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10月にも日銀の追加緩和があると予測する向きは多いが…
日銀は追加緩和に動けない、動くべきでもない
http://diamond.jp/articles/-/78822
2015年9月22日 真壁昭夫 [信州大学教授] ダイヤモンド・オンライン
■追加緩和への期待は高いが日銀はやりたくないのが本音
足元の世界の経済情勢を見ると、景気下支えの鍵を握っているのは主要国の金融緩和策だ。景気を回復させるために、思い切った緩和策が必要だった。それは、今でもあまり変わっていない。
米国FRBは9月での利上げを見送ったが、方向性としてはとりあえず金融政策の正常化に向かっている。一方で、わが国やユーロ圏、さらには中国が一段の金融緩和に向かう可能性がある。特に、わが国の追加金融緩和策に対する期待はかなり高い。
その背景には、一時、アベノミクスで円安・株高が進み景況感の改善が見られたものの、中国経済の減速懸念や株価下落に伴い、ここへ来て円安・株高傾向に一服感が出ていることがある。
そうした状況を放置しておくと、一時改善の兆しが見えた景況感に再び暗雲が出てくることも考えられる。また、何よりも、日銀が強気に目指している2016年前半に消費者物価指数プラス2%を達成することが困難になる。
市場関係者の中には、「黒田総裁は、どこかで追加緩和策を打つはず」との見方がある。そうした追加緩和策に対する期待は、国内投資家よりもむしろ海外投資家の方が強かった。
しかし、日銀は、9月の金融政策決定会合でも追加緩和には動かなかった。恐らく、日銀の本音とすれば、「追加緩和策実施に追い込まれることは避けたい」と考えているだろう。
日銀は既に多くのカードを切っていることもあり、インパクトのある緩和策の具体的な手段が残り少ない。それに加えて、追加金融緩和策の効果が次第に低下する可能性が高い。
思い切った金融政策でも、その効果は永久に続くものではない。むしろ、金融市場が政策発動に慣れ始めると、そのインパクトは次第に小さくなる。
そうした状況を考えると、米国の金融政策との兼ね合いもあるが、よほど危機的な状況に落ち込むことがなければ、日銀は当面、状況をじっくり注視するはずだ。
■世界的に高まる金融政策の重要度 だがその手法は無限ではない
世界経済全体を俯瞰すると、リーマンショック後は、不動産バブルや中国の大規模な景気対策の後遺症もあり、全体としてモノを作って売りたいという人=供給サイドが、モノを買いたい人=需要サイドを上回る状況になっている。
つまり、バブル期以降、世界全体の生産能力が上昇した一方、世界的な景気後退の影響で需要が供給能力に追い付いていない。そのため、企業間の取引に係る物価=卸売物価が横這い、ないしは下落傾向を示している。
そうしたデフレ圧力を抱える中で、各国の中央銀行が思い切った金融緩和策を打ち出して、今のところ、何とか景気を下支えしている。その意味では、主要国の金融緩和策は、世界経済の命脈を握っていると言っても過言ではない。
だからこそ、米国FRBのイエレン議長は、あれほど慎重に米国経済の趨勢を注視している。世界経済や金融市場が不安定であるがゆえに、誤ったタイミングで金利の引き上げを実行すると、景気回復の腰を折ってしまうことにもなりかねない。
あるいは世界のお金の流れ=マネーフローに大きな変化を与えることで、金融市場を一段と不安定化することも懸念される。それは、FRB議長として避けなければならない。
わが国やユーロ圏、さらには中国の金融政策も同じようにとても重要だ。それらの国はいずれも、今後、さらに金融緩和策の実施が必要とみられている。
しかし、金融政策の手法が無限にあるわけではない。伝統的な金利の引き下げや流動性の供給に関しては、主要国の金融当局はほとんどカードを切ってしまった。わが国は“異次元の金融緩和策”にまで踏み込んでいる。
政策担当者とすれば、これから予想外の事態に備えるために、少しでも選択肢を残しておきたいはずだ。日銀やECB(ヨーロッパ中央銀行)は、量的緩和策の出口に近づいているFRBを羨ましく見ていることだろう。
■金融政策の効果には限界がある バブルが発生・崩壊すれば惨事が襲う
もう一つ頭に入れておくべきポイントは、金融政策は万能ではないことだ。“異次元の金融緩和策”によって多額の流動性=お金を市中に供給しても、世の中の企業や人々が使わなければお金の流れは改善しない。
企業がお金を使って設備投資を行ったり、人々が消費活動を活発化したりすればモノが売れ、景気が坂を上がっていく。しかし、先行きの不安などから企業の設備投資意欲が盛り上がらなったり、人々が消費を控えたりするとお金の流通は滞ってしまう。
それでは、景気が大きく改善することは期待し難い。また、経済全体で需要が盛り上がらず、デフレ傾向から本格的に脱却することも難しい。
日銀の岩田副総裁は就任時、「金融緩和策によって、2年以内に消費者物価指数が2%まで上昇しなければ辞任する」と明言した。
しかし、2013年に“異次元の金融緩和策”に踏み切って既に2年以上の時間が経過しているが、副総裁が啖呵を切った物価上昇率に到達していない。原油価格の大幅下落などの要因はあるものの、金融政策のみによって経済状況を大きく変化させるのが難しいことは確かだ。
一方、金融緩和策にはいくつかのマイナス面=弊害もある。市中に供給されたお金は、実体経済に向かわず、むしろ収益を求めて金融市場に流れ込む。多額の投資資金が株式や為替などの金融市場、さらには海外、特に新興国などに流入すると、当該市場の価格が一挙に押し上げられることがある。
いわゆるバブルの発生だ。バブルが続いている間は景気が上昇し、投資家も一般庶民も皆ハッピーだ。しかし、バブルは永久には続かない。
緩和気味の金融政策の引き締め型への転換などをきっかけにバブルが崩壊し、それまで得ていた幸福感をすべて吐き出すほどの惨事が人々を襲うことになる。
■追加緩和による景気回復は一時的 リスクはいっそう大きくなる
今まで、主要国の金融緩和策によって、わが国をはじめ、欧米諸国や中国さらには多くの新興国の株式市場が安定した上昇相場を示してきた。
しかし、そうした宴もそろそろ終局、あるいは7合目、8合目まで到達していると認識すべきだ。米国の“QE3”は既に昨年11月に終了している。基軸通貨国である米国の金融政策が明確に変わるとその影響は小さくはない。
既に一部の新興国では、投資資金の流出などによって株式や為替などの金融市場が不安定化している。中国では、昨年夏場以降の景気減速にも拘らず、株式市場に個人投資家の多額の資金が流入して約1年間で2倍以上に株価が上昇する銘柄もあった。
それは、中国人民銀行の周小川総裁が認める株式バブルだ。バブルは必ず破裂する。7月に入って中国の株式市場が急落し、それが主要株式市場に伝播するように世界同時株安が発生した。
それと同様のことはこれからも発生する可能性が高い。金融緩和策は、言ってみれば一時しのぎの弥縫策だ。頭痛がひどいので鎮痛薬を飲むのと同じだ。それでは、問題の原因を完全に治すことはできない。
株式や為替などを一時的に安定化させて時間を稼ぎ、その間に経済構造の改革などによって、経済が抱える本源的な原因を解消しなければならない。原因を治すことができないと、またいつか、同じバブルの発生とその後始末がやってくる。
金融政策に長い期間、大きく依存するのはリスクの高いことだ。日銀がさらなるサプライズを狙って追加金融緩和策を講じると、一時的には景気が回復するかもしれないが、緩和策で最も難しい“出口戦略”が一段と困難になる。それは大きなリスクになるかもしれない。
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