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寝たきりでなくとも、ヘルパーに頼らざるを得ない局面は出てくる〔PHOTO〕gettyimages
必読!家で看取るには、実はこんなにカネがかかります〜人工呼吸器、電動ベッド…一体いくら必要なの?
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45692
2015年10月15日(木) 週刊現代 :現代ビジネス
——「老衰なら病院代がいらない」は大間違い!
寒々しい病室でダラダラと延命治療を受けるより、長年暮らしてきた家で自分らしく逝きたい。きっとそのほうが、安上がりだし—だが、本当にそうだろうか。「在宅死」の語られざる現実を書く。
■看取るほうの収入も減る
「昔はほとんどの人が『在宅死』でしたが、'76年に病院で亡くなる人が『在宅死』の数を上回り、いまでは皆が『病院で死ぬのが当たり前』と思い込んでいます。
しかし、高齢者はほぼ例外なく『住み慣れた家で最期を迎えたい』と思っているものです。『病院のほうが快適だよ』と言う高齢者は、家族に迷惑をかけまいとしていることが多いのです」
こう語るのは、尼崎市の長尾クリニック院長で、在宅医療の第一人者として知られる長尾和宏氏だ。
いま、日本は再び「在宅死」の時代を迎えている。高齢化が進み、病床不足・医療費高騰が深刻さを増す一方、「自宅で最期を迎えたい」という人が急増しているのである。
世界のどこにも負けない高い医療技術は、日本の誇りだ。だが、高度な延命治療が「幸福」とは限らない。狭い病院のベッドの上で、生命維持装置と栄養チューブにがんじがらめになって、身動きもとれず、口もきけず死んでゆく—そんな家族の姿を目の当たりにし、後悔する人も多い。
「そうなるくらいなら、思い出のつまった自分の家で、家族に見送られて死にたい」「無理な延命はいらない。できれば、苦痛の少ない老衰で穏やかに逝きたい」と考えるのが人情だろう。また看取る側にも、その思いに応えてあげたいという人が多いに違いない。
しかし、漠然と「家で看取るほうが、病院や施設のお世話になるよりは、ずっと安上がりのはず」「大きな病気をせず、老衰で亡くなれば、医療費も大してかからない」と甘く見ていると、思わぬ出費に泣かされる。介護事業サポート会社「地暮」代表の中村聡樹氏が言う。
「確かに、長期間入院ができる療養型の病院に入院したり、広々とした個室の老人介護施設に入るよりは安上がりです。ですが、介護を家族の力だけでやりきるのは不可能ですから、結局、思った以上におカネがかかります。
高齢者が施設で過ごす年数は、4年から最長で7年。少なくとも、それと同じだけの期間を自宅で過ごさなければならないわけです」
がんなどの大きな病気を患っておらず、ゆるやかに老衰が進んでゆく場合には、いつまで介護を続けなければならないのか、見通しを立てるのが難しい。5年、10年と続く場合、介護する側もまた老いて収入は減り、年金やなけなしの貯金を切り崩してゆくのだ。
それでは、「家で看取る」と決めた瞬間から、いったいどれだけのカネが必要になるのだろうか。
■スタートは肉親が「倒れた日」
スタートラインは、肉親が「倒れた日」だ。高齢者の場合、脳梗塞や心臓病、あるいは骨折などで一度入院してしまうと、たとえ退院に漕ぎつけても、以前のように全快というわけにはいかず、何らかの介護が必要になる。その日から「看取り」は始まっていると言っても過言ではない。
「入院と同時に、要介護認定の審査を受けるための申請をしましょう。用紙は市区町村役場でもらえます。この申請書を出さないと、介護保険のサービスを受けることができません。介護認定を受けるまでに約30日かかるため、退院してすぐにサービスを使えるよう、なるべく早めに提出したほうがいいのです」(前出・中村氏)
書類を出した後、自治体の調査員との面談、主治医による意見書の提出を経て、要介護認定が下される。この時に遠慮せず、きちんと「どのくらい体が不自由で困っているか」を主治医に伝えておくことが大切。要介護度を低めに見積もられると、負担が大きくなってしまうからだ。
「せっかく家で面倒をみると決めたのに、最初から保険を頼ろうとするなんて、何だか後ろめたい」
そう思う人もいるかもしれない。だが、素人が何もかも抱え込むのは、無謀なだけでなく危険ですらある。女性が男性を介護しなければならないケースだと、寝返りを打たせ、体を抱き起こすだけでもかなりの重労働だ。
近年は、介護疲れによる虐待・暴力事件も後を絶たない。無理をして家族関係が険悪になっては、本末転倒である。
要介護度は「要支援1・2」「要介護1~5」の全部で7段階に分かれている。たとえば「要介護1(歩けるが、トイレや入浴で介助が必要)」に認定された場合、月に16万6920円分まで介護サービスが利用でき、うち1割、最大で1万6692円を自己負担することになる。
ただし、この限度額を超えた分については、全額が自己負担となるので注意が必要だ。
'09年5月に自宅で84歳の父親を看取った、埼玉県に住む幸田好行さん(51歳・仮名)は、介護保険の枠内でやりくりしながら、最期の日を迎えることができたという。
「父は悪性リンパ腫で'08年に入院していたのですが、『病院はイヤだ。家に帰りたい』と言うので、家族で相談して自宅で看取ろうと決めました。
退院前に『要介護2』の認定を受けていたので、利用できる介護サービスは月額19万4800円分でした。自己負担金の内訳は、週に1度の部屋掃除が253円、数日に1度体を拭いてもらうのが445円。自宅にヘルパーや医師を呼ぶ訪問介護・訪問診療はそれぞれ1回500円ほど。
このほかに月に1度の通院費や薬代がありましたが、おおむね限度額内に収まったので、負担額は月々約2万円でした」
■一回数百円が馬鹿にならない
30分ほどホームヘルパーや介護福祉士が自宅を訪問し、いろいろな生活支援をしてくれる訪問介護は、介護サービスの中でも最もオーソドックスなもの。
ヘルパーに頼める内容は、「起床・就寝の介助」「食事・服薬の介助」「着替え・洗面の介助」「入浴の介助」「トイレの介助」「体位を変える」「車いすに乗せる」「病院へ付き添う」など、「本人が自力ではできないこと」ほぼ全般にわたる。
自宅に家族がいる場合は、調理や洗濯などの家事を代わりにしてもらうことはできないが、自己負担額はそれぞれ1回300円程度から、最も高価な入浴介助で1200円ほど(要介護度や、住んでいる自治体によって少しずつ異なる)。
これだけ見れば、「なんだ、思ったよりは安いな」と感じる人も多いだろう。
ただし、前出の幸田さんの父親の場合は、自宅介護の期間が約半年と短かった。たとえ月々の出費を数万円以内に抑えることができても、それが何年も続けば総額数十万円、数百万円にふくらんでゆく。体が不自由になるにつれ、年々かかるカネは増え、介護そのものの負担も重くなる。
さらに今年8月、介護を受ける本人の年金収入が年額280万円以上の場合に、自己負担割合が2割に引き上げられた。負担額は、ひと昔前の倍にはね上がっている。
「一度に数百円の訪問介護でも、週に3回使えば3000円ほど、月額で1万2000円にもなるので、バカになりません。『要支援1』の方の場合は、自己負担の限度額が約1万円ですから、あっと言う間に超えてしまうでしょう」(前出・中村氏)
もうひとつ、在宅介護をするうえで欠かせない、訪問介護と並ぶ「車の両輪」になるのが、デイサービスとデイケア—つまり「本人が施設に出かけて介護してもらう」タイプのサービスだ。
施設にいる間は、トイレや食事の介助を受けられるうえ、レクリエーションに参加したり、友人とカラオケをしたりと、気分転換のチャンスにもなる。
来る日も来る日も自宅で過ごしていては、介護を受ける側も気詰まりだし、認知症などの進行を早めかねない。介護をする側の家族も常に拘束され、疲労とストレスをため込む一方である。
デイサービスを利用すれば、7~9時間は介護から解放されるので、その時間を家事や自分の用事にあてることができる。2~3日の間、施設に宿泊する「ショートステイ(短期入所生活介護)」というサービスも、ただ「介護する家族が休むため」という理由でも利用することが可能だという。
ただし、こうした滞在型のサービスは単価がそれなりに高く、1日あたり900円~1300円ほどの自己負担が課される。しかも、おむつや食事の代金は別途支払わなければならないので、頻繁に使うと、月に2万円ほどの負担額になる。
「『要介護3』の方の場合、月額26万9310円分のサービスを受けることができる(自己負担額はその1割の2万6931円)のですが、実際にはその6割程度しか利用しない人が多い。つまり、多くの家庭では月々2万円ほどに介護費用を抑えたい、と考えているのです」(前出・中村氏)
常に限度額を頭に入れながら、どの介護サービスをどのくらい使うべきか考え続けるのは大変だ。ここは介護を受ける本人とよく相談し、年金の受給状況も考慮しつつ、納得できるラインを見つけ出すほかない。
■結局、1000万円近くに
一方、医療費に関しては、これまで見てきた介護サービスとは別に考慮しなければならない。前出の長尾医師が言う。
「基本的には、在宅医療は入院より経済的です。『医師をわざわざ自宅まで呼ぶのだから、割高だろう』と思っている人が多いですが、実はかなり保険でまかなえます。
例えば、訪問診療は1回830円、夜間の往診が2220円、深夜が3220円。週1回の訪問診療と月1回の夜間診療を受けた場合には、負担額は月額1万円ほどになります。訪問診療や往診を何回受けても、高齢者(高所得者を除く)は自己負担額の上限が決まっていて、月額1万2000円の支払いで済みます」
ただし、24時間の緊急対応も含めたきめ細かい訪問診療を受けるためには、近くの「在宅療養支援病院(診療所)」認定を受けている病院と契約する必要がある。
その場合、「月2回の訪問診療」と、「在宅時医学総合管理料」といういわば「管理費」をあわせて、月額6000円~7000円程度が別に課されることが多い。当然ながら、容体が変わったときには家族が医師を呼ぶ手間もかかるので、必ずしもいいことばかりとは言い切れない。
最後に、生活用品やその他の支出をまとめて見てゆこう。医療法人社団悠翔会理事長の佐々木淳氏が解説する。
「車いす、ベッドや床ずれを防ぐためのマットなどは、介護保険を利用して、月に500円から高くても2000円程度でレンタルできます。
また酸素吸入器と人工呼吸器は医療保険が使えますが、なぜか痰を吸引する機械は介護保険も医療保険も使えないので、全額自費負担になります。レンタルなら月5000円くらい、買い取りだと1台5万~10万円です」
「あと数ヵ月」という場合はレンタルが安上がりだが、2年、3年と使い続ける場合は買い取ったほうが得になる。
大きなベッドや機材を家に置く場合など、部分的なリフォームが必要になることもある。
「住宅の改修は、要介護認定を受ければ20万円まで支給されます。ただ、玄関口の段差をなくしたり、手すりを取り付けたり、ベッド搬入のために床や壁の補強をしなければならない場合は結局50万円、100万円とかかることも多い。
介護費、医療費、そしてこうした雑費をすべて合わせると、月々の支出は10万円ほど。5~7年間介護生活が続く場合には、一人の親を看取るのに最低でも500万円、多ければ1000万円近くかかるのを覚悟したほうがいいと思います。
それでも有料老人ホームに入居したり、療養型病院に入院する場合には1500万~2000万円かかるので、在宅が割安なのは確かですが……」(前出・中村氏)
苦労をしてでも節約し、自宅で看取るか。カネはかかっても、施設や病院で最期の日を迎えるか。次章では、そんな「究極の選択」を経験した家族の話に耳を傾けてみよう。(後日公開の「後編」に続く)
「週刊現代」2015年10月17日号より
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