11. 2015年10月06日 13:47:57
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「人口減少時代のウソ/ホント」 少子化時代の大学「縮小再編」待ったなし検証・大学教育改革 with 田中弥生(5) 2015年10月6日(火)森田 朗 人口減少時代の大学教育のあるべき姿とは。変革が進まない現状とその理由、そして今、打つべき手とは。独立行政法人大学評価・学位授与機構の田中弥生先生との対談で明らかにしていきたい。その5回目。 (前回から読む) 森田朗(以下、森田):私は4年前にシンガポール国立大学の、リー・クアンユー・スクールに2カ月くらいいたんですよ。大学のマネジメントというと、そのときに出席を求められた教授会を思い出します。リー・クアンユー・スクールは、こちらでいう公共政策大学院なんです。シンガポール国立大学には、ほかにもビジネススクールやメディカルスクール(医学大学院)、などいろいろなスクールがあります。 シンガポールで見た大学マネジメント 教授会では、どういう話し合いがおこなわれているんですか? 森田:大学本部から、それぞれのスクールに課題が課せられてるんですよね。それをどう達成したか、次のステップに向けて何をするのか、ということを非常に厳しく評価されるんです。例えば、リー・クアンユー・スクールなら、ガバメント系のパブリックポリシーを学んだ学生を教育するわけですが、その教育を受けた人材が世界のどういうマーケットにおいて、どのくらいニーズがあるのか大学本部がリサーチさせるわけです。私が出た教授会では、大学本部からの質問に対してどう答えるかが、議題でした。 田中弥生(たなか・やよい) 独立行政法人大学評価・学位授与機構 教授。 国際公共政策博士。専門は非営利組織論、評価論。クレアモント大学でピーター・ドラッカー氏に非営利組織論を学ぶ。財政破綻、超少子高齢化の中で「民間が担う公」の意義を問い続ける。行政改革推進会議民間議員、財務省財政制度等審議会 委員など要職を務める。(写真=尾関裕士、以下同)
田中弥生(以下、田中):すばらしいアウトカム志向ですよね。 森田:そうなんです。そして、そのマーケットで競合する大学を世界中から洗い出す。そのライバル大学に対して、我が大学はどういう特色を打ち出して対抗していくのか。その特色ある教育をするために、どういうカリキュラムをつくるのか。そのカリキュラムを実施するために、どういう教員をどのように配置しているのか。それについて、スクールの責任者に報告させるんですよ。 企業の事業部長が自分の部の事業について、市場調査の結果から今期の業績、マーケティング戦略、それに基づく施策などを発表する会議、みたいなものでしょうか。 森田:そう、これがマネジメントですよね。シンガポールは人口が500万くらいの国ですから、国内マーケットでは立ち行かないわけです。だから、世界のエリートを育てるのが最初から目標となっている。その中でどう大学院としてビジネスをしていくか、という考え方をしています。 田中:これは、もはや政策と経営の問題ですよね。日本の視点とは全く違います。もちろん、日本もそういう方向にシフトしていかなければということで、文科省のみならず、産業競争力会議など複数の審議機関が大学改革案を打ち出しているわけですが……。 森田:いまの日本の大学は、大学のコアになるマネジメント体制が小さいんですよね。東大などだと、教職員だけで約7500人、特定有期雇用教職員もいれると1万人超の人が働いていて、2000億円以上の予算を使っている。その規模感に比べて、マネジメントの体制が弱すぎる。 田中:そうですね。 森田:マネジメントをもっと強化して、外部社会に対してマーケットリサーチをおこない、自分たちのポジションを決める。それができるような組織、部門、そして必要な情報を集められる仕組みをつくるべきなんですよね。そして、そこから田中先生が前におっしゃった、人材育成のための3つのポリシー、アドミッション・ポリシー(入学者受入方針)、カリキュラム・ポリシー、ディプロマ・ポリシー(卒業認定・学位授与に関する方針)を策定して、そのポリシーを実施するためのマネジメントの仕組みをつくる。ここまでやらないと。だから本当は、管理部門の職員と研究の教員は……。
田中:分けた方がいいですよね。 「もっと成果を」と教授の尻を叩ける役職 森田:アメリカだと、ディレクターのような立場で、優秀な先生を集めてきて適正な給料でたくさん業績を出させる役割の人材を置いています。ディレクターは、本部に対して「うちの部局では、こんな優秀な先生がこんな成果を出しています」とプレゼンして、予算をとってくる。教員からすると、その人たちができるだけ多くの研究時間と資金を確保してくれれば、何も文句はありません。 田中:なるほど。先生がお話しされたのは教育面の経営に関することですが、研究面でも専門的なアドミニストレーターの役割が注目されています。それが、ユニバーシティ・リサーチ・アドミニストレーター(URA)という役職ですよね。それは文科省でも注目していて、一時期URA促進のための補助金を出したんですよ。興味深いことに補助金ではなく、自費でやったところに顕著な成功例を見いだせます。 なぜでしょう? 田中:補助金の場合は期限がありますから、補助金が切れるとURA制度を維持できなくなってしまうところもあるわけです。そうなるとポストも維持できなくなるという事情もあったでしょう。 な、なるほど……。 田中:岡山大学なんかは自費で高いお給料を払って、一流企業の製品戦略部門のリーダーをひっぱってきて、URAにしたんですよね。そして、世界のリサーチのトレンドを見ながら、どこに力を入れるべきか調べて、戦略を立てていった。実際、そのURAに任命された人は、数億円レベルで成果を出したんだとか。 森田:東大でもURAに関するシンポジウムがあったんですけど、そこで見たURAの訳が「大学研究【支援員】」となっていて、まずそこからツッコみました(笑)。アドミニストレーターは、支援員じゃないでしょう。翻訳した時点で、認識が間違っていると。 田中:そうなんです! 日本の多くの大学では、ポスドクが担うアシスタント的な役職と位置づけられているようにも見えます。本来なら、アドミニストレーターは教員とは別の役割を担い、対等な関係で協力する人材でしょう。 森田:先生の上に立って、「これだけ給料払ってるんだから、もっとちゃんと研究してください」と、尻叩きができる立場なんですよ(笑)。その人たちが大学をマネージしていく。元々は研究者でもいいし、外から連れてきてもいいんですけどね。ただ、難しいのは大学教員のマインドとして、研究で成果を出してない人はあまり尊敬しないというところがある。今は、学長選挙なども世界的な研究業績があるかどうかで判断されいるのではないでしょうか。 「取締役会」が「経営者」を選ぶハーバード 田中:これ、どうなんでしょうか。ハーバードのデレク・ボックは20年くらい学長をやっていましたが、やっぱりある程度、研究分野でのパフォーマンスが高かったから選ばれたんじゃないですか? 森田:ハーバードくらいになると、やっぱり研究もマネジメントも両方できる人がそれなりにいるんでしょうね。で、そういう人をうまく学長のポストにつける。でも、あれは教員の投票で選んでるわけじゃないですからね。 田中:そうですね、ボードメンバーが選んでますね。 森田:取締役会のようなボードがあって、この人は経営ができると判断された人が選ばれる。昔は国立大学の学長って、極端ないい方をすれば、式典のテープカットとスピーチをすることが仕事だったので、それができればよかったんです。でも、法人化して大学の経営をするとなったら、ガバナンスの能力が求められるようになった。まあ、トップにその能力はなくても、組織としてガバナンスできないと困りますから、その組織を作り束ねる能力は必要ですね。 硬直した大学にソフト面でのイノベーションを さて、ここまで日本の大学のマネジメントにおける、様々な問題が明らかになりましたが、改革するにはどうすればよいのでしょうか。 森田:私は、ひとつのモデルケースをどこかにつくるべきだと思います。5年、10年で成果が出るかはわかりませんが、長期的にモデルづくりに取り組む。結果的にそのモデルの方が、研究業績も上がるし、お金も集まるとわかったら、その他の大学も変わってくるのではないでしょうか。 田中:そういう意味では、大学によっては教育に従事しない教授のポストを設けたり、研究者が自分でお金を調達したりするなど、新しい取り組みをいろいろ実施しています。
森田:工学系の先生はビジネスの世界に近いので、そういう変化を起こしやすいのかもしれませんね。 田中:あと教育面でも、工夫を凝らす大学が出てきています。個人的には、地方の公立大学に着目していますが、ある種のモデルになるようなところが出てくるかもしれません。 森田:どちらも地方の大学ですね。やっぱり人口が減って苦しいところの方が、実験的なことにチャレンジしているのでしょうね。 田中:大学改革は、本当に誰も答えを出せていない問題なんですよね。ただ、海外も同じように模索していると思います。OECDの資料を見ても、これといった方向性はまだ出ていないですね。 森田:やっぱり大学関係者に、今のままの大学組織の発想の末にどういう結末が待っているのか、知らせることが必要なんじゃないでしょうか。今は昔と違っていることを認識しなくてはいけないし、「このままいける」と思っているマインドを、変えてもらわなければいけない。 田中:森田先生、マインドを変えると言っても、シニアにとっては難しいことなのでは……(笑)。そして、世代間の流動性がないことで、若い人のポストの割合が減っていっているのではないかと思います。シニアのポジションは、旧制度で雇用されたのでパーマネント(永久)なんですよ。ところが、10年くらい前から任期付きのポストばかりになりましたから、若い人は3年くらいしかひとつのポストにいられない。結果的に割を食うことになるのではないでしょうか。 森田:上の人に「どいてください」って言っても、しがみつき続けるだろうからなあ(笑)。大学人は、ある意味で、一番プライドが高くて、人の言うことを聞かない人たちですよ。例えば、50歳以上になった人は、そちらを任期制にしてルートを分けていくなどの施策を入れたらどうでしょう。もっと言うと、優秀な若い人が出てきたら、教授と准教授を入れ替えるとか。でも、今の大学の自治の考え方では、上の世代の人たちが大きな決定権限をもっているから難しいだろうけど。 かなり思い切った施策ですね。 森田:やっぱり、マーケットがシュリンクしていく中では、どういうかたちで撤退するかが大事ですから。大学の統廃合、ポストの削減をして、大事なところに重点的に資源配分していかないと。それには、状況を鋭く認識して、大胆な決断ができるマネジメント体制が必要不可欠。私は国立大学法人化の際に、法人組織と教学組織を別にするという考えを支持したんです。そうしたら、ボコボコに叩かれましたね(笑)。 田中:え、ただ、私立大学は法律上、法人組織と教学組織は別立てになっており、実際そのように運営がなされていると思いますが。 森田:だから、「悪い私学みたいになるぞ」と怒られました。「教育もわからず、お金儲けしか考えていない理事長が、人事までコントロールするような大学にしたいのか」「日本の教育そのものがダメになる」と。 資金も集められず、大学全体の教育目標を立てて学生を教育するという視点のない学長より、ずっといいと思うのですが……。 森田:わりと最近できた公立の大学の中には、地方独立行政法人法に則って、理事会と学長を分けているところがありますよね。それもひとつのあり方だと思うのですが、当時はまあ、反論してもほとんど議論になりませんでした。法人組織と大学組織を分けることの何がいいかというと、教育・研究組織としての大学自体の統廃合や再編が、法人の経営判断としてできることです。 それは、今の国立大学にはできないんですか? 森田:法律を変えないとできないですね。アメリカでは、ユニバーシティ・オブ・カリフォルニア・システムとなっていて、その下にUCバークレーがあり、UCLA、UCサンディエゴなどがある。大学本部の経営判断でそれぞれのキャンパスで特色を出したり、研究資源を集中させたりできるわけです。日本も、これからはいろいろな学部の入った小さな百貨店のような国立大学を各県においても、生き残るのは難しいでしょう。 田中:難しい問題ですね。 再編成し、クオリティーを高めよ 森田:工学部なら工学部、経済学部なら経済学部を、どこかに集中させる。そして、近接分野を研究する先生方が集まってディスカッションしながら、お互いを高めあうと同時に学生を教育していく。関東は難しいですが、例えば東北地方にある大学を一つの法人として、盛岡キャンパス、弘前キャンパス、秋田キャンパス……と各県にキャンパスを置いて再編成する。そして、それぞれのクオリティを高めていくということも考えられます。 田中:そうした構造的な再編そのものが、イノベーションですよね。イノベーションというと、科学的な発見に目が行きがちですが、こうしたソフト面でのイノベーションを生み出す体制も、もっとつくれたらいいですよね。 (構成:崎谷実穂)
※本対談での田中弥生氏の意見は田中氏個人の見解によるものです このコラムについて 人口減少時代のウソ/ホント 私たちが生きるのは人口減少時代だ。かつての人口増加時代と同じようにはいかない。それは分かっている…はずだが、しかし、具体的にどうなるのか、何が起きるのか、明確な絵図を把握しないまま、私たちは進んでいる。このあたりで、しっかり「現実」をつかんでおこう。リアルなデータを基に、「待ったなしの明日」を知ること。それが「何をすべきか」を知るための道だ。 http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/275866/083100005/?ST=print
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