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「潜在金利」で検証する日銀の金融政策 日本は再び「デフレ」に向かうのか!?
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46094
2015年10月29日(木) 安達 誠司「講座:ビジネスに役立つ世界経済」 現代ビジネス
■日銀は追加緩和に踏み切るか?
日銀の金融政策決定会合が、30日(金)に開催される。1年前には、大方の予想に反して追加緩和(ハロウィン緩和)が実施された。今回の決定会合においても、追加緩和を期待する市場関係者が多いようだ。
金融政策決定会合で追加緩和が実施されるか否かはさておき、今回は、「潜在金利(シャドーレート)」という考え方を用いて、これまでの日銀の金融政策を振り返ってみたい。
「潜在金利」の考え方は、まだ発展段階である。特に、推定方法に技術的な問題があり、それほど多くの経済学者によって研究されているわけでもない。そのため、ある程度の幅をもってみていく必要があるのだが、今後の金融政策を考える際に有用な材料を提供してくれるものであると筆者は考えている。
2013年4月のQQE開始以降の金融政策は「概ね上手くいっている」というのが筆者の評価だが、黒田日銀の金融政策には賛否両論あるのも事実である。また、「100点満点」というわけではなく、当初想定していたような順調なデフレ脱却経路を歩んでいるともいえない。
このあたりの問題のヒントは、「潜在金利」の動きをみることで得られるかもしれない。そこで、まず、「潜在金利」について簡単に説明しよう。
■デフレ予想の強弱を示す「潜在金利」という考え方
「潜在金利」とは、ごく簡単にいえば、金利の「ゼロ制約」をはずした場合に市場でつくであろう金利水準を意味する。
世の中には、金利がゼロの「現金(および現金等価物)」が存在している。そして、中央銀行は現金の需要に対しては「受動的に」対応し、必要額を供給するので、一般的に金利はゼロ以下には低下しない(金融機関の担保等の特別な需要に対応して短期国債等にマイナスの金利が付くこともあるが、これはあくまでも例外である)。
なぜなら、マイナス金利とは、通常は金利を受け取る運用側(もしくは貸出側)が逆に金利を支払って資金を提供することを意味しているが、それならば金利がゼロでも現金を保有していた方が得だからである。すなわち、世の中に現金が存在する限り、金利水準はマイナスにはならない(ゼロ金利制約)。
この「ゼロ金利制約」をファイナンス理論の立場で考えると、債券の投資家は、金利がゼロになった時点で、保有する債券を現金と交換する権利(コール・オプション)を有しているとみなすことができる。このとき、「ゼロ金利」とは、投資家がそのコール・オプションを権利行使した結果とみなす。
そう考えると、理論的に、ゼロ金利とは、ゼロ金利制約が存在しない場合に成立すると想定されるマイナス金利と、金利がマイナスになった時点で権利行使されたコール・オプションの価値(金利で換算した)の合算値となる。
そして、この「マイナス金利」を「潜在金利」と定義する。当然だが、このときのコール・オプションの価値は、マイナス金利の絶対値(マイナスをはずした値)となる。なお、プラス金利の場合、現金に交換するコール・オプションの価値はゼロだから、潜在金利と名目金利は等しくなる。
ところで、金利ゼロの現金に交換する権利(オプション)にプラスの価値が発生するということは、マクロ経済学的に考えると、それだけ、将来的にデフレが進行する可能性が高いと投資家が判断していることを意味する。
将来、デフレが進行すると予想すれば、現金の実質的な価値は無リスクで高くなっていく。そのため、現金の需要が高まるのである。つまり、「潜在金利」は、(債券)市場におけるデフレ予想の強弱を示しているといえる。
そして、金融政策面から考えると、このオプション価値がゼロになれば、将来のデフレ予想が市場から完全に一掃されたことを意味するので、潜在金利はゼロ以上になることが、デフレ脱却のサインとなる。
この「潜在金利」のうち、翌日物金利に相当するものを「潜在政策金利」と呼ぶことにする。その計算方法は、いくつか提案されているが、ニュージーランド準備銀行のレオ・クリップナー氏の試算によれば、今年9月末時点の日本の「潜在政策金利」の水準は「-4.78%」であった(ちなみに、米国は-0.53%、イギリスは-0.76%、ユーロ圏は-4.03%)。
■日本では「デフレ予想」が再び強まりつつある
ところで、今回は、リーマンショック以降の「潜在政策金利」の推移をみるが、日本の「潜在政策金利」にはいくつかの特徴があることがわかる(図1〜4)。これを列挙すると以下の通りとなる。
1) マネタリーベース残高の動きとは必ずしも相関しない
紆余曲折があったが、リーマンショック以降、日銀の金融政策の直接の目標は、マネタリーベース残高(もしくは日銀当座預金残高)となった。だが、「潜在政策金利」の動きは、必ずしもマネタリーベース残高と相関しない。これは、必ずしも単純にマネタリーベース残高を増加させればデフレ脱却が実現するわけではないことを意味する。
ただし、マネタリーベースの供給ペースの拡大は、「潜在政策金利」を上昇させる効果を有していることは確かであり、マネタリーベース残高と「潜在政策金利」が全く無関係(すなわち、量的緩和の効果はない)ということでもない点には注意する必要がある。
2) 2013年4月のQQE(量的質的金融緩和)、および2014年10月の追加緩和(「ハロウィン緩和」)は、「潜在政策金利」を上昇させた。すなわち、金融政策はデフレ脱却に効果を示した
この両局面では、いずれも株高や円安が実現した。ただし、QQEの局面では、QQE開始以前(2012年10-12月期)から既に株高・円安局面が始まっていたが、これはデフレ脱却に金融政策の積極的な関与を指摘した安倍晋三自民党総裁(当時)のリフレーション政策へのコミットメントの強さと政権交代の可能性を市場がQQE実施前に織り込んだためだと考えられる。
3) 2010年10月の「包括的な金融緩和」も、「潜在政策金利」を上昇させた
株価もわずかに上昇したが、2011年3月の東日本大震災後、日銀はそれまで増やしてきたマネタリーベースを資金吸収によって減少させた。これをきっかけに「潜在政策金利」はマイナス幅を急拡大させ、為替レートも円高を加速させ、日本経済のデフレ圧力は危機的な水準にまで高まった。
4) 2013年4月のQQE後、「潜在政策金利」はピークアウトし、「ハロウィン緩和」実施後の2014年11月まで低下した
きっかけは、2013年5月の円高・株価調整であった。その後、円高、株価調整は終了したが、その後の為替レートと株価の動きは鈍くなった。そして、それに伴い、安倍政権発足直前の2012年終盤から始まった景気の回復もペースダウンした。
2014年5月のマーケットの調整は、米国での「バーナンキショック(FRBが「テーパリング」を開始する旨の発言を行う)」に伴う市場の「リスクオフ」局面入りがきっかけとなったが、それとほぼ同時に、公的年金が、大量の株式売却を行ったことも大きかったと考えられる。
これは、当時、公的年金の基本的な資産配分において、日本株のウェートがデフレ時と変わっておらず、2012年終盤からの株価急騰によって、資産配分計画の上限を越えてしまい、制度運営上、日本株を売却しなければならなくなったためだと推測される。
リフレーション政策の初期の効果の一つとして株高が指摘できるが、これを公的年金のデフレ対応型の資産配分計画が阻害してしまった可能性がある(公的年金の資産配分計画は、企業年金等の私的年金の資産配分計画のベースとなっている点にも注意)。
同時期の「潜在政策金利」が低下したもう一つの原因は、2014年4月からの消費税率引き上げであると考えられる。安倍首相は、2014年4月からの消費税率引き上げを2013年10月に決定し、発表した。
ちょうどその時期に、株価の回復や円高一服など、「潜在政策金利」を引き上げる環境が一時整いつつあったが、2013年10月時点の消費税率引き上げの決定をきっかけに「潜在政策金利」は再び低下基調を強めた。
5) 2014年4月の消費税率引き上げ後、景気回復ペースの鈍化が確認されると、「潜在政策金利」は下げ足を強めた
2014年10月の「ハロウィン緩和」は、株高と円安の動きを加速させ、これに伴い、「潜在政策金利」の水準を引き上げたという点で、量的緩和の効果を発現させた。だが、景気には大きな効果を発揮することができなかった。
6) 最近の「潜在政策金利」の低下は、不安定なマクロ経済環境を反映したものである可能性が高い
例えば、企業の予想インフレ率の低下が企業にとっての実質金利を上昇させ、設備投資の減速に波及している可能性については、10月15日の当コラムで指摘した通りである(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45822)。
***
以上より、推計された「潜在政策金利」の動きをみる限り、日本では「デフレ予想」が再び強まりつつあるようだ。このことは、日銀による追加緩和の必要性が高まっていることを意味している。
■量的緩和の効果を阻害する問題点
追加緩和の手段については様々な議論があるが、「潜在政策金利」というテーマとは直接関係ないため、今回は言及しない。
ただ、直近の「潜在政策金利」が-4.78%であるということから導き出せるインプリケーションは、「日本がマイナス金利政策を導入するとすれば、-4.78%を大きく上回るマイナス幅にしなければ効果はない」という点ではなかろうか。
なぜなら、「潜在政策金利」は国債のイールドカーブを元に算出するが、このことは、現在の債券市場が、既に-4.78%のマイナス金利を織り込んで、金利形成がなされていると解釈できるためである(そのため、10年超の長期国債利回りが0.3%を割り込むような低水準で推移していると考えられる)。
これは、「政策手段」としてのマイナス金利を否定するものではないが、例えば、「-5%のマイナス金利」というのは現実的に実行可能であるとは考えにくい。
また、これまでの「潜在政策金利」の推移をみて感じるのは、「教科書」的な量的緩和の効果を阻害する制度上、政策上の問題が日本には存在するようにみえる点である。
例えば、筆者は、公的年金の中長期的な資産配分計画が他の私的年金の資産配分を制約し、量的緩和の重要な波及経路の一つである「ポートフォリオリバランス効果」を阻害したのではないかと考えている。また、十分にデフレを克服する前に消費税率引き上げを実行してしまったことも、デフレ解消を阻害したのではないかと考える。
そうすると、今後は、量的緩和の効果を削ぐ制度的な仕組みや逆進的な政策は、それが平常時には必要なものであっても一時的に封印し、当面は「経済政策のすべてをデフレ解消に集中させる」という方法が必要になってくる、という考え方もできよう。
もっとも、米国やイギリスのように、量的緩和によるデフレ圧力の払拭と財政再建のための歳出削減や増税の両立に成功しつつある国もある。ただ、これらの国では、今の日本以上の量的緩和を実施したと考えられる。そのため、現状の量的緩和をさらに拡大させていくというのも、一つの手ではある。
いずれにせよ、日本がデフレ克服からリフレーション政策の「出口」へ到達するためには、「もう一工夫」が必要な局面になってきたのではないか。
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