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お金の運用でリスクを取るのは嫌だという人は少なくない。では「安全第一」の運用方法とは?
「リスクを取るのは嫌」な人のための資産運用法
http://diamond.jp/articles/-/79550
2015年10月7日 山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員] ダイヤモンド・オンライン
■「リスクが嫌いな人」は確かにいる 投資は無理にするべきものではない
先日、単行本の打ち合わせのために、ある出版社の編集担当の青年(といっても既に38歳だ)が筆者のオフィスを訪ねてきた。お金の運用に関する本を作りたいという用件だったが、「あなた自身はどのような運用に興味があるのか?」と質問したら、「僕の本音としては、一切リスクを取りたくないのです」と答えた。
彼には、1年前にある大手企業から出版社に転職した経緯があった。前職の退職の際に受け取った「虎の子」(本人の弁による)の退職金数百万円を、絶対安全な方法で、しかし、なるべく有利に運用したいのだという。「いざという時には、これだけが頼りのお金なので、株式とかのリスクは嫌なのです」と言っている。ちなみに、彼が書いた企画書にあった、書籍の仮タイトルは「I love Low Risk !」(“love”の代わりにハートのマークだが)だった。
金融資産の運用でリスクを取ることは一切嫌だと考えている人は、少なからずいる。確かなものであってほしい自分の金融資産の価値が、毎日変わる株価のようなものの影響を受けることが半ば生理的に許せないのだろう。
「リスクを取って投資した方が有利です」あるいは「将来のインフレの可能性を考えると、多少はリスクを取った方がいいと思います」などと言っても、こうした人に効果は乏しい。
確かに、たとえば、金融資産の価値変動を気にせずに済む方が仕事に集中できるということなら、無理に株式や投資信託に投資する必要はない。投資は無理に強いるべきものではない。やりたい人が、自分の計算で得だと思った場合にのみやったらいい。投資に絶対はないのだから、商売を作りたい金融マンや、根性の腐ったFPがしばしばやるように、「将来のインフレ」や「老後不安」で脅してまでリスク資産への投資に誘導するのは、明らかにやり過ぎだ。
そこで、できるだけリスクを取らない運用はどうするのがいいかについて、しばし考えてみた。
■「現状維持」のリスクに注意 銀行はどのくらい安全か?
問題は、運用手段の違いによる、(1)安全性の評価と、(2)利回りとリスクの有利・不利だ。後者は、通常のリスクを取った運用と同様の考え方だが、この場合、リスク拒否度が非常に大きい、つまりリスクへのペナルティが大変大きい場合を考えるのだと整理するといい。
先の青年の退職金は、前の勤務先から振り込まれた普通預金口座の中にそのままあるという。結果的に、1000万円未満の円預金なので預金保険の保護範囲内だが、預金保険について青年は知らなかった。
「危ないのは嫌だ」と思っていながらも、所与の状態から動くことができない人は世間に多い。動く先に関しては失敗した場合に対して非常に悔しく感じる一方で、「現状」については自分のせいではないと思うのだろう。この心理には気をつけておきたい。人は「現状」のリスクを、これから新たに選ぶ選択肢のリスクよりも、過小評価しがちだ。
もっとも、筆者も他人のことばかり批判はできない。筆者には、「まだ潰れまい(たぶん他社に買収されるだろう)」と思っていた勤務先が、いきなり「自主廃業」(あの会社、です)を発表して、転職活動が後手に回った苦い経験がある。
さて、銀行の預金はどの程度安全なのだろうか。
率直に言って、直ちに「危ない」と思う日本の銀行の名前を筆者は今すぐ挙げることができない(筆者が知らないだけかもしれないが)。
しかし、2、3年先には「危ない銀行」が出てくる可能性は無視できるほど小さくないと思う。
理由は3つある。
第1に、詳しくはすぐ後に検討するが、将来、日本の金利が上昇するリスクがあるからだ。現在、貸出難から資金運用を大きく依存している有価証券運用ポートフォリオが、長期金利上昇による債券価格下落で大きな損失に陥る可能性があるし、貸出金利は急に上げられないので資金調達コストが急上昇した場合の逆ザヤも心配だ。
また第2に、長期金利が低下したことなどから、現在銀行の資金利ザヤは縮小ないし場合によっては逆ザヤになっており、この状況に対応するべく、運用におけるリスクを積み増す銀行があることだ。
つい最近の新聞記事でも、ある地銀グループ(批判したい訳ではないので名前は挙げない)が、米・欧双方に事務所を開設する予定であることが報じられていたが、その目的の一部に「外債や外国株への投資に役立つ現地の情報収集」とあって、不安だ。この銀行の有価証券の利回りは15年3月末時点で約1%だ。将来的には、傘下に運用会社を設立して「利回りが高めの外債への配分比率を徐々に高めていく」という。
証券マンは、「いい見込み客だ!」と注目して、この記事を切り抜いているだろうが、第三者的には、例えば地銀がリスク資産運用に傾斜するような動向は相当に不安だ。
また、金融機関が利ザヤの薄さに苦しむ状況は、大手証券会社にとって(主に外資だろうが日系もやらない訳ではない)、当座の期間利益が出るが、潜在的に大きなリスクがある(同時に証券会社の儲けが大きい)、デリバティブ商品のセールスチャンスだ。ろくでもない目的に金融工学を応用した「先端商品」(もちろん皮肉でそう言っている)を今仕込みつつある銀行があることだろうと推測される。こうした商品のリスクが顕在化するのは、仕込みから2、3年経ってからだ。
加えて、第3番目に、そもそも銀行という商売が、根本的に見かけほど低リスクではないことを考慮しなければならない。相場による巨額の損失や、大きな貸し倒れ、これらによる取り付けなどが、突然起こっておかしくないビジネスだ。問題が起きた時に、週末まで時間を稼いで、休日中に処理を終えるといった、かつてのパターンが将来も確実に可能だと決めつけることはとてもできない。また、金融行政として、「何があっても、日本の銀行預金は安全なのだ」というアナウンスメントは適切ではない。
■長期金利の推移にも注意 金利が上がれば不利になるものも
銀行の安全性に加えて、運用手段の有利・不利に大きく関わるのが、金利の推移である。特に近い将来の長期金利(10年国債の流通利回り)がどうなるのかが重大だ。
経済財政諮問会議に内閣府が提出した「中長期の経済財政に関する試算」では、経済が政府の期待する線で推移する「経済再生ケース」で、長期金利(名目)は、2016年度1.4%、2017年度1.9%、2018年度2.7%、と推移し、2019年度には3.4%に達すると予想されている。
10年の期間がある債券は(利率にもよるが)1%の利回り上昇で1割弱価格が下落することを思うと、銀行のバランスシートが安泰でないことが想像できるし、もちろん、この間、長期の利付債券や定期預金などでお金を運用することは得策でない。
■安全運用商品ベスト3 最もリスクが小さいのは…
それでは、どうしたらいいだろうか。安全第一でお金を運用したい個人にとっての、現時点での、運用対象ベスト3を挙げよう。
(1)個人向け国債・変動金利10年満期型
(2)銀行の普通預金(ただし1人、1行、1000万円以下)
(3)MRF(マネー・リザーブ・ファンド)
変動金利10年満期型の個人向け国債の主な特徴は、1.半年単位の変動金利(10年国債流通利回りの66%がめど)、2.直近2回分の利払い(税引き後の金額でよくなった)をペナルティとして払えば、いつでも元本で償還可能(すなわち購入1年目以降、元本割れしない)、の2点だ。
将来、長期金利が急上昇するような局面(いわゆる「国債暴落」である)が訪れても元本割れしないし、利回りはそこそこの水準で追随する。
こうした局面では、前述のように破綻する銀行が出る可能性があるが、金利負担上昇で国家財政の資金繰りが苦しくなるのはその後であり、「国債」でもあるから、銀行の預金よりは明らかに信用リスクが小さい。
特に、リスクを全く取りたくない人が、1000万円以上のお金を、しばらく動かす予定がない場合、個人向け国債の変動金利10年満期型は、圧倒的な第一選択肢だ。筆者が、北海道に住む母親(80歳)に勧めている「お金の安全な置き場所」もこれだ。
銀行、証券会社、郵便局(ゆうちょ銀行)のいずれの店頭でも買えるし、当初3ヵ月に1度だった募集は、現在毎月になった。
10月5日の新聞に載っている広告を見ると、10月の金利は0.22%(税引き前)に決定したという(募集期間は10月5日〜30日)。同日のあるメガバンクのスーパー定期の10年物(!)で300万円超の場合でも、利率が0.12%であることを思うと、相対的に魅力的な利回りだ。
読者に是非とも伝えて置かなければならない注意点は、窓口で別の商品(たとえば毎月分配型の投資信託など)を薦められるケースが多いことだ。個人向け国債は販売金額の0.5%の手数料が国から販売金融機関に支払われる。一方、投信の場合、販売手数料で3%、運用管理手数料(信託報酬)で年率1.5%超といったものが珍しくない。しかも、個人向け国債は手数料が稼げない上に、10年間も顧客の資金が「寝る」可能性が大きい。
窓口の担当者は、他の商品を説明したがるかもしれないが、一切耳を傾けてはいけない(相手の時間を無駄にしないためにも!)。特に銀行の窓口の人間が売る投資信託や、まして保険に、「買っていい」と思えるものは、ほぼ無いのだ。決意を固めて窓口に赴き、断固として個人向け国債を買おう(手前味噌になるが、ネット証券で買うなら、余計なセールスに遭わずに済む)。
■普通預金は意外と悪くない 1000万円超ならMRFが有力
ベスト3の第2位の普通預金を、意外に思われる読者がいるかもしれない。
しかし、毎日出し入れできて、送金や公共料金支払い、カードの決済などに使える普通預金は便利だ。加えて、現在長期金利が下がったこともあって、他の運用手段と普通預金の利回り差が平時よりも著しく小さい。経済学風に言うと、普通預金にお金を預けることの「機会費用」が小さいのだ。
1000万円までの金額であれば、普通預金も悪くない。
ただし、預金保険があるといっても、自分の取引銀行の破綻は気分の悪いものだし、預金保険の「名寄せ」の期間中に自分の預金の引き出しが制限されるので、銀行は「親しみやすい銀行」よりも「強い銀行」を選ぶべきだ。銀行員と親しんでもろくなことはないので、この点は強調しておく。
また、1000万円を超えるお金で、近い将来お金の出入りがあるかもしれない資金の場合、証券会社で扱っている商品だがMRF(マネー・リザーブ・ファンド)が有力だ。
MRFは決済には使えないし、利用可能なATMが銀行の普通預金よりも少ないが、毎日出し入れできる。また、投資信託なので、財産は販売した証券会社ではなく、信託銀行で信託銀行の財産とは独立に管理されているため、販売・運用にあたる金融機関の経営リスクを心配しなくていい。
運用対象は元本保証のあるものだし、投信なので、分散投資されており、経営にリスクがある銀行の預金よりも安心な面がある。
普通預金とどちらを2位にするか迷ったが、1000万円を超えて普通預金を持とうという方は少ないだろうから、利便性に敬意を表して、今回は普通預金を第2位とした。
■さて、「リスクは嫌」な弱気な青年はその後どうしたか?
冒頭に紹介した出版社の青年は、虎の子の退職金をその後どうしたか。
何と、彼は、手持ち資金(虎の子の退職金)の数割(全部ではない)を内外の株式のインデックスファンドに投資し、個人型の確定拠出年金に加入し、さらにNISA(少額投資非課税制度)の口座を開いた(しかも、全てを、筆者の勤める証券会社のライバル会社で!)。
彼によると、制度が複雑だけれども、最も知って得をしたと思うのは、確定拠出年金だという。
金融マンに悪用されると困るので、彼が改宗に至った経緯は明かさない。だが、読者は、本稿のリスク嫌いの人向けの運用をご参考にしていただいても構わないが、「そこそこのリスク」を取る運用の選択肢についても、嫌わずにご検討いただけるとさらにいいと思う。
もちろん、結論としてどちらを選んでいただいてもいい。
最後に、青年が内外のインデックスファンドに投資した後、「チャイナショック」による株価の下落があったが、彼はこれに全く動じずに仕事に励んでいることを付記しておく。
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