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JT本社ビル(「Wikipedia」より/BlackRiver)
株価急落のJTが抱える「時限爆弾」 事業多角化失敗、一気に巨額減損の危険も
http://biz-journal.jp/2015/10/post_12164.html
2015.10.30 文=編集部 Business Journal
たばこ市場で世界第3位の日本たばこ産業(JT)の大博打に、株式市場の反応は冷ややかだ。
9月30日、JTの株価は一時、前日比10%安と急落した。終値は前日比266円(7%)安の3695円。1日で時価総額が5320億円目減りした。前日に、米たばこ大手レイノルズ・アメリカンのブランド「ナチュラル・アメリカン・スピリット」(アメスピ)の米国以外の事業(商標権と米国以外の子会社9法人)を6000億円で買収すると発表した。アメスピは有機栽培の葉たばこを原料とし、香料などの添加物を使わない個性的な商品として日本や欧州の若者に人気のある銘柄だ。アメスピの主な販売エリアは米国だが、訴訟リスクを恐れて買収の対象から外した。16年初めに買収は完了する見込みだ。
JTの株価が下落した理由は、買収額の高さだ。アメスピ事業の14年12月期の売り上げは176億円、税引き前利益は21億円、販売本数は31億本。JTは売上高の34年分、税引き前利益の286倍もの資金を投じるのだ。株式市場では「6000億円の買収額は割高」との指摘が出た。
買収の妥当性を測る指標に、「買収金額÷EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)」という比率がある。買収費用をその企業のキャッシュフローで賄うと何年かかるかを示す指標で、倍率が低いほど割安だとされる。アメスピ事業の買収は、この倍率が優に50倍を超える。割高といわれた14年のサントリーホールディングスによる米ビーム社の買収でさえ20倍だ。そのため、株式市場の評価が厳しいものになるのは当然といえる。
国内たばこ市場は1996年の3483億本をピークに、14年は1793億本と半減した。JTは海外のたばこ会社をM&A(合併・買収)することで活路を見いだそうとしている。米国は訴訟リスクが高いため避け、欧州とロシア市場をターゲットにした。
だが、先進国市場は喫煙規制の強化やたばこ増税などで、今後需要が縮小することは避けられない。そこでM&Aの対象地域を中東やアフリカに広げた。今年9月、イランのたばこ5位、アリヤンを買収した。アリヤンは低価格帯の紙巻きタバコに強みを持つ。JTの高価格帯の商品である「ウィンストン」の人気はイランでも高く、JTのイランでのシェアはトップだ。11年にスーダンのたばこ大手ハガー、13年にはエジプトの水たばこ会社ナハラを買収するなど、販売する地域を拡大している。
■投資会社化
JTが海外たばこ会社の大型買収に踏み込むのは、今回が初めてではない。JTは「成長の時間を買う」ために、海外でのM&Aを積極化している。99年に米RJRナビスコの海外たばこ事業を9400億円で買収。07年には英ギャラハーを2兆2530億円で手に入れた。
2つの買収によりJTは、米フィリップ・モリス・インターナショナル、英ブリティッシュ・アメリカン・タバコに迫る世界第3位のたばこメーカーとなった。旧日本専売公社から85年に民営化されたJTは、保護と制約を受ける典型的な内需型企業だった。海外でのたばこ販売数量は全体の1割にも満たなかった。JTが海外でのM&Aに活路を求めたのは、事業の多角化が相次いで破綻したからだ。民営化後に数多くの新規事業に進出したが、「お役所体質が災いして」(JT関係筋)うまくいかなかった。
多角化路線の失敗から、本業のたばこに回帰した。しかし、健康志向の高まりやたばこ増税で、国内たばこ市場は縮小している。そこで目を向けたのが海外だった。相次いで海外のたばこ会社2社を買収した。これが大成功し、海外のたばこ事業がドル箱となった。
14年12月期決算(4〜12月までの9カ月の変則決算)では、売上収益の55%、営業利益の68%を海外のたばこ事業が叩き出した。皮肉なことに、グローバルな事業を任せられる人材が日本にいなかったことが幸いした。海外事業を統括する子会社に経営を任せ、本社は口を挟まなかった。「カネは出すが、口を出さない」。これがうまくいった理由だ。
スイスに拠点を置くJTインターナショナル(JTI)を「世界本社」と位置付け、JTIにぶら下がる「日本ローカル本社」がJTというのが実態だ。世界市場では、たばこ専門の機関投資家に徹し、次々と海外のたばこ会社を買収している。
■のれん代というリスク
JTの15年12月期の連結決算(国際会計基準=IFRS)の売上収益は2兆3500億円、営業利益は6680億円の見込み。前期は決算期変更に伴う9カ月の変則決算。14年1〜12月に置き換えた値と比べると、売上収益は3%減。7月末に飲料の自販機事業をサントリー食品インターナショナルに1500億円で売却したため、売り上げが減った。一方、自販機事業を売却したことで営業利益は17%増。自販機の売却で、1140億円が増益要因となる。
JTのアキレス腱は、巨額買収でのれん代が積み上がっていることだ。15年6月末時点ののれん代は1兆4916億円。総資産の3割、自己資本の6割に達する。アメスピ事業を6000億円で買収したことにより、のれん代は2兆円前後に膨れ上がることになるとみられている。日本会計基準では、のれん代を20年以内に償却することが義務付けられているが、IFRSではのれん代は償却しなくてよい。しかし、のれんが毀損(=価値が目減りした)と判定されると、IFRSでは一気に減損処理をしなければならなくなる。「機関投資家に変身したJTは、いつ破裂するかもしれない、のれん代という名の時限爆弾を抱えている」(市場筋)といわれるゆえんである。JTは会計コンサルティング会社と助言契約を結び、毎期のれん代の価値を評価する態勢を整えて、リスク管理を行っている。
(文=編集部)
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