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日本企業が長年の開発で培った最新技術が、中国企業に流出…怒涛の半導体業界再編の深層
http://biz-journal.jp/2015/10/post_12163.html
2015.10.30 文=湯之上隆/微細加工研究所所長 Business Journal
■大型M&Aが止まらない
今年に入って大型M&A(合併・買収)が頻発している。そのなかでも、7月14日に中国の紫光集団が米マイクロン・テクノロジーに230億ドルの買収提案をしているニュースに驚いて、本連載で『「半導体製造が苦手な」中国企業、日米技術者を一気に獲得の荒技』(8月24日)という記事を書いた。
しかし、その後も大型M&Aの波は収まる気配がなく、激しさを増している(図1)。9月には、米PCメーカーのデルが米ストレージメーカーのEMCを670億ドルで買収すると発表。また、英ダイアログ・セミコンダクターが米アトメルを46億ドルで買収すると発表した。
10月13日には、いまだに粉飾会計の余波が収束しない東芝のNANDフラッシュメモリの提携先、米サンディスクが身売りを検討していることを米ブルームバーグが報じた。サンディスク買収に名乗りを上げているのは、旧エルピーダを買収した米マイクロンと、HDDのトップメーカー米ウエスタン・デジタルの2社で、これに関する記事を執筆しようとしていたら、早々にも10月21日にウエスタン・デジタルが買収することに決まってしまった。なんという早業だ。
同日には、半導体製造装置メーカーの米ラムリサーチが、同業の米KLA-Tencorを106億ドルで買収すると発表。10月23日には、東芝がリストラの一環としてCMOSセンサーを製造している大分工場を、200億円でソニーに売却することを発表した。
2010年以降の半導体業界におけるM&Aの規模の推移を見てみると、15年は10月22日時点ですでに1302億ドルに達している(図2)。10〜14年までの年間M&A平均額が125.2億ドルだから、15年はまだ2カ月余りを残して、その平均値の10倍を超えてしまった。今年のM&Aの凄まじさが窺い知れよう。
■微細化が止まり、半導体は成熟産業になる?
一部の報道では、「ムーアの法則がスローダウンし、終焉を迎えようとしている」ことや、「半導体市場が低成長となり、鉄鋼業のように成熟産業になってきた」ことを、大型M&Aの理由としている。しかし、これらの説は正しくないと思う。
まず、微細化は止まる気配がなく、よってムーアの法則も終わらない。それについては、6月24日付本連載記事『アップルに「半導体の盟主」を奪われたインテルの致命的ミス ムーアの法則終焉説の嘘』で詳述した。ここでは、インテルとアップルの最先端半導体の微細化のトレンドを示そう(図3)。インテルのプロセッサが順調に微細化していることがわかる上に、アップルはそれを上回る速度で微細化を推進していることも読み取れる。
今後の微細化のカギを握るのは、シリコンウエハに回路パタンを転写する露光装置だが、15年以上にわたって開発が進められてきた次世代露光装置EUV(Extreme ultraviolet lithography)に、やっと量産のメドがたってきた。したがって、微細化は止まることなく続いていくだろう。
次に、「半導体市場が低成長となり、鉄鋼業のように成熟産業になってきた」とは本当だろうか。図4に、世界の半導体出荷個数、平均販売価格の推移を示す。出荷個数は、ITバブル崩壊後の01年とリーマン・ショック後の09年の2点を除けば、ほぼ直線的に増加している。平均して毎年約250億個ずつ増えている。一方、平均販売価格は95年や00年に大きなピークがあるなど、乱高下している。しかし、次第に乱高下は収まり、10年以降は約0.43ドルに収束していることがわかる。
以上のデータを使って計算すると、今後世界半導体市場は毎年107億ドル(=250億個×0.43ドル)ずつ増大すると予測できる。市場規模の短期的な乱高下は今後もあるかもしれないが、長期的には半導体市場は順調に成長するだろう。こう断言できるのは、人類が文化的生活を維持するために、半導体が不可欠なものになっているからである。したがって、半導体市場が低成長になる根拠はない。
また、半導体集積回路の基本素子であるトランジスタ一つとっても、平面型(プレーナ型)から、マルチゲート(FinFET)またはFD-SOIを経て、ゲート・オール・アラウンド(GAA)、そしてナノワイヤを用いたトランジスタへと進化しつつある(図5)。これだけをみても、半導体の技術が鉄鋼業のように成熟しているとはいえないだろう。
■何が大型M&Aを引き起こしているか?
では、何が大型M&Aの起爆剤になっているのか。かつてM&Aには、シナジー効果「1+1=3」が期待されることが多かった。しかし、スピードが重要な経営要素となった現在では、単純に「1+1=2」を目指すM&Aが増えてきているように思う。
「1+1=2」を目指すM&Aとは、「単純に規模を増大する」こと、および「手っ取り早く技術を手に入れる」ことである。
例えば、インフィニオンによるレクティファイアー買収は、自動車などに使われるパワー半導体で、世界シェアトップになることが目的である。NXPによるフリースケールの買収は、IoTデバイス化が進むクルマ用半導体が狙いである。この合併により上記連合が、日本のルネサスを抜いてシェアトップになる。
アバゴによるブロードコムの買収は、ネット接続デバイスの通信半導体の制覇が狙いである。インテルによるアルテラの買収は、「IoTとビッグデータ」時代の到来で増大するデータセンタ用FPGAがターゲットである。FPGAとは、チップ製造後にプログラムが可能な半導体で、米ザイリンクスと並んでアルテラが世界の2強である。デルによるEMC買収は、不振のPCメーカーから脱皮し、IoTの普及で増大が見込まれるサーバー事業の強化が目的である。電源コントローラICのダイアログは、マイコンを得意とするアトメルを買収することによって、IoT関連のウエアラブル端末やネットデバイス化する自動車用半導体をターゲットにしている。
イメージセンサーで世界シェア1位のソニーは、東芝のCMOSセンサー事業を買収することにより、市場シェアを増大することを目指している。ドライエッチング装置シェア1位のラムリサーチは、半導体の検査装置1位のKLA−Tencorを買収することにより、装置業界のランキングで2位に躍進する。
■中国のM&Aは「0+1=1」
図1の中に、中国企業によるM&Aが5件ある(黄色で示した)。中国企業によるM&Aは、「0+1=1」ではないかと思っている。というのは、中国には半導体の製造技術が決定的に足りない(もしくは無い)。そこで、ない技術を手に入れるために、金にものを言わせて買ってくるからである。その背景には、中国の半導体事情と中国政府による半導体政策がある。
14年の中国の半導体市場は980億ドルで、世界半導体市場3330億ドルの29.4%を消費していることになる。これは、中国が“世界の工場”となり、また経済発展を遂げたために、中国が大量の半導体を必要としているからである。
ところが、14年に中国で製造された半導体は、125億ドル分しかない。中国の半導体の自給率は、たったの12.8%である。つまり、中国では半導体の自給がまったく追い付いていないのである。私見だが、中国が半導体製造を苦手としていることに原因があると考えている。
そこで、習近平国家主席は、半導体自給率の大幅向上のために14年6月に半導体新興を目指す「国家IC産業発展推進ガイドライン」を制定し、融資枠1200億元(約2.3兆円)の「中国IC産業ファンド」を設立した。中国Uphill InvestmentによるメモリメーカーISSI買収、中国Hua CapitalによるCMOSセンサーメーカーのOmniVision Technologies買収、中国JAC CapitalによるNXPのRF事業部買収、中国・紫光集団によるDRAMやNANDフラッシュなどのメモリ大手のマイクロンへの買収提案は、このような背景で行われたものであろう。
しかし、紫光集団によるマイクロン買収は、米議会の反発もあり交渉は難航している。そこで、どうしてもメモリ技術を手に入れたい紫光集団は、さまざまな手を使ってきたのである。
■中国・紫光集団のあの手この手
紫光集団は、台湾DRAMメーカー南亜科技の高啓全・総経理(社長)を執行副総裁に迎え入れた。高氏はマイクロンと合弁で華亜科技を設立し、現在も董事長(会長)職にある。つまり、高氏とマイクロンは深い関係にある。紫光集団は、この高氏にマイクロンと南亜科技の米中台3社提携を調整させている。あわよくば、マイクロン買収を実現させたいという目論見もあるだろう。
次に、紫光集団は9月30日、37億7500万ドルを出資してHDDのトップメーカーのウエスタン・デジタルの15%株式を取得して筆頭株主となり、取締役1人を選任する権利を得た。この結果、紫光集団はHDDの技術を手に入れることができた。
そして10月13日、東芝とNANDフラッシュメモリで合弁しているサンディスクが身売りを検討するニュースが流れると、マイクロンとウエスタン・デジタルの2社が買収に名乗りを上げた。この両社の買収提案には、どちらにも紫光集団の意向が働いていると思われる。結果的にウエスタン・デジタルがサンディスクを190億ドルで買収したが、例えマイクロンが買収したとしても、そこに紫光集団が絡んできであろうことは疑いの余地がない。
こうして中国の紫光集団は、ウエスタン・デジタルを通じて東芝とサンディスクが15年間かけて共同開発してきたNANDフラッシュメモリの技術を、まんまと手に入れた。報道によれば、サンディスクはウエスタン・デジタルに買収された後も、東芝との技術提携を継続するという。つまり、今開発中の3次元NANDフラッシュメモリの最新技術も、丸ごと中国に渡るということである。
中国の半導体メーカー買収攻勢は、これで終わりではない。交渉が難航しているマイクロンについても、決してあきらめていないだろう。もしかしたら、5年後あたりに、(カネにものを言わせた)中国が世界最大の半導体生産基地となっているかもしれない。
(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)
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