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9月30日の新製品発表会で囲み取材に応えるNTTドコモの加藤薫社長。スマートフォンへの移行でデータ通信量が増えていることから、単純な値下げには慎重な姿勢を見せた
安倍首相の携帯料金値下げ指示、利用者と業界全体に甚大な悪影響?より値上がりの恐れも
http://biz-journal.jp/2015/10/post_11918.html
2015.10.13 文=佐野正弘/ITライター Business Journal
安倍晋三首相が9月11日の経済財政諮問会議において、携帯電話料金の引き下げを検討するよう指示したことが大きな波紋を広げている。だが実際のところ、携帯電話の料金を単純に下げることが、携帯電話事業者(キャリア)だけでなく消費者にとって必ずしもプラスになるとは限らない。
■時価総額2兆円以上が吹き飛んだ首相の値下げ発言
アップルのiPhoneの最新機種であるiPhone 6s/6s Plusをはじめ、冬商戦に向けた新スマートフォンの登場を間近に控えた9月11日、携帯電話業界に大きな衝撃が走る出来事が起きた。
その発端となったのは、国のトップでもある安倍晋三首相だ。同日に実施された経済財政諮問会議において、安倍首相は携帯電話料金の家計負担が大きいとして、高市早苗総務大臣に料金引き下げを検討するよう指示を出したのだ。このことが引き金となり、業界全体の将来性に対する不安が高まったことから、週が明けた9月14日の大手3社の株価は軒並み急落。時価総額で2兆円以上が吹き飛ぶ事態となったのである。突然の値下げ指示によって先の見えない状況に、各キャリアとも戸惑う様子を見せているようだ。
一体、安倍首相はどのような目的で、料金引き下げを打ち出したのだろうか。甘利明内閣府特命担当大臣による記者会見要旨を見ると、首相が料金の引き下げを指示したのは、「携帯料金等の家計負担の軽減は大きな課題」となっており、家計負担を軽減することを重視していることがわかる。
さらにその後の質疑応答を見ると、甘利大臣の「3社体制で固定化してしまっていて競争政策が働いていないのではないかという指摘もあります」という発言も出ている。そうしたことから、今回の安倍首相の値下げ指示は、“家計負担の軽減”と“キャリアの競争促進”が目的になっていると、読み取ることができそうだ。海外の他の国と比べて高いか安いかではなく、あくまで国民の生活費の中で、携帯電話料金負担が大きくなっていることを懸念し、今回の施策を打ち出すに至ったようだ。
では、それを受けた高市大臣は、どのようなかたちでの値下げを検討しているのだろうか。高市大臣の9月29日閣議後記者会見の概要を見ると、大きく分けて3つの要素を挙げている。
1つ目は、データ通信のライトユーザーや通話かけ放題が不要な人などに向け、料金プランの多様化を進めること。2つ目は、端末価格と通信料金の一体化を是正し、端末の値引き競争からサービス・料金を中心とした競争へ転換すること。そして3つ目は、仮想移動体通信事業者(MVNO)によるサービスの低廉化や多様化を進め、競争を促進していくことだ。なお具体的な内容については、10月19日よりタスクフォースを設置し、その中で数カ月かけて詰めていくとしている。
auは首相発言の直前に、1回当たりの通話定額時間を5分に制限する代わりに基本料を1000円下げた「スーパーカケホ」を打ち出していた
■料金値下げは本当にメリットなのか?
実はiPhone 6s/6s Plusの発売に合わせるかたちで、KDDI(au)が定額通話時間を制限する代わりに基本料を1000円下げる「スーパーカケホ」の提供を実施しているが、今回の首相の指示ではより踏み込んだ施策が求められるものと想定される。首相の値下げ発言も、携帯電話に回していた支出を減らすことで、別の消費に回して経済を活性化することを狙ってのことであろう。毎月の料金が下がることは消費者にとってみれば喜ばしいことに間違いはない。
だが、それは現在のサービスが維持されたままの状態で、値下げが実現した場合の話だ。当然ながら単純に大手キャリアの月額料金が下がれば、キャリア自身の売り上げが下がり、業績が悪化してしまう。携帯電話料金の値下げがキャリアの経営に与えるダメージは非常に大きく、NTTドコモが昨年大幅な下方修正を実施したのも、新しい料金プランに移行した際、同社が想定している以上に容量が少なくて安価なパケット定額サービスの契約者が多かったためといわれている。
では、キャリアの業績が悪化すると、どのような影響がでると考えられるだろうか。最もわかりやすいのは、インフラの質の低下であろう。海外に行ったことがある人であれば理解しやすいと思うが、全国津々浦々、人口の少ない地方や山間部などであってもLTEによる高速通信が利用できる国は、日本と韓国くらいなものだ。それくらい日本の携帯電話インフラは世界有数の充実度を誇っているのだが、もしキャリアの売り上げが落ちれば、投資効率を上げるためインフラ投資が大都市に集中し、地方からインフラの質が急速に低下する可能性が出てきてしまうだろう。
また単純にキャリアの基本料金を下げてしまえば、現在急速に伸びているMVNOに水を差すことにもなりかねない。MVNOは「格安スマホ」「格安SIM」などといった言葉で注目されている通り、料金面の優位性があるからこそ人気を高めている部分がある。だがキャリアが基本料を下げ、MVNOに近い水準にまで料金を下げてしまった場合、よりサービスの充実したキャリアにユーザーが流れてしまい、MVNO全体が急速に冷え込んでしまいかねないのだ。
そして端末料金と通信料の分離だが、これも単純に実施してしまえば、特に国内の端末メーカーに対し甚大な影響を与えることになる。実際、2007年に総務省主導で設立された「モバイルビジネス研究会」の提言により、通信料と端末料金の分離が実施された際は、翌年の携帯電話端末の出荷台数が4割近く減少。多くの国内端末メーカーがその影響を受けて体力を大幅に弱める結果となった。
もしキャリアが端末割引できる余地が大幅に少なくなってしまった場合、スマートフォンの波によって一層体力を奪われた国内メーカーに対し、完全に引導を渡すことにもなりかねない。日本のメーカーがキャリアの販売支援を受け、高性能な端末を開発することが、海外のスマートフォンメーカーに高性能な部材を輸出するベースとなるなど、産業的に大きな影響を与えていることも忘れてはならない。
■キャリアは既存資産を活用した選択肢の提示を
さらに言うならば、現在のような携帯電話市場環境が出来上がったのも、ユーザーが充実したインフラとサービスを求め、高性能な端末を安価に手に入れることを選んだ結果なのだ。例えば、毎月の基本料が下がる代わりに端末の割引がなくなり、iPhone 6sがSIMフリー版の定価(8万6800円〜)にまで高騰することを多くの消費者が望んでいるかというと、決してそうではないだろう。そうした消費者の動向を無視してまで、基本料を下げることだけにまい進するのが正しいのかというと、疑問がある。
とはいえ、携帯電話キャリアの側も、大手3社に集約されたことによる“3すくみ”状態がサービスの硬直化を生み出し、キャリアが提示する以外の選択肢を実質的に奪う方向に向かっていたのは事実だ。例えばドコモは「カケホーダイ」の導入後、それ以外のLTE対応料金プラン契約者に対し端末代の割引をしないようにしたことで、実質的にLTE利用者はカケホーダイへの移行が必須とした。そのことが、通話し放題が必要ない、データ通信を重視するユーザーから反発を買う結果にもなっている。
こうした傾向もあることから、キャリア側もより多くの選択肢を用意する必要があるのではないかと感じる人も多いことだろう。
だがその選択肢は、実は既存の資産を活用するだけでも実現可能なものなのだ。実際、ソフトバンクはワイモバイル、auはUQコミュニケーションズといったように、低価格でスマートフォンを利用できるサービスを提供するサブブランドや関連企業を持っている。またドコモの場合、同じNTTグループのNTTコミュニケーションズがMVNOとしてモバイル事業を展開している。そうしたグループ内の資産を上手に活用すれば、より安価な料金を求める消費者に対し、多様な選択肢を提示すること自体、現時点でも不可能ではないのである。
キャリアが安易に値下げすることは、サービスの中身、さらには携帯電話産業全体に与える影響が決して小さくないものであるし、消費者がそのことを真に求めているとは限らない。それだけに、総務省の料金に対する介入には、相当な慎重さが求められるところだ。しかしながら今回の提案は首相からのものであるだけに、総務省がこれまで以上に踏み込んだ要求を打ち出してくる可能性も否定はできないだろう。
それだけに、キャリアには収益性を大幅に悪化させることなく、消費者に多くの選択肢を、今まで以上に分かりやすく提示するための工夫や努力が求められる。今後の話し合いによって、総務省がどこに“落としどころ”を見つけてくるのかはわからないが、大手キャリアにとっては試行錯誤の日々が当面続くといえそうだ。
(文=佐野正弘/ITライター)
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