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迷走する地方創生 全国に大混乱生んだ「消滅可能性自治体」ショック〈週刊朝日〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20151029-00000004-sasahi-soci
週刊朝日 2015年11月6日号より抜粋
東京と地方のギャップに、針路を見失ってしまった地方創生。その原因を探ると、地方創生が注目を集めるきっかけとなった、増田寛也元総務相が座長を務める有識者会議「日本創成会議」のレポート(増田レポート)に行き着く。
増田レポートの分析手法はシンプルで、人口統計を調査して、2040年までに、若年女性の数が5割以下に減ってしまう市区町村を「消滅可能性都市」と定義した。その数は日本全国で896。これが全国の自治体関係者のみならず、幅広い人々に衝撃を与えた。レポートをまとめた『地方消滅 東京一極集中が招く人口急減』(中公新書)はベストセラーにもなった。
たしかに、増田レポートでは人口減少問題を幅広い層に訴えることに成功した。一方で、地方が抱えるさまざまな課題を、人口問題に矮小(わいしょう)化したとの批判もある。日本全国の農山村を取材してきた、農山漁村文化協会の甲斐良治氏は言う。
「増田レポートの影響で、農山村集落に住んでいる人は都市部に撤退すべきだ、との論陣を張る人が出てきた。しかし、それは間違いです。欧州では、都市から農村に移住する人が増えていて、日本でも東日本大震災以降、その動きが顕著になっている。増田レポートは10年の国勢調査をもとに分析しているので、3.11以後の農山村の変化が反映されていません」
ここ数年は若者の移住希望者が増えている。
たとえば、増田レポートで消滅可能性自治体と認定された島根県邑南(おおなん)町は、13年度に人口減少にストップがかかり、増加に転じた。しかも、合計特殊出生率は2.65(12年度)。安倍首相が数値目標に掲げる「希望出生率1.8」をはるかに上回っている。
「島根県中山間地域研究センターの藤山浩(こう)研究統括監によると、いま、人口が増えているのは地方都市ではなく、“田舎のなかの田舎”です。島根県では離島の海士(あま)町などでも人口が増えている。邑南町は、子育て日本一の村を目指して、移住者へのケアも徹底してきた。移住してきたシングルマザーが、町在住の男性と再婚したケースもあります」(甲斐氏)
香川県三木町の植松恵美子副町長も、人口問題はあくまで地方が抱える課題の一つにすぎないと指摘する。
「地域の将来は、人口の足し算と引き算で決めてはいけません。人口が増えても、一人ひとりの人生が不幸だったら意味がない。三木町は人口2万8千人ですが、香川県内の調査では、最も幸福度の高い町です。地方創生を成功させるには、東京在住の一部のエリートが作ったモノサシだけを評価の基準にしてはいけません」
派手な施策をぶち上げる改革派首長だけが注目される時代はとうに過ぎた。地域づくりに成功している例を見ると、住民で主体的に関わっていることが共通している。しかも、その規模は現行の市町村単位ではなく、1950年代にあった「昭和の大合併」以前に存在した、町や村が基本になっていることが多い。
その一つが、山形県南部に位置する川西町だ。川西町は七つの行政区に分かれていて、うち六つが昭和の大合併前の町や村を単位にしている。行政区の一つの東沢地区(旧玉庭村)は、人口は約630人、176戸と最も小さい。だが、都会から子どもの留学を受け入れる「山村留学」をきっかけとした地域づくり活動で、山村力コンクールで林野庁長官賞に輝くなど、数々の賞を受賞している。
東沢地区の運営責任母体である「東沢地区協働のまちづくり推進会議」の小方啓一事務局長は言う。
「小さな地区だからこそ、人口減少に危機感を抱いたのは早かった。最初に検討委員会が開かれたのは88年。全戸が参加して山村留学の受け入れを始め、これまで750人以上の山村留学生を受け入れました。それをきっかけに地域づくりにも積極的になり、現在では農産品直売所の経営、高齢者など交通弱者への運送サービスなどもしています」
東沢地区は、すでに96年から政府の言う総合戦略にあたる「東沢地区計画」を作成。それには多くの地域住民が関わり、最終的には全戸の承認を得る。同会議のセンター長である佐々木和憲さんは、地域づくりは「身の丈に合ったものでなければならない」と話す。
「最初からすべてがうまくいくわけではありません。活動に懐疑的だった人も、地区計画が少しずつ実現していく様子を見たり、自らも活動に参加したりすることで、その意義を理解するようになります。地域づくりは、誰か一人が暴走すると失敗します。多くの人たちと一歩一歩進めていくことが大切です」
前出の甲斐氏は言う。
「昭和の大合併前の町や村は、規模が小さく、人々はお互いに顔の見える関係で生きてきた。今こそ、そういったコミュニティーが必要とされている。地域づくり活動が盛んな場所は、そこに回帰しています」
中央集権的な発想では、地方の現実はなかなか見えてこない。地方創生の迷走を打破するヒントは、地域一体で動き始めた農山村にある。
(本誌・西岡千史)
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