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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第147回 三本の的(まと)
http://wjn.jp/article/detail/8229006/
週刊実話 2015年11月5日号
筆者が懇意にしている経済学者の青木泰樹教授が、安倍総理が「第2ステージに移る」として新たに示した「新3本の矢」について、
「あれは3本の矢ではなく、3本の的だ」
と、まさに的を射抜く表現をしていた。
新3本の矢の1本目は、名目GDPを2014年度水準(490兆円)から約2割増加させ600兆円を目指す「希望を生み出す強い経済」。
2本目は、出生率を現在の「1.4」から「1.8」への上昇を目指す「夢を紡ぐ子育て支援」。
3本目は、介護離職ゼロを目指す「安心につながる社会保障」。
確かに、全て「矢」ではなく「的」である。すなわち、目標を達成するための手段ではなく、目標そのものなのだ。的(目標)を、いかに達成するのか。その手段こそが「矢」であるはずなのだが、今のところ何一つ示されていない。
初期のアベノミクスは「的」が「デフレ脱却」であった。そして、デフレ脱却を成し遂げるための「矢」として、大胆な金融緩和、機動的な財政出動、および成長戦略の3本の矢が掲げられたわけだ。1本目の矢(金融政策)と2本目の矢(財政出動)はともかく、3本目の成長戦略はデフレ対策ではないが、とりあえず「矢(手法)」で「的(目標)」を射抜こうとしたことに間違いはない。
ところが、安倍政権は2014年に消費税を増税した。さらに、'15年度は介護報酬を2.27%削減し、公共事業費についても補正予算分を含めると削減。今や、日本の公共事業費は最低だった民主党政権期と同水準に戻ってしまった。
デフレ期に増税や政府支出削減という緊縮財政を実施した以上、わが国がデフレ脱却できるはずがない。8月のインフレ率は、日銀定義のコアCPI(生鮮食品を除く消費者物価指数)で▲0.1%。'14年度の実質GDPは▲0.9%。'15年に入っても4〜6月期はマイナス成長。鉱工業生産や機械受注の数値を見る限り、7〜9月期もマイナス成長の可能性が濃厚だ。
現在の日本経済は、'14年同様に「リセッション(景気後退)」に突入しているのである。その状況で、安倍政権が掲げてきた「新3本の矢」が、矢でも何でもなく、単なる三つの的。脱力してしまう。
あらためて整理するが、一つ目の矢ならぬ一つ目の的は、名目GDP目標。二つ目の的は、出生率上昇による少子化解消。三つ目の的は、介護離職がなくなるレベルの社会保障の充実。実は、二つ目と三つ目の的は、一つ目の的を射抜くことができれば、自動的に達成できる目標なのである。二つ目の的の問題、つまりは「少子化」はなぜ起きているのだろうか。少子化の「主因中の主因」は、若年層の実質賃金低下と雇用の不安定化である。
安倍総理には現実が見えていないようだが、「保育所がない。子育てが難しい」と思っている子育て世帯がいたとしたら、今の日本では“ぜいたく”な方だ。現実の日本の若い世代は、賃金水準が低く、雇用が不安定であるため、そもそも結婚できないのである。日本の少子化の主因は、結婚した夫婦が産む子供の数が減っていることではない。
有配偶女性1000人当たりの出生数、つまりは「有配偶出生率」は増えている。日本の有配偶出生率は、バブル絶頂期を底に回復基調にある。直近のデータを見ると、すでに1980年を上回る水準にまで回復してきており、結婚した夫婦が産む子供の数は増加傾向なのだ。
日本の少子化を引き起こしている「主因」は、「結婚した夫婦が産む子供の数が増えない」ではない。有配偶率、つまりは婚姻率の低下だ。なぜ、婚姻率が低下しているのか。
各種の調査を見る限り、結婚適齢期の国民が結婚しない最大の理由は「経済的要因」になる。日本の少子化の主因は、結婚適齢期の日本国民に経済的な余裕がなく、婚姻率が低下していることなのである。何しろ、わが国は'97年をピークに、実質賃金が延々と下がり続け、さらに、雇用も不安定化が進んでいる。他の調査結果が出たら、むしろ驚きだ。
というわけで、安倍政権が本気で少子化対策を推進するならば、「子育て支援」も大いに結構だが、それ以前の「真因の解決」として、結婚適齢期の日本国民の実質賃金の上昇と雇用の安定化を目指さなければならないのだ。
ところが、現実には労働者派遣法が改正され、雇用は「不安定化」に向かっている。さらに、外国移民導入や、緊縮財政など、安倍政権は実質賃金を抑制する政策ばかりを猛烈な勢いで推進している。
また、三つ目の的、介護士が不足し、介護サービスが不十分であるという問題。これは、もちろん「介護士の賃金水準が低く、資格を持っている人が離散する」ことが主因だ。つまりは、介護報酬抑制という政府の緊縮財政が問題なのである。
お分かりだろう。
結局、二つ目の的や三つ目の的に「矢」を当てたいならば、一つ目の的、つまり「経済」を正しく運営すれば、ある程度は達成されてしまうのだ。一つ目の的は、二つ目の的や三つ目の的の“下部構造”になっているわけである。
逆に言えば、一つ目の的を失敗する限り、どれだけ小手先の改革とやらをやったところで、二つ目、三つ目の的に矢は届かない。現在の日本はリセッション入りしている可能性が高いが、このままでは「一つ目の的」は普通に達成できない。すると、自動的に二つ目の的も、三つ目の的もアウトだ。
要するに、国民経済こそが全ての政策のインフラストラクチャー(下部構造)なのである。この事実を政権が理解しない限り、わが国は国民が貧困化する亡国路線まっしぐらだ。
みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。
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