もあるが、生産性の上昇で吸収されることを勘案すると、2%のインフレ率実現には3%台後半の賃金上昇が必要だ。それほど高い伸びは望み薄だろう。 悩ましいのは、このような経済状態になっている要因である。中国をはじめとする新興国経済減速が影響していると言われるが、それだけで米国経済の成長の弱さを説明するのは難しい。ここで目を向けるべきは、米国の金融政策そのものではないだろうか。 アトランタ連銀は、量的緩和の強弱をフェデラルファンド(FF)金利の上げ下げに換算した「シャドー(影の)FF金利」を公表している。それによれば、FF金利は今年になって2%も上昇した計算だ。また、一般企業の調達金利指標である社債利回りをもとに実質金利を計算しても上昇が確認できる。後者は経済活動の強弱に先行しており、米国経済が今後さらに減速することを示唆している。 <FRBの市場対話に難あり> もう1つの厄介な問題は、FRBのコミュニケーションに難が生じている可能性だ。中央銀行が動かせる金利、資産価格は極めて限られたものである。金融政策が目的を達するためには、市場にその意図を浸透させなければならない。そのためのコミュニケーションが要る。 FOMC声明はその最強のツールのはずで、それが年内の利上げ開始の意向を告げているのに、58%の数字が示すとおり、市場は確信を持てていない。こうした事態に陥っているのは、上述の経済実態とFRBの描く経済診断・見通しが合っていないことに大きな難点があるからだろう。 加えて、政策発動の信念、不退転の決意が伝わってこないという問題がある。事実上のゼロ金利政策と量的緩和政策(4.5兆ドルに及ぶバランスシート規模)は、危機後の恐慌回避のための非常手段で、弊害もある。恐慌の懸念が去ったあとも解除せず、そのままにしておけば、副作用の心配が大きくなる。次に経済が悪化したときに対応手段がなくなる弾薬庫の払底問題がある。にもかかわらず、今のFRBからは、何としても利上げをして金融政策を正常化しなければならないという決意の強さが伝わってこない。 イエレンFRB議長は、12月3日に上下両院合同経済委員会で議会証言に応じる。2013年5月22日、当時のバーナンキ議長がこの委員会でテーパリングの意向を示し、大きく市場を動かしたことは記憶に新しい。 年内の利上げ開始が必要だとこれほどまで言っておきながら、なぜ年末まで利上げができない状態になっているのか。現在の米経済情勢に合致した金融政策とはいかなるものであるべきなのか。率直に語られ、その意図を市場に浸透させられることを期待したい。 *鈴木敏之氏は、三菱東京UFJ銀行市場企画部グローバルマーケットリサーチのシニアマーケットエコノミスト。1979年、三和銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。バブル崩壊前夜より市場・経済分析に従事。英米駐在通算13年を経て、2012年より現職。 *本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(こちら) *本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。 http://jp.reuters.com/article/2015/11/06/column-toshiyukisuzuki-idJPKCN0SV09F20151106 来週のドル/円は底堅い、12月利上げ期待高まればレンジ切り上げ
[東京 6日 ロイター] - 来週の外為市場で、ドル/円は底堅い展開が予想される。イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長の議会証言をきっかけに米国の12月利上げが再び意識され始めたことが下支えになりそうだ。 きょうの米雇用統計の内容が強いものとなり、米株式市場も崩れなければ、ドル/円はレンジを切り上げるとみられる。 予想レンジはドル/円が120.00―123.00円、ユーロ/ドルが1.0750―1.1050ドル。 イエレンFRB議長が4日の議会証言で12月の利上げを正当化する可能性があるとした。今晩の雇用統計が雇用回復の持続力を示す内容となれば、市場で利上げを織り込む動きが広がりそうだ。 10月の米雇用統計についてロイターがまとめた市場予想によると、非農業部門雇用者数(NFP)は前月比18万人増。予想を上回った場合はドル買いに弾みがつく可能性が高いが、「約2カ月半ぶりの高値水準である122円台ではいったん売りが出そう。123円程度で伸び悩むのではないか」(国内金融機関)との見方が出ている。 雇用統計を通過して米長期金利が急低下したり、大幅な株安となったりすれば、ドル買いムードが一転して120円台まで押し戻される可能性もある。ただ、弱い内容となっても12月の利上げ期待を後退させるほどでなければ、121円前半で下げ止まり、盛り返す展開もあり得るという。 ブラード米セントルイス地区連銀総裁は5日、ロイターとのインタビューで、景気回復の局面で月間の雇用の伸びが鈍化するのは自然、との認識を示した。ブラード総裁の発言について市場では「直近で20万人いっていなくても利上げを十分に検討できるというメッセージとして受け止められる」(邦銀)との声が出ていた。 来週前半は中国で10月分の経済指標の発表が続く。10日に消費者物価と生産者物価、11日に小売売上高、鉱工業生産、都市部固定資産投資が予定されている。総じて悪い内容となれば、リスク回避で円高になりやすいとみられ「株安や豪ドル/円の下げにともなって、ドル/円も少し下方向にいく可能性がある」(国内金融機関)という。 週後半は、米国の経済指標が注目。13日に10月分の小売売上高と生産者物価、11月分のミシガン大学消費者信頼感指数などが発表される。 (為替マーケットチーム) http://jp.reuters.com/article/2015/11/06/frb-f-idJPKCN0SV0MM20151106?sp=true |