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年金運用で10兆円の大損失ってホント!? 安倍政権の「危険な賭け」は失敗したのか?
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46211
2015年11月04日(水) 磯山 友幸 現代ビジネス
■10兆円の損失!?
国民が積み立てた年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、巨額の運用損を出したと報じられている。
夕刊紙やネットメディアなどが大手証券会社のアナリストの試算などを元に、半ばセンセーショナルに取り上げているもので、第2四半期である7〜9月の3カ月間で8兆〜10兆円の損を出したとしている。
GPIFの第2四半期の運用状況については11月末までに公表される予定だが、いったいどんな事態に直面しているのか。
中国・上海株の急落などをきっかけに、この間、日本株や世界の株式は大きく下落した。6月末に2万235円だった日経平均株価は9月末には1万7388円となり、14.1%も下落した。
GPIFの運用総額は6月末で141兆1209億円で、そのうち33兆円を日本株に投じている。この33兆円に、単純に14.1%を掛けただけでも4兆7000億円になる。
31兆円あまりを保有する外国株式でも同様に損失が生じたのは明らかだ。これを取り上げて、7〜9月期に10兆円近い損を出したとメディアは書いたわけである。
実際、今月末に第2四半期に運用状況が公開されれば、6月末時点では数兆円規模の損失が生じていたことが明らかになるだろう。そうなれば、GPIFの運用のあり方について議論が噴出するに違いない。
「国民の大事な年金を株式のようなリスクの高い資産で運用していいのか」「丁半博打ではないか」といった声が出て来ることになるだろう。
もちろん、そうした批判は当然の声と言える。安倍晋三内閣は昨年10月30日、GPIFの運用ポートフォリオ(資産構成割合)の見直しを行った。日本銀行による追加緩和とタイミングを合わせており、「株高」を意図したのは明らかだった。
それまで60%を日本国債などの「国内債」で運用するとしていたものを35%に引き下げる一方で、国内株式を12%から25%に、外国株式を12%から25%に、外国債券を11%から15%にそれぞれ引き上げた。
債券中心、国内中心から運用方針を劇的に転換して、株式と債券を半々とし、海外投資へと大きくシフトしたのである。
安倍内閣は発足時からGPIFの運用改革を掲げてきた。発足直後の2012年12月末には、国内株式での運用割合は12.9%に過ぎなかったが、政権の意向を酌むかのように、急速に株式の比率を高めていた。
ポートフォリオを見直す直前の2014年9月末では18.2%に達していた。資産比率には上下の「かい離幅」が認められているが、その上限一杯いっぱいまで日本株を買っていたのだ。そこで、さらに株式を買えるように上限を引き上げたのである。6月末では日本株の比率は23.4%にまで達していた。
そこに株価の大幅な下落が直撃したのである。
■強引な「株式シフト」
もっとも、運用状況は3ヵ月ごとに公表されるが、年金運用は3ヵ月単位で行っているわけではない。株式は長期に保有するのが原則で、株価が下がったからといって焦って売却するようなことはあまりしない。そのまま保有を続けていれば、逆にまた利益が出るわけだ。
年金運用の場合、実際、日経平均株価は10月末には1万9083円にまで戻している。9.7%の上昇である。保有していた株がそのままと過程すれば、単純に計算して3兆円を超す利益が出ている。当然のことながら、株価が戻れば損が消えていくわけだ。
とはいえ、そうした価格が大きく上下する株式での運用に、国民の年金資金を大量につぎ込んでいいのか、という議論はある。安倍内閣発足までGPIFの運用は国債を中心とする債券が主体だった。デフレ経済が続く中で、金利が低下すれば債券価格は上昇する時代が続いてきた。
だが、安倍首相は就任以来、デフレからの脱却を政策の目標としている。デフレから脱却すれば、いずれ金利が上昇し、債券価格は大きく下落することになる。国債だから安全とは言えなくなるわけだ。
インフレが進めば、国債の元本が実質的には目減りすることにもなる。デフレからインフレへと経済がシフトしていく中で、債券中心から株式へと運用先をシフトしていくことは、整合性があったわけだ。
そうは言っても、安倍政権の「株式シフト」は強引とも言える。枠が広がったことを良いことに、株価が下落した分、株式をせっせと買い増しているようなのだ。
日本の株価の動向は海外投資家によって大きく左右される。アベノミクス開始以降、海外投資家は総じて日本株を買い越してきた。今年も前半は買い越しだったが、6月以降、これが一変した。
■GPIFが株価を底支えしている?
東京証券取引所が集計している投資部門別売買動向(二市場合計、売買代金ベース、週次)をみると、1月から5月末まで海外投資家は2兆8297億円を買い越していたが、6月以降、10月23日までで3兆8826億円を売り越した。
8月10日からは8週連続で売り越しとなり、中でも9月7日から11日の週には1兆348億円も売り越した。
海外投資家の売りに買い向かったのは「信託銀行」である。個人投資家も買ったが、買い越し額は6月から10月までで3957億円に過ぎない。個人の動きは早いため、大きく下落するとすかさず買いが入るが、株価が戻すと売り抜ける。なかなか長期志向での買いにはつながらないのだ。
そんな中で、「信託銀行」の買い越し額は1兆6244億円に及んだ。
GPIFが実際にどれぐらいの規模で売買しているか、正確には分からない。ただ、GPIFが運用会社などに委託している資金で株式を売買する場合、信託銀行の勘定を通すのが一般的だ。信託銀行の売買動向を見ていると、GPIFの動きを想像することができるのだ。
ちなみに信託銀行は8月24日の週から9週連続で買い越しとなっている。つまり、株価が大きく下落する中で、GPIFが株を買い支えている可能性が見え隠れするわけだ。
問題は、そうしたGPIFの運用方針が政府の意向で決められるため、外部からのチェックが乏しいことだろう。GPIFのポートフォリオ見直しに当たっては、同時に運用体制を見直す「ガバナンスの強化」を行うことが掲げられていた。
昨年9月に就任した塩崎恭久・厚生労働相は、ポートフォリオ改革とガバナンス改革を「車の両輪」としていた。ところが、ガバナンス改革の具体策を議論するはずの社会保障審議会年金部会の議論は年明けから止まったままで、一向に再開される気配がない。
■独立性を保てるかが今後の課題
GPIFに詳しい厚労省の関係者は、「ガバナンスを強化して、運用の独立性を高めると、政府の意向で株を買わせることができなくなる。首相官邸がガバナンス改革にストップをかけているのが実態だ」と明かす。
もっとも、政府がGPIFを通して日本株を買い支えているように見える今の体制にはリスクも孕む。海外投資家が「いびつなマーケットだ」と日本市場を見限る可能性があるのだ
ファンダメンタルズ(経済の基礎的要件)と関係なしに政府の意向で買われる株式市場は、ファンダメンタルズとは関係なく、政府の意向で売りが膨らむリスクがある。つまり予見可能性の低い市場だと海外投資家は見かねないのだ。実際、8月以降続いている海外投資家の売り越しがまだ本格的に止まる気配はない。
大切な国民のカネを危険に晒している、という批判を浴びないためにも、海外からの疑心暗鬼の目を回避するためにも、GPIFのガバナンスのあり方について早急に議論を再開し、独立性の高い組織へと脱皮させるべきだろう。
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