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軍事パレードでは日本批判を炸裂させたが、どこか暗かった習近平主席〔PHOTO〕gettyimages
失業者1000万人で、万事休す! 何をいまさら習近平「日本よ、助けてくれ!」 25兆円ブチ込んでも株価は下がる一方
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45384
2015年10月03日(土) 週刊現代 :現代ビジネス
ド派手な軍事パレードで、散々日本に悪態をついた習近平主席が、経済失速で悲鳴を上げ、日本にすがろうとしている。習近平政権は一体何を考えているのか。この矛盾に満ちた大国のホンネを追った。
■中国経済に対する疑心暗鬼
9月9日から11日まで大連で行われた「夏のダボス会議」。世界中から集まった多国籍企業のトップの気持ちを代弁するかのように、三菱商事の小島順彦会長が、北京から駆けつけた李克強首相に質問した。
「最近の中国の株式市場や債務に対するリスクが、世界の注目を一身に浴びています。中国政府はどのような金融改革を行う気なのですか?金融改革を進めるにあたって、具体的なスケジュールはあるのですか?」
壇上の李克強首相は、やや緊張した面持ちで答えた。
「最近、国際金融市場で発生している新たな波は、2008年の世界的な金融危機の延長線上にあるものだ。中国の株式市場は6月と7月に非常事態に陥ったが、政府がすでに適切な措置を取って、リスクの蔓延を防いだ。もはやシステミックな金融パニックは解消したのだ」
このように李克強首相は、必死に弁明したが、3日間にわたる討論は、中国経済に対する疑心暗鬼一色だったという。
長年参加しているEUの企業経営者が明かす。
「そもそもダボス会議というのは、毎年1月にスイスのダボスで行われる『経済界のサミット』ですが、今世紀に入って、議論の中心が中国経済の躍進に移ってきたため、'07年より毎年9月に中国で『夏のダボス』を開くようにしたのです。
ところが今年は、私も含めてですが、世界の企業経営者たちが、『中国発の世界恐慌が起こるのではないか』『中国の経済統計はどれもデタラメではないか』などと発言。中国政府の官僚や国有企業経営者たちに詰め寄る姿が、あちこちで見られました」
■突然、握手を求められても
これに対して、中国側は、「中国経済は問題ない」と説明するばかりか、「攻勢」にも転じたという。日本人参加者が語る。
「われわれ日本人を見ると、中国の経済官僚や国有企業の幹部たちが、妙に優しく迫ってくるのです。『中日両国が肩を組んでこそアジアは発展する』などと言っては、慇懃な態度で握手を求めてくる。わずか数日前に、あんなにド派手な『抗日軍事パレード』をやっていた国とは思えませんでした」
同様の光景は、9月4日と5日にトルコの首都アンカラで行われたG20(主要国サミット)の財相・中央銀行総裁会議でも見られた。
会議に同行した日本の経済官僚が語る。
「今回のG20は、まさに中国経済の急失速に対する懸念一色でした。そのため、中国代表の楼継偉財政部長と周小川中国人民銀行総裁は、食事するヒマもないほど、各国から上がる疑念の声に対する火消しに追われていました。
ついこの間のギリシャ危機の時まで、実に偉そうな態度で、『最後は中国がパルテノン神殿を買ってやるからな』などと嘯いていたのとは対照的です」
そしてここでも、中国側から日本の官僚たちへのラブコールが相次いだという。
「6月に北京で3年ぶりの日中財務対話を開いて以降、日中の経済官僚同士の個人的な交流が始まりました。先日のトルコのG20では、そんな一人から、『今年中でなくても構わないから、日本に何とか早期にAIIBに加盟してほしい』と、非公式に頼まれたのです」(同・経済官僚)
AIIB(アジアインフラ投資銀行)は、今年12月に、北京を本部にして発足する新たな国際開発銀行である。日米が中心になって1966年に創設したADB(アジア開発銀行)に中国が対抗し、57ヵ国を集めて、鳴り物入りで創設する。6月末には習近平主席が主催し、北京で盛大な設立協定の調印式を開いた。
だが創設前に早くも、うち7ヵ国が不参加となる可能性が出るなど、チャイナ・マネーの限界説が飛び交っている。ちなみに日本は、麻生財務相が強硬に反対したことなどによって、参加していない。アメリカも同様である。
■中国経済の底が抜けた
これまで約70冊の中国関連の著作がある中国ウォッチャーの宮崎正弘氏が解説する。
「一言で言えば、いま中国は、焦っているのです。中国はもともと、自国のGDPを水増しして発表する習慣がありましたが、これまでは海外からの投資が相次いだため、ごまかせてきた。
ところが3年前に、大規模な反日暴動が起こったことで、日本企業が次々と中国から撤退を始めました。
急激な賃金上昇で、アメリカも手を引き始め、いままた南シナ海の埋め立て問題で、ASEANの企業が引き始めている。このため海外からの投資が激減し、中国経済は底が抜けてしまったのです」
たしかに今年上半期の対中投資は、前年同期比で日本が16・3%、アメリカは37・6%も減らしている。世界最大の経済大国と、中国に次ぐ3番目の経済大国が、中国から引き上げにかかっているのである。
北京の中国日本商会幹部も語る。
「俗に、日系企業2万3000社が1000万人の中国人を雇用していると言っていますが、いまはもう2万社を切ったかもしれません。
中国がGDPの増加にこれほどこだわるのは、GDPの増加イコール雇用の増加と考えているからです。このまま雇用が減り続ければ、ますます経済失速していき、失業者の増大が犯罪やデモを増やし……という悪循環に陥ってしまうでしょう」
こうした危機がヒタヒタと迫ってきていることは、習近平政権は百も承知である。そのため、中国国務院(中央官庁)はあらゆる手段を使って、経済崩壊の引き金となるリスクを孕んだ株価下落を防ごうとしている。
ゴールドマンサックスの試算によれば、この3ヵ月ほどで、中国政府が株価下支えに投じた金額は、2360億ドル(約25兆円)にも上るという。
■習近平の本心
だが、市場は中国政府の改革をまったく信用していない。そのため、中国株の代表的指標である上海総合指数は、「レッドライン」と呼ばれる3000ポイントのすぐ上を「低空飛行」するばかりだ。
8月の貿易統計は、前年同期比で輸出額が6・1%、輸入額が14・3%も減らしている。製造業の先行きを示すPMI指数も、8月に49・7と過去3年で最低水準。また中国を代表する巨大国有企業の中国石油が、1兆元(約19兆円)を超す負債を抱えていることが発覚し、大騒ぎになっている。
こうした経済統計を見る限り、長く躍進著しかった中国経済は、完全にメッキが剥がれてしまったのである。
実際、数年前から「鬼城」と呼ばれるゴーストタウンが、中国各地で問題になってきたが、最近は都市部の「鬼商城」(ゴーストデパート)が深刻化している。消費がまったく伸びず、建てすぎたデパートが次々に倒産しているのだ。
この上、日系企業が引き揚げれば、1000万人の中国人が職を失うことになる。そこでさすがの「反日闘士」習近平主席も、背に腹は代えられないということで、日本企業の引き留めに躍起になっている。
中国経済の分析が専門のシグマ・キャピタルの田代秀敏チーフエコノミストが、そんな習近平主席の心情を推察して語る。
「これまで中国の製造業の牽引役となってきた自動車の販売台数は、7月に前年同月比で7・1%も減りましたが、日系メーカーだけは22・4%も伸ばしています。これは、日本の製造業へのラブコールです。
中国政府は5月に、『中国製造2025』という12ページからなる10年戦略をまとめました。それを読むと、中国お得意のパクリや企業買収ではなく、25年かけて地道に製造業を発展させ、『中国ブランド』を確立しようと書いてあります。
そうなると、日本企業の助力が絶対に必要です。
習近平は一方で、抗日軍事パレードをやりながらも、本心では『日本よ、中国の製造業を助けてくれ!』という心境なのです」
■アメリカにフラれて日本へ
中国が日本に助けてほしいのは、製造業ばかりではない。
「中国政府は、アメリカ国債の『売り』に走りながら、一方で中国政府の資産運用機関である中国投資有限責任公司は、判明しているだけで116社もの日本企業の大株主になっています。つまり、日本は『買い』なのです。
特に、中国は'13年にサービス業が製造業をGDPで追い越しており、サービス業の育成に力を入れています。そこも、サービス大国の日本を、ホンネでは頼りたいのです」(田代氏)
前出の宮崎氏も続けて言う。
「習近平主席は、9月22日から国賓待遇で訪米しますが、受け入れる側のオバマ政権は、冷たく対応するつもりでいる。アメリカから悲しく帰国する習近平は、ますます日本に擦り寄ってくるでしょう。
ただ、プライドが高いので、絶対に『助けてください』と頭を下げることはしない。『両国で共同プロジェクトをやろう』と持ちかけてくるはずです」
日本経済が中国経済の動向に左右されるのも事実だが、世界の誰も中国を助けてくれなくなって、これまで散々コケにしてきた日本に助けを求める。日本からすれば、「何をいまさら」という気にさせられてしまう、まことに困った隣人である。
「週刊現代」2015年9月26日・10月3日合併号より
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