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[ワシントン/デトロイト 24日 ロイター] - 自動車業界史上、最大のスキャンダルの1つに身を置くことになった独フォルクスワーゲン(VW)(VOWG.DE)。世界最大の販売台数を誇る自動車メーカーが排ガス規制を不正に回避したと告白したのは、奇しくも米カリフォルニア州での低公害輸送に関する会議の直前だった。
1年以上も調査官をかわした末、VWは米環境保護局(EPA)とカリフォルニア州当局の幹部2人に不正を認めた。
それは、経緯に詳しい人物2人によれば8月21日の出来事で、VWは事件が公になるほぼ1カ月前に規制当局の圧力に屈していたことになる。それまでの約1年間、VWは自社のディーゼル車が一般道路での走行時に排気ガス中の有害物質の水準が急上昇するのはエラーだと主張し続けた。
米当局は9月18日に問題を公表。試験走行時に排ガス規制に適合するようにモードを切り替えるソフトウエアが、世界中で販売された自社製ディーゼル車の約1100万台に搭載されていたことをVWは認めた。実際に問題が発覚してから米規制当局がそれを公にするまでに1カ月程度かかったのは、当局が対応の準備に時間を要したからだ。
EPAはVWに対し、最大180億ドル(約2.17兆円)の罰金を科すとしている。同社はまた、集団訴訟などでさらに何十億ドルもの費用がかかる可能性もある上、刑事捜査にも直面。ウィンターコルン最高経営責任者(CEO)が引責辞任し、経営陣は混乱した状態にある。関係筋によると、米国法人の社長を含む複数の幹部も処分される。
一貫して否定し続けるというVWの姿勢に直面しながら、調査官は同社の体系的な不正をどのように暴いていったのか──。今後同社に科されるであろう制裁や、より厳しい調査を受けることになる自動車業界にとって、現在に至るまでの経緯はさまざまな意味合いを持つかもしれない。非協力的な同社の態度は、米政府による罰則措置に影響を与える可能性もある。
規制当局者たちは当初、VWが不正行為について冒頭の会議場で認めたことに驚いたという。EPA交通・大気汚染管理局のクリストファー・グランドラー局長は会議でスピーチをする数分前、VWの代表者から不正について聞かされた。事情に詳しい複数の関係筋によれば、カリフォルニア州大気資源局(CARB)の参加者らも口頭で伝えられたという。
この経緯について、VWはロイターに対しコメントを差し控えた。
2009年までVW米国法人で環境対策の責任者を務め、2011年に退職したノルベルト・クラウス氏は、米国法人でディーゼル車の開発に関わった人は1人もいないとし、「ソフトウエアの変更について何も知らない」とロイターの電話取材に答えた。
<1年以上の疑惑に終止符>
正式にVWが不正を認めたのは9月3日、同社幹部とEPA、カリフォルニア州当局者らとの電話会議でのことだった。
それ以前に、VWとアウディが来年発売予定のディーゼル車の承認を保留するとEPAが警告していたことが、同社米国法人のエンジニアリングと環境対策の責任者であるスチュワート・ジョンソン氏と同社の弁護士に送った書簡で明らかになった。書簡にはEPAの行動スケジュールの一部が詳細に記述されていた。
このようにしてVWと米当局側との15カ月間に及ぶやり取りは終止符が打たれたと、複数の関係筋は明かす。EPAなど米規制当局側は、VWのディーゼル車が通常走行中に基準を超える有害物質の窒素酸化物(NOX)を排出していると疑うようになっていた。
VWは2008年、いわゆる「クリーンディーゼル」エンジン搭載の「ジェッタTDI」(2009年モデル)を大々的に宣伝した。2008年に開催されたロサンゼルス自動車ショーでは「グリーンカー・オブ・ザ・イヤー」に選ばれたそのエンジンは、ディーゼル乗用車が全体の半数を占める欧州と比べ、僅かなシェアしかない米国販売を拡大する突破口と見られた。
<祖父のディーゼル車>
クラウス氏は2008年当時、米規制当局へのプレゼンテーションで「これは祖父のディーゼル車とは違う」と語っていた。同氏らVW側はカリフォルニア州を含むすべての州の汚染基準に適合すると主張していた。
その約10年前から、VWやマツダ(7261.T)など他の自動車メーカーは業界団体「ディーゼル・テクノロジー・フォーラム」を設立し、ディーゼル車に対する規制緩和を求めロビー活動を行っていた。2005年にはディーゼル車に対する税控除も実施された。2009年にVWのジェッタが発売されると、米国の販売代理店では完売が相次いだ。
一方ほぼ同時期に、欧州の規制当局は各社が主張するディーゼル車の排ガス水準に懐疑的になっていた。2013年に発表された欧州委員会(EC)の調査は、欧州の自動車メーカーが試験の抜け穴を利用していると結論付けた。ECの別の調査結果でも、欧州メーカーが販売するディーゼル車は試験走行と一般走行で結果に相違があることが示された。
CARBのスタンリー・ヤング氏によると、EC規制当局が米国での路上走行時のデータを求めているのを受け、カリフォルニア州は調査を開始したという。
データ作成は2013年2月、輸送車両の環境適合性などを調査する非営利団体の国際クリーン交通委員会(ICCT)に委託され、ウエストバージニア大学(WVU)の研究者たちが行った。
WVUの研究チームによると、2013年春に7週間にわたってVWのジェッタ(2012年モデル)と同パサート(2013年モデル)を、ディーゼルエンジン搭載のBMWのX5と一般道で比較走行した。その結果、BMW車の排ガス水準は試験走行時の範囲内に収まっていたが、ジェッタは法定基準の15─35倍、パサートは10─20倍も上回っていた。
その後間もなくしてWVUがテストした同じ2台を、CARBの施設で試験走行したところ、排ガス基準内に収まる結果となった。
それから1年間かけてWVUの研究チームはデータを分析。その結果をカリフォルニア州サンディエゴで昨年3月31日に開催された会議で発表した。
<警戒強めた米当局>
この調査結果について「米国とカリフォルニア州にとって明らかに問題だと、幹部たちは警戒を強めた」とCARBのヤング氏は話す。
ヤング氏によると、昨夏に始まったカリフォルニア州当局者らとVWとの話し合いで、VWのエンジニアは調査データとその手法に異議を唱え、結果の信ぴょう性を損なおうとしたという。「断固反対する態度だった」と同氏は振り返る。
EPAによると、VWは昨年12月2日に独自の調査結果を持ち出し、基準を超えていたのは「さまざまな技術的問題と予期せぬ走行中のコンディション」のせいだと主張した。その後、VWはエンジン制御ソフトを修正するためのリコール(回収・無償修理)に同意した。
CARBのエンジニアたちはテストを続け、VWによるソフト修正でも排ガスが大きく減少しないことを明らかにした。事態の打開につながったのは、車のコンピューターシステムに保存されていた診断データを調べたときだった。
ヤング氏は「いくつか非常に不思議な異常を発見した」と言う。
「例えば、通常とは逆に、車は温まった状態よりも冷えた状態での方がクリーンに作動していた。普通は温まったときに汚染制御システムも最善に働く。だが、この車は違った。明らかに何か違うことが起きていた。われわれは時間をかけて、彼らが合理的な説明ができないほどに十分な証拠と疑問を集めた」と同氏は説明する。
CARBは今年7月8日、その結果をVWに提示したが、同社の立場に変わりは見られなかった。一部の当局者は、VWが試験走行時に排ガス規制モードに切り替わる「無効化機能(defeat device)」ソフトを自社の車に搭載して意図的に法を犯しているのではないかとひそかに疑問に思っていたと、関係者の1人は明らかにした。
同ソフトは通常走行時には排ガス低減装置を無効化し、有害物質を基準値の最大40倍排出する。
「こんなふうにだまして逃げ切れると思うなんて、想像をはるかに超えている」と、1999年から2004年までCARBを率いたアラン・ロイド氏は驚きを隠せない様子で語った。
(原文:Timothy Gardner、Paul Lienert、David Morgan、翻訳:伊藤典子、編集:下郡美紀)
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