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015年3月、突如、中国と高速鉄道建設の覚書を締結したジョコ大統領(左)と習近平国家主席。日本は猛烈な巻き返しでこの覚書を覆した Photo:AFP=時事
日本が中国を撃退!インドネシア鉄道受注の逆転劇
http://diamond.jp/articles/-/78751
2015年9月23日 週刊ダイヤモンド編集部
成長戦略の柱としてインフラ輸出を掲げる日本政府は、この夏、インドネシアの高速鉄道受注をめぐり中国と激しく競い合った。終盤、中国優勢に傾いたが、結末は計画自体が白紙撤回に。その裏には、日本政府の猛烈な巻き返しがあった。(「週刊ダイヤモンド」編集部 清水量介)
「痛み分けのように報道されているが、インドネシアの政府関係者は陰で、“日本が勝った”と言っている」(インドネシア政府と交渉に当たった日本政府関係者)
今年9月、インドネシア政府は、日本と中国が受注を競っていたジャカルタ〜バンドン間140キロメートルを結ぶ高速鉄道計画を撤回した。
この計画をめぐっては、日本が数年前から新幹線方式で売り込みをかけ「独壇場」とみられていた。ところが、今年3月に突如、中国が参入を表明、終盤では中国有利との見方も浮上したほどだった。
にもかかわらず、計画自体が撤回される事態となったのは、日本側が最後の2カ月間、水面下で猛烈な反撃に出たからだ。
そもそもこの計画は、2014年まで10年間務めたユドヨノ前大統領が進めようとしていたもの。それが、新たにジョコ大統領が就任するや事態は一変、15年1月に計画の凍結が発表された。
ところが、である。3月にジョコ大統領が訪中した際、突然、中国と高速鉄道建設の覚書を締結してしまう。この中で中国は、インドネシアの政府保証なしで総事業費の74兆ルピア(6200億円)の全額を融資するという“破格”の条件を提案した。
事態の急展開に焦ったのは日本の政府関係者だ。すぐさま調査に乗り出してみると、おかしな事実が判明する。
中国側が提示した需要予測や採算面といった条件が、日本の国際協力機構(JICA)がインドネシアで実施した調査結果と比較して、少しずつ良いものとなっていたのだ。
しかし、日本側の調査内容は、インドネシア政府にしか提出していない。「その時点で、中国は現地調査を行っておらず、まるで日本の調査結果を把握しているかのような提案だった」(政府関係者)。交渉に当たっていた政府関係者の多くは、インドネシアから中国側に漏れたのではと疑った。
■中国側提案の甘さを指摘し大統領を説得
奮い立った日本勢は、ここから猛烈な反撃に転じる。日本政府関係者は、7月から数回にわたってインドネシア入りし、ジョコ大統領や政府幹部に説得を繰り返した。
中国側が提案した内容には幾つも甘い部分があった。日本はそこを突いた。
まずは工期だ。日本側が6年かけて21年の完成を目指すとしていたのに対し、中国側は鍬入れを15年8月末に行い、わずか3年で開通すると宣言していたのだ。5年の任期中に完成し、国民にアピールできるとあれば、大統領らの心が動いても不思議はない。
しかし、「環境調査もせず、工事に際して何が可能かなど、現地の法律も精査していなかったのが実情だった」(日本政府関係者)。
さらに、需要予測もでたらめだった。日本は、約2000円という運賃収入だけを想定していたが、中国は沿線開発から生じる収入を3割も含んでいたのだ。その上、着工も決まっていないのにどこに駅を造るのかを事前に地権者と話し合っていた節があった。
意外だが、中国側が提示した建設費は日本のものより高かった。列車の気密性が高い日本方式では、擦れ違う際にガタつかない。ところが、中国の列車は気密性が低く、線路の間隔を広く取る必要がある。その分、土地の取得費や工事費が高くなってしまうのだ。だからこそ、沿線開発の収益も入れてお茶を濁したかったのだろうという見方がもっぱらだ。
日本側は、こうしたいいかげんな予測やむちゃな工期についてインドネシア側に通告。さらに、アフターサービスの不安についても、これまでアフリカでトラブルを起こした案件などを基に解説した。
併せて、中国は自国から労働者を連れてくるため技術移転しないことを指摘。長い目で見ればインドネシアの発展につながらないことも説いた。その上で、「民主主義国家として、こんなプロセスでよいのですか」とまくし立てたのだ。
インドネシア政府が中国と覚書を結んだのは、日本側から良い条件を引き出すためのポーズではなく、実際に中国案採用に傾いていたという。だが、こうした交渉を経て、ついにインドネシア政府首脳も「確かに、高速で動くものを日本以外の国に任せるのは不安」と漏らすまでになっていた。
この時点で、日本政府関係者は逆転の可能性も感じていたというが、結果的にインドネシア政府は双方とも採用せず、計画自体が白紙に戻った。
中国の高速鉄道の源流は、日本の技術のコピーだ。その中国に負けたとあれば、日本の面目は丸つぶれだった。そういう意味では、受注こそできなかったものの、実質的には“勝った”といっても過言ではない。
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