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本日上場!日本郵政グループ3社の企業価値を徹底分析する
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46209
2015年11月04日(水) 田中博文 現代ビジネス
■まずはファイナンス概要を分析
いよいよ本日(11月4日)、日本郵政グループ3社が上場します。そこで、この3社の企業価値評価を分析し、過去の民営化と比較してみましょう。
日本郵政
売出株式数は4億9500万株。公募はありません。オーバーアロットメント(※1)(以下、O.A)はゼロです。今回想定発行価格が1350円だったのですが、公開価格は仮条件上限の1400円となりました。オファリングレシオ(※2)は11.0%です。株式時価総額は6兆3000億円、ファイナンス金額は6930億円です。
※1オーバーアロットメント
当初の募集・売出予定株数を超える需要があった場合、主幹事証券会社が発行会社の大株主等から一時的に株式を借り、当初の売出予定株数を超過して、募集・売出しと同じ条件で追加的に投資家に販売すること。
※2オファリング・レシオ
株式流動性の指標。(公募株+売出株)/ 本件公募含む発行済株式総数)で計算。要は発行済み株式数のどの位を市場に放出(公募・売出)すれば、適正に投資家が株を消化できるかという指標のこと。IPOの場合は20%〜30%が一般的。
ゆうちょ銀行
売出株式数は4億1244万株。公募はありません。OAはゼロです。今回想定発行価格は1400円でしたが、公開価格は仮条件上限の1450円となりました。オファリングレシオは9.1%です。株式時価総額は6兆5250億円、ファイナンス総額は5980億円です。
かんぽ生命
売出株式数は6600万株。公募はありません。OAはゼロです。今回想定発行価格は2150円でしたが、公開価格は仮条件上限の2200円となりました。オファリングレシオは11.0%です。株式時価総額は1兆3200億円、ファイナンス額は1452億円です。
この3社が11月4日に同時に上場するわけですが、市場からの資金吸収額は1兆4362億円となり、過去有数のIPOファイナンス額となります。
主幹事証券会社は11社にのぼり、その内訳は、
(国内区分)大和証券、野村證券、みずほ証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、SMBC日興証券
(海外区分)ゴールドマン・サックス証券、シティグループ証券、JPモルガン証券、UBS証券
(国内特定区分)岡三証券、東海東京証券
そして、グローバルコーディネーターとして、野村證券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、ゴールドマン・サックス証券、JPモルガン証券となりました。そして、それ以外に約50社の証券会社が販売を行うことになります。
全体では、野村証券と三菱UFJがともに約3500億円相当を引き受け、国内外で販売し、ゴールドマン・サックスとJPモルガンが約1300億円ずつになるとみられます。
■必ずしも格安とは言えないゆうちょ銀行
2.企業価値評価(バリュエーション)
それでは、企業価値評価を見てみましょう。
まず、ゆうちょ銀行からです。ゆうちょ銀行は、前回のエントリー(日本郵政、上場前に知っておきたい「儲けの構造」と「リスク」)で書いたように、収益のほとんどを有価証券運用で行っており、融資業務の収益がありませんが、業態としてはやはりメガバンクとの比較になります。
通常の企業価値評価はPER(株価収益率/一株当たりの利益額)で行うことが多いのですが、銀行は資産(融資 / ゆうちょ銀行の場合は有価証券)の運用で収益を上げるビジネスなので、比較指標はPBR(株価純資産倍率 / 一株当たりの純資産額)が望ましいでしょう。
表@はゆうちょ銀行の時価総額ですが、三井住友、みずほと肩を並べる水準となります。
表@
表AはPBRです。メガバンク自体も0.7倍台と純資産よりも割安に評価されていますが、ゆうちょ銀行は更に安く、0.47倍となっています。
表A
これは表BのROEで見るとゆうちょ銀行の3.2%という低さからくるものと考えており、投資家として「投下した資本に対し、企業がどれだけの利潤を上げられるのか」という問いには、まだまだ課題があることを示しています。そういった意味では、決して割安とは言い切れない状況かと考えています。
表B
一方で配当利回りは3.5%ですが、3%台の配当利回りは他の銘柄にもたくさんあるわけですし、配当性向が55%とメガバンクの2倍近くであることを勘案すると、なんとかしてゆうちょ銀行の人気を維持していきたいという意図が見えてきますね。
■かんぽ生命は割安
最近では生命保険会社の指標としてEEVが適用されることが多くなりました。EEVとは、European Embedded Value(ヨーロピアン・エンベディッド・バリュー)であり、2004年に欧州大手保険会社各社の財務責任者のCFOフォーラムによって制定された企業価値の算定基準です。
EEVは企業価値を算定する際、金融市場にて実際に取引されている金融商品と整合性をとりながら、保険会社の資産および負債から発生するキャッシュフローを総合的に評価するというアプローチを採ります。
具体的には、バランスシート上の純資産額に必要な修正を加え算出した「修正純資産」および各保険会社が保有する保険契約から発生する事が見込まれる将来の「税引後利益」を合計し、その中の株主持分より企業価値を算出します。
そのEEVですが、かんぽ生命を上場している生命保険会社3社、第一生命、T&Dホールディングス、ソニーフィナンシャルホールディングスと比較してみました。(表C、表D)
表C
表D
株式時価総額(10月27日終値)をEEV(2015年3月末)で除して、各発行体がEEVの何倍買われているかを見ると、第一生命は株式時価総額2兆4996億円÷EEV5兆7990億円 =0.43倍、T&Dホールディングスは同1兆886億円÷同2兆2710円 = 0.48倍、ソニーフィナンシャルホールディングスはEEVに損保と銀行の純資産1027億円を加味し、同9722億円÷1兆4240億円 = 0.68倍となります。
そしてかんぽ生命は、同1兆3200億円÷同3兆5010億円=0.38倍となり、かんぽ生命も割安の評価ですね。
参考までにPBRも載せておきますが、やはり他の3社に比べて評価されていないようです。
■日本郵政の企業価値は正しく反映されていない?
日本郵政自体は持ち株会社であるため、性質の異なる事業のフェアバリューを加算するサム・オブ・ザ・パーツ(SOTP)法があり、計算上は傘下のゆうちょ銀行、かんぽ生命、日本郵便の合算の企業価値評価となります。
但し、本件に限って言えば、1兆円近くの関連当事者(グループ内取引)があり、子会社3社の企業価値が正しく日本郵政に反映されているか、かなり疑問のつくところです。
現にゆうちょ銀行の時価総額が6兆5250億円、かんぽ生命の時価総額が1兆3200億円で、今回売り出し分の金融2社の時価総額7434億円を差し引いた金額は7兆1016億円となりますが、実際の日本郵政の時価総額は6兆3000億円となり、金額が整合しません。
仮に日本郵便の時価総額がゼロだとしても、単純合計との差額である8000億円はどこに行ってしまったのでしょうか?
日本郵政は従来より決算を開示しており、IPOディスカウントはないとの認識です。この8000億円の差をどう解釈するのか?
コングロマリットディスカウントという言葉があります。
さまざまな事業を手掛けるコングロマリット(複合企業)の時価総額が、個々の事業の価値を合算した額に比べ割安になることで、好調な事業部門があっても、会社全体の決算では、他の事業部門の業績に埋もれてしまい、好調な事業の評価が十分に株価に反映されないことを言います。
例えば、ゆうちょ銀行、かんぽ生命で稼いだお金をその事業に再投下せずに、利益率や投資効率が低い日本郵便事業に投下するケースが多くなると、企業全体としては、ゆうちょ銀行、かんぽ生命を個々に運営するよりも価値が下がってしまう結果となります。
私は以前から、少数株主利益の逸失と親会社との利益相反の観点から、親子上場は望ましくないとの立場を取ってきました。それでも親子上場を行う理由付けがあるとすれば、それは子会社の上場に伴い、子会社の適正なマーケット評価と独自の資金調達を行うことによるコングロマリットディスカウントの解消でした。
しかしながら今回、既に最初からコングロマリットディスカウントを抱えて上場するとはどういうことなのか。金融2社のバリュエーションを勘案した時、日本郵政の企業価値が正しく反映されているとは思えず、理解に苦しみます。
政策的に株価の発射台を低くして、何とかこの膨大な売出を消化しようという意図が透けて見えます。
■過去の民営化案件はどうだったか?
1987年2月のNTT民営化以降の案件の規模感を調べてみました(表E)。
表E
やはりNTTの時価総額が19兆円近くあり、ファイナンス額も2兆3750億円とずば抜けています。NTT株は売出価格119万円が、ピークには318万円まで上昇しました。そういった意味ではNTT民営化は個人投資家層の拡大に貢献し、個人に株式投資のブームが拡がったと認識しています。
それ以降、90年代にはJR3社とJTが民営化されましたが、時価総額は3兆円未満でした。そして今回はJR東海以降、18年振りの民営化案件になるわけですが、3社合計の時価総額14兆円、ファイナンス額1兆4000億円はNTTに次ぐ規模です。
センチメント(市場心理)、モメンタム(勢い)を見ておくためにも、当時の日経平均も調べてみました。不思議なことに、1997年7月のタイバーツ暴落を発端とするアジア通貨危機が始まった10月のJR東海以外は全て日経平均が2万円前後です。JR東海も上場申請時期の5月〜7月にかけてはまだ日経平均は2万円前後でした。
偶然の一致なのか、民営化の目安が日経平均2万円なのかわかりませんが、興味深いデータでした。
いずれにしろ、日本郵政3社の民営化の規模、タイミングそのものは、それほど過去事例を逸脱したものではないことがわかります。おそらくマーケットで順調に消化されるものと思われます。
16年3月期の日本郵政の連結純利益は前期比23%減の3700億円、ゆうちょ銀行は13%減の3200億円になる見通しであり、3%の増益を見込むかんぽ生命も、経常利益は3割減の予想です。
今回新規上場なのでかなりコンサバに業績予想を見積もりがちなのですが、収益の柱としている国債運用も金利低下により減少傾向です。
将来的には日本郵政はゆうちょ銀行、かんぽ生命の株式保有比率を50%未満にすることになっており、そうすることで、この金融2社は新規事業を国への届け出だけで行うことが出来るようになるため(現在は許可制)、新たなビジネスを行うことが出来るのですが、何か具体的なものが見えているのかどうかまだ見通しがありません。
また、日本郵政は金融2社が連結を外れた後も日本郵便を抱えて事業を行っていきますが、現状物流事業の収益性が乏しい中、ユニバーサルサービスを掲げている以上、不採算店舗の撤退障壁もあり、ドラスティックなリストラも行いずらい状況です。
海外物流会社の買収なども行ってはいるようですが、買収後のPMIも含めてまだまだ道のりは険しそうです。
ここまで3回にわたって書いてきた課題山積の日本郵政ですが、先ずは順調な船出になることを願ってやみません。
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