3. 2015年10月07日 08:17:37
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【第187回】 2015年10月7日 森田京平 [バークレイズ証券 チーフエコノミスト]「鉱工業生産ショック」で始まった 日銀への追加緩和プレッシャー 森田京平・バークレイズ証券 チーフエコノミスト 鉱工業生産ショック 市場の景況感に痛烈な一撃 日銀は依然として景気や物価の動向に強気な見方を崩していないが… 先月30日に発表された8月分鉱工業生産は、市場の景況感に非常に強いショックを与えた。8月の鉱工業生産は前月比−0.5%と2ヵ月連続の減産となった。前月比1.0%(ブルームバーグ調査の中央値)の増産を見込んでいた市場は痛烈な一撃を受けた。統計発表者である経済産業省も鉱工業生産の判断を「弱含み」とし、それまでの「一進一退」からついに引き下げた。 しかもショックは単に生産実績が市場予想を下回ったことに止まらなかった。出荷とのバランスで見た在庫水準を表す在庫率指数(在庫/出荷)が東日本大震災(2011年3月)直後に当たる2011年5月以来の水準に跳ね上がった(図表1参照)。製造業で在庫負担が高まっている可能性が示される。 加えて、9月分の製造工業生産予測指数も前月比+0.1%と精彩を欠いた。これは製造業が輸出増加の手応えを感じ取っていないことを物語る。 ◆図表1:冴えない生産、跳ね上がる在庫率 注:「生産」には2015年9月、10月の生産予測指数を含む。 出所:経済産業省『鉱工業指数』よりバークレイズ証券作成 物価基調を把握する材料の需給ギャップ 日銀の短観は改善を示唆するが…
日銀は物価の基調を判断する上で、「予想インフレ率」と並んで「需給ギャップ」を重視している。需給ギャップとは、実際のGDPつまり需要と、潜在GDPつまり供給能力の乖離に相当し、これがプラス(マイナス)であれば需要超過(供給能力超過)となり、経済にはインフレ(デフレ)プレッシャーがかかる。 上述した鉱工業生産の下振れは需要の弱まりを反映している可能性が高く、需給ギャップがマイナス方向に広がっているのではないかという懸念を市場で引き起こした。 需給ギャップを把握する上で重要な材料を提供したのが、今月1日に発表された9月調査日銀短観である。短観は、海外市場でも“Tankan”で通じるほど、認知度の高い調査である。 短観には、雇用者の過不足を表す「雇用人員判断DI」(過剰−不足)と、企業が保有する各種設備の過不足を表す「生産・営業用設備判断DI」(同)が含まれる。両者を一定の方法で統合することで、日本企業全体が持つ生産要素(雇用、設備など)の過不足を見て取れる。これは需給ギャップの概念に相当するものであり、日銀も両者を統合した系列を「短観加重平均DI」と呼んで、マクロの需給環境を把握する際の材料としている。 この短観加重平均DIによると、足下にかけて生産要素の不足感は一層強まっている(図表2参照)。つまり、同DIは需給ギャップが着実に改善している可能性を示した。 ◆図表2:需給ギャップと短観加重平均DI 注:1.需給ギャップ=(実際のGDP−潜在GDP)÷潜在GDP×100 2.「短観加重平均DI」は、日銀短観の雇用人員判断DIと生産・営業用設備判断DIを内閣府『国民経済計算』に基づく労働分配率と資本分配率(1990〜2013年度平均)で加重平均したもの。労働力や生産・営業用設備の過剰・不足度合いを総合的に表す。 出所:内閣府『国民経済計算』、同『GDPギャップ』、日本銀行『全国企業短期経済観測調査』よりバークレイズ証券作成 内閣府推計では需給ギャップ改善せず 日銀が見るほど物価基調は底堅くない可能性も
ところが内閣府が推計する需給ギャップは、2014年以降、短観加重平均DIに逆行するかのようにマイナス圏に止まっている(前出図表2参照)。両者がこれほど乖離することは珍しい。仮に内閣府が推計する需給ギャップが正しいとすれば、物価の基調は日銀が考えるほど底堅いとは言えなくなる。 短観加重平均DI(日銀)と需給ギャップ(内閣府)の乖離を説明する一つの要素が、生産・営業用設備判断DI(短観加重平均DIのインプット変数)と稼働率(需給ギャップのインプット変数)の乖離である。 9月調査短観では、確かに生産・営業用設備判断DI(過剰−不足)は低下しており、製造業で設備の不足感が強まっていることが示された。これは一方では製造業の設備投資計画をサポートし、他方では需給ギャップの改善を示唆するはずである。 しかし、製造業の稼働率指数(2010年=100)は直近のピークである2014年1月の106.3から、すでに8%以上も下がっている。その結果、設備の過不足度合いに対する企業の認識を表す生産・営業用設備判断DI(ソフトデータ)と設備の稼動度合いを表す稼働率指数(ハードデータ)が全く逆方向に動いている(図表3参照)。 生産設備の稼働度合いと不足度合いが逆方向に動くこと自体、大変珍しく、かつ両者の乖離が始まって間もないため、現時点ではどちらが正しいか判断しがたい。しかし少なくとも、短観が示唆するほどには、製造業の設備の不足感が実際には高まっていないリスクを指摘することはできる。これは、短観が示唆するほど需給ギャップが改善していないリスクと読み変えることができる。 ◆図表3:下がる稼動度合い、強まる不足度合い 出所:経済産業省『鉱工業指数』、日本銀行『短期経済観測調査(日銀短観)』よりバークレイズ証券作成 企業の予想インフレ率は低下 原油価格の下落だけでは説明しにくい
物価の基調を判断する際、「需給ギャップ」に加えて「予想インフレ率」も鍵となる。この予想インフレ率を探る上でも、9月調査短観は重要な材料を提供した。それが、今月2日に発表された『企業の物価見通し』(短観の一部)である。 CPI(消費者物価指数)をイメージして回答することとなっている「物価全般の見通し」は、全規模・全産業ベースで見ると、「1年」が前年比+1.2%となった(図表4参照)。原油価格が下がる中でも、2014年12月調査から今年6月調査まで、この値は1.4%で粘っていたが、ついに0.2%ポイント下がって1.2%となった。 しかも、足下にかけての原油価格の下落では説明しにくい「3年後」、「5年後」の物価全般の見通しも、それぞれ前年比+1.4%、同+1.5%と、いずれも前回6月調査から0.1%ポイント下がった。企業の予想インフレ率が下がるリスクを明確に示したのが、今回の『企業の物価見通し』であった。 ◆図表4:物価全般(CPI)の見通し 注:企業が予想する「1年後」、「3年後」、「5年後」の物価全般(CPI)の前年比変化率 出所:日本銀行『短期経済観測調査(企業の物価見通し)』よりバークレイズ証券作成 10月30日の追加緩和が有力だが… 「間違いない策」はもはやない
企業の慎重なインフレ予想と価格設定行動が示されたことで、筆者は10月30日の金融政策決定会合で日銀は追加緩和に打って出ると見ている。 問題は緩和の中身である。これをやれば間違いなく効果がある、と言い切れる策はもはやない。その上で、筆者は以下の5点を想定している。 (1)マネタリーベースの増加ペースを現行の年間約80兆円から100〜110兆円(GDP比20〜22%)に引き上げ。 (2)国債の買い入れ額を増加し、国債保有残高の増加ペースを現行の年間約80兆円から約100兆円(GDP比20%)に引き上げ。 (3)買入れ対象長期国債の平均残存年限を現行の7〜10年から9〜12年に延長。 (4)ETFの買い入れ額を増加し、ETF保有残高の増加ペースを現行の年間約3兆円から約6兆円(GDP比1.2%)に引き上げ。 (5)超過準備に対する付利を現行の年0.1%から0.05%に引き下げ。 ただし、こうした策に踏み込めば、今国債市場の流動性のさらなる低下や、出口(テイパリングの後工程)での日銀の自己資本の大幅な毀損など、相当なコストを伴う点は付言しておきたい。したがって、仮に今回追加緩和があったとしても、それが最後の追加緩和となるであろう。 それでもCPI前年比2%目標が実現しない場合は、飲む薬の量を増やす(追加緩和)のではなく、量的・質的金融緩和(QQE)という処方箋自体を書き換えるしかない。 http://diamond.jp/articles/-/79560
[32削除理由]:削除人:関係が薄い長文
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