2. 2015年10月14日 03:51:18
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ブラジルでは決して「ファヴェーラ」に近寄ってはいけない!〜進出企業を待ち受けるこれだけのリスク 2015.10.14(水) 茂木 寿 リオ市長、水泳競技の準備不足を指摘するFINAの批判を一蹴 2016年のオリンピックに向けてリオデジャネイロのコパカバーナビーチで、女子遠泳のテストイベントが行われた(2015年8月23日撮影、資料写真)。(c)AFP/TASSO MARCELO〔AFPBB News〕 新興国のビジネスリスクシリーズ第7回目では、中南米最大の人口、面積、経済規模を誇る大国、ブラジルを取り上げたい。 2014年にサッカーW杯大会が開催され、2016年には南米大陸初のリオデジャネイロ夏季五輪大会が開催される予定であることから、国際的にブラジルへの関心度は高まっている。 まずは、ブラジルの概要から見ていこう。ブラジルは851万4877平方キロメートルの面積(世界第5位)を有する大国であり、南米大陸の約半分(47.3%)を占めている。また、人口も世界第5位の2億785万人を有し、中南米最大、さらに経済規模も2014年のGDPが2兆3530億ドルで、世界第7位の規模となっているなど、名実共に中南米最大の国となっている。 また、ブラジルは国連改革、WTO、環境・気候変動、G20(金融サミット)などの世界規模の問題にも積極的に関与し、全ての近隣諸国と良好な関係を保っている。米国、EU、日本、アジア、アフリカなどとも多面的な外交姿勢を堅持しており、国際社会での発言力、存在感は共に大きいと言える。 民族的には白人47.7%、ムラート(白人と黒人の混血)43.1%の他、黒人、アジア系等となっている。言語は公用語のポルトガル語が主流だが、スペイン語、ドイツ語、イタリア語、日本語なども使用されることがある。宗教的にはカソリック65%、プロテスタント22.2%等が主流となっており、カソリック人口は世界最大である(民族および宗教については米国中央情報局(CIA)の「World Factbook」による)。 このようにブラジルは民族的に多様化した国家となっているが、民族・宗教などよる差別はほとんどなく、世界でも類のない社会を形成している。さらに既述の通り国境紛争もほぼ皆無であることなど、大国としては極めて異例であると言える。 経済的には、1990年代末に発生したブラジル通貨危機により一時的に経済が混乱したが、カルドーゾ政権(1995〜2002年)、ルーラ政権(2003〜2010年)下で財政の安定化政策がとられ、安定的な経済成長を遂げることとなった。2012年の経済成長率は1.76%と低迷したが、2013年は2.74%の経済成長を遂げており、緩やかな回復傾向にあると言える。 一方、2014年の平均インフレ率が目標圏中央値(4.5%)を上回る6.3%となるなど、公共料金の値上げなどに伴う生活コストの上昇、さらには公務員給与が上昇しないことなどの不満が重なり、2013年以降ストライキが頻発している。特に、2014年のサッカーW杯大会開催前においては、大規模なストライキの他、抗議デモも頻発する事態に発展した。 このようなことから、内需が抑制されることで今後のブラジル経済の成長が滞る可能性があるとも言われている。2015年と2016年については、連続で経済がマイナス成長となるとの予測も多い。 ブラジルにはさまざまなビジネスリスクがある。以下ではそれぞれについて見ていこう。 洪水が恒常的に発生、道路舗装率は極めて低い ブラジルでは洪水が恒常的に発生し、これまでも大きな被害をもたらしている。また、数年に1度の頻度で干ばつが発生している(発生件数は洪水が最多・経済的損失は干ばつが最大)。 この他、暴風雨・熱帯性低気圧、土砂災害なども発生しているが、地震は西部の国境地帯以外にはほとんど発生しないため、自然災害リスクのランキングでは世界171カ国中119位で、他の新興国に比べても低いリスクとなっている。 World Economic Forumが毎年発表している「Global Competitiveness Report」によれば、ブラジルのインフラ整備度ランキング(総合)は144カ国中120位(2014/15年)とBRICs諸国中で最下位である。他の新興国と比較しても非常に低いランキングとなっている。特に道路および港湾の整備度が低いのが特徴だ。 ブラジルでは国内貨物輸送の約6割を道路に依存している。そのため、道路輸送が内陸輸送の中心となっている。ブラジルでは州内および市内の道路網の発達の他、都市間を結ぶ道路網も整備が行われているが、道路舗装率は極めて低く、道路運輸の効率が非常に低い。例えば、アマゾン川中流の大都市であるマナウスからサンパウロのまでの縦断道路においては、トラック輸送で10日〜2週間の時間を要するとされている。また、同地域においては、トラックの強盗被害が頻発していることもあり、大きな問題となっている。 また、ブラジルでは海上輸送向港湾の整備が重要課題の1つとなっている。港湾事業の民営化後、主要港湾設備・システムの改善が図られているが、急拡大する取扱量にインフラ設備およびサービスの両面で供給が追いついていないのが実状だ。 殺人事件の発生率は日本の約80倍! 新興国の中でもブラジルの治安状況の悪さは突出しており、殺人事件の発生率は日本の約80倍に達している。 ブラジルでは都市部を中心に凶悪犯罪が増加傾向にあるが、特にリオデジャネイロ、サンパウロなどの大都市にあるファヴェーラ(スラム街)と呼ばれる地域は、警察もほとんど立ち入ることができない。一般の市民が立ち入った際には、極めて高い確率で犯罪被害が発生している。また、一般の都市部でも、麻薬に関連した殺人・強盗等の凶悪犯罪が日中でも発生しており、これらの凶悪犯罪のほとんどで銃器が使用されることが大きな特徴となっている。 地域別に見ると、リオデジャネイロ、サンパウロの殺人事件発生率は、ここ15年間で約半分に減少しているが、それでも、日本の約90倍、約50倍という高さである。 最も殺人事件発生率が高い地域は、レシフェなどがある北東地域。州別ではアラゴアス州がブラジルで最大の発生率を誇っている。次いで発生率が高いのは、マナウスがあるアマゾナス州、ベレンがあるパラー州をカバーする北部地域である。 特に、マナウスは麻薬密輸の中継地として、麻薬関連の犯罪も急増しており、銃器を使用した殺人・強盗・短時間(特急)誘拐などの凶悪犯罪が昼夜を問わず発生している。また、ベレンにおいても一部地区で急激に治安状況が悪化してきている。 ブラジルでなぜ労働裁判が多いのか 他の新興国と比較して、ブラジルは特に解雇が困難であるとは言い難い。しかしながら、ブラジルにおける労働者保護は、他の新興国と比べても、その色彩が強いと言われている。 ブラジルの労働法は連邦憲法(1988年)、統合労働法(1943年)およびその他の諸法令により成り立っている。 労働法の原則は、労働者保護の原則、権利非譲歩の原則、雇用関係継続の原則、現実重視の4つとされている。例えば、法解釈に疑義が生じた場合には労働者に有利な解釈が優先する。 また、複数のルールなどがある場合には労働者に最も有利なルールが適用される。さらに、労働者に不利な内容の契約変さらについては、その効力を生じないなど、徹底している。そのため、年間の労働裁判の件数は200万を超えるとも言われている。 ブラジルでなぜ労働裁判が多いのか。その理由としては、労働訴訟の訴訟要件が極めて緩和されている点、訴訟コストが廉価である点、さらに、労働訴訟に特化した弁護士が成功報酬制で訴訟を受任するため容易に弁護士に依頼することが可能である点などが挙げられる。労働裁判は長期化することも多く、その点も企業にとっては大きなリスクだと言えよう。 一方、賃金の上昇については、多くの進出日系企業が課題として挙げている。例えば、JETROが2015年1月に発表した「2014年度中南米日系進出企業経営実態調査」によれば、ブラジルで最大の課題として挙げられることが多い「税制・税務手続きの煩雑さ」(86.9%)と並び、「人件費の高騰」(80.6%)が挙げられている。 最低賃金(月額推移)は2000年以降、年平均10%前後の上昇率が続いており、最近10年(2005年前半260リアルから2014年724リア)では最低賃金が約2.8倍となっている。さらに、2015年には前年比8.8%増の788リアルまで上昇している。 これらのことから、ブラジルにおける賃金の上昇問題は、日本企業のコストの増大という面で深刻であると言える。 根深い汚職問題、多発するデモ ブラジルは腐敗認識指数ランキングにおいて世界175カ国中69位(2014年)となっており、新興国の中でそれほど汚職・腐敗の度合いは高くない。しかしながら、ブラジルでは連邦制が敷かれており、州政府の権限が非常に強いのが特徴である。そのため、州政府は補助金、企業へのインセンティブの規制当局として強い影響力を持っており、その点が汚職の頻度を上げる要因ともされている。 ルーラ政権下の 2003〜2004年に発生したブラジル最大の贈収賄事件「メンサロン」では、当時の官房長官、与党党首等の政治家、秘書、政府系金融機関、広告代理店・投資会社の役員ら25人に、贈収賄、公金横領、資金洗浄、不正操作などで2012年12月に有罪判決が下された。また、2013年5月には州立のサンパウロ地下鉄公社(CPTM)、2014年3月には国営石油会社ペトロブラスのスキャンダルが相次いで露見している。 特にブラジル最大企業であるペトロブラスの事件は、ルセフ政権に打撃を与えた。大統領選挙での贈収賄の他、主要政党・政治家に対する違法献金などの問題が露見したこともあり、2015年3月には100万人以上が参加するデモに発展。ブラジルの汚職問題が根深いことを印象付けた。 冒頭で述べたように、ブラジルでは民族・宗教などよる差別はほとんどない。一方、ブラジルにおける最大の社会問題としては所得格差を挙げることができる。ブラジルのジニ指数は51.90で、世界でも非常に高い格差の国である。 一般市民等による不満を背景としたデモが過去には発生している。例えば、2013年の公共料金の値上げ等に伴う生活コストの上昇、さらには公務員給与が上昇しないこと等の不満が重なり、2013年以降、ストライキが頻発した。特に、2014年のサッカーW杯大会開催前において、大規模なストライキの他、抗議デモも頻発する事態に発展し、既述の通り、今年3月には国営石油会社を巡る汚職疑惑で100万人規模の抗議デモが発生するなど、デモ・暴動が発生しやすい状況となっている。 各種手続きは煩雑、決して良好とはいえない投資環境 世界銀行が2014年6月に発表した各国の投資環境をランキングした「Doing Business」によれば、ブラジルの投資環境ランキングでは世界189カ国中120位で、新興国の中でも低いランキングとなっている。 特に、進出時の事業設立、建設許可取得、不動産登記などの手続において煩雑かつ長時間を要することが多い。また、進出後においては、納税、貿易等の手続などにおいて、膨大な事務作業量と時間を要するとされている。 例えば、既述の「2014年度中南米日系進出企業経営実態調査」(JETRO)によれば、ブラジル進出日系企業が投資環境面でリスク(問題点)と感じている項目としては、「税制・税務手続きの煩雑さ」(回答率86.9%)、「人件費の高騰」(80.6%)、「行政手続きの煩雑さ(許認可等)」(71.3%)、「労働争議・訴訟」(59.4%)、「インフラの未整備」(58.8%)等となっている。メキシコ、ASEAN新興国と比べても、非常に高い比率となっていることは特筆される。 なお、治安への対応、労務管理問題、各種手続等への対応などに多くの費用・労力を要することから、これらを総称して「ブラジルコスト」と呼ばれることもある。 (本文中の意見に関する事項については筆者の私見であり、筆者の属する法人等の公式な見解ではありません) http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44964 |