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[時事解析]「超低金利政策」20年
(1)需要創出効果は不十分 生産性向上が急務
短期金利が1%を下回る超低金利が日本で始まって20年を迎えた。需要創出を狙ったが、効果は不十分だ。日本経済は1990年代半ば、円高や不良債権問題で需要が供給を下回った。日銀は95年9月8日に公定歩合を0.5%に下げた。それ以降、翌日物金利はゼロ近傍で推移している。
ポール・クルーグマン米プリンストン大教授は98年、「金融政策が効かなくなる流動性のワナに陥った」と分析。海外からは「通貨下落や物価目標でまず脱出を目指すべきだ」(ラルス・スベンソン・ストックホルム大教授)との指摘が相次いだ。
日銀はデフレスパイラル回避が必要としながらも、物価がほとんど上がらない状態については実質的に容認。2001年に導入した量的緩和も小規模で、国際通貨基金(IMF)のペリン・バークメン氏は「物価への効果はなかった」と結論づけた。
日銀は13年にようやくゼロ近辺の物価水準からの脱出を目指す。2%の物価目標を設け、巨額国債を買い入れる量的・質的緩和を導入。通貨発行量が増えれば物価が上がるとする貨幣数量説を採用した格好だが、導入2年を過ぎても物価は当初目標に達していない。国の負債が膨張する中で新たな政策を打てる余地は狭まっており、ゼロ近傍脱出の道筋は見えないままだ。
ドイツ連邦銀行のワイトマン総裁は「超低金利の裏には成長率低下があり、必要なのはトレンド成長率の引き上げだ。そのためには極端な金融緩和や国債発行に頼った財政拡大ではなく、生産性を上げるための構造改革が重要だ」と指摘する。
(経済解説部 太田康夫)
[日経新聞9月28日朝刊P.17]
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(2)薄れる企業・銀行支援 金融の革新は停滞
超低金利政策は当初、過剰債務を抱える企業と、不良債権が膨らむ銀行の支援を狙っていた。超低金利は負債コストを圧縮した。企業の利払いはピークの年50兆円超から1995年に26兆円、近年は3兆円台に低下。それにより過剰債務から脱出できた面がある。
ただ企業は98年からフローベースで資金余剰になった。今は200兆円を大きく超える現金・預金を抱えるが、受取利子は4兆円台。設備投資時の外部調達ニーズが減ったため、超低金利が投資を刺激し景気を押し上げる効果も薄れている。
一方、銀行の預金などの利払いも、ピークの120兆円超から95年に80兆円、足元は28兆円に減った。低金利は調達コストを下げ、金融危機からの脱出を後押しした。
しかし貸出金利も下がり、都銀の貸出約定平均金利は1%を割った。利ざやは縮小、一部の大手銀では国内の総資金利ざやがマイナスに陥った。
銀行が中小企業を支える機能も低下した。貸し出しに見合った利益が得にくく、リスクの高い中小融資に消極的になったためだ。この20年で中小企業融資は80兆円も減っている。
市場業務では量的緩和が響き、国債などで価格変動率が低下。取引量の低迷による手数料収入の減少や、価格変動を回避するデリバティブ(金融派生商品)需要の低迷を招いた。
メリルリンチ日本証券の大槻奈那氏は超低金利について「長期化で、長短金利差を縮めた。金融イノベーション(革新)が生まれにくくなり、結果的に銀行の生産性を引き下げた」と指摘する。
(経済解説部 太田康夫)
[日経新聞9月29日朝刊P.26]
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(3)家計の利子所得激減 消費低迷の一因に
日本の家計は大幅貯蓄超過で、利子所得は家計の有力な収入源だった。利子所得が最も多かったのは1991年の37兆円。定期預金金利が5.6%と高かったためだ。
超低金利は家計の利子所得を圧迫した。日銀が金利をゼロ近傍に下げた95年に定期預金金利は1%まで低下。その後も定期預金金利は下がり、2011年以降は0.1%を割り込んでいる。
この間、家計は先行き不安を背景に預貯金を積み上げた。家計の現金・預金は95年の620兆円から、直近は900兆円近くまで拡大。残高は1.5倍になったものの、利子所得は年間7兆円台に落ち込んでいる。
利子所得の圧迫の程度は、どの年を基準とするかに左右される。かつて日銀総裁が国会で、93年(定期預金金利2.4%)と比べた利子所得の累積減少額に言及したことがある。これを95年からの20年間に当てはめると、累積減少額は340兆円超になるとみられる。家計の逸失利益は年間平均で17兆円程度だ。
90年代には日銀も「金利所得に多くを依存している家計にとって大変厳しい」(当時の松下康雄総裁)と、家計の逸失利益を意識していた。しかしそうした状況が常態化し、今や前年比で経済統計への影響はほとんどないため、総裁発言から逸失利益への言及は極端に減った。
とはいえ、かつて利子所得が家計の余力を生み出していたのは間違いない。超低金利でその余力を失ったことが、政府が景気刺激策を打っても消費がかつてのように活性化しない一因になっている可能性がある。
(経済解説部 太田康夫)
[日経新聞9月30日朝刊P.28]
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(4)政府の利払い、大幅減 財政規律低下 招く
超低金利の政府部門への効果は当初あまり出なかった。負債の中心が国債で、償還までの期間が比較的長いからだ。1991年に16兆円台だった政府の利子支払いは、95年にはわずかに増えた。
超低金利が長期化するにつれて、その財政への効果は飛躍的に強まった。政府の利子支払いは98年の17兆円強をピークに減り、2004年からは10兆円を割っている。
その間、負債は95年の470兆円から直近の1200兆円近くまで膨らんでいる。野放図な財政運営で膨らんだ借金の負担を、超低金利で強引に抑え込んだ格好だ。
13年開始の量的・質的緩和で日銀は巨額の国債を購入。現在の年間購入額はネット(純額)の国債発行額の2倍以上で、市場を通した購入の形はとるが、日銀が国債の受け皿になっている。これにより10年物国債の利回りまでが0.3%台とゼロ近傍に抑えられている。
その一方で、副作用も広がりつつある。国債投資などに依拠してきた保険や年金などの運用成績が圧迫され、人々が将来を見通しにくい状況を招いている。
財政規律への懸念も強まっている。クレディ・スイス証券の白川浩道氏は「低金利で財政コストが抑えられるため、真剣に構造改革に取り組まなくなっている。規律が失われた状況だ」と指摘する。
超低金利は家計からの所得移転を通じて、企業・銀行・政府がバブル崩壊で負った傷を埋めた。その後、企業は構造改革に取り組み自立したが、改革が不十分な政府部門は超低金利への依存を一層強めている。
(経済解説部 太田康夫)
[日経新聞10月1日朝刊P.31]
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(5)欧米、「日本化」を懸念 政策選択肢 多様に
欧米では金融危機対策で導入した短期金利のゼロ近傍が長期化している。国際決済銀行(BIS)は「広範な病の兆候」と警鐘を鳴らしている。
BISは金利ゼロ近傍の長期化について「銀行の利益が圧迫され、信用供与能力が低下する」と指摘。ヒルデブランド元スイス国立銀行(中央銀行)総裁は「量的緩和が市場をゆがめ、解除時には混乱をもたらす可能性がある」と警告している。
欧米の金融当局はそうしたリスクを回避するため、踏み込んだ政策を採っている。米連邦準備理事会(FRB)は失業率が一定の水準に下がるまで金融緩和を続ける手法を採用し、利上げが展望できる段階に来ている。
一方、欧州中央銀行(ECB)はマイナス金利を実施し、金利を下げられないゼロ金利制約を取り除いた。フィッシャーFRB副議長は「金利をゼロ以下にできることを学んだ。一定の効果も出ている」と評価する。
より強い効果を目指した政策オプション(選択肢)も検討している。物価目標に関しては、国際通貨基金(IMF)のローレンス・ボール氏が「2%から4%へ引き上げたほうが、ゼロ近傍での金融政策の制約を取り除ける」と指摘。マイケル・ウッドフォード米コロンビア大教授は名目国内総生産(GDP)目標を掲げる金融政策を提唱している。
欧米はゼロ近傍が20年続く日本を反面教師としてきた。「日本化」の危機を回避するため、日本より効果的な対策を模索してきた。しかし、日本の当局から欧米ほどの危機感は感じられない。
(経済解説部 太田康夫)
=この項おわり
[日経新聞10月2日朝刊P.29]
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