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中国は見事に「中進国の罠」にハマった! 急ぎすぎた覇権国家化のツケ 経済は急失速、軍事ではアメリカに完敗
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46183
2015年11月02日(月) 高橋 洋一 現代ビジネス
■歴代の政権に失望する韓国の財界人
日中韓首脳会談が、ソウルで3年半ぶりに開催された。日中韓首脳会談の定例化などが確認され、3ヵ国の新たな協力体制がとりあえず確立された。
ホスト国の韓国は日中韓首脳会談を成功させたので、一安心だろう。2008年から毎年開催されていたが、2012年5月を境に開催されていなかった。2012年8月の李明博竹島上陸、9月の尖閣諸島問題で日韓、日中の関係が悪化したためだ。
そのことは今も尾を引いている。中韓首脳会談は日中韓首脳会談の「前」に行われたが、日中首脳会談と日韓首脳会談はその「後」に行われた。この会談の順番でもわかるように、日本vs.中国・韓国というのが基本構図だ。
例えば、歴史問題では中韓は共闘して日本に対峙する。日中韓首脳会談直後の記者会見で、ホスト国の朴・韓国大統領は「歴史問題」とは明言しなかったが、李・中国首相は何度も歴史問題と言及していた。
ホットな南シナ海問題について、三首脳は記者会見で言及しなかった。本来韓国は米韓同盟もあるし、韓国にとっても重要なシーレーンの問題であるので、取り上げるべきなのだが、中国の手前それはできない。
TPPについて、安倍首相は言及したが、朴大統領と李首相はもっぱら日中韓FTAの話題ばかりだ。本来であれば、韓国はTPPに参加すべきで、事実、韓国財界はTPPへ参加したがっている。日本に頼んでも参加したほうが韓国の国益にもなるが、これも中国に遠慮している。
韓国財界は、これまで日本より中国を優先してきた歴代政権に失望しているだろう。日本への対抗心で、今年2月、2001年7月に始まった日韓通貨スワップが打ち切られた。
ところが、先月、韓国の経済団体、全国経済人連合会は、日本の経団連に対して、日韓通貨スワップの再開を求めている。このことからも、それは明らかだ。
これまでの判断ミスをさらに印象付けているのは、中国の状況だ。今の中国は「外患内憂」という言葉がぴったり当てはまる。もし中国が好調ならば、韓国の中国寄りの姿勢は功を奏しているといえるが、そうでない以上、まるで当てが外れてしまっている。
■覇権国家になろうとする中国の「浅はかさ」
まず、中国の「外患」として、南シナ海問題がある。10月27日、米海軍のイージス駆逐艦が南シナ海の南沙諸島(スプラトリー諸島)の海域を航行し、米中間の緊張が高まっている。
中国は、近年南沙諸島に拠点を築くことに躍起になっている。太平洋へと進出する足がかりを作るためだ。その流れで見ると、尖閣諸島に異常なこだわりを見せる理由もよく分かる。
南沙諸島(スプラトリー諸島)における中国の埋立などについては、本コラムでも写真入りで書いた(「安倍首相はポツダム宣言を読んでいた!? 理解不能だったのは党首討論での集団的自衛権めぐる共産党の主張だ」)。
つまり中国は、かつてのイギリスと今のアメリカが海洋国家で世界覇権をとったように、これまでの内陸国家の性格を変えてまでも、今こそ海へと進出し、覇権国家になろうとしているのだ。
「太平洋二分論」まで匂わせている習近平は、明確かつ具体的に、中国という内陸国家を海洋国家へとシフトさせようとしている、初めての国家主席といえるだろう。
安全保障からみると、中国が海洋国家化を進める理由の一つは、アメリカその他の国々の軍事技術の発達だ。軍事衛星の映像やグーグルの衛星写真を見れば、この事情は容易にわかるだろう。
非常に鮮明で、砂漠だろうと森林地帯だろうと、内陸部の軍事施設は、ほぼ丸裸である。いくら優れた軍事施設をもっていても、あれほど鮮明な衛星技術をもって空から攻撃されたらひとたまりもない。
しかし、海中の原子力潜水艦であれば、空からはとらえられない。しかも、原子力潜水艦は、燃料の心配なく長期間の連続航行が可能であり、有り余る電力によって海水から酸素も作れるので、数ヶ月以上の連続潜行ができる。おそらく原子力潜水艦が現時点で最強の兵器だろう。
中国は、南シナ海を支配し、そこを通じて太平洋に原子力潜水艦を配備したいのだ。
しかし、中国の行為は国際法を完全に無視している。国際法上は、満潮時に水に潜ってしまう岩礁は「島」ではない。したがって、そこをいくら埋め立てて「島」のようにしたとしても、国際法上は「領土」にはならない。中国はそれを無視して、領有権を主張していることになる。
■日和った中国
海洋の自由航行は、海洋国家アメリカにとって死活問題となる。そこで、オバマ政権は、遅ればせながら、海軍のイージス駆逐艦を派遣して、中国の領有権主張を牽制したのだ。
海洋国家になりたい中国だが、海軍力での相対的な軍事格差から、中国はアメリカと一戦を構えるはずない。もし戦えば徹底的に敗北し、中国の体制崩壊につながるからだ。
中国はそれを分かっているから、米イージス駆逐艦に対して、「監視、追尾、警告」と、対内的にはアピールできても、国際的には事実上何の意味もないことしたできなかったわけだ。
もし中国がまともに対するのであれば、かつて黒海でソ連が米艦に行ったように、船の体当たりくらいはやるはずだ。必要なら、中国漁船を米イージス駆逐艦の前に派遣するくらいのことをするだろう。
なお、今回のアメリカの行動は、日本の安全保障に資する。本コラムでこれまで述べてきた国際関係論(7月20日付「集団的自衛権巡る愚論に終止符を打つ! 戦争を防ぐための「平和の五要件」を教えよう」)からみれば、安保法で日米同盟は強化されたので、中国は、迂闊に尖閣に手出しをできなくなった。
尖閣は日米安保の対象であるとアメリカは明言しているので、南シナ海に展開しているアメリカ軍は、尖閣でなにかあればすぐにでも対処できるからだ。
さらに、南シナ海は日本のシーレーン(海上の交通路)の一つたが、それも守られることになる。
■なぜ中国の統計はデタラメなのか
次に、中国の内憂について。いうまでもなくそれは経済だ。米イージス駆逐艦が南シナ海を航行している時、五中全会(中国共産党第18期中央委員会第5回全体会議)が開かれ、2020年に2010年のGDPを2倍にするという目標が決められた。これは、7%成長を維持するという意味だ。
この数字を中国人に聞けば、誰も「信じていない」というだろう。
本コラムでも、今の中国経済は7%成長どころか、マイナス成長であると書いた(8月24日付け「衝撃!中国経済はすでにマイナス成長に入っている? データが語る『第二のリーマン・ショック』」)。
実は、中国の統計は、それを作成する組織もその作成手法も旧ソ連から持ってきたノウハウで行っている。中央集権・計画経済の社会主義国では、統計のいい加減さでは似たり寄ったりの事情だ。
ロシアでは、ペレストロイカの前まで経済統計は改ざんされていたが、批判はタブーだった。しかし、ペレストロイカ前後、ロシア人研究者などがそのでたらめ具合を明らかにした。
例えば、1987年、セリューニンとニーハンによる「狡猾な数字」が発表され、ソ連の公式統計では1928〜1985年の国民所得の伸びが90倍となっているが、実際には6.5倍にすぎないとされた。平均成長率は年率8.2%から3.3%へとダウンだ。57年間にわたって、国内外を騙し続けたのだ。
公表されている統計からみても、そろそろ中国が経済成長の停滞期に入るだろう、というのが、ほとんどの学者のコンセンサスである。それは、「中所得国の罠」といわれる。
■中国も陥った「中所得国の罠」
「中所得国の罠」とは、多くの途上国が経済発展により一人当たりGDPが中程度の水準(中所得)に達した後、発展パターンや戦略を転換できず、成長率が低下、あるいは長期にわたって低迷することをいう。
この「中所得国の罠」を突破するのは結構難しい。アメリカを別格として、日本は60年代に、香港、シンガポールは70年代に、韓国は80年代にその罠を突破したといわれている。ただし、アジアでもマレーシアやタイは罠にはまっているようだ。
中南米でも、ブラジル、チリ、メキシコも罠に陥っているようで、一人当たりGDPが1万ドルを突破してもその後は伸び悩んでいる。
そこで中国の動きを、これらの国のこれまでの軌跡とともに示したのが下図である。
実際のデータは、かなり複雑な動きなので、それぞれ2次曲線で回帰させ、各国の特徴がそれぞれわかるようにしている。
さらに、旧ソ連と同じように、5%程度も成長率が割増になっているとしたら、上の図で中国を左下に引き下げれば、これまで「中所得国の罠」に陥った国と同じ傾向になる。
中国は「中所得国の罠」を破れるだろうか。世界銀行やOECDなどから数々の提言が出ているが、筆者には中国が一党独裁体制をやめない限り、罠をやぶることは無理だと見る。
ミルトン・フリードマン『資本主義と自由』(1962年)では、政治的自由と経済的自由は密接な関係があって、競争的な資本主義がそれらを実現させると書かれている。経済的自由がないと、国際機関の提言は実行できない。経済的自由を保つには、政治的自由が必要になる。つまるところ結局、一党独裁が最後に障害になるのだ。
そう考えると、中国の外患内憂はそう簡単に解決しないだろう。
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