3. 2015年9月30日 13:00:29
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いよいよ資産運用なしでは生きられない国になった第1回 リーマンショックから7年…何を学び、何を忘れたのか? 2015年9月30日(水)岡村 進 資産運用業務に従事してからはや30年以上経つ。80年代は日本の不動産バブルの生成と崩壊を目の当たりにした。90年代後半には為替ヘッドとしてLTCMショック、2日で20円の急激な円高を経験した。2000年代前半は、日系運用会社の米国現法立ち上げ社長として9.11に直面した。その後も、欧州系運用会社の日本法人社長として、リーマンショックや3.11などの対応に奔走した。
振り返れば、「想定外」の危機の連続で、胃に穴を開けそうになりながら市場と向き合ってきた。だから、真のプロ運用者なら、いかに真摯に日々の苦しい戦いを続けているか、その気持ちがわかるつもりだ。同時に、日米欧それぞれで、人の運用に対する向き合い方の成熟度が異なる様を体感もした。 年金資金が蒸発した会社に叱責されて… 幾多の修羅場を経験してきた私にとってすら、2008年の9月、リーマンショックのインパクトは強烈だった。ほとんどの資産価格が瞬く間に何割も下落した。 「あなたがたは、お預けしたお金が我々社員の老後の年金資金だと分かって運用しているのか!」そんな風に厳しく叱責されたのは、同年11月外資系運用会社社長になって新任挨拶をしていた席上でのことだ。 指標となるベンチマークに対して相対的に勝っていようが、絶対的に負けている中では空しい。いったい将来の社員への年金支払いはどうなるだろう…。年金責任者は真面目であればあるほど、大変なプレッシャーで押しつぶされそうになったはずだ。そして、運用会社は、プロとして何かやりようがなかったのか・・・?そんな風にやり場のない怒りをわれわれにぶつけたのだと思う。 運用会社は事前に顧客と取り決めたルール(インベストメントガイドライン)に基づき粛々と業務を進めている。市場が暴落し預かり資産の絶対水準が下がろうとも、指標として合意したベンチマークに相対的に勝っている以上、責められる非はない。そう考えると、業界人には、むしろ冒頭の発言こそがルール違反に感じられたかもしれない。 しかし自分には、元々どこか「自分達の責任を限定する」業界の論理や、「カタカナ言葉を濫用して運用を難しく見せてしまう」因習に馴染み切れぬ面があった。だからこそとても心に刺さる一言となったのだ。 「一体運用会社の使命とは何なのか?」との自問自答には終わりがない。 業界には教育責任がある 100年に一度といわれる危機にも関わらず、平時のルールを杓子定規に守り、その結果、生じた苦情(というより悲鳴)を投資家側の問題と片付けてしまって本当によいのだろうか?そのお金が、自分の両親のなけなしの老後資金でも同じように対応したであろうか?もし投資家の知識が不足しているのなら、せめて教育責任をまっとうせずして、この業界に未来はあるのだろうか? 結局、リーマンショック時に誰しもが抱いた大きな疑問に、納得のいく答えを見出だせないまま業界は前に進もうとしているように見える。 市場はいつも予想通りに動くわけではない。だから、その失敗から学べない者は、運用のプロにはなれない。そもそも、相場に関わってはいけないはずだ。 そして「失敗から学ぶ」意義は、運用者のみならず、個人法人を問わず投資家の側にもあてはまることなのだ。 昨今ニーサ(NISA)導入などを契機に、投資家の裾野を拡大しようとの機運が高まっている。しかし、「潜在的な投資家」の多くは、資産運用と向き合う姿勢を教わったことがないから、当然、ポジションを確立できていない。 当たり前のことだが、相場が上がればみな喜び、下がればみな悲しむ。だがなぜそうなったのかについては、深く考えない。だから失敗から学べない。リーマンショック前と変わらない構図だ。 投資手法は80年代の失敗から学んでいない 特に、アベノミクス以降は、"投資で一攫千金を狙え!"というような80年代バブルを彷彿とさせる扇情的な記事が目につくようになったので、筆者にとってはさらに心配が増している。 巨万の富を狙えば、逆に巨万の富を失う可能性がある、それが相場の原理だ。それをリーマンショックから痛いほど学ばされたはずなのに…。そして、市場は依然リーマンショックによる集中治療室から抜け出せずにいるのに! 学ばない投資はギャンブルと変わらず、投資家に "意図せぬ損"を再びもたらす可能性がある。だから、「失敗から学ぶ!市場激変の可能性に事前に備えてほしい」のだ。その警告の声をあげることが、リーマンショックから私が学んだプロの使命の一つと考える。 さて、こうやってリスクを書き上げると、「そんなリスクのある投資などしないほうが良いのか?」という声が上がるのではないか。 そんなことはない。一般に見落とされがちな常識として、「人は投資のリスクを避けては生きられない」のだ。 例えば銀行にお金を預けても、生保商品を購入しても、そのお金はみな広義の投資に回っている。銀行や生保が投資に失敗すれば金利や配当の低下、時には元本毀損の形で自らに跳ね返ってくる。過去、預金者や生保契約者が倒産リスクを負わされたこともあった。 間接的にとっているリスクを直視しなければいけない。プロにすべてお任せ…ではダメなのは歴史的に見ても理由がある。 説明責任を重視するが故の国債投資 そもそも運用とは、個々の家庭の事情を熟知した会計士や弁護士などが預け手と一体となって、懐具合を見ながら行っていたのが起源とも言われている。そのことに象徴されるように、運用で大事なのは、それぞれがいったいどれだけの価格変動なら許容できて、その制約のなかで、いつまでにどの程度のリターンを目指すのか?すなわち、今で言う「リスクアピタイト」の認識・決定にあるのだ。それが誰よりもしっかりできるのは、真のプロの相談相手が少ない日本では、自分自身に他ならないのだ。 さらに、プロにはプロゆえの見えない制約がある。例えば、顧客への説明責任を重視するあまり何が行われてきたか? 国債への集中投資だ。国のリスクなら万が一やられても説明しやすいとの心理が働いたように見える。 しかし、最近になって素人目にも顕在化してきたのは、国債は本当に大丈夫か?との疑問だ。倒産せずとも金利の急上昇により価格が暴落するリスクをギリシャが教えてくれた。日本国は最近あらたなる格下げにあった。われわれは、嫌なことは見てみぬふり、思考停止していないだろうか? リスクをとらずにリターンなどあるわけない。日常生活ではみな肌で感じているはずだ。何も運用に限ったことではない。だから、これからは、はっきりと意識して、意図したリスクをとってリターンを狙う時代なのだ。 市場での失敗からは多くの学びがある。昨今、「わからないものには手をだすな!」という金言が不勉強の言い訳に使われているような気がする。分からないものを、分かるようにする努力が大事なのだ。運用の勉強のススメだ。 真面目に働いているだけでは幸せになれない? 資産運用を学べば視野が広がり、考えが深まる。その勉強こそが自分のビジネスパースンとしての市場価値を高めるのだ!実は、受け身から能動への姿勢の転換が最大のディフェンスにもつながる。 世界的に見れば、何も特別なことを言っているわけではない。資産運用は欧米ではエグゼクティブの常識である。だから、例えば米国では小学校から投資教育するところもある。自分の息子も小学校で株式売買シミュレーションをやらされていた。そんな土壌の上に、ビジネスエグゼクティブは、MBAにおいて、深く市場の勉強を上乗せするのだ。だが残念ながら、日本が特に遅れている分野だ。 真面目にこつこつ仕事をすれば幸せになれたのは、高度成長期までだ。今はグローバル化が進行し、各地において旧来の価値観がチャレンジされる変革の時代である。国内外資産への投資を通じての学びには無限の可能性がある。 より良い投資を探求すれば、世界の常識や社会経済動向を認識するとともに、世界の将来環境予測を考えることになる。余談だが、実はグローバル人財のスキル要件と、資産運用人材の要件は大きく重なっているのだ。 運用を学べばもちろん金銭的な安心感も手に入る。絶対に儲かる!などといっているのではない。日本の先々が心配、多くの人が漠然とそんな不安を抱えているはずだ。ならば、それぞれの貯蓄額に応じて一部をドルやユーロにて預金しておけば良い。目先儲かる、儲からないという短期的目線で考えてはダメだ。もし残念ながら日本経済が本当に衰退してしまったら大きく円安になるはずだから、その保険を買うつもりでおうように構えれば良い。 心配だけしていても仕方ない。何か備えの手を打ってこそ心配する意味がある。その投資行動から新たに学び、日々のビジネス判断に役立つという副次的効果も馬鹿にならない。 さらに、SNS(交流サイト)時代に氾濫する情報に対しても、投資行動に乗り出すことによって、物を見る切り口が一つに収束し始めるというメリットもある。 資産運用の山はそれほど高くない さて、筆者は元々生保営業がやりたくて生保会社に勤めた人間だった。はるか昔の入社面談では、財務の仕事は苦手、できれば避けたいとすらいった。そんな人間だから、資産運用がとっつきにくいと感じる人の気持ちはとてもよく分かる。 ただ、その山は無理に登らされると思ったほど高くない。にも関わらずそこから見える景色はとても広角だ。その喜びを今後書いていきたい。最近、プロにとってもとっつきにくい金融商品がさらに複雑化して公募投信の形で広く一般に売られるのを見てこわくなってきた。次回は、業界の問題の真相と個人のとれる対策に切り込んでみたい。 このコラムについて 資産運用、痛恨の失敗に学ぶ!
グローバル化が進んでいる世界経済。リーマン・ショック後も世界経済の不確実性は続いており、日本の将来や年金に対する不安が広がり、さまざまな投資に関心が高まっている。銀行預金だけでは心もとないが、資産運用の世界は一般人にはハードルが高い。そこで第一生命保険を経て欧米系金融機関のマネジメントを経験してきた著者が、その痛恨の失敗から得た教訓を読者に指南します。 http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/092400008/092500001/ |