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ディーゼル車の不正発覚で引責辞任したフォルクスワーゲンのマルティン・ヴィンターコーン社長・CEO Photo:AP/AFLO
VW、ディーゼル車不正の激震 王者転落でエコカー勢力図はどう変わる?
http://diamond.jp/articles/-/78907
2015年9月25日 佃 義夫 [佃モビリティ総研代表] ダイヤモンド・オンライン
■突然のディーゼル車不正発覚 王者VWにいったい何があったのか?
日本ではシルバーウィークの連休に入った矢先の9月19日の朝(米現地時間18日)、米環境保護局(EPA)が独フォルクスワーゲン(VW)のディーゼル車で排ガス試験のときだけ排ガス量を減らす違法なソフトが使われていたとして、対象となる48万2000台のリコール(回収・無償修理)を同社に命じたというニュースが飛び込んだ。加えて米EPAは、VWに対して大気浄化法違反の通知を送り、調査を開始した。
米国におけるVWへのリコール対象車は、2009年以降2015年までに販売された「ゴルフ」「ビートル」「パサート」「ジェッタ」に、グループ傘下のアウディ「A3」を加えたディーゼル5車種。米EPAによると、通常走行時の窒素酸化物(NOx)の排出量は基準値の最大40倍という。
当事者のVWは、その2日後の20日、独本社のマルティン・ヴィンターコーン社長が「お客様と国民の信用を傷つけ、深くお詫び申し上げます」との声明を発表。米EPAの指摘を認めた形で、さらに米国だけでなく、欧州などでも調査が広がり、グローバル戦略全体に影を落とす最悪の状況となりつつある。
独VWはさらに22日、米EPAによるリコール対象車でディーゼルエンジン「EA189」を搭載したVWグループディーゼルE車において、試験結果と走行時の窒素酸化物(NOx)など排ガス量のデータが異なったことを認めている。
このエンジンを搭載した車両は世界で1100万台に上り、対策費用として約8700億円を7-9月期決算に特別損出として計上することを発表した。そして23日、マルティン・ヴィンターコーン社長・CEOが「VWは心機一転で再出発が必要」と辞意を表明。事態はトップの引責辞任にまで至ることになった。
いったいVWに何があったのか。
VWは世界の自動車メーカーの中で、リーマンショックを挟んで最も成長を示した企業グループであり、今年上期には日本のトヨタ自動車を抜いて世界トップの販売を示し、世界一の座を奪還したばかり。環境技術やモノづくりでも優位性を示す動きを見せてきたが、今回の不祥事は巨額の制裁金が今後発生する可能性もあり、大幅な業績悪化予想と社長の引責辞任で経営面を揺るがされることになる。だが、それ以上にVWグループのブランドと信用力の失墜に繋がる打撃が大きい。
メルケル独首相が「VWは完全な透明性を示すことが重要だ」とのコメントを発し、VWに情報公開の徹底を要求する異例の事態になっており、欧州を代表する自動車大国・ドイツの面子にも影響を及ぼしかねない。また、欧州株式市場ではVW株の大幅下落だけでなく、ダイムラーやBMW株も下落、さらに仏ルノー、プジョーシトロエン株も下落するなど、VW問題が欧州株式市場全体に連鎖することにもなった。
VWは、社内調査と米EPAなど関係機関との協力によって原因を明らかにするとしており、現時点で不明な点を今後の情報公開に委ねることになる。それにしても、環境技術でも先行し、かつ欧州市場で高い販売シェアを持ち、実績を積み重ねて「クリーンディーゼル」を環境戦略の最前線に打ち出しているVWが、こんな排ガス規制逃れをする必要があったのか、疑問である。
問題となったディーゼル車だが、ディーゼルエンジンはガソリンエンジンに比べてコストが安い軽油を燃料とし、二酸化炭素(CO2)の排出量が少なく燃費もいいというメリットがある半面、窒素酸化物(NOx)や粒子状物質(PM)の排出や騒音が多いというデメリットがあった。
日本でもディーゼル車に対しては、大気汚染の観点からかなり厳しい見方が多く、過去には石原慎太郎東京都知事時代に「ディーゼル悪玉論」が横行したこともある。当時、都知事会見で石原氏が、煤が溜まったペットボトルをかざして、「ディーゼル車がこれだけ大気を汚染しているのだ」と強調したことを思い出す人も多いはずだ。
■欧州ではクリーンディーゼル車が主流 市場に与える打撃は計り知れない
余談だが、筆者は新聞記者時代、その後の石原都知事にインタビューをした際に、「ディーゼル車の環境対応技術もかなり進化して良くなりましたが」と問うたところ、「結果的に私があの会見で言ったことで、自動車各社が奮起してディーゼルエンジンが良くなったんだ」と、いかにも石原氏らしい答えが返ってきたことを思い出す。
しかし元来、欧州ではディーゼル車の環境対応への意識が強く、硫黄分の少ない軽油の供給もあり、NOxなどの排出を大幅に削減する技術を使った「クリーンディーゼル車」が、欧州乗用車販売の5割以上を占め、主流になっている。必然的に、VWをはじめとする欧州の自動車各社は、環境対応技術の核としてクリーンディーゼルを主流とし、クリーンディーゼルエンジンとのプラグインハイブリッド(PHV)戦略に磨きをかけている。
ディーゼル車の排ガス規制については、欧州のユーロ5からユーロ6、日本のポスト新長期規制、米国のTier2Bin5といった基準のクリアが求められ、VWは米国戦略としてディーゼル車を前面に押し出した展開を進めてきた。VWは2008年4月に、高圧と低圧の2つのEGR(NOx低減のための排ガス再循環装置)を組み合わせたシステムにDPF(ディーゼル微粒子循環フィルター)とNOx吸蔵還元触媒を組み合わせて、米国排出ガス規制をクリアすることを発表している。
今回、米国で2009年以降のVW及びアウディのディーゼル車がリコール対象になったということは、当時の発表を受けて米市場に投入されたディーゼル車の品質が、全てリコールに該当していたということになるだろう。
■ピエヒ帝国の「お家騒動」でVWに見え始めていた変調の兆し
今回の米国でのディーゼル車不正問題は、今後の社内調査や情報公開に委ねられるとして、結果的にVWのグローバル戦略に飛び火する打撃となり、かつ社長CEOの引責辞任という事態にまで追い込まれた。このような事態になった遠因を推測してみよう。
VWは、フォルクスワーゲン(国民車)という社名からわかるように、ドイツの国民車を量産する自動車メーカーが母体となっている、ドイツを代表する企業である。VWは、フェルドナンド・ピエヒという人物なくしては語れない。
氏はVWを創業したポルシェ家とピエヒ家の創業家出身で、1993年当時、大幅な赤字を出す経営危機にあったVWのトップに立つや、再建に向けたコスト改革や競争力改善への改革を一気に推し進めた。さらにマルチブランド戦略、プラットフォームを進化させたアーキテクチャー(設計概念)MQV戦略、高級化戦略と、これらを受けての外部成長を獲得するM&A戦略を積極的に推進した。
ランボルギーニ、ベントレー、ブガッティなどの欧州高級車ブランドを買収し、傘下のアウディ、ポルシェとの協業を推進。さらにマン、スカニアといった商用車ブランドから、二輪車のドゥカティ、デザインのジウジアーロまでをも傘下に収め、12のブランドを持つVWグループ帝国を形成するに至っている。唯一失敗に終わったのは、日本のスズキとの資本提携だろうか。
このように、VW帝国を築いたのはフェルドナンド・ピエヒ氏という強烈なリーダーによるものだった。2002年に65歳の定年でVW取締役会会長を退任したが、監査役会会長として院政体制に移行し、ピエヒ氏独裁下でマルティン・ヴィンターコーン氏を2007年から社長に就任させ、右腕とした。
この間、VWは次世代のモジュラー・マトリックス戦略である「MQB」を公表、3つのプラットフォームに集約する一方で、中期経営計画「ストラテジー2018」を推進中である。中期計画では、2018年のVWグループ世界販売1000万台達成、税引き前売上高利益率8%確保、最高の品質と顧客満足、最良の雇用者満足という4つの目標を掲げている。グループ1000万台については、2014年に前倒しでこの水準に乗せてトヨタに肉薄し、今年2015年上期でトヨタを抜いてトップに立ち、話題を投げかけた。
ここまでは、ピエヒ独裁によるVW帝国の躍進だった。それが今年に入り、異変が起きたのである。VW帝国の絶対的なリーダーとして20年以上も君臨してきた「ドクターピエヒ」ことフェルディナント・ピエヒ氏が、4月25日にVWの最高意思決定機関である監査役会会長を辞任。これを独メディアは、「VWのお家騒動」と伝えた。
この時点で「VW内部が揺れ動いているのでは」と伝えられた。昨年の米国販売が2%減の59万台に止まったこと、今年に入りトップを走ってきた中国事業が経済停滞の影響を受け、販売シェア首位だった中国販売が減少したことなどが響いて、世界販売が昨年実績を割り込んできている状況で、異変への兆候があった。
日本市場でも、輸入車トップの座を長らく続けてきたVWブランドが今年上期でベンツブランドにトップを譲り、7月末には日本法人社長の突然の解任という事態も起きた。
■北米市場伸び悩みへの焦りか?巻き返し策が招いた最悪の事態
特に、VWグローバル戦略における大きな課題が米国事業だった。中経では、米国市場での100万台販売が目標に掲げられており、そこではディーゼル車の浸透策が戦略の柱とされていた。だが、昨年は59万台と計画の5割強にとどまり、それによってVW内部に「焦り」が生じたのではないかと推測される。VWの米国事業は、1988年のペンシルベニア工場閉鎖によって生産撤退の屈辱を味わっている。それだけに、ディーゼル車を中心とした米国事業での巻き返しについては、「何としても成功させたい」という意気込みがあったはずだ。その気負いが裏目に出たのだろうか。
一方、VWの環境技術対応は世界覇権を争う日本のトヨタと一線を画した方向で進められてきた。トヨタはハイブリッド車戦略で先行優位性を示し、近く4代目プリウスを市場投入する。進化させたハイブリッド技術をプラグインハイブリッド(PHV)、電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)の要素技術を含むコア技術として、パワートレーンの多様化に対応する。水素社会到来への先行策として、昨年12月にFCV「MIRAI」を日本市場に投入し、米欧には本年10月から投入予定だ。
これに対しVWは、ダウンサイジングターボと呼ばれる小排気量過給エンジンやクリーンディーゼルエンジンなど内燃機関の効率化・進化に力を入れてきた。さらに高出力ディーゼルを開発し、ダウンサイジングを進めている。電化パワートレーンの強化、特にプラグインハイブリッド(PHV)へ注力する方向にある。当面目指すロードマップは、エネルギー効率の高いダウンサイズ・ディーゼルエンジンを活用するプラグインハイブリッドだと言われてきた。
■環境技術対応の方向転換も 「好事魔多し」を他山の石に
それだけに、今回のディーゼル車不正問題が今後、VWにどのような影響やダメージを与えるかによって、環境技術対応の方向転換が迫られることにもなる。さらに日本にはデンソー、ドイツにはボッシュというメガサプライヤーの存在があり、クリーンディーゼル技術に大きな役割を果たしていることも関心事項だ。
また、引責辞任を発表したヴィンターコーン氏の後継トップの行方がどうなるのか、創業家出身で大株主でもあるピエヒ氏のカムバックもあり得るのかといった経営面の建て直し策についても、この難局をどう打開していくかに注目が集まる。
奇しくも現在、9月15日から27日までフランクフルトモーターショーが開催されており、欧州自動車大国・環境大国を自負するドイツが世界へのアピールを試みている国際モーターショーの最中において、ドイツを代表する企業・VWの不祥事が勃発することとなった。
まさにVWにとって「好事魔多し」であり、自動車各社はもって他山の石と銘ずべきだろう。
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