1. 2015年10月21日 08:02:36
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宿輪ゼミLIVE 経済・金融の「どうして」を博士がとことん解説 【第21回】 2015年10月21日 宿輪純一 [経済学博士・エコノミスト] TPPの中国牽制機能も後退? 人民元国際化をめぐって中国支援に転換した日米 人民元のSDR参加 日本も賛成に方針転換 10月に入って、麻生太郎財務相は、中国が国際通貨基金(IMF)の準備通貨SDR(Special Drawing Rights)の構成通貨に人民元を採用するように求めていることについて「決して悪いことではない」と賛成の見方を示しました。これは大きな方向転換です。 IMFは11月に理事会を開いて、人民元のSDR採用の是非を判断します。IMFのラガルド専務理事は「近く技術的な評価作業を終える」と述べています。SDRに採用されるためには国際通貨としての「貿易の量」と「通貨取引の自由度」という量と質の2つの大きな基準を満たす必要があります。すでに、輸出量や資金決済に占める通貨別シェア量として、自民元は条件を満たしているとIMFは判断しています。 一方、「通貨取引の自由度」については固定的な相場管理や人民元と外貨の両替の制限などが残っています。8月の人民元切下げが相場を市場実勢に合わせる改革の一環ともいわれています。しかし、その後、中国政府は大量に市場に介入を行っていましたが。 中国は人民元のSDR入りを今年の国際金融上の重要施策としていました。また、中国は2016年のG20議長国であり、国際金融面での発言力を増したいとの予想もあります。 このような動きについて、本連載でも、人民元のSDR構成通貨への採用に関しては、日本は米国とカナダと一緒に反対票を投じる動きをしていたことは解説しました。 欧州、特に英国が、米国を裏切るような形で、AIIB(アジアインフラ投資銀行)に真っ先に参加したのは記憶に新しいものがあります。欧州はこのAIIBに参加することとのバーターで、IMFでの人民元SDR採用には賛成するような動きです。 アジアのインフラのニーズは高いものがあります。特にインドネシアはそのニーズが大きく、先日の新幹線の入札も中国が落札しましたが、その支援は今後、AIIBに移っていく可能性もあります。欧州勢もそのインフラ開発に参加したいということです。もちろん、中国本体との経済的深化も狙っているのでしょう。 中国が仕掛ける人民元国際化政策と日本はずし 特に民間サイドの人民元国際化政策には以下の3つがあります。資金や証券の分野で、「認可・設置」という国家主導の政策が進められています。 その認可では、明らかに日本と米国外しが進んでいます。基本的には、アジアと欧州の親密国にしか、認可・設置がされていないのです。この構図は、かなりAIIBを取り巻く関係と近似したものになっています。 経済は貿易と金融に大別できますが、このままでは、日本は金融面で規制され、半身での商売になってしまいます。結果的に、欧州が目論んでいる「そうはいっても人口13億人の大国で、7%弱の高い経済成長率」の取り込みが困難になってしまっているのです。 (1)人民元決済銀行の設置 中国と親しい国々には「人民元決済銀行(クリアリングバンク)」を設置し、人民元取引の拠点となっています。具体的には、香港、マカオ、台湾、韓国、シンガポール、英国、ドイツ、フランス、ルクセンブルク、マレーシア、カナダ11ヵ国・地域に広がっています。 人民元の決済銀行が設置されれば、人民元の利用が拡大し、しかも効率的になるため、貿易面での拡大が見込まれて民間にとっても便益が高い。さらに、金融面でも取引量の拡大につながります。 (2)オフショア人民元建て債券の発行 「資金」だけではなく、「証券」でも人民元の拡大が続いています。2012年以降、ロンドン、台湾、シンガポール等でもオフショア人民元建て債券が発行されています。2014年に入り、中国の積極的な人民証券発行についての条件も欧州勢への認可が進んでいます。日本の当局(財務省)も人民元債券の発行を重ねて申し入れていましたが、認可が下りませんでした。 (3)RQFII枠の付与 証券分野では「機関投資家」の認可も重要なポイントでした。人民元適格外国機関投資家(RQFII : Renminbi Qualified Foreign Institutional Investor)」が認められれば、機関投資家が中国本土以外で流通する人民元を使って、中国市場の元建て株式や債券に投資できるようになります。香港、台湾、シンガポール、英国、フランス、韓国、ドイツ、カナダ、オーストラリア、カタールの10ヵ国・地域とRQFII協定を結んでいます。 このような日本外しの中での人民元取引の拡大を象徴する2つの事柄がおこりました。 (1)人民元建て国債海外初発行 中国が人民元建て国債をロンドンで発行する準備を進めていることが明らかになりました。中国が進める人民元の国際化の一環で、海外での国債発行は初となります。習近平国家主席が来週、英国を公式訪問する際に計画を発表する可能性があります。中国の海外での国債発行をめぐっては欧米の有力国が名乗りを上げていましたが、中国は世界的な投資家が集うロンドンを選んだと考えられます。しかし、本当は、欧州勢で一番に、しかも米国を裏切るような形でAIIBに参加したことに対するものともいわれています。 (2)クロスボーダー人民元決済システムの稼働 8日にリリースされた「クロスボーダー人民元決済システムCIPS (Cross-border Interbank Payment System)」には日本の銀行の直接参加が許されませんでした。中国系が12行と外資系が8行の様で、邦銀はありません。 政治よりも経済 中国にすり寄る日本 このような動きは、AIIBにあった「政治」的な動きよりは、「経済」を優先した動きとも言えます。麻生財務相は中国に、中国国外で人民元決済銀行を日本国内に設置するよう要請しました。これによって伸びている人民元建ての貿易や金融取引の取り込みが可能になります。 日中間の貿易や投資、金融取引を促進するとともに、国際金融センターとして東京の地位向上を図るのが狙いです。中国が国別に指定する人民元適格外国機関投資家(RQFII)枠の開設も要請しました。 実は今年になって、政府の中でも、東京における人民元ビジネスへの参加が検討されていました。日本経済の改革が進まないため、やはり伸びゆく経済との関係強化が、経済成長のためには必要なのです。しかも、安倍晋三首相は経済成長に関して、日本の現在のGDP(国内総生産)500兆円を将来的に600兆円に伸ばすという、経済成長ドライブを掛けざる得ない状況ですから、「政治(外交)よりも経済を」重視するのはやむを得ない状況との判断でしょう。 日米の人民元のSDR賛成で弱まるTPPの中国牽制機能 国際金融政策は相手のあることだけに、経済学的な分析だけでは進まず、政治(外交)的な性質を持っています。 人民元のSDR認定については、IMFは11月の理事会で決定する予定です。欧州フランス出身のラガルドIMF専務理事はすでに「時間の問題」だと習国家主席に伝えていますし、欧州勢は支持しています。 実は、オバマ政権は、人民元の変動幅拡大、切下げ抑制(米国は切上げを要請してきた)と金融の更なる自由化を条件に認める方向に転換した可能性が高いようです。つまり、人民元決済銀行等が米国にも設置・認可される可能性すらもあるのです。 このような状況であるからこそ、麻生財務相が米国も参加しているIMF/世界銀行総会の開催時に中国に依頼をしたのでしょう。 しかし、日本のみならず、米国まで、中国にすり寄る形になると、中国への対抗目的を持つ“TPP”による中国牽制機能も弱まることになります。この国際金融・政治の微妙な動きからは当面、目が離せません。 ※「宿輪ゼミ」は2015年9月に、会員が“1万人”を超えました。 ※ 本連載は「宿輪ゼミ」を開催する第1・第3水曜日に合わせて、リリースされています。連載は自身の研究に基づく個人的なものであり、所属する組織とは全く関係ありません。 【著者紹介】 しゅくわ・じゅんいち 博士(経済学)・エコノミスト。帝京大学経済学部経済学科教授。慶應義塾大学経済学部非常勤講師(国際金融論)も兼務。1963年、東京生まれ。麻布高校・慶應義塾大学経済学部卒業後、87年富士銀行(新橋支店)に入行。国際資金為替部、海外勤務等。98年三和銀行に移籍。企画部等勤務。2002年合併でUFJ銀行・UFJホールディングス。経営企画部、国際企画部等勤務、06年合併で三菱東京UFJ銀行。企画部経済調査室等勤務、15年3月退職。兼務で03年から東京大学大学院、早稲田大学、清華大学大学院(北京)等で教鞭。財務省・金融庁・経済産業省・外務省等の経済・金融関係委員会にも参加。06年よりボランティアによる公開講義「宿輪ゼミ」を主催し、来年の4月で10年目、まもなく200回開催、9月に会員は“1万人”を超えた。映画評論家としても活躍中。主な著書には、日本経済新聞社から(新刊)『通貨経済学入門(第2版)』〈15年2月刊〉、『アジア金融システムの経済学』など、東洋経済新報社から『円安vs.円高―どちらの道を選択すべきか(第2版)』(共著)、『ローマの休日とユーロの謎―シネマ経済学入門』、『決済システムのすべて(第3版)』(共著)、『証券決済システムのすべて(第2版)』(共著)など がある。 Facebook宿輪ゼミ:https://www.facebook.com/groups/shukuwaseminar/ 公式サイト:http://www.shukuwa.jp/ 連絡先:info@shukuwa.jp http://diamond.jp/articles/-/80273
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