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日銀・初代北京事務所長が断言! 「中国経済は悲観視しなくて大丈夫。その10の理由を教えましょう」 特別インタビュー
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45786
2015年10月14日(水) 藤岡雅 現代ビジネス
「やっぱり中国は危ない!」。8月に起こった中国株の突然の大暴落を目の当たりにすると、こう叫びたくもなる。厄介なのは、中国政府が発表する数値が本当に信用にたるものかわからないため、本当の実力を推し量るのが難しいことだ。
そんな危うい大国の「本当の懐事情」を知る人物がいる。日本銀行で初代北京事務所長を務めた露口洋介氏(信金中央金庫・上席審議役)だ。天安門事件が勃発した89年から現地をつぶさにウォッチしてきた中国経済のスペシャリスト。その露口氏が、中国経済の問題すべてを語った。
■「爆買いがなくなる」なんてことはない
中国の著名な経済学者でも、中国の株式市場は「博打場だ」と言ってはばかりません。7月〜8月にかけての暴落は、「当然起こり得ること」として、専門家の間では認識されていました。
中国の株式市場は昨年の11月から中国人民銀行が5回にわたり金利を引き下げて以降、急激に上昇し、約2300ポイントからわずか半年の間に2倍以上の約5100ポイントまで上昇してしまった。
銀行の貸付が緩やかになり、レバレッジをかける信用取引も解禁されたので、株式市場への参入者が急増してしまったのです。企業業績など全く関係なく投資が膨らんだことが、中国株のバブルを引き起こし、それが一気にはじけてしまいました。
このため世界中のマスコミが「中国ショック」と騒ぎ立て、中国の実態経済までもがダメになってしまうかのような認識が広がりました。
しかし「中国人の富裕層が株で大損をしたので、日本での爆買いが減ってしまう」とか、「中国がこのままマイナス成長に陥ってしまうのではないか」という意見には私は同意できません。今回の大暴落で損をしたのは、今年3月以降に株を買った少数の人に過ぎないからです。
9月30日の上海総合指数の終値は3053ポイントでした。高値を付けた6月12日は5166ポイント。確かに2000ポイント以上も暴落したら、大損をした人が続出したと考えてしまいます。
しかし、そこは冷静になってほしい。
中国株が上昇し始めた昨年11月は約2400ポイントの水準でした。また今年の3月ごろまでは3000ポイント台で推移していた。つまり、3月以前に株を買った人はまだ儲かっているのです。
数か月での暴騰劇で大損失を被った人はほんの一部の新興投資家ですし、まだ未成熟の中国株式市場ですから、機関投資家は少なく参加者も少数です。実体経済に深刻なダメージを与えることはありません。
今回の中国株式市場の混乱に右往左往した人も多かったようですが、原因は、今の日本に中国経済全体への行きすぎた悲観論が広がっているからでしょう。その根拠は本当に正しいのか、検証してみましょう。
■日本の成長期を思い出してほしい
中国経済への懸念がこれほど語られるのは、「統計が信用できない」と考えられているからでしょう。確かに世界各国の金融当局者も同じ不満を抱えていました。
この不満を解消するため、中国政府は「調査失業率」という、先進国レベルの子細な調査データを出すようになっています。これによれば中国政府の失業率は上半期5.1%と安定している。また現在、中国では過度なインフレは起こっていません。
中国は今、開発途上国から首が一つ抜け出した段階ですが、こうした国の経済が悪化するのは、失業率とインフレ率が高まったときです。そのどちらも中国では高くなっていないので、今年の中国経済は当初の想定から大きく乖離せずに推移していると言っていい。
中国政府は今年のGDP成長率を名目7%前後と予想していますが、その水準が大きく変わることはないでしょう。
一方で中国経済が多くの問題を抱えているのは事実です。例えば天津港の爆発事故があったため「輸出が悪化するのではないか」という懸念がある。確かに今、輸出量は悪化傾向ですが、14年の実質GDP成長率7.4%に対して、純輸出が占める割合は0.1%にすぎません。
他にも「生産設備が過剰で、在庫が積みあがっており、消費が起きていない」という問題があります。また「シャドーバンキングの問題」や「地方債務の増加」など、不良債権が積みあがっているのではないかという懸念もある。
生産設備が過剰になったり、地方債務が膨れ上がったりしたのは、リーマンショック後の09年に4兆元の財政出動をしたことが原因です。これが今後、大きな負債としてのしかかってくるのではないかと心配する人もいますが、この問題はマクロ経済的にはもう済んだ話と言っていい。
中国の名目GDPは09年には35兆元でしたが、14年には64兆元となり、29兆元も増えている。マクロ経済から見れば4年前に生じた4兆元投資も、地方債務も大きな問題ではありません。「シャドーバンキング」などに溜まっているとされる不良債権も経済成長が続く限り、マクロ的には自然解消されていきます。
また中国には成長を担保する原資がまだまだ豊富にあり、過剰生産設備など全く問題にならないほど、今後、需要が発生してきます。
中国の都市化率は現在5割程度で、農村にはまだかなりの人口が残されています。彼らはこれから地方都市の周囲に建設されている小都市に続々と流入してきます。その数は年間約2000万人に上る。
日本の高度成長期を思い出してほしい。当時は中学校を卒業した子どもたちが集団就職で都市に移り住み、都市化率が急激に進展。核家族化することで世帯数が激増して、テレビ、洗濯機、冷蔵庫は三種の神器″と呼ばれました。白物家電の需要が高度経済成長を支えたのです。
■実は「謙虚」な中国
日本では白物家電の普及率は70年代初頭にほぼ100%に達し、その後は世帯数もあまり伸びなくなったため、需要が鈍化してしまいましたが、中国ではこうした需要がまだまだ温存されているのです。
この状況を考えれば中国経済がすぐに壊れていくとは考えられません。
ではなぜ中国株の大暴落をきっかけに世界的な株安が引き起こされてしまったのか。それは中国の金融当局が行う政策に、マーケットの不信感があるからでしょう。しかし、その不信感の多くも、やはり誤解に基づいています。
とは言え、確かにひどい政策もある。7月に株が暴落を始めた時には証券会社に「ETFを買え」とか、上場企業の経営陣に「株を売るな」と、先進国のマーケットからみれば、とんでもない命令が出されました。
こんな禁じ手を使っても株価を買い支えられなかったので、世界は恐怖におののいた。しかしこれも中国の株式市場が未成熟だという以上の問題はありません。
日本でも60年代に大蔵大臣の田中角栄と日銀総裁の宇佐美洵が、破綻間際の山一證券をはじめ証券会社に無担保融資して、救済したことがありました。今回の中国のやり方も、少々えげつなかった程度で、本質は当時の日本がやったことと大差ない。未成熟な株式市場ではこうしたことも起こり得るものです。
そもそも中国政府にとっては、中国の株式市場がこれほど世界の株価に影響するとは思ってもみなかったことでしょう。極めて未成熟でドメスティックな市場なのに、なぜ世界がこれほど混乱するのだと。
8月11日から3日連続で人民元の通貨切り下げを行ったときも同じ気持ちだったでしょう。世界の株式市場が再び混乱し、「元安誘導」と批判を浴び、「中国は自分たちのことしか考えてないのか」と叱られてしまった。
中国政府はおそらく「俺たちの金融政策って、そんなに影響力があったの?」と驚いたでしょう。中国は外交などでは、とかく威圧的で傲慢なイメージが浸透していますが、金融については非常に謙虚なのです。
彼らは自分たちの金融システムが未発達であることを知っているので、その金融政策には極めて慎重。各国の要請にはよく耳を傾けています。実は8月11日からの切り下げも、IMFの提案に沿って行われたものでした。
人民元の切り下げについては、一部のメディアでは「中国当局が経済の失速を懸念して繰り出した元安政策であり、輸出を伸ばそうとするためのものだ」という指摘をしていましたが、これは誤りのある認識です。
この切り下げを人民銀行の周小川総裁は「人民元為替レートの市場化のステップ」としていますが、この表向きの説明に裏はありません。
それ以前に株価下落の対策のために多少の金融緩和をしていたので、結果的に元安になっただけ。切り下げは輸出を促すために取られた措置ではありません。それには以下のような背景があったことから説明できます。
■解決する方法はある
中国は今、人民元をIMFのSDR(国際通貨準備資産)に入れようと(=人民元が国際通貨の仲間入りをすること)必死に交渉しています。中国のSDR入りには、習近平国家主席の厳命で、国の威信をかけて取り組んでいますが、そのためには今のように人民元の為替レートに国の思惑が入る余地が大きくてはいけません。
ですから、中国はIMFと一緒に人民元の基準となる為替レートの指標を探していました。そこでIMFが「申し分ない」と提案したのが、上海の外貨取引センターで公表されているベンチマークでした。8月11日からの切り下げは、このベンチマークに人民元レートを合わせただけです。
つまり仮にこのベンチマークが現在よりも元高だったら、切り上げ″になっていたということ。中国当局の思惑が「輸出増進策だった」=「やっぱり中国経済は悪いのだ」とするのは少し乱暴です。
むしろ私には人民元のSDR入りが、少し拙速なのではないかという不安の方が大きい。中国の経済規模はすでに日本の2倍に達しています。経済規模が大きくなれば、やがて統制的な経済政策は効果を失っていく。
だから中国は金融の自由化を進めているのですが、安易に自由化を進めると経済ショックが生じてしまうので、慎重かつ着実に進めなければなりません。ところがSDR入りのために中国は、この不文律を乱そうとしているように私には見える。
今、中国は海外との間の投機的な資金の流出入を規制していますが、SDR入りのためにはこのような規制をさらに緩和する必要がある。
しかし中国の金融システムは、まだ大規模な資金流出入のショックを吸収できるほど整備されていません。SDR入りと引き換えに大幅に緩和するようなことをすれば、手痛いしっぺ返しを食らうことになります。国家の威信をかけるのはいいが、私はもう少し後ずれさせた方が無難だと思います。
今、世界から投げかけられている中国経済の問題のほとんどは解決するための方法があります。しかし、その方法を実行することが難しい問題もあります。
■「中進国の罠」が邪魔をする
例えば「所得格差の問題」。先ほど私は中国ではまだ農村から都市へ移動する人がたくさんいるので消費が増えると言いましたが、貧しい人たちが白物家電を購入できるようにするには、再分配政策が必要です。
そのため中国は、相続税や固定資産税などの財産税を整備する方向を打ち出しています。しかし当然、今の金持ちや既得権者は反対します。これが本当にできるのかが、習近平や経済政策を担う李克強の腕の見せ所なのですが、既得権者の多くは共産党の幹部たちです。
習近平政権になってからは清風運動により、改革は進んできているが、政争となりかねない問題でもあり、その改革の動向には注意が必要でしょう。
解決が難しい問題ではありますが、これをうまくいかないと決めつけるのも適当ではありません。このような解決方法をうまく実行できさえすれば、中国経済はしばらくの間着実に成長するでしょう。
こうして見て行くと、中国経済は着実に成長を続けており、問題はあるにせよ、マーケットやメディアが心配しているほど、実態は悪くないことが分かっていただけるでしょう。
しかし、より長期的に見ると相当ハードルの高い問題があります。それは共産党体制にかかわる問題でもあります。
中国の経済が今後、政府の見通し通りに成長を続ければ2020年代に入るとGDPでアメリカと肩を並べる水準に到達する。その際の一人当たりのGDPは1万3000j程度に達し、中国は先進国の入り口に到達する。ここで生じるのが「中進国の罠」です。
中国の労働者の賃金は上がっているので、その他の開発途上国の低賃金の労働者には勝てなくなる。ですから高付加価値の製品を作らなければいけないが、非常に効率よく高付加価値製品を作る先進国がすでにそろっている。これを突破しようとするときに中国が抱える問題が深刻なのです。
■壮大な実験が始まる?
それは民主化せずに「中進国の罠」をクリアすることができるのかということを問うていますが、民主化せずに「中進国の罠」をクリアした国は、資源国や人口の少ない都市国家を除き、過去に例がないのです。
近年「中進国の罠」を突破した国に、韓国や台湾、アイルランドなどがあります。韓国は日本に迫る技術力で、また台湾も中国の安い労働力を使ったOEM生産(受託生産)を考案し、これを突破しました。アイルランドは金融業に特化した。
千差万別で、過去に中国のような国の参考になる例があるわけじゃない。そしてこれらは厳しい世界経済の荒波に曝されて鍛え上げられた民間の企業人たちが切り開いたものばかりです。
中国にとって共産党一党体制の存続は、「国体護持」と同義です。共産党の指導が金科玉条となっている中国で共産党の役人たちに韓国や台湾の企業家たちのようなことが本当にできるのか。今後、この壮大な実験が行われることになるでしょう。
仮に失敗すれば中国の国家体制そのものがリセットされる恐れが出てくる。これが今の中国の抱える本当の恐怖と言えるでしょう。
(本稿の内容は発言者の個人的見解であり、信金中央金庫の公式見解ではありません)
執筆・藤岡雅(週刊現代記者)
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