1. 2015年11月05日 08:29:30
: OO6Zlan35k
老後貧困」を避けるために今できること ――社会保障と自衛策を学ぶための3冊「3冊だけ」で仕事術向上! ――奥野宣之「ビジネス書、徹底比較レビュー」 「老後貧困」を避けるために今できること ――社会保障と自衛策を学ぶための3冊 2015.10.30コメント(2件) ■今回取り上げる3冊 ●『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』 藤田孝典/朝日新聞出版/821円 ●『すぐそばにある「貧困」』 大西 連/ポプラ社/1620円 ●『老後貧乏にならないためのお金の法則』 田村正之/日本経済新聞出版社/1620円 近所のスーパーに行くと、時間限定セールのたまごを求めて老人が先を争って並んでいる光景をよく見る。傷んだ白菜やバナナなどの「おつとめ品」をチェックしているのもたいてい高齢者だ。 その場面だけを切り取って「悲惨だ!」と断じるつもりはないけれど、いろいろと思ってしまう。 やはり老後は苦しい生活になるのだろうか、と。 若者であればカネがなくても働けばいいし、これから逆転の目もなくはない。 しかし、働けない老人は年金があるだけで、収入を増やす方法はない。貯金や子供からの仕送りがない場合、節約して年金をやりくりするしか道はない。 中高年はどちらかといえば老人に近い。若者よりカネはあるだろうが、勤め先が大企業でもなければ賃金は増えないし、これから何かの才能が花開くというのも考えにくい。幸運にもリストラされずに会社を勤め上げることができたら、年金支給年齢になるまでさらに職を探し、年金が出るようになっても安心せずしっかり節約して……。 うう、暗い。 「やっぱりこれからは死ぬまで働くってことじゃないですか?」 こんなことを言う人もいる。流行りの「一億総活躍」には、老人も含まれているだろう。「社会で活躍する」といえば聞こえはいいが、本当に「死ぬまで働く」なんてできるのか。むしろ体を壊して死ぬことになるのでは。 とはいえ、ごぞんじのとおり日本は世界トップを突っ走る高齢大国だ。税収源である現役世代はどんどん減っていく。財源が少なくなる一方で、社会保障のニーズはどんどん高まるばかりだ。 もはや日本で老後生活は立ちゆかないのか。 これから老後を迎える人世代の貧困は避けられないのか。 老後の貧困に備えてどういった対策が取れるのか。 今回も3冊の本で考えてみよう。 次ページ:巨大化する「一寸先の闇」 巨大化する「一寸先の闇」 まずは『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』から。ソーシャルワーカーで貧困対策のNPO代表の著者が、今まさに日本中で起きている「老後の貧困」をレポートしている。 「一億総老後崩壊」はやや煽りすぎにも思えるが、要は「誰でも老後貧困になる可能性がある」ということである。 どういうことか。 もちろん、若いうちから大きい会社に勤め、年金をきっちり納め、貯金して、子供を独立させて、大きな病気やケガもなく……と、すべてがうまくいけば老後貧困にはならない。 ところが、なにか歯車が違えば、貧困ルートに向かう可能性がある。 たとえば、本書が代表的なきっかけとして挙げているのは、次のようなことだ。 ●親の介護……介護離職で生活が不安定になったり、介護費用の出費がかさんだり ●独立できない子供……引きこもりやニートなど、子供の世話で家計が苦しくなる ●大病、ケガ……手術費や治療費で貯金や退職金が吹っ飛ぶ ●離婚……料理や家事ができない男性は生活が荒む 人生が「一寸先は闇」なのは、今も昔も変わらないのだが、経済の停滞や高齢化の結果、あまりにも「闇」に落ちていく人が多くなってしまった、というわけだ。 とくに本書に出てくるある高齢男性の話はインパクトがあった。彼は62歳の退職時点で3000万円の貯金があったにもかかわらず、すべて失って、今は生活保護を受けている。 カネはどこに消えたのか。 最大の原因は、二度におよんだ心筋梗塞の治療費である。 「病院の医療費が高くてね。心臓の手術は難しいらしくて、診察代や薬代も高かった。入院したときも個室だったから、退院のときにすごい金を取られたよ。それも1年の間に2回倒れたもんだから大変」と話す。 残りの貯蓄は、その医療費と生活費にすべて消えたそうだ。しかし、62歳からのたった7年間で、3000万円もの現金がなくなるものだろうか。わたしが「高額療養費制度は利用しなかったんですか?」と質問すると、「そういう制度があるってことを知らなかった」と言う。 それから生活が破綻するまでは、あっという間だった。(下流老人/P.62 ※太線強調は引用者によるもの。以下引用部も同様) ちょっとズッコケそうになるやりとりだが、他人事ではない。筆者も「高額療養費制度」という制度があるなんて、まったく知らなかった。 こういう場合、家族がいればいろいろと調べたり役所に相談してくれたりしそうなものだけれど、彼は独身。心筋梗塞で生きるか死ぬかというときに、カネの心配をする余裕はないだろう。 3000万円の貯金があっても、下流老人になるときはなる。 もちろん本人の責任も大きい。ただそれでも気の毒な話である。 次ページ:生活保護をめぐるドラマ この高齢男性のように、カネが底をつき、頼れる人もいない場合、残された道は生活保護しかない。 2冊目『すぐそばにある「貧困」』はそんな「困窮者が生活保護を申請するとき」を描いたノンフィクションだ。著者の大西連氏は1987年生まれの若者。10代の頃からホームレスへの炊き出しや夜回りなどのボランティア活動を続け、今は貧困問題に取り組むNPO「もやい」の理事長を務めている。 本書では、高校生だった大西氏が、ホームレスや生活困窮者への支援活動に身を投じ、ついに貧困撲滅の活動家になるまでの話を軸に、彼が支援してきた人々のエピソードが語られる。 面白いのは、生活保護の需給を目指して、数々の障害をクリアしていく展開だ。 それはいわゆる「水際作戦」とのバトルとは限らない。生活保護を申請する側の相談者にもとんでもない曲者がいるし、福祉事務所の職員にも涙を流しながら話を聞いてくれる人がいる。 ただ、あたりまえだが生活保護はそう簡単には受けられない。 そこで大西氏のような支援者が、申請者が福祉事務所の相談員から一方的にやり込められないように付き添ったり、受給の障害となるものを取り除く手伝いをするのだ。 たとえば、著者が一夜漬けの勉強で、はじめてホームレス男性と福祉事務所(通称:フクシ)に行き、申請に付き添うシーンはこんな具合だ。 「いまサトウさんは大久保駅の近くの路上でホームレス生活をしています。腰の具合も悪いし、生活保護の申請をして、どこか泊まれる場所や食事など、なんとかしてもらえないでしょうか。生活保護の申請を受けつけないなんてことは、まさかないですよね?」 昨晩得た知識をフル活用する。生活保護を申請することは誰にでも可能だ。極端な話、1億円の収入がある人でも申請自体はできるし、申請があればフクシはそれを受けつけなければならない。受けつけたうえで、生活保護が必要かどうかを判断するのであって、申請そのものを受けつけないのは違法な運用なのだ。 少しむっとしたようにAさんが答える。 「もちろんです。本人が希望するなら申請を妨げるようなことはしませんよ。では、サトウさん、生活保護を希望するんですね? この人が言っていることに間違いはないですか?(すぐそばにある「貧困」/P.71) こういった駆け引きが「法廷もの」みたいで読ませる。老人だけでなく女性、DV被害者など、さまざまなケースにおける生活保護の申請をストーリーに沿って学ぶことができる。 生活保護を受けないで済むならそれに越したことはない。しかし人生は一寸先は闇なのだから、どんなに順調な人でも「生活保護制度について知っておくこと」は必要だろう。 生活保護で、働かずに金を得ることについてはいろいろと批判はあるけれど、「野垂れ死にすることがない社会」というのは、すばらしいものだと素直に思った。現実にそうなっているかはさておき。 次ページ:「相続」は最後の希望? 生活保護や年金のような社会保障を受けるのはなにもやましいことではない。 しかし、財源が厳しい以上、いざというとき、充分な保障を受けられないケースがあることも想定しておいたほうがいいだろう。 セーフティーネットだけでなく「自衛策」も講じておくべきだ。 こんなことを考えたとき頼りになるのが3冊目の『老後貧乏にならないためのお金の法則』である。 著者の田村正之氏は日経新聞のベテラン記者。架空の対談形式で、貯金だけでなく、投資・年金・相続など、あらゆるマネー知識を駆使して、超高齢時代をサバイバルしていく術を説く。 投資信託などの資産運用をはじめ、個人年金、住宅ローンや生命保険の見直しなど、パーソナルファイナンスとしてのアドバイスはどれも実践的だが、まあ、よくある話ではある。 それより注目したいのは「老後貧乏を避けるための相続」を語った章である。 親の遺産で老後の不安を吹っ飛ばす! というとかなりダメな感じがするが、もはやそういう先入観に囚われている場合ではないのではないか。 政府は少子化対策をうたっているが、もうとっくに手遅れだ。すでに日本では4人に1人以上が高齢者だが、もっと高齢者率は高くなって、ほとんどの老人が90歳以上生きるような社会が来るのは間違いない。もはやよほどのことがない限り全体的に貧しい老人が増えていくという「貧困傾向」は避けられないのだ。 そこで、相続である。 著者は「実はみんな、相続こそが老後をなんとかもたせる最後のチャンスだと思い始めているのかもしれない」と指摘した上で、次のようにいう。 考えてみるとそもそも老後貧乏の不安の大きな要因は年金の実質減額で、その背景にあるのは少子高齢化でしょ? しかし、少子化で子どもが少なくなるということは、一方では1人当たりの相続財産は増える。これって、少子化というキーワードを軸にして裏表の関係にある話じゃないかな。少子化で年金が減るからこそ、逆に1人当たりの取り分が増える相続で取り返そうと、みんな必死になるのかもね。親の財産をいかにうまく受け継ぐかは、老後資金づくりの重要なテーマだよ。(老後貧乏にならないためのお金の法則/P.275) 少子高齢化は、「年金」の側面では、少数者(現役世代)が多数者(高齢者)にカネを送るかたちになるのでデメリットだらけだ。ところが、「相続」の側面では、多数者(高齢者)が少数者(現役世代)にカネを送るかたちになるので、メリットが大きい。 つまり、広い視野で見たとき、年金の不足は相続で相殺できる、と。 実際に突然、実家の親に電話して「遺産どれくらいある?」と聞くのは、かなり抵抗があるだろう。 しかし、将来の不安が大きいなら、相続が有利に進むように現実的な視点で備えておくことも必要だろう。どん詰まりになってからでは遅い。 もう、なりふり構っている場合ではないのだ。 次ページ:貧乏人の無知は命に関わる 老後の貧困に備えてなにができるのか。 まずは、若いうちから年金や資産形成で自衛策を採る。 それでも予期せぬことがあって生活に困窮した場合には、生活保護などの社会保障の制度を使う。 たったこれだけのことだ。 しかし、知識がなくては、何ひとつ手は打てない。 1冊目の『下流老人』で紹介した生活保護受給者の老人のように、医療費の手当も受けられず、病院のいいなりで個室に入院させられ、大金を失うことになる。 今回紹介した3冊の本では、どの本でも、 「正しい情報を手に入れて理解し、活用する」 ということの重要性が語られている。 たとえば、もっとも基本的な社会保障である国民年金だって、次のような解説をちゃんと読めば、保険料を払わないなんてとんでもないとわかる。 国民年金の保険料は、このうち半分が税金でまかなわれている。だからこそお得に作れるんだ。国民年金を払わないと将来受け取れない。ということは自分の払う税金でみんなの保険料の一部を払う一方で、自分には税金が還元されない。もったいない話だよ。しかも年金は老後にもらえるだけじゃない。若くして心身に障害を負えば障害年金がずっともらえるし、働き手が亡くなって子どもがいれば遺族年金も給付される。人生をまるごと保障してくれている制度なんだ。保険料を払っていなかったために、こうした給付が受けられなくて後悔している人は多いよ。(老後貧乏にならないためのお金の法則/P.265) まずは、医療保険や個人年金の前に、国民年金の仕組みをしっかり理解しておく必要があるだろう。 生活保護のようなセーフティーネットも、ただ「そういう制度があるらしい」と知っているだけでは、いざというときに使えない。 『下流老人』の著者は、制度の利用を促さないばかりか、利用を阻んでいるとしか思えない国の姿勢を以下のように問う。 社会福祉制度は専門家ですら全容を把握しきれないほど、広範かつ複雑にできているが、国民に対してそれを知らせたり、学習機会を与えることを国はしていない。「ホームページを見れば書いてある」というのは知らせることにならないし、その情報にたどり着けるほどITリテラシーの高い高齢者がどれほどいるだろうか。(下流老人/P.138) 『すぐそばにある「貧困」』では、軽い知的障害のある男性が、生活保護申請ができずに困り果てていたことについて、次のように書く。 生活に困っている人に不足しているのは、何も食べ物やお金といった物質的なものだけではない。彼らには、正しい情報にアクセスする手段も足りていないのだ。(すぐそばにある「貧困」/P.122) 必要なのは知識だけではない。制度を自分の有利なように利用するには知恵がいるのだ。そのことがよくわかるエピソードがある。 社会福祉制度の原点として知られる19世紀ロンドンの救貧院のできごとだ。 当時の救貧院は「弱者を守る場所」ではなく、矯正施設のようなものだった。 普通にの救貧院に入っても手厚い保護は受けられない。そこで、意図せぬ妊娠で路頭に迷っていた17歳の売春婦は、ある策を思いつく。 出産間際になるまで待ってから救貧院に駆け込むことにしたのだ。身重では働けないし、妊婦を虐たい人はあまりいない。その結果、彼女は病院で元気な赤ちゃんを産み、半年かけて充分に英気を養ってから出て行くことに成功した。いわば、赤ちゃんを利用して生き延びたのである。 制度を利用するには、このような「したたかな知恵」がいる。 金持ちの無知はたいして問題ないが、貧乏人の無知は命に関わるのである。 老後貧困を避けるためには、なにより頭を鍛えなくてはならないのだ。 ■ここだけは押さえておく3冊の要点
『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』 ●下流老人とは生活保護レベル以下で暮らしている高齢者のこと ●親の介護、子の世話、大病などで誰もが下流老人になる可能性がある ●「社会保障=お上からのお恵み」という見方を捨てなければいけない 【こんな人におすすめ】 → 手遅れにならないよう20代30代のうちに読むべき本 『すぐそばにある「貧困」』 ●困窮者には「それでもお上の世話にはなりたくない」という人が多い ●「水際作戦」の印象があるが、福祉事務所には親身になってくれる担当者もいる ●生活保護バッシングは社会保障への無理解の表れ 【こんな人におすすめ】 → 行政と対決したり協力したり、緊張感のあるやりとりが読ませる 『老後貧乏にならないためのお金の法則』 ●年金減額、長寿化、インフレ、金利抑制で老後のカネは遠のいていく ●まずは生命保険の見直し、住宅ローンの繰り上げ返済などが定石 ●相続は老後崩壊をくいとめる最後のチャンスかも 【こんな人におすすめ】 → パーソナルファイナンスの本。老後貧乏を避ける具体的な策が豊富 奥野 宣之(おくの・のぶゆき) 奥野 宣之 1981年大阪府生まれ。同志社大学文学部を卒業後、新聞記者・ライターとして活躍。仕事や私生活での資料やメモの整理を独自に研究した結果をまとめた『情報は1冊のノートにまとめなさい』でデビュー。同書は31万部、読書を題材にした続編の『読書は1冊のノートにまとめなさい』が14万部、累計45万部のベストセラーとなる。情報の整理と活用、アウトプット技術などをテーマに「面白くて役に立つ本」をモットーとした著作活動を続けている。(発行部数は2010年1月現在のもの) 他に、『情報は「整理」しないで捨てなさい』(PHP研究所)、『だから、新書を読みなさい』(サンマーク出版)、『人生は1冊のノートにまとめなさい』(ダイヤモンド社)、『「処方せん」的読書術』(角川書店)、『新書3冊でできる「自分の考え」のつくりかた』(青春出版社)、『できる人はなぜ「情報」を捨てるのか』(講談社)、『『完全版・情報は1冊のノートにまとめなさい』、『完全版・読書は1冊のノートにまとめなさい』(ダイヤモンド社)、最新刊『「読ませる」ための文章センスが身につく本』(実業之日本社)も好評発売中。 前へ1 2 3 4 5 皆様からお寄せいただいたご意見(2件) 年金受給の引き上げや、年金生活が生活保護以下という現在の制度が続く限り、年金を払いたくないと思うのは至極当然と思う。 またそのような制度以前に役人の予算使い切り体質や、大企業が富を再配分するという意識がなければ国全体が疲弊し、国そのものが危うくなる。 そして相続で老後崩壊が止められるほどの資産があれば、普通に節約生活してれば問題ない。しかしその相続まで使い切ってしまっては子や孫に負担を強いるだけの負の連鎖になる。 マスコミや教育現場でそのような制度説明がない限り、筆者の言う無知そのものが貧困の連鎖が産んだ結果だと思う。 (2015年11月03日 00:16) 「金持ちの無知」こそが、世の中をこのような不条理にさせてしまっている、と、私は思っています。(表現としての買物) (2015年10月30日 09:59) http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/284362/102600010/?P=5
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