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世界揺るがしたVW排ガス不正、見抜いたのは堀場製作所の小型測定器
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-NVFTIG6KLVR601.html
2015/10/02 06:00 JST
(ブルームバーグ):世界を揺るがした独フォルクスワーゲン(VW)によるディーゼルエンジンの排ガス規制逃れで不正を見つける過程で使われた機材は、京都市に本社がある計測器メーカー、堀場製作所のポータブル測定器だった。
米当局がVWによる排ガス不正を発表したのは日本時間19日未明のことだった。堀場の自動車計測事業戦略室の中村博司室長(42)のもとに、ほどなく米ミシガン州拠点のスタッフから一報を告げる電話連絡が入った。調査を担当したウェストバージニア大学やカリフォルニア大気資源局は堀場の顧客であり、世間が大型連休に入る時期にかかわらず、中村氏は情報収集に追われた。
世界最大級の自動車メーカーの排ガス検査不正という前代未聞の事態を受けて、約2週間でVW株は3割以上も下落、時価総額で3兆円超が吹き飛んだ。環境汚染を防ぐ排ガス規制への信頼が根本から揺らぎ、各国が規制強化や検査体制見直しを検討し始めるなど、世界の自動車業界と各国政府を巻き込む騒動となった。堀場の製品はその引き金を引いた形だ。
ウェストバージニア大の研究者は取材に対し、最初に異常な排出値が出た路上走行での測定で堀場製ポータブル測定器を使用していたと確認している。屋内設備で行われる新車の型式認証時の排出値とのかい離が大きかったことがきっかけで発覚につながったが、路上走行試験は車載可能な小型のポータブル測定器でないと実施できない。
堀場の中村氏はVWの不正について事前に知らず、驚くばかりだったという。各国の今後の規制動向が予測できないことや自動車部門の売上高では大型の据え置きタイプが圧倒的に多いことから、「今回の件で全体のパイの中ですごくインパクトあるかというと、そこはあまりない」と話し、短期的な業績への効果は限られるのではないかとの見方を示した。
一方、堀場の株価を見ると、問題発覚後は大幅に上昇している。各国の規制強化の流れが長期的に、堀場の主力である自動車計測事業への追い風になるのではないかという市場の期待を示している。堀場株はシルバーウィーク明けの24日から6営業日で7%近く上昇している。
実走行に近い排ガス測定を
自動車調査会社、カノラマジャパンの宮尾健アナリストは、VWによる不正を受けて各国の排ガス規制が強化される可能性が高いと指摘。より実走行時に近い排出値が出る路上走行での計測は巨大市場の米国ではバスやトラックなど大型車両にしか求めていないが、これを乗用車にも義務づけるようになれば、ポータブル型計測器への需要は「一気に拡大する」とし、排ガス計測器で圧倒的なシェアを持つ堀場は「さらにシェアを上げ、優位に立つだろう」と話した。
米環境保護庁は今回の問題を受けて、自動車メーカー各社に排ガス規制の監視を強めていく方針を書簡で伝えた。具体的にどう強化するかは明らかにしなかった。日本でも太田昭宏国土交通相がディーゼルエンジンの検査方法について見直しを検討していることを明らかにしている。
自動車の排ガス測定では、伝統的に屋内で使用する据え置き型の計測器を使用してきたが、各国の環境規制強化の流れで、路上走行の排出値の測定を求めるようになっており、米欧はバスやトラックで既に義務化している。中村氏によると、欧州では2017年から乗用車での実施が予定されている。昨年投入し、正式な路上測定もできる新製品が自動車メーカーからの引き合いを受けているといい、路上測定の精度や効率を高めて顧客に貢献することが当面の最大の課題だと話した。
「おもしろおかしく」
今回のVW排ガス不正発覚に至る過程は13年にさかのぼる。民間非営利団体(NPO)の国際クリーン交通委員会(ICCT)が欧州当局から米国で販売された欧州車の路上走行での排ガス検査の実施を委託され、ウェストバージニア大の研究者らと調査を進めた。堀場製の小型測定器を用いた路上走行検査で基準を上回る値が出たことがきっかけとなり、VWが検査結果をごまかすソフトウエアを使っていることが発覚。追及の末にVWが不正を認めた。
VW側は検査時だけ排ガスをコントロールする機能がフル稼働するソフトウエアを搭載して販売していたことを認めた。米環境保護局(EPA)によると、通常走行時の排気ガスは最大で基準値の40倍に達し、同局は1台当たり3万7500ドルの制裁金を科す可能性がある。対象車は約48万2000台で、その場合、最大180億ドル(約2兆1600億円)となる。対象は09−15年モデル。
堀場製作所は1945年、京都大学の学生だった故堀場雅夫氏が創業。戦後ベンチャー企業の先駆けとして排気ガスや医療用など計測機器を中心に成長を遂げてきた。自動車排ガス測定器の分野で現在は7割以上の世界シェアを握る。「おもしろおかしく」を社是とし、1日の勤務時間を少しづつ延長して休める日を増やして「週休3日制」を一部導入するなど独特な社風を持つ。
エンジニアとして入社した中村氏は03年に堀場として初めて投入したポータブル型の排ガス測定器の開発に携わった。その測定器が世界的な排ガス不正を明らかになるきっかけをつくったことについて、「誇らしく思ったというより重責を担っていることを感じた」と話す。
VWのようにソフトウェアレベルで操作されると装置での測定には限界があるとしながら、中村氏は「測定する数値に関しては責任がある」とあらためて感じたとし、今後は精度の向上など努力を続けて環境改善に貢献したいと話した。
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