2. 2015年11月02日 14:04:52
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コラム:現代版「悪魔の金融辞典」パート1 10月16日、ロイターBreakingviewsは2007年、ビアスの「悪魔の辞典」に倣い、その金融版を発表。その改訂版、金融危機後の「悪魔の金融辞典」を抜粋したパート1を紹介する。NY証券取引所で7月撮影(2015年 ロイター/Lucas Jackson) 10月16日、ロイターBreakingviewsは2007年、ビアスの「悪魔の辞典」に倣い、その金融版を発表。その改訂版、金融危機後の「悪魔の金融辞典」を抜粋したパート1を紹介する。NY証券取引所で7月撮影(2015年 ロイター/Lucas Jackson) Edward Chancellor[16日 ロイターBREAKINGVIEWS] - 米国の作家アンブローズ・ビアスは、著書「悪魔の辞典」(1911年)の中で、政府から商業、人生全般に至るまで辛口な定義を示した。 ビアスは金融に関する知見も深く、例えば、「富」は「1人の手に握られる多くの人の蓄え」と定義してみせた。 ロイターBreakingviewsは世界金融危機が発生する以前の2007年、ビアスの「悪魔の辞典」に倣い、その金融版を発表した。だが危機後の現在において、もはやそれは適切でないように思える。そこで以下にその改訂版、金融危機後の「悪魔の金融辞典」を抜粋したパート1を紹介する。 ──現代版「悪魔の金融辞典」パート2はこちら <A> Analyst:アナリスト。株を大いに宣伝する人。その目的は委託手数料を稼ぐこと。 Asset price bubble:資産価格バブル。米連邦準備理事会(FRB)の緩和策がもたらした最も顕著な結果。 Austerity:緊縮財政。「サド的財政主義」としても知られる。国家破綻を回避しようとするむなしい試み。 <B> Bank:銀行。レバレッジの積み上げや、資産と負債のミスマッチで短期的利益と長期的損失を生む機関。 Bankrupt:破綻者。流動性を使い果たした人。近代経済学の知的状態でもある。 Behavioural finance:行動ファイナンス。資産価格バブルの原因が、ひどい金融政策の避けられない結果やウォール街の利害対立にあるというよりも、むしろ「根拠なき熱狂」にあるとの考えに基づく学問。Greenspanを参照。 Bernanke, Ben:ベン・バーナンキ。前FRB議長。住宅バブルの崩壊前にその発生を発見できず、2007年にサブプライムローン問題は「封じ込め」られたと主張した。リーマン・ショック後は、グリーンスパン元FRB議長のスーパーバブルを再び膨らませることに成功。FRB議長を退任後間もなくして、ヘッジファンド大手シタデルに職を得たが、市場に関する洞察力を買われてのことでは恐らくないだろう。Revolving doorを参照。 Black swan:ブラックスワン。ウォール街によくいる鳥。太い尾っぽ(ファットテール)で有名。 BRIC:ブリック。「Bloody Ridiculous Investment Concept(ひどくばかげた投資概念」(ファンドマネジャーのピーター・タスカ)の略。著しく発展する新興国市場のブラジル、ロシア、インド、中国の頭文字から、ゴールドマン・サックスの元エコノミスト、ジム・オニールが考案した造語。 Business school:ビジネススクール。若者が大枚をはたいて罪の意識を取り除くネットワーク作りの場。 Buyback:買い戻し。1株当たり利益(EPS)を高めるため、借金して自社株買いをすること。最高経営責任者のストックオプションの価値を最大化する方法。 <C> Capital controls:資本規制。グローバル・キャリートレードを回避しようとする無駄な試み。中国では、マカオのカジノや「偽装輸出」、オフショア人民元建ての借り入れ、スーツケースに現金を詰めて海外に運ぶという昔ながらの方法で資本規制は回避されている。 Capital flight:資本逃避。グローバル・キャリートレード最後の行動。現在、中国で進行中。 Career risk:キャリアリスク。ファンドマネジャーが、資産価格バブルへの加担を拒否したり、トラッキングエラーをほのめかす以上の行動によって、解雇されるのがほぼ必然であること。 Chief executive officer:最高経営責任者(CEO)。自分の利益のために自身が運営する会社によって生み出される、いかなる剰余価値も搾り取る経営者。 China dream:中国の夢。中国の国民全員に歯ブラシを売るという昔からの事業構想。最近までは株価押し上げに役立つ方法だった。今ではウォール街「最大の悪夢」となっている。 Chinese economic growth:中国経済成長。「不安定、不均衡、非協調、そして持続不可能」(2007年、当時の温家宝・中国首相) Chinese GDP:中国の国内総生産(GDP)。「人為的な」数字(2007年、李克強・現首相) Chinese public debt:中国の公的債務。地方政府系投資機関やアセットマネジメント会社、政策銀行などにおいて、大半がバランスシートには表れない、実際より大いに控え目に計上された中国の負債。 Chinese real estate:中国の不動産。同国2級都市の郊外に急造されたゴーストマンション群。中国の破綻した信用取引制度で担保とされている。 Client:クライアント。Muppetを参照。 Corporate governance:コーポレートガバナンス(企業統治)。経営陣が株主を代表して働いているという作り話を維持するよう意図された一連の規則。 <D> Default:デフォルト。「債務者が債権者をだます完全な手口」(1933年、マックス・ヴィンクラー)。Greeceを参照。 Deflation:デフレーション。生産性向上と世界貿易の拡大で物価が緩やかに下落すること。FRBによる緩和策の結果である負債デフレーションと混同しないこと。 Derivatives:デリバティブ。投資会社バークシャー・ハザウェイを率いる米著名投資家ウォーレン・バフェットはかつて「金融の大量破壊兵器」と定義したが、自身も手を出さずにはいられなかった。 Dollar:ドル。FRBのバランスシート上で変身を遂げた価値のない代用貨幣。世界中に大混乱を引き起こしている低い米金利をもたらした国際金融制度の基軸。 Dot-com 2.0:ドットコム2.0。ITバブルの第2弾。 <E> Earnings per share:1株当たり利益(EPS)。四半期ごとに発表される企業業績を計算する方法の1つだが、真の利益性についてはほとんど語らず、簡単に操作できる。役員報酬制度のターゲットとしてしばしば設定される。 Economist:エコノミスト。世界金融危機を予測できなかった人。大抵は普通の数学者で、金融の理解に乏しい。Bernanke, Benを参照。 Emerging markets:新興国市場。共通点がほとんどない比較的貧しい国々で、経済政策の失敗、広範囲に及ぶ汚職、法の支配の欠如という歴史を守っている。BRICを参照。 European Central Bank:欧州中央銀行(ECB)。支払い能力のないユーロ圏メンバーに無限に融資することで圏内団結をはかろうとする機関。 Euro zone:ユーロ圏。欧州の「永続的な」通貨統合。負債デフレーションや経済の硬化、国家破綻を引き起こすような破滅をもたらす凶器。 Evergreening:エバーグリーニング。損失計上を避け、ゾンビ企業を支援するために銀行の不良債権の処理を先延ばしにする慣行。1990年代初めに日本が発明したが、最近では中国やユーロ圏も採用している。 ──現代版「悪魔の金融辞典」パート2はこちら [16日 ロイターBREAKINGVIEWS] - 米国の作家アンブローズ・ビアスは、著書「悪魔の辞典」(1911年)の中で、政府から商業、人生全般に至るまで辛口な定義を示した。 ビアスは金融に関する知見も深く、例えば、「富」は「1人の手に握られる多くの人の蓄え」と定義してみせた。 ロイターBreakingviewsは世界金融危機が発生する以前の2007年、ビアスの「悪魔の辞典」に倣い、その金融版を発表した。だが危機後の現在において、もはやそれは適切でないように思える。そこで以下にその改訂版、金融危機後の「悪魔の辞典」の抜粋のパート2を紹介する。 ──現代版「悪魔の金融辞典」パート1はこちら <F> Financial innovation:金融革新。ウォール街が考え付いた、手数料を取ったり、リスクを隠したり、規制を逃れたりする新たな方法。 Flash Crash:フラッシュ・クラッシュ。超高速取引を行うトレーダーのせいで2010年5月に起きた米国株の瞬間暴落のこと。この件で当局は、思いもよらない身代わりを英ハウンズローで見つけた。 Forecast:予測。取引を増やそうとするブローカーや破綻を隠そうとする年金運用機関によってつくり出される、常に楽観的で、不正確な予想。 Fund management:資金運用。「スキルの錯覚」の上に成り立つ業界(ノーベル経済学賞受賞者ダニエル・カーネマン)。投資の世界で運とスキルが区別できるようになるには数十年を要するが、成功しているファンドマネジャーは自分のスキルを信じたいようだ。 <G> Global carry trade:グローバル・キャリートレード。安いドルで世界の金融システムが氾濫すること。通常、米国の利上げで突然止まり、新興国市場の危機が訪れることになる。 Global financial crisis:世界金融危機。FRBが救済の手を差し伸べるまで、ウォール街の円滑な手数料集金マシンを停止の脅威にさらしたイベント。 Goldman Sachs:ゴールドマン・サックス。「人間の顔をした巨大な吸血イカ」(米ジャーナリストのマット・タイビ)。利害の対立を「扱う」ことを専門とするウォール街の企業。 Greece:ギリシャ。独立以降、時間の半分をデフォルトに費やしている国。ゴールドマン・サックスから、バランスシートに記載されない財政的アドバイスを受けた後、ユーロ圏への加盟資格を得た。 Greenspan put:グリーンスパン・プット。資産価格バブルの崩壊を防ごうとFRBが取った金融政策。さらに大きなバブルの原因にもなる。 <H> Hot money:ホットマネー。グローバル・キャリートレードの資金として使われる短期債務。問題発生の前兆で逃げ出す。 <I> Initial public offering:新規株式公開(IPO)。内部者にとっては、割高株を外部者に売る機会。ウォール街にとっては、法外な手数料を搾り取ったり、市場を操作したり、利を施す機会。 Interest:利子。遠い昔にわれわれの祖先が享受していた、貯金で得られる恩恵。 <K> Keynesians:ケインジアン。「天の声を聴き、過去の学者の悪文から錯乱した考えを引き出している」(ジョン・メイナード・ケインズ)エコノミスト。 <L> Lender of last resort:最後の貸し手。中央銀行の伝統的役割であり、市場のパニック時に資金を供給する。元々は質の高い担保に対し、処罰的な金利での貸し付けに限られていたが、最近では不良資産でも利子を補給して貸し出している。 Libor scandal:ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)スキャンダル。銀行幹部のボーナスを稼ぐため、トレーダーらが短期金利を不正に操作した事件。同じく銀行幹部のボーナスを稼ぐために、中央銀行が行う合法的な金利操作と混同しないように。 Liquidity:流動性。金融危機以降、FRBによって要望に応じて供給されるウォール街の酸素。 <M> MBA:経営学修士号。倫理もビジネスセンスもない人のこと。Business schoolを参照。 Mergers and acquisitions:M&A(合併・買収)。報酬が自社の売り上げと時価総額に関係するCEOが行う。借り入れでまかなうM&Aは、1株当たり利益(EPS)を高めるための常套手段となっている。 Moral hazard:モラルハザード。FRBの政策で培われた「どう転んでも損はしない」というウォール街の考え方。 Muppet:マペット。操り人形。Clientを参照。 <O> Off balance sheet:オフバランスシート。隠された真実。 <P> Pension plan:年金制度。不十分な資金と非現実的なリターンを前提に運営されている、企業による支払われることのない約束。 People’s quantitative easing, or PQE:国民のための量的緩和(PQE)。財政支出のために紙幣を印刷すること。アフリカ中で長い間行われてきた。最近、英国で「進歩的な」政策として提案された。QEを参照。 Ponzi scheme:ねずみ講。米国から中国に至るまで、経済活動を持続させ、上がる一方の債務レベルを正当化するために、資産価格を上昇させ続ける必要のある現代資本主義の活動。 Profit:利益。現在は、米国最大の製造業となっている。 <Q> QE:量的緩和。米国のデフレ対策と経済成長促進のため、FRBが新たに発行した紙幣で債券を購入したのが一例。実際には、資産価格バブルやコモディティーへの過剰投資、そして新興国市場の信用バブルを生み出す結果となっており、現在進行中の新興国バブル崩壊は世界的なデフレと世界経済成長の低下をもたらしている。 <R> Retail investor:個人投資家。立派なマペットになれるほど裕福ではないため、高い手数料を支払っている、ウォール街の部外者。 Revolving door:回転ドア。元政府当局者がウォール街からもうかる仕事を提供され、「くら替え」すること(ルービン元米財務長官はシティグループ、グリーンスパン元FRB議長は米ヘッジファンドのポールソン&カンパニー、バーナンキ前FRB議長はシタデル)。日本では「天下り」として知られる。 <S> Scapegoat:スケープゴート(身代わり)。自分の無責任さはさておき、 国民や政治家が世界金融危機の起きた責任をなすりつけられる相手や事柄。 Securities and Exchange Commission:証券取引委員会(SEC)。好景気のときは眠っているが、不況になったら小物まで起訴する米国の金融規制当局。 State-owned enterprise:国有企業。資金が政策に誤用され、残りは当局の懐に入れられる新興国市場の企業。 Swiss watches:スイス時計。新興国市場で汚職の通貨として使われる。 <T> Too big to fail:大き過ぎてつぶせない。国家に救済されると分かっている巨大銀行は無責任に行動するという概念。実際のところ、銀行破綻は多くの小規模行がしのぎを削っているところで発生する可能性が高い。 <V> Value investor:値ごろ株投資家。将来が過去と似たような状況になるというむなしい期待をもって株を購入する昔ながらの投資家。 Volatility:ボラティリティー。現代の金融理論で、市場の変動は、いわば資金が永久に失われる可能性という真のリスクに等しいという誤った考え方。 Volcker, Paul:ポール・ボルカー。ウォール街の異端者から崇拝される元FRB議長。 <W> Wall Street economist:ウォール街のエコノミスト。「見ざる、聞かざる、言わざる」を原則とする、経済分析の仕事に応募した人。 Whale:クジラ。2012年にデリバティブで60億ドルを超える巨額損失を出した米銀行大手JPモルガン・チェース、ロンドン支店のトレーダー。同行のジェームズ・ダイモンCEOは当初、「空騒ぎ」と一蹴した。 <Y> Yield curve:イールドカーブ(利回り曲線)。長期金利と短期金利の差。景気が低迷するたびにFRBはイールドカーブの傾斜がきつくなるよう(スティープ化)操作する。銀行を助けるだけでなく、否応なく次の危機につながるグローバル・キャリートレードを引き付ける。 <Z> Zaitech:財テク。 金融工学を意味する日本語で、やり過ぎると企業のゾンビ化を招く。 ZIRP:ゼロ金利政策。長期間やり過ぎると国の経済全体がゾンビ化する。 ──現代版「悪魔の金融辞典」パート1はこちら http://jp.reuters.com/article/2015/11/02/column-financial-devils-dictionary-idJPKCN0SR07J20151102?sp=true |