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MVNOの事業者数の推移(「総務省 HP」より)
消費者を愚弄するケータイ料金格差問題!個人はバカ高く、法人は月額5百円の格安
http://biz-journal.jp/2015/10/post_11844.html
2015.10.07 文=町田徹/経済ジャーナリスト Business Journal
来年の参議院議員選挙へ向けて「経済最優先」を掲げる安倍晋三首相の携帯電話料金引き下げ指示を受けて、高市早苗総務大臣は先週火曜日(9月29日)、専門のタスクフォースを設置する方針を明らかにした。10月19日に第1回会合を開催し、年内により低廉で利用しやすい携帯電話の通信料金を実現するための方策を取りまとめるという。
だが、政府が問題として認識できているのは、ひとつの端末を長期間使う利用者の支払う料金が、端末を頻繁に替える利用者に対する“補助金化”している問題と、通話やデータ通信の格安プランがライトユーザーに使いにくい仕組みになっている問題の2つぐらいだ。しかも、政府はその2つに対する有効な解決策を持ち合わせていない。
加えて、もうひとつ大きな問題が存在することを政府は見逃している。それは、数千、数万件の契約をする法人(大口)に対し、携帯大手3社が1契約につき月額500〜1000円という破格の安値で携帯電話サービスを提供しているという事実だ。我々個人ユーザーからその5〜10倍の料金を徴収するのとは、別物のビジネスが存在する。
抜本的な携帯料金の引き下げを実現したければ、この格差問題の徹底的な実態調査と、法人・個人間の極端な格差を認めない新たな規制の枠組みづくりが不可欠だ。さもないと、ひずみは解消しないだろう。
9月29日の閣議後の記者会見で、高市総務大臣は「このたび、『ICTサービス安心・安全研究会』の下に『携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース』を設け、検討を開始することとなりました」と切り出した。安倍首相にも「12月に一定の方向性を出したい」と報告し、「よろしくお願いします」と承認されたという。
その具体策として、「私が思いつく方向性は、第1に、データ通信のライトユーザーや通話の『かけ放題』が不要な方々のニーズに対応した料金プランの多様化。第2に、端末価格と通信料金が事実上一体化してわかりにくい状況を、サービス・料金を中心とした競争へ転換できないか。第3に、MVNO(仮想移動体通信事業者)サービスの低廉化、多様化を通じた競争を更に促進する」といった腹案を開陳した。
続く質疑の中で、第2の問題に踏み込んで、「電話番号を変更せずに携帯電話事業者を乗り換えるということを、しょっちゅうされる利用者に対しては、料金割引やキャッシュバックが行われていて、正規料金を払う長期利用者に比べて、少し不公平なんじゃないか」という問題意識も示した。だが、最後には、「MVNOというのは、大手の携帯電話事業者に比べると割安な料金設定をしていますので、そのサービスの一層の普及を通じて、料金の値下げ競争というのが進むと期待をしています」と述べ、これまで同様、MVNOの新規参入や普及の促進が値下げの切り札と結論付けたのである。
■爆発的な価格破壊が起きていない理由
高市大臣の問題意識そのものは大きく間違っていない。携帯3社がアップルのiPhone 6sの販売開始に合わせて鳴り物入りで宣伝している通話の「格安プラン」は、データ通信のヘビーユーザーに対する付加的なオプションだ。データ通信で多額の通信料を払わないと契約できない仕組みになっている。携帯料金を抑えるためにライトユーザーにならざるを得ない利用者には、無縁のものなのである。
また、携帯電話会社を乗り換えて新型端末を無料もしくは格安で入手する人たちのために、長期間一つの事業者で同じ端末を使い続けているユーザーの支払う通信料金が費やされている問題も、すでに問題指摘から10年前後が経つよく知られた問題である。
これら2つの問題に、総務省は再三口頭指導を行い、携帯電話事業者に是正を促してきたが、事業者側は口先では素直に従うようなことを言いながら、目先を変える新たなプランを打ち出す程度の対応でお茶を濁してきた。
高市大臣が、解決策として期待を込めて紹介したMVNOだが、過去数年間の新規参入は目覚ましい。2015年3月末には181社と、過去1年半で30社もが新規に参入した。MVNOが提供するスマートフォンの利用料金も格安だ。大手3社が最低で月額6500円(基本料2700円、データ通信料3500円、ネット接続料300円の合計)なのに対し、例えば楽天モバイル(フュージョン)は月額1600円(3.1GB)プラス通話料(20円/30秒)、イオンスマホ(ビッグローブ)は月額1350円(1GB)プラス通話料(20円/30秒)といった具合である。
しかし、MVNO各社は回線を携帯3社から賃借している。携帯大手という観音様の手のひらの上を飛び回る孫悟空のように、限定的な競争をしているにすぎないのだ。その回線の賃借コストを下回って、利用者向けのサービスを提供することは不可能だ。
また、MVNO各社と携帯3社とでは基礎体力が違う。メーカーから大量にスマートフォン(スマホ)を買い取って、通信料金と一緒に月賦代金を回収するという販売手法を真似るほどの体力が、MVNO各社にはないのだ。結果として、iPhoneやXPERIAのような人気機種は提供できず、爆発的な競争力を持ちえない。
これが、すでに180を超すMVNOが誕生しながら、爆発的な価格破壊が起きていない理由なのだ。高市大臣がどんなに強調しても、これまでと同じやり方で、政府が描くような携帯料金の引き下げが起きるわけがない。
■個人を食い物にする構図
一方で、冒頭で記したように、もうひとつ大きな問題になっているのが、法人契約だ。個人契約が、すべてのユーザーに共通して適用を迫られる約款に縛られるのに対して、法人契約は約款規制がなく相対で契約条件を決められるので、携帯3社がそろって個人向けサービスでは考えられない格安サービスを提供しているのである。筆者が把握しているだけでも、数万を超す大口契約を結んでいる大企業では月額500円、2000件程度のユーザーでは月額1000円といった料金のスマホや携帯電話のサービスが実在する。
法人向けサービスには、個人向けと違って販売経費が少なくて済むとか、他のソリューション・サービスが期待できるなど、違う要因があることは事実である。しかし、個人向けサービスで月額5000〜7000円以上とみられるバカ高い料金を徴収しているからこそ、格安法人サービスが可能という面もある。この個人を食い物にする構図を徹底的に調査してメスを入れなければ、家計の重荷を取り除くことは不可能である。
■劇薬しか方策はないのか?
料金引き下げ問題について、旧郵政省時代からすでに20年近くにわたって政府が低廉化を要請しても、体よく携帯事業者に無視されてきた背景にも着目するべきだろう。旧郵政省が1995年に、携帯料金の認可制度を撤廃し、事業者が自由に設定できるようにしたことが根本的な原因になっている。
当時に比べて、事業者の淘汰が進み各社の市場支配力が高まったのに、第3、第4世代の携帯電話サービス開始に当たっての周波数割り当てで既存事業者だけに周波数を割り当ててきたことが、市場の寡占化に拍車をかけて、料金の高止まりを野放しにする結果になった面も否定できない。
中長期的に解決していくのならば、2020年以降にサービス開始が見込まれる第5世代携帯電話の周波数割り当てで、既存事業者を外し、新規参入事業者だけに割り当てることが肝要だ。そんなには待てない、もっと迅速に成果をあげたいというのであれば、劇薬だが、料金規制を復活させるしか方策はない。
高市大臣、ここは思案のしどころである。
(文=町田徹/経済ジャーナリスト)
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