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※日経新聞連載
[時事解析]変調ドイツ経済
(1) VW、排ガス規制逃れ 問われるブランド
ドイツ経済が揺れている。フォルクスワーゲン(VW)の不祥事で企業への信頼が低下。強みだった輸出の停滞やデフレも懸念されている。
VWにとって排ガス規制逃れの打撃は大きい。欧州金融大手UBSは、罰金とリコール(回収・無償修理)の合計コストは350億〜500億ユーロ(約4兆7千億〜約6兆7千億円)と推計する。
影響はVWにとどまらない。UBSのフィリップ・ウショワ氏は「排ガス性能などで試験時と走行時に差があり、大きな課題になる」と指摘。規制強化でディーゼル車のコストが上昇、ドイツの基幹産業である自動車業界を揺るがしかねない。
独企業の体質も問われる。環境重視を掲げ、利益最優先の米企業と一線を画してきたが、VWは利益優先で環境をないがしろにした。世界経済フォーラムの競争力報告でドイツは「企業の倫理的行動」で21位と日本(9位)を下回っていたが、一層低下する可能性もある。
企業統治にも課題が多い。VWは同族経営や、議決権の2割を握るニーダーザクセン州の関与が懸念されていた。ドイツには同族経営企業が多いのに加え、大株主としてにらみを利かしていた銀行が持ち合いを解消している。
米ゴールドマン・サックスのステファン・バルグスタラー氏は「(VWの事件は)メード・イン・ジャーマニーのブランドに負の影響を及ぼす」と指摘する。
1990年代に「欧州の病人」とされたドイツは近年一人勝ちといわれる。VW不祥事は急復活の陰で隠れていた経済のもろさをあぶり出した。
(経済解説部 太田康夫)
[日経新聞10月26日朝刊P.17]
(2)中国依存がリスクに 輸出主導に陰りも
フォルクスワーゲン(VW)の排ガス規制逃れと並んでドイツ経済を揺さぶっているのが、中国経済の減速だ。
VWが自動車販売で世界一のトヨタ自動車に迫った原動力の一つは中国市場への浸透だ。グループの販売の3分の1が中国で、中国でのシェアは18%にも達している。
中国ではディーゼル車は少ないが、輸入車の一部がリコール(回収・無償修理)対象になった。輸出入品などを検査する国家質量監督検験検疫総局は「警告すべき事態」としている。景気減速とブランドイメージ低下が販売に響く恐れがある。
ドイツの輸出全体に占める中国向け輸出の比率は金融危機前の3%程度から、2014年には6%台に伸びた。中国の景気対策を最大限生かしたのがドイツだった。
しかし中国の経済減速が鮮明になり、9月の輸入は前年同月比20%減。中国経済の1%の減速は1年後のユーロ圏経済に0.25%の減速圧力となる。中国依存度の高いドイツの場合はより強い下押し圧力がかかる。
14年までの10年でみると、ドイツの1人あたり輸出額は世界トップで、日本の3倍近く。国内総生産(GDP)に対する輸出比率は約50%。強い輸出が経常黒字や強い経済を支え、それが欧州連合(EU)でのドイツの発言力につながっている。
中国問題はその強いドイツの基盤を揺るがしかねない。米ゴールドマン・サックスのピエール・ベルネ氏は「欧州にとって中国経済減速の影響は、ギリシャ問題以上に大きな懸念事項だ」と指摘している。
(経済解説部 太田康夫)
[日経新聞10月27日朝刊P.26]
(3)強まるデフレ懸念 独企業、海外シフト
ドイツの9月の消費者物価指数は前年同月に比べ0.2%下がった。原油はじめ国際商品価格の下落が響いた。エネルギー・食品などを除いたコア消費者物価の上昇率も低下傾向で、デフレ懸念が強まっている。
背景にあるのは少子高齢化。既に人口が減り始め、需要が低迷。2030年の人口減少幅は2.5%と日本より大きくなる見通しだ。人口の6分の1を占める1960年代生まれが30年代には引退し、労働力も急減する。
先行きの需要不安で、独企業は国内での設備投資に慎重だ。「独自動車メーカーは米国や中国での生産を増やす。国内生産は25年まで現状程度で推移する」とドイツ銀行のエリック・ヘイマン氏。
現在、ドイツはシリアなどから80万人ともいわれる難民を受け入れつつある。人道的な見地からとされるが、労働力減少を補う狙いもある。
難民による人口増で需要が増えるのは事実だ。しかし熟練労働者以外への労働規制は厳しく「供給サイドに影響が表れるのは(難民を)労働市場に融合できる範囲に限られ、難しい課題だ」(ドイツ銀行のバーバラ・ボチャー氏)との声が多い。
経済的なコストも小さくない。16年の政府の関連支出は100億ユーロを大幅に上回りそうだ。労働規制が緩和されても手厚い就労支援が不可欠。80年代に西ドイツはトルコ移民を受け入れたが、教育や社会保障の負担がかさんだ。
独連邦移民・難民庁のマティアス・ネスケ移民統合研究部門長は「短期的には課題も多いが、将来(の発展)に向けての投資だ」と強調している。
(経済解説部 太田康夫)
[日経新聞10月28日朝刊P.28]
(4)精彩欠く金融 欧州危機 影響残る
ドイツでは製造業は強いが、金融業は精彩を欠いている。最大手のドイツ銀行は7〜9月期決算で60億ユーロ強の赤字を計上する。法人金融や売却するポストバンクの評価損がかさむ。株式時価総額は約410億ドルで、三菱UFJフィナンシャル・グループの半分以下だ。
州立銀行の経営も不安定だ。州政府による資金調達への保証は2015年末で完全になくなる。低金利政策で貸出金利が下がるなか、調達コストが上がり、利ざや縮小が続く。欧州委員会は「州立銀行の統合や企業統治の改善に進展がみられない」と警告している。
フォルクスワーゲン(VW)問題も影を落とす。金融子会社を抱えているためグループ債務は1千億ユーロを超える。不履行の可能性は小さいが、融資や社債の市場価格は下がっており、融資銀行や投資家に影響が及ぶ。
ドイツの銀行は2000年代に投資銀行業務を強化したが、サブプライムローン関連商品や南欧国債への投資で失敗。資本が毀損し経営状態が悪化し、現在はまだ経営立て直しの最中だ。
経済は米国に比べ間接金融依存が高いのに、支える銀行の体力が万全ではない状態だ。国際通貨基金(IMF)はドイツの銀行システムについて「銀行の収益性の低さに鑑みると、強い資本基盤がとりわけ重要だ」と指摘する。
中央銀行に当たるドイツ連邦銀行(ブンデスバンク)は「持続可能なビジネスモデルを持つ銀行だけが、長期的に金融機能を果たしうる」と、収益優先で投資銀行業務にかじを切った銀行の姿勢をけん制している。
(経済解説部 太田康夫)
[日経新聞10月29日朝刊P.37]
(5)問われる競争力の質 ハード主体、限界も
ドイツ製造業の競争力は世界的にトップクラスとされる。価格競争力を支えるのが賃金抑制。以前は労働組合が強かったが、シュレーダー政権時の雇用改革で変わった。2000年以降の単位あたり労働コストの伸びは1割で、フランスやイタリアの3割より低い。
伝統的には製造業の高機能、高性能が強みだ。ベルギーのブリューゲル研究所のダリア・マリン研究員は「集権的でなく現場の声が生きる独企業のモデルが、製品の質を高めることに貢献してきた」と指摘している。
独企業はクラフトマンシップ(職人技)に支えられたハードに強いが、成長の原動力になっているソフトやサービスなどを付加する力には欠ける。
ドイツ取引所の上場企業の株式時価総額合計は、米アップル、グーグル、マイクロソフトの3社合計とあまり変わらない。利益率をみると独企業は4.2%と英国や米国、中国などを下回る。
クリーン・ディーゼルは独企業が環境配慮で世界をリードするカギとみられていたが、フォルクスワーゲン(VW)の不祥事でその可能性はほぼ絶たれた。独自動車業界は今後、排ガス規制強化に伴うディーゼルのコスト上昇を抱えながら、電気自動車などの新技術開発に取り組む必要に迫られる。
経営戦略論で知られるヘルマン・サイモン氏は「独企業の多くは古いビジネスモデルに固執しがちだ。より利益志向になる必要がある」と指摘。ただVWでは利益を優先し排ガス規制逃れが起きた面もあり、企業文化を変えるのは簡単ではない。
(経済解説部 太田康夫)
=この項おわり
[日経新聞10月30日朝刊P.31]
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