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「首相官邸HP」より
首相の携帯値下げ要求、一世帯1万円以上の負担減か 税収上振れ分は国民へ配分すべき
http://biz-journal.jp/2015/10/post_11922.html
2015.10.13 文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部主席エコノミスト Business Journal
9月11日に開かれた経済財政諮問会議で、携帯電話料金の家計負担軽減が大きな課題として、安倍首相が総務省に対して料金引き下げの検討を指示した。実際、総務省の統計によれば、携帯通信料が家計支出に占める割合が拡大している一方、携帯通信料の価格は2010年代以降下げ止まっていることがわかる。
移動通信端末は生活必需性が高まっているため、これが引き下げられれば低所得世帯により恩恵が及ぶ可能性がある。また一方で、移動通信端末は若年層の使用頻度が高いことが予想されるため、相対的に若年層の負担軽減効果が高い可能性がある。総務省の家計調査を用いて、二人以上の世帯主の年齢階層別と年収階層別に分け、2014年の消費支出に占める移動通信通話使用料の割合を算出した。結果は当然のことながら、世帯主の年齢階層が若いほど移動電話通信料の割合が高く、料金引き下げの恩恵を受けやすいということになる。
また、年収階層別でみると、18歳未満人員比率の比較的高い年収450〜1000万円で通話料金割合が平均を上回る。なお、地域別に比較すると、特に地域の違いによって大きな差は見受けられなかった。したがって、通話料金が引き下げられれば、全国まんべんなく若年層や子育て世帯への恩恵がより大きくなる可能性が高い。
しかし、通話料引き下げだと、移動通信端末の利用率が低い高齢者層への恩恵が少ないという特徴もある。実際に、世帯主の年齢階層別の通話料金比率をみると、70代の利用率は20代の4分の1以下となり、おそらく年収階層別の年収300万円未満の利用率が低くなっているのも、労働市場から退出して年金収入を頼りに生活している高齢層世帯が含まれていることが影響しているものと推察される。
■経済成長率押し上げ効果も
14年の家計消費状況調査を用いた試算では、移動通信端末を使用していない人も含めると、1人あたり年平均4万5676円を通話料に費やしていることになる。これは、仮に通話料金が1割安くなると国民1人あたり4500円強の負担軽減につながるため、家計全体では5800億円程度の負担軽減になることを示唆している。
そこで、内閣府の最新マクロモデルの乗数を用いて、携帯料金が仮に1割引き下げられた場合の効果を試算すると、個人消費の+0.06%押し上げを通じて経済成長率を+0.04%ポイント押し上げることになる。
また、14年平均の総務省家計調査を用いて世帯主の年齢階層別の負担軽減額を算出すると、世帯主の年齢が50代以下の世帯では1.4万円/年を上回るも、世帯主が60代以降になるとその額が1万円を大きく下回る。同様に、世帯主の年収階層別では、年収が700万円以上の世帯では1.4万円/年前後となるも、年収200万円未満ではその額が4000円を下回ることになる。
しかし、一律的な値下げとなると、家計部門への直接的な恩恵はあるが、通信会社の売り上げは値下げ分減少することが想定されるので、その分の悪影響も考慮しなければならない。したがって、家計部門のメリットはあるが、移動通信事業者には業績悪化のリスクもあり、トータルでどの程度のメリットとなるかの計算は困難である。
このため、携帯料金引き下げ策は、家計支援策として議論を進めるというよりも、移動通信事業者の競争環境の整備を通じて、いかに料金引き下げを図るかという観点で議論を進めるべきものと考えられる。
■税増収分の一部還付
筆者は、最も公平で現実的な家計負担軽減策は、名目GDP拡大に伴う税増収分を一部還付する定額給付であると考えている。理由としては、国民全員に同額を支給するため、特定品目に関連した負担軽減よりも公平感が高くなるためである。また、定額給付金で先例があることからすれば、世帯主の年齢階層に関係なく低所得者の資金繰りにも余裕をもたらす可能性が高い。導入コスト面からみても、定額給付は自治体の事務負担も煩雑にならず、国民的には本人確認と振込先銀行口座の登録で済む。
足元の経済環境をまとめると、アベノミクスにより経済のパイが拡大する一方で、消費税率引き上げや円安の副作用により低所得者を中心に生活負担が高まっていることからすれば、上振れした税収の一部を使った家計への再分配政策は不可欠であると思われる。しかし、何かしらの再分配政策が必要となれば、逆進性緩和の効果や実務的コストが低い定額給付は有力な手段といえる。
なお、内閣府が公表している経済財政の中長期試算において、14年度の税収が2.3兆円も上振れしているにもかかわらず15年度の税収見通しが当初予算から変更されていないことからすれば、その範囲内で財政負担を考えたほうがいい。ちなみに、現在継続中の低所得者向けの臨時給付金は1人あたり6000円を支給して所得が少ない家計の税負担を緩和している。
つまり、すでに臨時給付金を受け取っている世帯については、6000円以上の給付がなければ実質負担が増加してしまうため、あくまで筆者の考えだが、国民1人あたり1万円を給付すれば、財源は1.3兆円程度にとどまる。したがって、今年度の補正予算編成を経て国民1人あたり1万円程度の範囲で定額給付をすることが検討に値しよう。
(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部主席エコノミスト)
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