2. 2015年10月29日 19:23:27
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焦点:中銀のマイナス金利、下限は近いと見る根拠[ロンドン 28日 ロイター] - 政策金利の下限は「ゼロ」ではないことが明白になったが、ゼロからさほど遠くないマイナス水準に下限は存在するのかもしれない。 欧州中央銀行(ECB)やスイス、スウェーデン、デンマークの中央銀行がこぞって中銀預金金利をマイナスとし、商業銀行の当座預金に実質的な手数料を課すことで貸し出しを促すという実験に踏み出している。 ECBのドラギ総裁は先週、現在マイナス0.2%の中銀預金金利をさらに引き下げる可能性に言及し、市場に激震が走った。 ただ大半のエコノミストは、マイナス金利にも限度があると見ている。金利の「下限」説は、1930年代の大恐慌と2008年の世界金融危機に際して学会内部だけで議論されたものだが、これが今でも金融政策の大きな制約要因として立ちはだかっているというのだ。 オタク的な細かい論点はいろいろあるが、科学的にピンポイントで下限が示されているわけではない。 例えばイングランド銀行(英中央銀行)の研究では、下限はマイナス0.5%前後。これはECBの現在の金利を下回るが、スイス国立銀行(中央銀行)のマイナス0.75%よりは高い。 しかし小幅なマイナス水準に下限が存在すると見る論拠は、次の通り比較的シンプルなものだ。 中銀預金に課される手数料がどんどん増えていけば、市中銀行は単純に預金を引き出して現金に換えるはずだ。金利はつかないが、それでもマイナスよりはましだからだ。そして銀行がどこまでのマイナス金利に耐えられるかは、引き出した現金を民間銀行の金庫室に安全に保管するコストに等しいと推計されている。 英シンクタンク、経済政策研究センターの世界経済に関する年次報告書「ジュネーブ・リポート」は、「ゼロ下限説は、中銀の準備預金が何の制約もなく換金されるとの前提に立っている」と指摘。その上で、大量の紙幣を安全に保管するコストが比較的高いことを踏まえると、中銀預金金利がゼロを下回っても、すぐには換金は起こらないと指摘している。 「中銀預金金利がしばしば、そして相当な期間にわたってマイナスになりそうであれば、銀行はこうした安全な手段(中銀への預金)に投資する価値があると判断する可能性が高い」と報告書は論じ、「本当の下限」はBOEが試算するマイナス0.5%に近いだろうと付け加えている。 この報告書はBOE金融政策委員会(MPC)のチャールズ・ビーン元委員、ニューヨーク連銀の元エコノミスト、クリスチャン・ブローダ氏、伊藤隆敏コロンビア大学教授、ランドール・クロズナー元米連邦準備理事会(FRB)理事が執筆した。 しかし、この下限も鉄壁ではない。スイス国立銀行のツアブリュック副総裁はこの報告書について「下限は明確に定義されたものではない。市場と企業は創意工夫に富んでいる」と述べた。 <革新的手段> しかしゼロに近い水準に政策金利の下限が存在するとすれば、物価目標が達成できない場合に中銀はどうすればよいのだろうか。 債券をさらに買い入れて量的緩和を行えば、長期金利を押し下げることはできるだろうが、それにも実務的、政治的な限界がある。 物価目標を押し上げて人々の期待を変化させるという案もあるが、インフレ率をゼロ近辺から2%に押し上げるのにも苦労している時に、目標を4%にすれば事が容易になるだろうか。 残るのは、もっと革新的な方法だ。 具体的には現金を撤廃し、銀行が中銀預金を換金するのを防ぐ方法がある。電子マネーの利用やカード決済が増えている今、実現可能に見えるアイデアだ。あるいは、中銀預金と現金を1対1で交換するのを止めたり、紙幣を定期的に刻印してもらわなければ法定貨幣としての価値を失うようにする、といった案もある。 BOEのチーフエコノミスト、アンディ・ホールデン氏は先月、仮想通貨ビットコインの台頭に言及し、将来の法定通貨はある種のデジタル通貨になるかもしれず、これならマイナス金利を吸収できるという利点があると指摘した。 「中銀紙幣自体、ゼロ下限が突きつける要求にこたえて技術的に躍進すべき時を迎えているのかもしれない」とホールデン氏は述べた。 しかし換金の問題が解決されたとしても、金利が大幅なマイナスになれば銀行のバランスシートや安定性を損ねたり、リスクの高い貸し出しを煽るなど、デメリットの方が大きいかもしれない。大幅なマイナス金利が長期間続けば、資産市場にもゆがみが生じるだろう。 こうした懸念すべてが、マイナス金利に下限をもたらす強力な要因になるかもしれない。 (Mike Dolan記者) http://jp.reuters.com/article/2015/10/29/economy-interest-negative-idJPKCN0SN0WL20151029
コラム:米利上げ12月説の罠、ドル高息切れも 門田真一郎バークレイズ銀行 為替ストラテジスト [東京 29日] - 28日公表の米連邦公開市場委員会(FOMC)声明文は、世界経済と金融動向に対する懸念の後退を示唆するとともに、政策金利について「次回会合で引き上げることが適切かどうか」判断するとの文言を盛り込むなど、全体的にタカ派的な内容となった。 この結果を受け、28日の為替市場では全面的なドル高が進行した。しかし、果たしてこれで12月の利上げを既定路線と考えていいのだろうか。 <米利上げは3月実施が濃厚、頓挫のリスクも依然残る> 10月FOMC声明文での一番の驚きは新たな文言よりも消えた文言だった。具体的には、9月に追加された「最近の世界経済、金融動向は経済活動をやや抑制し、インフレに目先、一段の下向きの圧力を加える可能性がある」という一文が削除された。代わりに、「海外動向を注視している」が「世界経済と金融市場の動向を注視している」に変更されている。 これはおそらく最近の海外中銀の政策、特に中国人民銀行の追加緩和と欧州中央銀行(ECB)の緩和示唆や、世界的な金融市場の安定化を受けて、FOMC参加者の懸念がやや後退したことを示唆していよう。 ただ、懸念はあくまで若干後退しただけだ。中国をはじめとする新興国経済の減速懸念は厳然として残る。世界経済をめぐる不確実性には引き続き注意が必要だ。 また、FOMCはこれまで「指標次第(data dependent)」というスタンスで利上げ時期を探ってきたが、労働市場の回復にもかかわらず、物価が予想外の低迷を続けていることが問題となっている点に変わりはない。 確かに、労働市場情勢指数(LMCI)は金融危機後の下落の大半をすでに回復し、失業率も5.1%とFOMCの長期見通しである4.9%に迫るなど、労働市場の回復はかなり進んだと言っても過言ではない。 ただ、物価面を見ると、米連邦準備理事会(FRB)が注目している食品とエネルギーを除いた個人消費支出(PCE)コアデフレーターは2012年5月以降、長期目標の2%を一貫して下回っている。賃金の伸び悩みでサービス価格の上昇が緩慢にとどまるなか、財価格が物価減速を主導している格好だ。 ドル高が米国の輸入物価を押し下げていることも確かだが、中国からのデフレ圧力にさらされている点も見過ごすべきではない。中国では余剰供給能力から生産者物価指数(PPI)は2012年以降、前年比マイナスが定着している。それがデフレ圧力となって米国など海外に輸出されている状況だ。実際、2012年以降は先進国、新興国を問わず、世界中で物価の下振れ傾向が続いている。 イエレン議長を含むFRB高官の多くはこうした物価の下振れが主に一時的な要因によるものとの見方を示し、引き続きインフレの2%への回帰に対する自信を表明しているが、実際のところは物価下振れに対する懸念を強めているようだ。 四半期経済予測におけるFOMC参加者のPCEコアデフレーター予測に関するリスク評価では、今年9月に「下振れ」の数が「均衡」を初めて上回った。こうした背景には、FOMCの物価見通しが2012年以降に下方修正され続けてきたことがあろう。 むろん、経済予測が外れること自体は珍しくないが、長期間(3年間)も同じ方向(下方修正)に外れ続けていることは異例の事態と言える。FRBは「インフレが中期的に2%目標に向かっていくことに合理的な確信」があると表明することで利上げを近く開始できる可能性はあるが、実際の物価加速が確認されない場合、利上げが頓挫するリスクも否定はできない。 10月FOMCはタカ派的な内容であり、12月会合での利上げの可能性を残すものとなったが、新興国をめぐる不確実性および物価の低迷から、筆者は来年3月まで利上げが見送られると考えている。また、来年以降も物価低迷が続けば、利上げの軌道が現在の想定より緩やかなものとなるリスクにも留意したい。 <ドル高の受け皿は先進国から新興国へ、対円レートの年末予想は123円> ドル相場はFRBの金融政策をめぐる思惑に左右されやすい展開が続こう。ただ、仮にFRBが筆者の予想通り年内の利上げをためらったとしても、その理由は米国独自のものというよりも、中国をはじめとする海外経済の減速やグローバルなディスインフレ(物価上昇率の鈍化)圧力に起因するものと考えられる。 よって、米国が利上げの躊躇(ちゅうちょ)を余儀なくされるようなグローバル環境では、他国の中銀も同様にハト派的な金融政策スタンスへのシフトを迫られる可能性が高い。実際、最近ではECBが10月22日に12月の追加緩和を強く示唆したほか、ノルウェー中銀やスウェーデン中銀などが追加緩和に踏み切っている。市場の注目が米国と他国の金融政策の乖(かい)離に移るなか、相対的にファンダメンタルズが堅調なドルは買われやすいだろう。 なお、今後のドル高は、「スピード」と「受け皿」の2点で今春までのドル高とは性質が異なるものになりそうだ。まず、今回のドル高局面では、実効為替レートで見たドルの前年比上昇率が名目ベースで15%程度、実質ベースで10%程度と過去30年間で見てもかなり速いペースとなっている。これだけ迅速なドル高は米国の経済と物価に押し下げ圧力を加えるため、最近ではイエレン議長を含むFRB高官の多くがドル高の悪影響に言及している。こうしたなか、ドル高のペースは今後鈍化していくだろう。 次に、ドル高の受け皿は日本円をはじめとする先進国通貨から、中国経済減速や人民元安の悪影響を受けやすい新興国・資源国通貨に移っていこう。過去の動向を見ても、ドル高はまず先進国通貨に対して進んだ後、新興国通貨に対するドル高という側面が強くなる傾向があった。FRBの懸念材料の1つである中国経済の減速が他国に与える影響を踏まえても、新興国・資源国通貨には下落圧力がかかりやすいだろう。 最後に、ドル円相場については30日の日銀金融政策決定会合で追加緩和が実施されれば(内容にもよるが)少なくとも一時的には円安圧力が強まりやすいと考える。市場の焦点が新興国の成長懸念から主要国の金融政策対応に移りつつあるなかで、リスク資産が回復していることも短期的にはドル円相場を下支えするだろう。 ただ、FRBの利上げ軌道をめぐる不確実性、新興国懸念再燃によるリスクオフの可能性、円の割安感を踏まえると、ドル円が持続的に大幅に上昇するとは考えにくく、むしろ下方リスクにも注意する必要があると考える。こうした要因を踏まえ、筆者は年末のドル円相場を123円と予想している。 *門田真一郎氏は、バークレイズ銀行の為替ストラテジスト。2008年にバークレイズ証券株式会社に入社し、調査部で銀行戦略調査および外債ストラテジーを担当した後、2013年から現職。海外拠点の為替・金利・経済チームとのネットワークを活かし、為替市場見通しのほか海外経済・政治動向などについて幅広い情報提供を行っている。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)経済学部卒。 *本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(こちら) http://jp.reuters.com/article/2015/10/29/column-shinichirokadota-idJPKCN0SN0C820151029 コラム:米FRB、12月利上げでなお足並みそろわず
10月28日、米FRBは、12月に利上げできる態勢を整えつつあるが、内部に利上げ先送り論を抱え、足並みはそろっていない。写真は米ドル札。ヨハネスブルグで2014年8月撮影(2015年 ロイター/Siphiwe Sibeko) James Saft [28日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)は、中国をめぐる懸念がそれほど重大でないと目されるようになった今、12月に利上げに動ける態勢を整えつつある。 ただし、内部に利上げ先送り論を抱え、足並みがそろっていないという点で、あまり格好は良くない。 28日に終了した連邦公開市場委員会(FOMC)声明には「次回の会合で(at its next meeting)、政策金利を引き上げることが適切かどうかを決めるに当たって、委員会は最大雇用とインフレ率2%の目標に向けた進展について実績と予測の両方を評価する」と記された。 具体的に次回会合と言及されたことは、経済データの状況次第で12月利上げは相当現実味を帯びているという明確なサインと受け止められた。フェデラルファンド(FF)金利先物が見込む12月の利上げ確率も、27日の約33%から42.6%まで上昇した。1カ月前の確率はわずか8%だった。 この1カ月、FRB内部と外部の双方で情勢が変化した。外部では中国経済減速がもたらす脅威度が下がり、内部では逆に利上げをめぐる意見対立が危険水域へと達しつつある。 今回のFOMC声明では、海外経済情勢(注・中国のこと)が米国の経済活動をいくらか「抑制する」可能性があり、短期的に物価上昇率に「下押し圧力」を与える、との文言が削除され、FRBは海外情勢を「注視している」という平板な表現になった。FRBたるもの、恐らくはいつでも海外情勢は「注視している」だろう。 こうした声明内容は、中国の混乱を理由に9月に利上げを見送りを決めたことがいかに不適切だったかを物語る。中国の経済指標がなお強弱まちまちで全面的に信頼できず、ましてや市場価格など実態とはかけ離れている点を考えれば、専門家にとって将来の懸念レベルがどの程度かを判断する根拠はずっと乏しいままだ。 一方で米国のデータはこれから12月のFOMCまで、改善・悪化どちらの方向にも動き得る。29日公表の第3・四半期国内総生産(GDP)速報値はそれほど活発な伸びになるとは予想されておらず、足元で発表された耐久財受注も経済がある程度軟化する可能性を示唆している。 <天動説と地動説> それでも他の条件が一定ならば、イエレン議長は、同氏に賛同するFOMCメンバーが一部メンバーの反対を押し切って利上げする事態に向けて歩み出したように見受けられる。 今回のFOMCで反対票を投じたリッチモンド地区連銀のラッカー総裁は利上げを望んでいたため、実際に利上げとなれば満足するだろう。しかしブレイナード、タルーロ両理事は過去1カ月間で、利上げ先送り論を主張してきた。 両理事によると、失業率と物価上昇率の関係を示すフィリップス曲線はもはや現状では有効に機能していない。ただ、イエレン氏やフィッシャー副議長らにとっては、フィリップス曲線はなおも経済情勢分析の根幹をなす。彼らを利上げへと突き動かす理由の大半は、労働市場の改善が賃金を押し上げ、物価全般を上向かせるという見通しに由来している。 こうした見通しに異議を唱えているのが、ブレイナード氏だ。 同氏は12日の講演で「さまざまなマクロ経済分析面の推計値からは、伝統的なフィリップス曲線で資源稼働率が物価上昇率に及ぼす影響は精一杯見積もったとしても現時点では非常に弱い。賃金上昇が加速していないばかりか、労働市場のスラック(需給の緩み)がなお存在しているという事実、さらに労働者の交渉力が弱いままである可能性が大きいという事実が重大だ」と述べた。 FRBの中枢に位置する人物の発言としては、これはまさにコペルニクス的な転回といえる。イエレン氏が「教皇」の立場でそれを受け入れるか、それとも正しくないとの見方を維持するかはわからない。 オレゴン大学のFRBウオッチャー、ティム・ダイ氏は、ブレイナード氏の講演直後に「わたしが今まで読んできた講演テキストでこれほど興奮したものはない。それは必ずしも内容のせいでなく、むしろ政治力学の観点による」と記した。 もっともこうした政治力学で、FRBの金融政策が解釈しやすくなったようには見えない。 米国の経済データは改善・悪化のどちらかの方向に定まった様子はなく、今後6週間でも状況は変わりそうにない。イエレン氏やフィッシャー氏が12月のFOMCで態度を決めかねて、タルーロ氏やブレイナード氏が提起した議論の核心に触れずに利上げを先送りしたとしてもそれはそれで十分説明がつくかもしれない。来年3月まで利上げが延期されることもあるとの観測が、28日の米国株が終盤に急反発した原因だった可能性もある。 いずれにしても12月のFRBの判断は問題をはらんでいる。 反対票を伴った利上げが決まれば、既に何が政策を動かす主な要素なのかをめぐって混乱気味の金融市場に、あらためて読み解くのが難しいメッセージが送られる。また、より多くのデータを見たいといった表現とは対照的な形で、今回以上の説明なしに利上げを先送りする場合も、同じような結果になるだろう。 イエレン氏としては、12月の第1週に2日連続で予定されている講演と議会証言で、利上げ先送り論に対して何らかの反論を迫られることになる。 http://jp.reuters.com/article/2015/10/29/markets-saft-idJPKCN0SN0WG20151029 |