1. 2015年10月08日 07:08:56
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仕事をやめるか介護をやめるか、あなたはどうする? 介護離職に追い込まれないためのポイントと具体策 2015.10.8(木) 石原 亜香利「介護離職」が今深刻な問題になっている。厚生労働省の「平成25年雇用動向調査」によれば、2013年の介護離職者は9万3400人で、離職者全体の約1.3%を占めている。数は少ないように見えるが、前年の6万6100人と比べて41%も増加している事実は見逃せない。離職者全体に占める割合も0.98%から1.3%と増加した。5年前(2008年)の4万6800人と比べると2倍にもなっており、高齢化と共に急ピッチで介護負担も増している。 特に、親の介護が必要になり始める40代後半から50代後半までの男女に多い。働き盛りの管理職が流出することは、労働人口の低下だけでなく経験豊富な人材が損なわれるリスクがある。 介護者当人にとっても、心身共に負担が増すだけでなく再就職の困難さなどさまざまな問題が待ち受ける。追い詰められて自殺、殺人に至るケースさえもある。すでに事態は深刻だ。 そこで、介護離職の現状や、介護離職を避けるためのポイントなどを、介護離職のない社会の創造をめざして活動しているワーク&ケアバランス研究所(以下、WCB)の運営責任者である和氣美枝氏に聞いた。 介護離職がもたらす深刻な問題 ──毎年10万人近くが介護離職に追い込まれているといわれていますが、その主な原因はどこにあるのでしょうか? 和氣美枝氏(以下、敬称略) 自分の会社に「介護休業制度」や「介護休暇制度」があることを認識していない従業 員が非常に多いことが大きいと思われます。「介護」の話がしやすい“社風”かどうかも影響します。また、介護について会社に理解はあっても、実際の現場に 理解がない場合もよくあります。仕事と介護の両立問題は、経営者および部門長やリーダーが積極的に取り組まないと難しいのです。 ――介護休業・介護休暇制度を知らずに、追い込まれたまま介護離職に至ってしまった人たちには、実際どのような問題が起きているのでしょうか? 和氣 一番は、介護殺人・介護自殺。次いで、経済的負担が増すこと、肉体的負担、精神的負担、ビジネススキルの低下というのが主な問題です。 ──なぜ介護殺人・介護自殺に追い込まれてしまうのでしょうか。 和氣 介護殺人は、男性に多く、無職の方が多いです。今、介護殺人と呼ばれる60歳以上の被害者が親族によって殺害される事件は、過去17年の間で、少なくとも672件は起きているといわれています。 その主な原因は、介護疲れと将来への悲観です。その重すぎるストレスが自分に向かうと、自殺に追い込まれるのだと思われます。極論を言えば、介護離職することで、いずれは「殺すか死ぬか」まで行きついてしまうのです。 ――それ以前に、経済的に追い込まれることは、容易に想像できてしまいます。 和氣 離職して収入源が断たれれば当然、経済的にひっ迫します。生活費、家賃、そのた介護保険サービスを利用していればその費用も必要です。最初は親の年金や預金、自分の預金を切り崩していってもいずれ不足し、自身の将来の生活に大きな損害を及ぼします。 ――肉体的負担、精神的負担、ビジネススキルの低下について教えてください。 和氣 介護離職をして収入源が断たれると、介護保険サービスの利用を控える選択をしたり、仕事をしていない分、日中に要介護者の身体介護などを担ってしまったりと、肉体的負担が増えます。 また離職すれば社会との接点が持てなくなります。ケアスタッフとも要介護者を通しただけの関係になりがちですし、特に認知症などを患っている要介護者との生活は、一般的なコミュニケーションが難しくなるため、精神的に追い詰められるケースは少なくありません。 仕事は、インターバルが長ければ長いほどスキルも低下していきます。再就職したところで、年齢的にも新しいことを覚えたり、以前のスキルを思い出したりすることに時間がかかり、以前の自分との違いを実感し自信を失ってしまうことがあります。 介護をとるか、仕事をとるか ――すでに介護の必要に迫られている人もいると思いますが、介護離職を避けるためのポイントはありますか。 和氣 まずは自分の役割を正しく認識し、自分の人生を最優先で考えること。「仕事を辞めるか、介護を辞めるか?」の究極の選択には、迷わず「介護を辞める」をとることが重要です。 ――介護を辞めて仕事をとる選択には、勇気が要るように思われますが・・・。 和氣 「介護をしない」という選択も、責任のある介護者としての判断です。非道なことではありません。むしろ逆です。介護は自分ではない人の人生を背負うことです。自分の人生の基盤を失えば、まさに共倒れになってしまいます。 要介護者は法から、ケアスタッフから、あらゆるものから守られていますが、介護者は誰からも守ってもらえないと思ってください。自分の人生を守れるのは自分だけ。まずは自分の人生を最優先で考えてください。 介護離職を避けるための具体策 ――介護離職を避けるためには、具体的にどのような行動を起こせばいいのでしょうか? 和氣 次の3点を行うことをお勧めします。 1. 会社に協力を求めて仕事をしながら介護をする。今の会社では、どうしても仕事と介護の両立が難しい場合、確実に両立できる転職先を決めてから辞める 2. 介護者仲間を作る 3. ストレスは定期的に解消する 和氣美枝(わき みえ)氏。ワーク&ケアバランス研究所(WCB)運営管理責任者で、自身も介護者。介護離職のない社会の創造を目指し、個人向けには「働く介護者おひとり様介護ミーティング」の開催や、情報サイト「ケアラーズコンシェル」を通じた情報発信を行っている。企業向けの講演会・介護相談会などの総合コンサルティングの提供や、社労士やライフプランナー向けに勉強会などを開催するなど「仕事と介護の両立支援」を側面サポートする。 まずは、前向きに考えていくためにも会社に協力してもらいましょう。介護は行っていくうちに状況が変わります。今は働き方を変えたとしても、また今と同じように働けるようになることもあります。 とはいっても、介護に理解のない会社がまだ多いのが現状です。精神的に苦痛であるなら、転職も視野に入れましょう。ただし、転職先を決めてから今の会社を辞めてください。「いったん退職してからゆっくり探そう・・・」と思って、すぐに次の会社が見つかるほど世間は甘くありません。自分のスキル、収入、今後の人生、そういったものをしっかり見つめなおして、転職先を探しましょう。 ――介護者仲間はどこで作ることができるのでしょうか? また、仲間ができるとどんな利点がありますか? 和氣 全国には介護者支援団体がたくさんあります。最近では「男性介護者の会」という男性が集う会も増えています。ぜひ、そういったところに足を運んでみて、仲間を見つけてください。 ご自身の介護にとって有益な情報を得られますし、同じ境遇の仲間を得ることで、精神的な安心にもつながります。介護の状況を理解し、寄り添ってくれる人がいることで「自分だけじゃないんだ」と実感が持てます。介護のモチベーションも上がるものです。 ──「ストレスを定期的に解消する」ということですが、やはり意識的に解消したほうがいいのでしょうか。 和氣 1人で介護をしていると、ストレスがかかっていても「これくらいは当たり前だろう」「要介護者の辛さに比べればこんなことは」など、自分の気持ちを抑えてしまいがちです。 けれども介護は誰かと比べるものではありません。自分の心が「つらい」と言っているのであれば、時々は介護から離れて羽を伸ばすことも大切です。 ――最後に、今、まさに介護離職を考えている人へのメッセージをお願いします。 和氣 「介護が始まったら会社を辞めるしかないのか?」 そんなことはありません。 介護者の不幸は「人生の選択肢が見えなくなること」だと思っています。今までの人生を選択してきたように、これからの人生にも選択肢は必ずあります。 もちろん「会社を辞める」ということも選択肢の1つではあります。しかし、短絡的に介護離職をして良いことは一個もありません。それを肝に命じたうえで自分の人生を大事にしていただきたいと思います。 【参考】介護者の会、介護者支援団体 ・全国介護者支援団体連合会 ・男性介護者の会 ・NPO法人介護者サポートネットワークセンター・アラジン http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44918 |