1. 2015年11月03日 07:53:30
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人民元に国際通貨となる資格はあるのか 人民元が採用される見込みの SDRとはそもそも何か 【第403回】 2015年11月3日 真壁昭夫 [信州大学教授]中国政府の悲願である、人民元のSDR入りが目前だが… 国際通貨基金(IMF)は、中国の人民元をIMFの特別引き出し権(SDR=Special Drawing Rights)に採用する見込みと報道されている。 実際に、11月のIMFの会議で採用が決まると、人民元は名実ともに国際通貨としての地位を確立できる。中国にとって、人民元が有力な国際通貨としてのお墨付きを受ける意味は小さくはない。 元々、IMFは、国際金融や為替の安定性を維持するために、外貨事情が悪化した国に対して、必要な資金を貸し付けて救済することを目的に創設された国際機関だ。 それぞれの加盟国はあらかじめIMFに資金を拠出し、その出資比率に応じて必要なときに資金を借りる権利を持つ。SDRは借り入れを受ける権利のことであり、また、借り入れを受けるときの資金の単位でもある。 現在、SDRの価値を算出するときに採用されている通貨は、ドル・ユーロ・ポンド・円の4通貨であり、これらの通貨を加重平均する=バスケット方式によってSDRの価値を算定する仕組みになっている。 バスケット方式で算定する意味は、4つの主要通貨を加重平均することでSDRの価値をより安定させるためだ。そのバスケットの中に、世界第2位の経済大国である中国の人民元を入れることで、さらに安定性を強化することが期待できる。 一方、日米両国は今まで、人民元が中国政府の厳しい管理下にあり、自由な売買が担保できないとして慎重なスタンスを取ってきた。 しかし、中国経済の台頭と、英国やドイツなどの欧州諸国が親中国政策を取り始めていることもあり、人民元のSDR採用を容認せざるを得なくなった背景がある。 IMFからの融資に使われるSDR 2015年は“バスケットの見直し”の年 IMFは、1944年に米国のブレトンウッズで国際連合の専門機関として創設された。現在の加盟国は180ヵ国を超えている。 IMFの主な役割は、加盟国が経常収支の悪化などで外貨繰りに窮する場合、必要な資金を融資することで当該国を救済することであり、最終的に国際貿易の促進を図ると同時に為替の安定を目的とする。IMFが行う融資の原資は、基本的には加盟国から受ける出資によって賄われている。 実際にIMFから融資を受ける場合、直接IMFからの借り入れを行うこともできるが、1969年に創設されたSDRを使って他の加盟国から外貨を借り入れることが可能になった。 具体的には、外貨の借り入れが必要な国は、保有するSDRを他の加盟国に渡し、それをドルなど必要な通貨に交換してもらうことになる。SDRを受け取った国は、それを外貨準備に計上することができる。 SDRは、金やドルなどの外貨準備資産を補完することを目的に考案された。SDRは、IMFに対する出資比率に応じて各国に割り当てられるが、その金利水準は、バスケットを構成する通貨の市場金利の加重平均によって算出される。 当初、SDRの価値は金を基準にしていたが、74年からは主要16通貨の加重平均によるバスケット方式に改定され、現在は、ドルなど主要4通貨のバスケットになっている。バスケットの中身は5年毎に見直しされる。 2015年が見直しの年に当たることもあり、英独など欧州諸国の強い支持を受けて人民元をバスケットに入れることが議論されることになった。 IMFの基準に当てはまるのか? 特殊な通貨である人民元 IMFは、バスケット通貨の算定について二つの基準を設定している。一つは、加盟国が発行する通貨の中で、過去5年間で財・サービスの輸出額が最も多いこと。もう一つは、自由に売買が可能な「自由利用可能通貨」であることだ。 二つの基準に照らして人民元を考えると、まず一つ目については何も問題はない。近年の中国の輸出額を見ると、その基準をクリアしていることは明らかだ。 問題は二つ目の基準だ。人民元は、必ずしも自由に取引が可能とは言えない。現在の人民元の取引は、中国本土内の取引=オンショア人民元(CNY)市場と、香港中心の本土外の取引=オフショア人民元(CNH)市場とに分かれている。 本土内での取引は、中国人民銀行の強い管理体制の下で行なわれており、実際の為替レートは事実上、人民銀行が決める水準に限られる。 現在では、人民元のレートは、基本的にドルとほぼ連動している。ただしドルと厳格に固定されているわけではないため、緩やかなドル連動制=ソフトドルペッグ制と呼ばれている。 一方、香港を中心とした本土外での人民元の取引は、中国政府の厳しい規制が及ばない。そのため、国境を跨いだクロスボーダーの決済や、為替レートの変動の制限などはなく比較的自由に取引が可能だ。 そうした状況を考えると、人民元はドルやユーロ、円などに比べて取引の自由度はかなり制限されている。米国やわが国はそうした点を考慮して、今まで人民元のバスケット入りに慎重なスタンスを取ってきた。 それに対して中国政府は、今後、一段と人民元の国際化を促進すると表明しており、今年8月11日に、事実上の人民元切り下げを行ったときにも、当該措置は国際化への一環と説明していた。11月2日、中国人民銀行は2005年の人民元改革着手以降で最大となる大幅な人民元切り上げを行ったが、これもSDR入りを意識したものとみられている。 中国に接近する欧州諸国が後押し 日本はどう対応すべきか 中国政府はこれまでにも、人民元をSDRのバスケットに組み入れて、主要国際通貨の一つとの認識を受けることを積極的に働きかけてきた。 近年、そうした動きに対する強力な援軍が出てきた。英国やドイツなどを中心とする欧州諸国が、中国政府の要請を明確に支持するスタンスを取り始めた。そのため、中国をめぐっては、同国に接近する欧州諸国vs.距離を置く日米の構図が鮮明化しつつある。 一部の欧州諸国が親中国のスタンスを明確にし始めた背景には、人口減少などの問題を抱えて安定成長期にある欧州経済にとって、13億人の人口を抱える中国が巨大消費地としての重要性を増していることがある。 特に、強力な輸出産業を持つドイツは、中国市場への積極的な進出によって世界市場でのマーケットシェアを拡大しており、今後もそうした展開を進めることが最大課題の一つになっている。 スコットランドの独立や、EUからの脱退などの問題を抱える英国にとっても中国の存在は大きい。10月の習近平主席の訪英時には最大限の歓待の意図を示し、原子力発電所建設に係るプロジェクトにも中国からの支援を受ける意向を示した。 また、金融の都=ロンドンを抱える英国にとって、人民元の決済口座をロンドンが確保し、今後、拡大が見込まれる人民元取引を集中させたいとの意図は明確だ。そうした英国政府の姿勢については、同国内から「やり過ぎ」との批判が出ているものの、当面、親中国のスタンスは変わらないだろう。 世界の覇権国であり、長年にわたって主要欧州諸国と強力な同盟関係を維持してきた米国にとって、英国やドイツなどが露骨に中国になびきつつあることは予想外の展開だったかもしれない。 特に、南シナ海での強引な人工島建設に伴う問題が顕在化している現在、米国の意図を軽視する欧州諸国の態度には困惑を感じざるを得ないはずだ。中国との領土問題を抱えるわが国にとっても、そのスタンスは好ましいものではない。 ただ、わが国にとって、欧州諸国と正面から対立する構図は得策ではない。今後の主要国の態度を注視すると同時に、冷静な大人の態度が必要だ。 足元で中国経済の減速は明確化している。かつてのような高成長を望むことはできないだろう。中国経済のエネルギーが低下すると、したたかな欧州諸国は新中国一辺倒の政策運営はできなくなるはずだ。そうした変化を敏感に掴み、上手く使うことを考えればよい。 http://diamond.jp/articles/-/80999 |