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[核心]「新3本の矢」も日銀に飛ぶ
財政膨張で緩和長期化も 本社コラムニスト 平田育夫
「少年よ大志を抱け」と説いたクラーク博士も草葉の陰で苦笑いだろう。
来年夏に参院選を控えた安倍晋三首相が「新3本の矢」で示した国内総生産(GDP)などの数値目標はいささか大志が過ぎる印象を否めない。
高すぎる志も考えもの。特に「一強」と呼ばれ影響力の強い指導者が大風呂敷を広げれば、目標実現のため財政活用の機運をあおる恐れもあろう。それは国債購入による日銀の金融緩和を長引かせ、将来、経済混乱を招くリスクを高める。
首相が新方針で子育て・介護支援を重視したのは妥当だ。働き手の減少を抑え成長力を高めることにつながるからだ。だが全体に、高い目標の実現への道筋が見えない上、歳出効率化策を伴わないため、財政膨張の懸念を拭えない。
第一の矢で掲げた「2020年度ごろにGDP600兆円」の目標は財政健全化計画の前提の594兆円に由来する。税収の伸びに期待し3%台の高い名目成長を見込んだ結果だ。民間の名目成長率の予測はほぼ1%強にとどまる。
つまり財政収支の辻つまあわせに超強気の成長率を置いたのだが、首相はそこに「目標」の色彩を加えた。統計基準改定でGDPが20兆円膨らんでも目標達成には年3%の成長が要る。
第二の矢の子育て支援では、出生率を今の1.4強から20年代半ばに1.8へと高める。将来の成長には必須だし、子育て支援は働く母親を励ます。
とはいえ出生率が1.5を切った約20年前から保育の充実などを進めてきたのに効果は小さかった。約10年で1.8にするのは常識的な政策では難しい。
第三の矢の社会保障充実では、年10万人の介護離職者をなくすため介護施設の整備などをうたう。特別養護老人ホームの土地取得費と建設費は、東京の場合で入居者1人当たり2千万円以上(財務省)。かなり金がかかる話である。
出生率向上や介護支援は大事だから財政を活用して急ぐ意味はある。だが、それに見合う社会保障などの歳出効率化策を示してはいない。
一方、各省庁は首相方針を受け政策を準備中。子育て・介護支援のほか、例えば防災・減災のための「国土強靱化投資」も名目3%成長を目指す新3本の矢が追い風となる。
「安倍さんは財政規律を重視しており、国債発行額を増やすことはない」と財務省幹部。海外投資家の目も厳しいので財政健全化計画は尊重するだろう。
だが、そこはそれ、裏の道もある。年度当初の予算では健全化計画に沿って国債発行額を減らし、補正予算で増発する。過去にも多用した手だ。幸か不幸か日銀の国債購入の効果で金利は低いまま。国債頼みの財政膨張に火がつきやすい。
その国債を買って事実上国の台所を助けているのが日銀。今後、政府・与党から日銀には、どんな“矢”が飛ぶのだろう?
緩和策による円安は輸入品価格を上げ有権者の評判がよくない。政治家は一層の円安につながる追加緩和をもはや望まない。その代わり年80兆円の国債購入を続け財政活用を支えるよう期待するのではないか。それには政治日程も絡む。
来夏の参院選に勝てば、首相は自民党総裁任期の18年秋まで続投しよう。17年春に10%への消費増税を予定。沖縄の基地移設問題があり、憲法改正の旗も降ろしていない。3年程度は支持率維持へ財政を有効に使いたいところだろう。
つまり今後3年程度は日銀に「側面支援」の期待がかかる公算。だが今は低いインフレ率も3年内には、人手不足による賃金上昇や原油価格反転から目標の2%に届く可能性がある。
米連邦準備理事会(FRB)のイエレン議長は先月「金融政策は実体経済に効果を及ぼすまで時間がかかるので、インフレ率などが目標に届く手前で金利引き上げを始める必要がある」との考えを述べた。日銀の場合、目標の手前どころか2%に届いた後も、政治的要請から緩和の幕引きが遅れる恐れがある。
その時、投資家が国債の利払い増加による財政破綻を心配して国債売りに出れば長期金利は急騰。円も売られてインフレに弾みがつき惨劇の幕が上がる。
こうした事態を避けインフレ下でも国債金利を抑えるため予想されるのが、日銀の国債購入に加えて民間貯蓄を様々な手段で国債に集める一層の金融抑圧策。「金融抑圧が強まる」と元日銀幹部の翁邦雄京大教授はみる。企業の資金調達を妨げるなど副作用もある。
もしインフレ率の低迷が続き日銀が今の調子で国債購入を続ける場合には、その保有額が18年末に国債発行残高の61%に達する(BNPパリバ証券)。この比率はFRBでも2割強。資産バブルを招きかねないほか、緩和策を終える際の難しさを倍加させるなど多くの問題の火だねを作る。
アベノミクスの第1段階に続き第2段階でも日銀頼みなら危うい。金融緩和に頼らずに成長と財政健全化の両方を追えないものか。それには社会保障の膨張を抑えるため給付削減などの改革は必須。規制緩和による投資環境の整備が急がれるし、移民受け入れもタブー視してはなるまい。
そうした難しい改革においてこそ「1強」の指導力を拝見したいものである。
[日経新聞10月26日朝刊P.4]
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