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日銀の追加緩和は手段に注目! 「付利撤廃」と「マイナス金利政策」をどう考えるか?
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45720
2015年10月08日(木) 安達 誠司「講座:ビジネスに役立つ世界経済」 現代ビジネス
■追加緩和策として「付利の撤廃」はアリかナシか
8月鉱工業生産指数や9月短観など、このところ、景気低迷を示唆する経済指標の発表が相次いでいる。また、8月消費者物価指数は、生鮮食品を除く総合(コア)で前年比−0.1%と、2013年4月以来のマイナスとなった。
さらには、中国経済を中心として世界景気全体にも減速感が漂い始めていることから、日本の景気回復も頓挫する懸念が出てきた。そのため、日銀による追加金融緩和への期待が高まっている。
市場は、昨日(10月7日)、日銀が追加緩和策を発表するのではないかと期待していたが、その期待は裏切られた。現在のような経済状況が続く限り、当面は、金融政策決定会合が近づくたびに追加緩和の期待が高まるという展開が想定されるが、次の追加緩和については、その時期だけでなく、手段にも注目が集まっている。
具体的にいえば、次の追加緩和では、これまでの中長期国債の買い切りオペを中心としたマネタリーベース残高の拡大ではなく、日銀当座預金に対する「付利の撤廃」を行うのではないかという思惑が台頭しているのだ。
「付利撤廃」の期待が高い背景には、ここまで日銀が大量のマネタリーベースを供給したにもかかわらず、明確な景気回復が見られないこともある(筆者は、昨年4月の消費増税の影響が大きいと考えるが、市場関係者の間で、消費増税の影響が指摘されることはないようだ)。
しかし、最も大きな理由は、国債買いオペ(日銀が新規発行額の約9割を購入する計算)によって、日本の国債市場の機能が著しく低下しているという認識が強いことだ。
そして、追加緩和によって、日銀が国債購入額をこれ以上増やせば、現在かろうじて機能している超長期国債の市場までもが機能停止に陥り、日本国債の市場が「死んでしまう」かもしれない、と債券市場関係者の危機感が強いためである。
だが、結論を先にいえば、現状の追加緩和の手段として、「付利撤廃」の効果は極めて小さく、付利を撤廃したところで追加の緩和効果はほとんどないと思われる。従って、「付利撤廃」は中長期国債の買いオペ増額の代替手段にはなりえず、仮に「付利撤廃」が実現したとしても、中長期国債の買いオペ増額も同時に実施される可能性が高いと考える。
■「付利の撤廃」は金融機関の収益減少要因
ところで、「付利」の意味だが、日銀は、2008年11月16日以降、必要準備預金額を超える準備預金(超過準備預金)に対して、年率0.1%の金利を支払っている。これによって、基本的には、無担保コール翌日物金利の下限金利が0.1%で固定されており、「短期金融市場の機能」がかろうじて維持される格好となっている。
したがって、「付利を撤廃すべし」という意見は、「短期金融市場の機能を完全に停止させてもよい」といっていることと同じである(ただし、筆者は、何が何でも「短期金融市場の機能」を死守しなければいけないとは考えていない)。
さらに、これは、金融機関にとっての事実上の補助金になっている。金融機関は、日銀当座預金に預け入れていれば、「超過準備預金額×0.1%」分の利子を日銀から得ることができる。2015年7月時点(すなわち、日銀月でいえば、2015年8月15日時点)の超過準備預金額は196兆2,027億円となるので、金融機関は超過準備預金への預け入れによって1,962億円の利益を得ていることになる。
つまり、超過準備預金に対する「付利の撤廃」は、金融機関全体にとってみれば、収益の減少要因となるのだ。
最近のマーケットは、為替、債券、株式市場いずれにおいてもボラティリティの高い展開が続いている。また、金融機関の貸出残高は、銀行・信金計で前年比+2.7%(2015年8月時点)と緩やかに増加しているものの、金融機関の資金運用ニーズを満たす水準にはほど遠い。そのため、多くの金融機関が付利撤廃によって喪失した収益をカバーするのはたやすいことではないだろう。
そういった意味から、準備預金の「付利」は、マクロプルーデンス政策的な意味合い(金融機関の経営基盤の安定)があるのかもしれない。もし、そうであるならば、追加緩和の手段として選好されない可能性はさらに高まるだろう。
■「マイナス金利政策」の可能性について
一方で、単純にマネタリーベースの量を増大させていく「量的緩和」に対する批判が強まっているのも事実である。そのため、「量的緩和」の代替手段として、「マイナス金利政策」を提唱する経済学者も登場している。
そこで、日銀が「マイナス金利政策」を導入する場合、前述の超過準備預金に対する「付利」もマイナスにする必要がある。すなわち、「マイナス金利政策」の狙いの一つは、超過準備預金にお金を預け入れる金融機関に対してペナルティを課し、その分を他の運用(株式や外債等の金融資産、および貸出)へ回すように促すことである(「ポートフォリオリバランス効果の強化」)。
よって、「マイナス金利政策」を実施しようとすれば、超過準備預金に対する付利は撤廃し、マイナスにする必要がある。
だが、前述のように、マイナス金利の導入によって、ポートフォリオリバランス効果が有効に機能するか否かは、その時々のマーケット環境に大きく依存する。特に、現在のような金融資産のボラティリティ(価格変動性)が高い相場環境下で金融機関がリスクをとって金融資産に対する運用を拡大させるとは考えにくい。
この場合、マイナス金利がついた(すなわち、預け置くことで手数料をとられる)超過準備預金から流出したマネーは、そのまま金利ゼロの「金融機関保有現金」という形で金融機関に保蔵される可能性が高いのではなかろうか。
つまり、マネタリーベースやマネーストック統計上、現金(日銀券発行)残高だけが大きく増加するといった事態が発生しかねないと考える。超過準備預金が現金に振り替わったところで、経済にいくばくかのメリットが生じるだろうか?
■「マイナス金利政策」を機能させる条件とは
以上のように、理屈ばかり考えていても仕方がないので、「マイナス金利」の事例を考えてみよう。
この「マイナス金利政策」はすでにECBが実施済みである。ECBは2014年6月5日にマイナス金利政策の導入を発表した。だが、結局、それだけでは不十分で、2015年3月9日より量的緩和政策を開始した。
現在、ECBのドラギ総裁は、量的緩和のさらなる規模拡大の可能性を否定していないが、マイナス金利の拡大については否定的な見解を示している。
そもそも、マイナス金利政策が有効であり、量的緩和政策に限界があるとすれば、ドラギ総裁は、マイナス金利政策の拡大を選択したはずである。だが、そうはならず、マイナス金利政策実施から時間をおかずに量的緩和を採用し、追加緩和政策も量的緩和の拡大によって行う可能性に言及しているのである。
また、量的緩和政策の代替手段として「マイナス金利政策」を提唱しているアンディ・ホーダン氏(イングランド銀行のチーフエコノミスト)は、超過準備預金から現金へのシフトを回避するために、「現金の廃止」を同時に提案している点に注目する必要がある。
前述のように、金融資産への投資のボラティリティが高い場合、マイナス金利政策の採用によって、超過準備預金が現金に振り替わる可能性が高い。そのため、「マイナス金利政策」を有効に機能させる条件として「現金廃止」を提案するのは極めてまっとうな考えである。
とはいえ、いきなり現金を廃止することが実務上可能であろうか? ホーダン氏の提案は、有効な「マイナス金利政策」は実現不可能であることを逆説的に示唆している。
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