3. 2015年9月25日 19:21:59
: OO6Zlan35k
コラム:ドル全面高シナリオの黄昏=山本雅文氏 山本雅文マネックス証券 シニア・ストラテジスト [東京 25日] - すう勢的な成長減速に直面する中国を含む新興国から、リーマンショックを乗り越え着々とリハビリを進めてきた米国に資金がシフトする――。そのためドル買いが奏功するという投資テーマは、米量的緩和縮小論が始まった2013年半ば以降、今年3月までは世界の投資家にとっての中心的戦略だった。それに拍車をかけたのが日銀の異次元緩和を受けた円安であり、また欧州中銀(ECB)のゼロ金利と量的緩和プログラムを受けたユーロ安だ。米連邦準備理事会(FRB)算出のドル名目実効相場は2012年末から今年3月までで、対主要通貨指数では27%、対新興国通貨(その他の重要な貿易相手国通貨)では13%上昇するなど、ドル一人勝ちだった。 もっとも、その後のドル相場は、対主要通貨と対新興国通貨で別の道をたどっている。中国の景気減速懸念を背景に進むアジア通貨安や原油安を受けたメキシコペソ安などにより、対新興国通貨ではドルが4%強続伸。他方、円安やユーロ安の一服を主因に、ドルの対主要通貨指数は足元までで3%弱反落した。 ドル一人勝ち局面でどの通貨を対価としてもドルを買えば利益が得られた時代は終わり、むしろ対主要通貨ではドル買いは損失を生むトレードにすらなっている。米国から見ると、中国、メキシコやアジア諸国の貿易比率が高いことから、ドルは貿易加重平均ベースで概ね上昇基調が続いており、これは金融条件の面からは引き締め効果がある。 つまり、金利引き上げを開始し金利面で引き締めを行わなくとも、為替面で引き締め効果が出ているわけだ。遅かれ早かれ利上げはあるにしても、現在では数年前に想定されていたようなペース(四半期に1回程度)では行う必要がなくなっている可能性が高い。こうした中、為替市場において投資妙味はどこにあるだろうか。 <夜明け前の新興国通貨投資> 内外要因の全てが逆風となっているいくつかの新興国通貨は対ドルで売り圧力を受け続ける可能性が高い。外部要因としては、米国のスピーディな利上げからくる資本流出懸念は多少後退しているものの、世界景気のけん引役である中国が想定以上に減速しているリスク、およびそれを受けた想定以上の需給インバランスからくる資源価格のさらなる下落リスクがある。 加えて、対外収支赤字、外貨建て対外債務、財政赤字、低成長、高インフレ、政局不安定といった個別リスクを抱える国が多い。主に資源安関連ではロシア、カザフスタン、メキシコ、チリ、南アフリカ、政局不安関連ではトルコ。また、ブラジル、マレーシアなどは資源安と政局不安の両方が重しとなっている。 これらの通貨は現在のところ好転の兆しがないことから、下落トレンドが続いてしまうリスクが大きい。こうした中で、中国が人民元のコントロールを失い、オフショア市場主導で人民元安が加速するような事態が起こると、アジア通貨を中心に連れ安が起きるだろう。 また、ブラジルレアル、トルコリラ、南アフリカランド、メキシコペソなどは日本の個人投資家の間でも高金利通貨として人気が高かったことから、日銀が追加緩和に踏み切らず、対円でも大幅下落が続くようだと、投資家センチメント、ひいては消費センチメントに悪影響を及ぼすリスクも高まっている。 これらの通貨の売り持ち戦略のリスクとしては、資本規制導入リスクと押し目買いリスク、そして中国の大規模景気刺激策に注意する必要がある。前者は、利上げや自国通貨買い介入など万策尽きた新興国が最後の手段として導入するもので、反対売買ができなくなってしまう。 もう1つの押し目買いリスクとは、これまでの大幅下落による割安化を受けて、長期的な押し目買いの好機と見た投資家のバーゲンハントが入る可能性だ。すでに南アフリカランド、チリペソ、メキシコペソ、マレーシアリンギなどは長期的に見て割安領域に来ているため、「ショート取扱注意」ゾーンに入りつつある。 さらに、中国による大規模景気刺激策の決定リスクも忘れてはならない。これまでの中国経済の減速は投資・輸出主導から消費主導への転換に必要とされる経済構造改革の結果で、ある程度は当局の思惑通りと言える。ただし、想定以上の景気減速や不十分なセーフティーネットに起因する社会不安の増大リスクを見かねた当局が、次善策として大規模な金融緩和・財政刺激策に踏み切る可能性もある。その場合、対中輸出依存度の高いアジア諸国や資源国の通貨に買い戻しが入ることになる。 <主要通貨投資は実りなき秋か> 円、ユーロ、ポンドの対ドル相場は、よほどの好材料が重ならない限り明確で持続的な方向感が出にくい、実りなき秋となりそうだ。 ドル円は、米利上げ期待が下支えとなりつつも、日銀追加緩和期待の後退や市場のリスク回避傾向が重しとなり、結局120円を中心とした118―122円のレンジをさまよう展開が年内は続きそうだ。米利上げ開始は12月がメインシナリオだが、確率は6―7割程度と見ている。利上げ開始には米国のインフレ率が明確に加速傾向を示し、中国の景気減速懸念が後退し世界金融市場が安定化することが必要となるが、ハードルは高い。 日本側の要因としては、政府・日銀がかつてのような円安を通じたインフレ・株価・景気押し上げの必要性を感じていないという点が重要だ。政府・日銀ともに2016年度前半としているインフレ目標達成時期の後ずれを示唆し始めているほか、原油安の影響を逃れようとエネルギーを除くインフレ指標に焦点をシフトし、物価上昇基調が続いているとの見方を維持している。 7―9月期もマイナス成長となれば景気刺激策への待望論は高まるかもしれないが、円安・輸入インフレの弊害がある追加緩和よりも補正予算編成を通じた財政政策が選好される可能性が高まっている。追加緩和があっても、初期アベノミクス下での先手必勝型ではなく、昔の日銀に見られた後追い型(ビハインド・ザ・カーブ)の緩和となるリスクを秘めている。 ユーロドルは来年パリティ(1ユーロ=1ドル)説が依然として残っているが、ギリシャ懸念が後退し中国リスクが意識される状況下、避難通貨としてユーロへの需要は高まっている。また、ECBも不必要な通貨高は避けたいものの域内景気がさほど悪くないため積極的に追加緩和を示唆せず、煮え切らない状態が続いている。 こうした中、思うように下がらない、分かりにくい通貨ペアとして敬遠され、業を煮やした投資家がユーロショートポジションを巻き戻しユーロが上昇するリスクがくすぶっている。 ポンドは逆に、上がりそうで上がらない通貨となっている。英国の景気状況は失業率低下が素直に賃金上昇につながるなど米国よりも良好とすら言えるが、国内総生産(GDP)比で史上最大規模の経常赤字を抱えるためか過度のポンド高を避けたいという意識が英中銀(BOE)の金融政策委員の一部にはあるようだ。 米国より先に利上げを開始して為替市場における通貨高圧力を一手に引き受けまいと、米国が利上げを先送りするとBOEも先送りし、いわば競輪で先行選手を後ろからぴたりと「マーク」して空気抵抗を避け、体力を温存しながら勝利を目指す「追い込み選手」を演じているのがマーク・カーニー総裁率いるBOEだ。こうした状態では、利上げ開始に向けて同じ方向を進んでいるポンドとドルの間に明確な方向性が生まれにくくなっている。 *山本雅文氏は、マネックス証券シニア・ストラテジスト。日本銀行で短観調査作成、外為平衡操作(介入)や外為市場調査・モニタリングに従事した後、ドイツ・フランクフルト駐在を経てセルサイドに転出。日興シティグループ証券で通貨エコノミスト、ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド銀行東京支店およびバークレイズ銀行東京支店で日本における為替ストラテジーチームのヘッドを歴任後、2013年8月に外為投資に関する調査・分析・情報発信を行うプレビデンティア・ストラテジーを設立。2015年4月より現職。国際基督教大学卒業。 http://jp.reuters.com/article/2015/09/25/column-masafumiyamamoto-idJPKCN0RP0O320150925?sp=true
[12削除理由]:管理人:無関係の長文多数 |