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「何が起こっているのかわからない」。ヴィンターコーン会長は不正への関与を否定した〔PHOTO〕gettyimages
フォルクスワーゲン「排ガス不正問題」 背景にトヨタ「プリウス」に対する過剰なライバル意識
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45635
2015年10月06日(火) 週刊現代 :現代ビジネス
不正発見者・自動車評論家・ジャーナリストらが語る
どんな自動車も事故や環境汚染を生む。人命に関係するビジネスだから、メーカーには厳しい法令順守やリスク管理が求められる。それを、トップ企業が破った。今世紀最大かつ最悪の自動車事件だ。
■ドイツ人が「屈辱的だ」と
「ドイツではもう大騒ぎです。最近は欧州に押し寄せる難民問題のニュースばかりでしたが、フォルクスワーゲンの問題が発覚して以降、この話題がトップニュースです。ドイツでは就労人口の7人に1人が自動車産業に従事しています。その最大手企業が不正を働いたのですから、『大変なことになってしまった』と国民全体が頭を抱えているのです」(ドイツ在住の作家・川口マーン惠美氏)
年間売上高2260億ドル(約27兆円)。
全世界に抱える従業員数60万人。
世界販売台数1014万台(2014年)。
自動車業界で「カー・ジャイアント」の名をほしいままにしてきた、世界トップ企業の独フォルクスワーゲン。
その巨象が足元から崩れ落ちようとしている。
川口氏が続ける。
「テレビのコメンテーターたちもヒステリックにこの問題を取り上げています。9月22日のニュース番組ではコメンテーターがこう言っていました。
『ドイツの自動車産業が強いのは安いからではない。品質が良いからだったのだ。それを世界中の人々が認めていたのだ。その名声がフォルクスワーゲンの不正で傷つけられてしまった。これは取り返しのつかないことだ』
そしてこうも言っていました。
『今回の不祥事で喜ぶのは他国の車メーカーですよ。例えばトヨタだ』
ドイツ人にとって、フォルクス(=国民)ワーゲン(=車)は書いて字の如く『国民車』です。その意味で今回の不祥事はドイツ人全体にとって屈辱的なものなのです」
■ドイツ人は責任をすぐに認めない
発端は、米環境保護局(EPA)が9月18日、フォルクスワーゲンが米国での排ガス規制をクリアするために不正な装置(ソフトウェア)を使っていたと発表したこと。
対象は『ゴルフ』『ビートル』など日本でも大人気の車種のディーゼル車で、米国でこれまでに販売された約48万台。
当初はそのリコール問題でおさまるかと思われていたが、これが日に日に大問題へと発展していった。
「ドイツ人は自分の責任をすぐに認めない傾向があります。今年3月のジャーマンウイングス機の墜落事故の際も、150人が亡くなったにもかかわらず、同社は『遺憾に思う。遺族の皆さんと同じように私たちも悲しい』というコメントでお茶を濁して、謝罪をしていません。
フォルクスワーゲンも今回の問題が発覚した当初、マルティン・ヴィンターコーン会長は、『わが社は法規を破るような不正は絶対に認めない』と強気の姿勢でした。ところが2日後の20日には一転して会長が、『信頼を裏切り、深くおわびする』と陳謝したので、ドイツ人はびっくりしてしまった。フォルクスワーゲンは調査もまだ始まっていないのに謝った。さらに会長は23日、早々に辞意も表明した。これは深刻だぞ、と」(前出・川口氏)
このあたりから海外メディアを中心に、フォルクスワーゲン問題の集中報道合戦がスタート。
「米国当局から制裁金として最大2兆円が科される可能性がある」
「欧州でも不正が発覚、対象となる車は全世界で1100万台にのぼる」
こうした目のくらむような数字が次々と飛び出すようになると、米国史上最大規模の政治スキャンダル「ウォーターゲート事件」をもじって「ディーゼルゲート事件」と呼ばれるようになるなど、全世界を揺るがす一大騒動へと炎上していった。
■不正を発見した張本人が語る
株式市場も即座に反応した。
「フォルクスワーゲンの株価は暴落状態で、数日で時価総額が4割ほど吹き飛びました。つられてほかの欧州の自動車メーカーや部品メーカーの株価も急落し、ドイツ経済全体に波及しています。
フォルクスワーゲンはニーダーザクセン州が本拠地であり、州は同社の20%近い大株主です。その株が大暴落しているので、州知事は大激怒。『誰がこんなことをしたのか。なぜこれが今まで明るみに出なかったのか』と憤った様子がニュースで流れています」(前出・川口氏)
世界の株式市場にも飛び火している。9月22日の米ニューヨーク市場では、自動車関連株への売りが殺到し、ダウ平均が一時200ドル以上も下げる急落劇が勃発。東京市場でも、フォルクスワーゲン関連株としてスズキや部品メーカーのヨロズ、テイ・エステックなどの株が売られるなど、世界の株式市場は、「フォルクスワーゲン・ショック」一色だ。
そもそも今回の不正を最初に発見したのは、米ウェストバージニア大学の研究者が発表したレポートにあった。
レポート作成にかかわったダニエル・カーダー氏が言う。
「われわれが最初にテストをしたのは2013年の春から夏にかけてです。フォルクスワーゲンとBMWの車を実際に走らせてテストしたところ、BMWはクリア。一方のワーゲンは許可されているレベルの15〜35倍の排ガスを出していることが発覚しました。
その結果をウェブサイトで公表したところ、それをもとにEPAが独自調査を開始した。すると、同じように排ガスレベルが高いことを発見。それが今回のEPAによる発表となったわけです」
こうした事態を受けて、ドイツ、イタリア、韓国などの当局もフォルクスワーゲン車の調査を開始することを決定した。フォルクスワーゲンにしてみれば他国でも「不正」が次々に発覚するリスクに直面しているわけで、予断を許さない。
米オートモーティブニュースでフォルクスワーゲン担当を務めるライアン・ビーン記者も言う。
「米国ではすでに次々と集団訴訟が始まっており、莫大な額に膨れ上がることは間違いありません。フォルクスワーゲンにはリコール対応も求められますが、その前にまず車をどうチェンジして、どう直せば、法令に従うことができるようになるか。フォルクスワーゲンはそれを見つけるところから始めなければいけません。やり方が見つかったとしても、EPAが承認してくれないと話にならない。その過程で開発コストも膨れ上がるでしょう」
■トヨタに勝ちたかった
フォルクスワーゲンはさっそく、2010年に英石油大手BPがメキシコ湾沖で原油を大量流出させた事故の対応をした実績を持つ法律事務所に対応を依頼。また、今回の対策費として約8700億円を計上したと発表したが、果たしてそれだけで逃げ切れるか。
フォルクスワーゲンの年間純利益は約1兆5000億円。2兆円といわれる制裁金だけで大幅赤字に転落するリスクがあるだけに、まさに窮地に追い込まれたといえる。
「隠し通すことができるとは思わない」
日産自動車のカルロス・ゴーン社長は、今回のフォルクスワーゲンの件について米ロイター通信にこう語った。
フォルクスワーゲンはこんなわかりやすい「犯罪」になぜ手を染めてしまったのか—。
自動車業界関係者たちが異口同音に唱える本音である。
「一つには、米国市場開拓のための焦りがあった」
自動車評論家の国沢光宏氏は言う。
「フォルクスワーゲンの主戦場は欧州と中国で、米国市場は苦手にしています。しかし、世界で圧倒的なナンバーワンメーカーになるには米国制覇が重要課題となっていた。
米国は燃費のいい車が人気ですが、一方で排ガス規制の水準がものすごく高い。かつて日本勢も米国でディーゼルを売ろうと画策しましたが、断念した歴史があるのは、この規制を超えられなかったからです。
フォルクスワーゲンは規制さえクリアすればシェアを拡大できると考えたのでしょうが、得意とするディーゼル技術をもってしても米国の高い規制は超えられなかった。それが不正を呼び込んでしまった」
その米国市場を席巻しているのがトヨタを筆頭にした日本勢である。フォルクスワーゲンとトヨタは世界ツートップとして覇権を競い合う最大のライバル同士である。
「フォルクスワーゲンはトヨタの『プリウス』をどうしても超えたかったのではないか」と、あるモータージャーナリストは指摘する。
「フォルクスワーゲンはトヨタに対してものすごくライバル意識が強い。販売するのはCセグメントという同クラスで、各市場で競い合ってきた。しかし、米国では'80年代以降ずっとトヨタに水を開けられていました。
EPAは各社の車の排ガスの数値や燃費を公表していますが、フォルクスワーゲンの『ゴルフ』はいつもトヨタの『プリウス』に負けていた。
日本勢ではじめに米国のマスキー法という排ガス規制をクリアしたのはホンダで、これはホンダの北米での躍進のきっかけになった。トヨタも『プリウス』のハイブリッド技術で、エコカーの先進ブランドとして認められた。
フォルクスワーゲンはディーゼルでこれを打ち負かしたかった。が、どうしても規制がクリアできずに不正ソフトを搭載してしまったのでしょう」
■あと10年は尾を引く
フォルクスワーゲンの世界的な躍進が目立ち始めたのは、'08年9月に発生したリーマン・ショック後のことである。
米ゼネラル・モータースやフォードが低迷する中で、韓国の現代自動車とともに大躍進を演じてきた。
今回の調査で、フォルクスワーゲンはまさにその大躍進の最中、'08年頃から不正装置を使っていたことが発覚した。
実は現代自動車も、'12年に米国で燃費性能の水増し表示が発覚。それによって、それまで米国で『日本車キラー』と呼ばれる勢いで売り上げを伸ばしていたのに、販売が急失速した。
フォルクスワーゲンも現代自動車も同じ穴のムジナ—。
そんな皮肉も聞こえてきた。
「フォルクスワーゲンは数字の罠にはまった。'90年代はホンダと肩を並べるメーカーでしたが、'00年代に世界一を目指して数字を追い求めた。目標は、年間販売台数1000万台。しかし、世界で1000万台を売るオペレーションやマネジメントは容易に獲得できるものではない。
豊田章男社長が、1000万台を超えても浮かれずに、『いまは踊り場』と気を引きしめているのは、まだ経験やノウハウが十分ではないと自省しているからでしょう。それをフォルクスワーゲンは足元を固める前に数字だけが独り歩きし、暴走してしまった」(経済ジャーナリストの片山修氏)
フォルクスワーゲンでは今春、経営陣のお家騒動も勃発していた。組織が金属疲労を起こしていた中での不正発覚は必然だったのかもしれない。
「一度堕ちたブランドは数年では取り戻せない。10年単位で引きずることになる」(経営コンサルタントの鈴木貴博氏)
2015年度は世界一の座を確実に取るといわれた中でのまさかの転落。どこまで落ちていくのか。底は見えない。
「週刊現代」2015年10月10日合併号より
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