4. 2015年10月15日 07:03:51
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着実な経済成長はバブルの生成より難しい 米国だけでなく、中国がくしゃみをしても風邪をひく世界経済 2015.10.15(木) Financial Times (2015年10月14日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)世界経済は今、中国がくしゃみをしても風邪をひくようになった (c) Can Stock Photo 米国がくしゃみをすれば世界経済が風邪をひく――。かつてはそう言われたものだった。この言葉は今日でも間違いではない。ただ最近は、中国がくしゃみをしても世界経済が風邪をひくようになった。 世界経済は、借入金を燃料に動く最後の大型需要エンジンを失ってしまった。 そのため、世界的な「過剰貯蓄」にさらに拍車がかかるか、ローレンス・サマーズ氏の言う「長期停滞(潜在的な供給に比べて需要が弱い傾向のこと)」に至るのはほぼ確実だ。 このことは世界経済のリスクにとって重要な意味を持つ。 国際通貨基金(IMF)は最新の「世界経済見通し(WEO)」を、憂鬱というよりは用心しているような調子でつづっている。これによると、世界経済の今年の成長率は3.1%になる見通しで(購買力平価ベース)、2016年には3.6%になる。高所得国の今年の成長率は2%で、ユーロ圏ですら1.5%の成長が見込まれるという。 一方、新興国は今年、4%成長すると予想されており、2013年の5%や2014年の4.6%を大きく下回ることになる。中国は6.8%、インドは7.3%の成長がそれぞれ見込まれるが、中南米は0.3%のマイナス成長で、ブラジルは3%のマイナス成長に陥る見通しだという。 世界経済の下振れリスク IMFはまた、どんなに筋金入りの心配性でも納得するほど長い下振れリスクのリストも示している。 資産価格の破壊的な変動と資産市場の混乱、潜在成長率のさらなる低下(もし実現すれば、投資と総需要が減ってしまう)、中国の国内総生産(GDP)の予想以上の減少、コモディティー価格のさらなる下落、ドル高の進展(実現すればドル建てで借金をしている主体、特にコモディティー生産のために資金を借りた企業などのバランスシートがさらに悪化する)、地政学リスク、そして総需要のさらなる減少といった具合だ。 では、世界全体が1つの経済だと考えてみよう。もしこの経済が上記の予想通りに成長しても、恐らく、潜在成長率と同程度の成長を遂げるのが関の山だろう。 しかし、もし上記のリストに載ったリスクのいくつかが悪い方向に向かうことになったら、世界経済は過剰生産能力の増大とディスインフレ圧力に苦しむことになる。 悪いことがまったく起こらなかったとしても(実際は容易に起こり得る)、やはり懸念は残るだろう。なぜなら、現在では政策対応の余地がかなり限られているからだ。 苦しむ新興国が外需を期待できない理由 コモディティーを輸出する一方で多額の債務を抱えている新興国は、数年前に危機に見舞われたユーロ圏諸国と同様に、緊縮をしなければならなくなるだろう。またユーロ圏の場合とちょうど同じように、これらの国々は景気を浮揚させるために外需を探す。しかし、待ってもムダかもしれない。 高所得国では短期金利がすでに0%という下限かその近辺にある。高所得国が大規模な負のショックに効果的に対応できるか、少なくとも対応する心構えがあるのかどうかはかなり疑問だ。ひょっとしたら、中国にも同じことが言えるかもしれない。 過去15年間、信用力の高い証券の長期の実質金利は低水準で推移し、貯蓄に比べて投資が慢性的に弱いことやリスク回避の意識が投資家にあることを示してきた。2007年までの期間で見ると、世界で必要とされた需要の大部分は信用(借入金)の拡大と住宅建設で創造されていた。特に米国とスペインではその傾向が顕著だった。 このエンジンは2007〜09年の西側諸国の危機と2010〜13年のユーロ圏危機の際に燃料切れになり、名目の短期金利が0%で実質の長期金利も0%になるというこの世界が誕生した。これらの国々ではそれ以来、需要も潜在GDPも実際のGDPも低迷している。 幸い、借入金による投資の急増が2009年に中国で始まって余った供給力を吸収し、工業原料や投資財の輸出業者の業績を大いに押し上げた。しかし、今ではそれも限界にきている。 高所得国はショックから立ち直りつつあるが、潜在GDPに比べて支出が大幅に増加する兆し(あるいは、その見込み)はまったく見えない。 ユーロ圏では、好景気などは特にやって来そうにない。 中国は年7%という実質需要の伸びを維持できるかもしれないが、GDPに占める投資の割合が40%を大きく超えるような経済では、7%の成長を遂げても余剰生産能力がかえって増えるだけだろう。 世界中で高まるディスインフレ圧力 また中国については、投資が貯蓄に比して減少すると想像する方が、その逆のパターンを想像するよりもはるかに容易だ。つまり、中国が今後数年のうちに需要不足の悪化に苦しむことになるのはほぼ確実だ。 また、多くの新興国で生産能力が今後拡張されることはまず間違いない。そう考えると、世界経済の潜在供給力の過剰は間違いなく悪化すると思われる。ディスインフレ圧力が世界中で今後高まりそうだと考えるのはこのためだ。 では、このような状況にある世界はどのように管理すべきなのだろうか。ここでは短期、中期、そして長期に分けて答えを示しておきたい。 まず短期的には、大幅な景気減速を避けることが肝要である。それ以上にひどい事態を避けなければいけないことはもちろんだ。そうした状況に対処する政策手段は簡単には利用できない。その理由はいろいろあるが、政治的な理由も重要である。 これまで以上に非伝統的な金融政策やかなり拡張的な財政政策に対する抵抗は根強い。ばかげた話だが、これは現実でもある。そうであるからこそ、そのような政策を不要にすることが非常に重要なのだ。 一段と弱まる世界需要、政策と思考を現実に適応させよ だが、中期的には、世界経済が大きな負のショックに見舞われた場合に何をする必要があるのか、議論し始めることが肝心だ。これまで以上に非伝統的な政策がどんな形で奏功し得るかを丁寧に説明したら、そうした政策に対する抵抗感が薄れるかもしれない。 より長期的には、これほど実質金利が低い世界は、特に新興国、発展途上国において非常に大きな投資機会を提供してくれることを理解することができるはずだ。 我々は景気減速ではなく、どうすれば世界的な投資ブームを達成できるかを想像すべきだ。 中国はこれを理解しているように見える。西側諸国にも理解できるだろうか。 世界は、貸し付けと支出をフル回転させる用意と意思がある経済大国を失ってしまった。これは向こう数年間、世界の需要がこれまで以上に弱々しくなる可能性があることを意味している。政策と思考はこの現実に適応しなければならない。今から始めよう。 By Martin Wolf http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44997
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