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TPPをめぐる「3つのデマ」を斬る! 〜「アメリカの言いなりになる」論の根拠を徹底検証
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45896
2015年10月19日(月) 高橋 洋一「ニュースの深層」 現代ビジネス
■「盲腸の手術に700万円かかるようになる」だって?
やっと環太平洋経済連携協定(TPP)が大筋合意になった。そんな折に、ある人から「日本がTPPに参加すると、盲腸で700万円掛かるようになる」と聞いて、驚いた。どうも関西のテレビ番組のなかで、TPPについてそんなことを解説するジャーナリストがいたそうだ。
そのジャーナリストは、「東京の番組では、こんなことを話せばNGになる」ということを話したとか。もし本当なら大変なことだ。しかし、「盲腸で700万円掛かるようになる」とは、いったいどういうことか。なぜ、それが東京ではNGになるのか。
この疑問と真偽については後で答えることにして、まず、TPPで日本のメリットとデメリットはどうなるのだろう。
現段階で、TPPに関する情報は、内閣官房のサイト(http://www.cas.go.jp/jp/tpp/index.html)にしかない。そのうち、TPP協定の概要(http://www.cas.go.jp/jp/tpp/pdf/2015/10/151005_tpp_gaiyou_koushin.pdf)というものが、基本資料である。
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これを見る限り、貿易関税は例外5品目を除き、概ね自由化される。となると、TPPのメリットは自由貿易の恩恵、ということになる。自由貿易が恩恵をもたらすというのは、経済学の歴史200年間でもっとも確実な理論だ。
自由貿易でメリットを受けるのは輸出者、消費者で、今回の大筋合意に対しても、この両者には賛同意見が多い。一方で、デメリットになるのが輸入品と競合することになる国内生産者だ。
自由貿易の恩恵とは、メリットがデメリットを上回ることをいう。このロジックは、2010年11月15日の本コラム『TPPはなぜ日本にメリットがあるのか 誰も損をしない「貿易自由化の経済学」』に書いてある。下図はそのコラムで掲載したものだ。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/1572
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■GDPは6兆円増加する
この種の計算は古くから行われてきており、先のコラムに書いてあるような経済学の比較静学を使う。つまりTPP前の状態と、TPPを実施して輸入量が増え、国内生産者が減少するという調整を経た後の状態を比較するわけだ。
こうした計算は、国際機関でも行われており、そこではいろいろな国からの参加者がいるので、どこの国も極端に有利にならないように、比較的公正な計算が行われている。内閣府の試算もそれを参考にしている。
なお、経産省の試算は輸出者と消費者のメリットだけ、農水省の試算は輸入品と競合する国内生産者のデメリットだけを意味することがしばしばであるので、引用には注意したほうがいい。
筆者なりのイメージを含めていえば、10年くらいの調整期間を経た後と現在とを比べると、輸出者、消費者のメリットとしてGDPが6兆円増加し、国内生産者のデメリットとしてGDPが3兆円減少し、それが毎年続く。
政府試算の「概ね10年間で実質GDP3兆円増」とは、「概ね10年後に今よりGDPが差し引きで3兆円増加し、それが年々続く」というもので、「10年間累積で3兆円」ではない(2013年03月18日付け本コラム『「自由貿易」「安全保障」からもメリット大。あまりに粗雑で誤解だらけのTPP反対論を論破する』参照)。
このメリットとデメリットも、政府の資料を見る限り、筆者のこれまでの見立てとあまり変わっていない。
メリットがデメリットを年間3兆円ほど上回るので、デメリットを受ける人たちへ補償が行われるのが普通である。それでも国全体としてTPPは損な取り決めではないのだ。昨日のNHK討論で、農業関係者が「兆単位の予算を頼まない」と発言していたが、これは、デメリットがそれほどでもないことを感じさせる。
その番組内では、デメリットとしてTPP反対派が懸念していたものは、「アメリカの言いなりになってしまう」ということだった。さすがに自由貿易におけるメリットがデメリットを上回るという定量的な部分は否定できないので、貿易ルールがアメリカ有利になって、日本がデメリットを受けることが強調されていた。
そこで、冒頭に書いた「日本がTPPに参加すると、盲腸で700万円掛かるようになる」という話が出てくる。
■日本はそこまで愚かではない
この話の伏線をまず確認しておこう。医療保険をよくわかっていなかったのでピンとこなかったが、20歳のアメリカ人が盲腸になり、病院から受け取った請求書を見て仰天したというネット上の話をみて理解した(http://labaq.com/archives/51814438.html)。
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この人物は、盲腸手術で5.5万ドル(660万円)請求され、保険等で4.4万ドル(538万円)まかない、残りの1.1万ドル(132万円)を支払ったという。
アメリカ生活経験のある人ならわかるが、これはあり得る話だ。海外に行くときには、保険は必須で、保険会社からも、盲腸手術入院の都市別総費用例がでている。そこには、ニューヨークで216万円となっている(http://aienu.jp/relation/expense.html)。上の人物はちょっとボラれすぎたと思うが、ウソではないだろう。
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日本の盲腸総費用の自己負担は、せいぜい20万円である。日米でこうした差があるのは、公的保険制度の違いである。日本の公的保険は皆保険制度であり、よくできていると思う。一方、アメリカの公的保険には不備が多い。
オバマ政権で抜本的な改正(オバマケア)を試みたが、以前よりマシとはいえ、日本の皆保険制度にははるかに及ばないものだ。
では、なぜ「日本がTPPに参加すると盲腸で700万円掛かるようになる」のかというと、TPPに参加すると、アメリカが自国の保険会社のために日本に圧力をかけて、日本の公的保険を根幹から揺るがすというのが、この話のロジックである。
しかし、この程度の単純な話は、以前から知られており、日本政府は、TPPで日本の皆保険制度に影響がでないように交渉している。
実際、政府が以前から用意していたQ&Aには「TPPで、日本の公的医療保険制度や薬価制度などの医療の安心が脅かされませんか?」というものがある。その答で、「政府が現時点で得ている情報では、TPP交渉においては、公的医療保険制度のあり方そのものなどは議論の対象になっていません」と書かれている(http://www.cas.go.jp/jp/tpp/q&a.html#7-2)。
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実際の交渉でも、内閣官房のサイトになる「TPP協定の概要」(http://www.cas.go.jp/jp/tpp/pdf/2015/10/151005_tpp_gaiyou_koushin.pdf)では、「金融サービス章の規定は、公的年金計画又は社会保障に係る法律上の制度の一部を形成する活動・サービス(公的医療保険を含む)、締約国の勘定、保証又は財源を利用して行われる活動・サービスには適用されないこととなっている」と書かれている。
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よく考えてみれば、TPPに参加する国は、それぞれ公的保険があるので、日本以外の国もアメリカのとおりにするのはもちろん反対である。だから、それぞれ適用対象外とする見通しを立てるのは簡単だし、実際の交渉でもそうなっている。
アメリカも、他国の公的保険をアメリカ並みにせよなんて馬鹿げたことは決して言わない。実際、米国担当者の話を調べれば、対象としないと何度も言っている。
■あのクルーグマンも態度を変えた
なお、薬価制度に関連する医薬品の知的財産権の分野では、最後の最後までオーストラリアがアメリカと争ったので、結果として日本は漁夫の利を得ている。すべてアメリカの言うとおりになるのであれば、誰もTPPに参加しなくなってしまうだろう。
TPPは多国間交渉であるから、対アメリカという観点では、二国間交渉より有利だ。むしろ、アメリカは知的財産権保護などで各国に妥協したので、アメリカ議会がTPPを認めるかどうかが心配になるくらいだ。
アメリカ議会は、米政府から情報を多く得ているので、そこで今回の大筋合意について、アメリカとして譲りすぎという意見が多いのは、日本には朗報であろう。
なお、このアメリカの事情については、ノーベル賞学者クルーグマンのブログ(http://krugman.blogs.nytimes.com/2015/10/06/tpp-take-two/)に興味深いことが書いてある。
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クルーグマンは、知的財産権で米国企業有利にしようとしている点でTPPに消極的だった。ところが、米政府(ホワイトハウス)から、今回の交渉では米政府の態度はかつてのそれとは変わったと説明されたという。米国企業や共和党の怒りを見ると、この点が確認できるとしている。
これで、「日本がTPPに参加すると盲腸で700万円掛かるようになる」という話がいかにでたらめであるかがわかるだろう。このようなデタラメ話は、テレビで話すべきではないのだ。政府が隠すような話ではなく、もし聞けばデタラメであると即答されるのがオチである。
しかし、これでも引き下がらないTPP反対論者もいる。彼らが持ち出すのが、ISD条項(国家対投資家の紛争処理条項)である。これを使って、日本に公的保険制度をなくすように仕向けてくるというのだ。
ISD条項でアメリカが好き勝手にできて、日本で治外法権のようにできるというのが彼らの言い分であるが、公的保険はそもそもTPPの適用除外なので、そのようなことはできないのをなぜ理解できないのか。
一般論としても、筆者はISD条項を重大な問題と考えていない。
■ISD条項は日本に有利
というのは、ISD条項はTPPで初めて持ち出される概念でない。これまで日本は25以上の国と投資協定を結んでおり、その中には既にISD条項が入っているものもあるが、対日訴訟は一件もない。アメリカとは、今回のTPPで初めてであるが、これまでも第三国を使って、日本を訴えてきたことはない。
一方で、世界ではISD条項による訴訟は400くらいある。だが、訴えられている国は国内法整備が不備の途上国が多い。
ISD条項は投資家や企業が国際投資で相手国に不平等な扱いを受けないようにするためだから、日本のような先進国では有利に働くのだ。
ISD条項は何でも訴えられるから危険との意見もあるが、訴えられても負けなければ問題ない。安保法の時、某左翼新聞は、法律の明文の規定がないから自衛隊はアメリカの核兵器を搬送するという荒唐無稽な意見をだした。素人の自衛隊に頼むはずないという「常識」が欠如したのだ。
ISD条項を役人時代に扱った経験がある者にとっては、ISD条項に関する荒唐無稽ぶりは、この自衛隊が核兵器を搬送すると同じくらいバカげた話だということを、申し上げておこう。
■別記:日本郵政株について一言
今週はいろいろなニュースがある。今日19日、中国の7−9月期GDPがでる。あの国の統計はあてにならないので、数字をどうこう言っても意味ないが、9月7日付け本コラム『G20が認めた「危機の中国経済」 日本経済を守るためには「消費増税延期」しかない!』をご一読いただきたい。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45145
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それと、今週23日で、日本郵政株の申込み期間が終わる。先週の週刊現代では、経済評論家など18人に尋ねたところ、買うと答えたのが5人、買わないと答えたのが13人という結果が出ていた。買う5人中3人は上がったら売る、とのことだ。
買うと答えた一人、荻原博子さんは「上場と同時に高値で売る」という神業をするようだ。ほぼみんなが買わないか、買ってもすぐ売るという。どうなることやら。
郵政について筆者の意見は、新著『“まやかしの株式上場"で国民を欺く 日本郵政という大罪』をご覧いただきたい。
http://www.amazon.co.jp/dp/4828418474/
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