1. 2015年9月25日 13:30:04
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今や300兆円、企業の「内部留保」に課税案が再浮上?どうやったら企業におカネを使わせることができるのか2015年9月25日(金)磯山 友幸 企業が貯め込んでいるおカネをどうすれば放出させられるか なぜ日本経済は成長しないのか。企業が稼いだ利益をせっせと内部に溜め込んでしまうからだーー。これが安倍晋三内閣がアベノミクスに着手する段階での分析だった。企業に再投資をさせようとするのが3本目の矢に掲げた「民間投資を喚起する」成長戦略であったし、もっと配当などの形で株主などに利益還元させようというのが、コーポレートガバナンス強化のひとつの狙いだった。
また、給与の引き上げを繰り返し要請しているのも、この流れの中にある。アベノミクスを通して、企業が得た利益を手元に蓄積する「内部留保」を吐き出させ、「経済の好循環」を作り出すことで、日本経済を再び成長路線に乗せようとしているわけである。 ところが、その内部留保の増加が止まらない。財務省が9月1日に発表した2014年度の法人企業統計によると、金融・保険業を除く全産業の期末の利益剰余金は354兆3774億円と1年前に比べて26兆4218億円も増えた。率にして8%の増加である。 純利益は10%も増加 最大の要因は企業が稼ぐ利益自体が大きく増えたこと。1年間の純利益は41兆3101億円と10%も増えた。 アベノミクスが本格的に始まる前の2012年度の純利益は23兆8342億円だったから、円安などの効果で企業の利益は1.7倍に急拡大したことになる。ちなみに、リーマンショック前のピークの純利益は2006年度の28兆円余りだったので、それをはるかに上回る過去最高水準の利益を上げたわけだ。 そんな急激に大きくなったパイを、なかなか分配できていないのが今の状況だ。企業が株主に支払う配当は16兆8833億円と17%増えた。 利益のうち配当に回した割合は41%と、前の年度の38%に比べれば上がったものの、割合は決して大きくない。リーマンショック前の配当額のピークは利益が最大だった2006年度だが、この時の金額は16兆2174億円。利益の58%を配当に回していたことを考えると、前年度の38%はまだまだ低い。それが手元には大きな余剰金が残り、内部留保が増えてしまった最大の理由だ。 これにはさっそく、共産党の機関紙「赤旗」が噛みついた。資本金10億円以上の大企業の内部留保だけで299.5兆円に達し、前年度から14.4兆円も増えたにもかかわらず賃金の上昇に結び付いていないと批判、次のように書いていた。 「安倍政権は大企業が利益を増やせば、経済に『好循環』が生まれるとして優遇策を進めていますが、結果は大企業がため込みを増やしただけ。史上最高となった収益は国民や労働者に還元されていません」 確かに、従業員給与の総額は127兆円と前年度に比べれば2.1%増えているものの、直近のピークだった2011年度の130兆円に比べると低い。その年の内部留保の増加額は7兆円余りと、2014年度の24兆円3分の1に満たなかった。 統計数字を見る限り、企業が稼いだ利益に比べて、従業員への分配は十分になされているとは言いがたいと言える。安倍首相が経済団体の幹部などに繰り返し賃上げを求めてきたのは、こうした事情があるからだ。 企業自身が、将来の成長に向けた設備投資に利益をきちんと振り向けているかどうかも怪しい。従業員ひとり当たりの有形固定資産額である「労働装備率」は1081万円と前の年度より低下した。年度によって上下することはあるものの、ここ10年以上にわたって、ほぼ同じ水準が続いている。これは、企業が減価償却の範囲内でしか設備投資をしていないことを伺わせる。 今年6月に閣議決定した成長戦略「日本再興戦略 改訂2015」では、企業に設備投資を促すために官民会議を設置することが盛り込まれた。これも、企業がなかなか設備投資に儲けを回さないことへの安倍政権と苛立ちと言えるだろう。 もちろん、企業側にも言い分はある。景気回復がどれだけ続くか分からない中で、そうやすやすと賃上げには応じられない、というのだ。為替にしてもいつまでも今の円安水準が続く保証はない。経営者からすれば、内部留保を厚くしておく方が安心というわけだ。 もう一点は、設備投資にしても、儲かる事業があれば、政府に尻を叩かれずとも投資はする。むしろ規制を撤廃することで新しいビジネスチャンスを生むべきだ、というものだ。アベノミクスは3本目の矢を実現させる方策として規制改革を掲げてはいるが、経営者からみれば遅々として進んでいない。農業や医療、労働など安倍首相が言う「岩盤規制」に守られた業界には、新しいビジネスチャンスがあるのは間違いないが、既得権層の抵抗も根強く、なかなか参入していくことはできない。 そうは言っても300兆円を大きく超えるおカネを企業の懐に眠らせておいては日本経済の再成長は覚束ない。どうやったら、企業に内部留保を吐き出させることができるか。 成長できない理由の一つは再投資の不足 「内部留保に課税でもしますか」と財務省の幹部は冗談めかして語る。だが、あながち冗談でもないのだ。 財務省は2012年に安倍内閣が発足する前から、極秘裏に日本経済が成長しない理由を分析していた。その結論は2つ。日本の構造がグローバル化に適応できなかったこと、もうひとつは、企業が内部留保を増やし続けて再投資しなくなったこと、が原因だとしたのだ。 その際には具体的な解決策も議論された。グローバル化対応は話が分かりやすい。反対は根強いものの、規制緩和などを推し進めて構造改革を実行するほかない。アベノミクスで、「世界で最もビジネスがしやすい国にする」という目標を掲げたのも、こうした分析がベースにある。 問題は内部留保をどう吐き出させるかだ。内部留保に対して一定の課税をすることも当然、検討した。そこで、内部留保に一種の課徴金を課そうというわけである。だが、さすがにあまりに社会主義的な政策だけに、日の目をみずにその時は終わった。 代わって打ち出されたのがコーポレートガバナンスの強化だ。機関投資家のあるべき姿を示す「スチュワードシップ・コード」を導入し、生命保険会社や銀行が、自社の保険者や預金者の利益を最大にするよう行動することが求められた。具体的には企業の株式をたくさん持っている生保などが、株主として企業に利益配分などを要求していくことを求めたのだ。大株主である生保などが要求すれば、企業は増配に動かざるを得なくなる。 もうひとつは、社外取締役の導入を求める「コーポ―レートガバナンス・コード」の導入。社外取締役など外部の目を経営に取り入れることで、株主への還元を増やしたり、新規事業への投資を促そうとしたりしているのだ。企業が配当を増やしたり、自社株消却をするケースが増えたりしているのも、こうしたガバナンス強化の効果が出始めているためだとみることができる。 それでも、内部留保が増え続けていることに、内外から批判が出始めている。 9月上旬、海外大手ヘッジファンドの幹部の訪問を受けた安倍内閣の幹部は、耳を疑った、という。「企業に内部留保を吐き出させるために、内部留保課税をしてはどうか」と提案されたのだという。これまで法人税減税などを求めてきたヘッジファンドからすれば、減税が実現した以上、次の弾が必要だというわけだ。法人税を引き下げた分、企業が内部留保を増やしてしまっては何もならない。 課税制度、先進国にはほぼ存在せず もちろん欧米先進国には内部留保に課税する制度はほとんど存在しない。もともと内部留保を積み上げるカルチャーに乏しいうえ、2000年前後のコーポレートガバナンス改革の強化などもあり、株主の力が強まっている。余計な内部留保を積み上げれば格好の買収ターゲットになってしまうからだ。 株価の大幅な下落で、安倍内閣も株価を何とか引き上げたい“欲求”にかられているのは確かだ。そんなタイミングで出てきた内部留保課税の要求をどう扱うのか。もともと財務省の中には課税論者も存在するだけに、今後の対応が注目される。 このコラムについて 磯山友幸の「政策ウラ読み」 重要な政策を担う政治家や政策人に登場いただき、政策の焦点やポイントに切り込みます。政局にばかり目が行きがちな政治ニュース、日々の動きに振り回されがちな経済ニュースの真ん中で抜け落ちている「政治経済」の本質に迫ります。(隔週掲載) http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/238117/092400007/
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