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中国きしむ新常態:自力では解決できないが、「世界の工場」としてはコモディティ価格の上昇が構造改革のためにも不可欠
http://www.asyura2.com/15/hasan100/msg/733.html
投稿者 あっしら 日時 2015 年 9 月 22 日 01:56:58: Mo7ApAlflbQ6s
 


中国きしむ新常態

(上) 安定成長へ苦難の調整
習指導部、一段の減速に危機感 生産停滞、雇用に影

 中国経済の減速感が一段と強まってきた。消費動向を示す社会消費品小売総額は10%程度の成長を維持するが、設備過剰が深刻な製造業では減産の動きが広がり、雇用にも影を落とし始めている。中国経済はかつてのような2桁成長を望めない「新常態(ニューノーマル)」に移行したとし、緩やかな成長の持続を目指す習近平指導部。成否は成長減速の混乱を抑えながら、痛みを伴う構造改革を実行できるかにかかっている。


 「7〜8月に20日以上の休暇が与えられた。こんなことは今までなかった」。四川省成都にある独フォルクスワーゲン(VW)と中国・第一汽車の合弁工場。ある従業員は突然告げられた長期休暇の様子を地元メディアに語った。

 自動車販売は昨年まで好調を維持してきたが、今春から急ブレーキがかかった。在庫が膨らんだ販売店は値引き競争を繰り広げており「9割が赤字」(自動車販売店の業界団体)との声もある。

 中国国家統計局によると、工業主要産品69品目のうち2014年の生産量が前年を下回ったのは発電用ボイラーや冷蔵庫など16品目。15年1〜7月では建設資材の粗鋼、板ガラス、セメントや工作機械などが減産に転じ生産量が前年同期を下回った品目は31に増えた。同時期の自動車は0.2%増だったが、7月単月では11.2%減となるなど、ここへ来て生産の停滞が鮮明になっている。

 減産の動きは雇用情勢にも影を落とす。1万人近い人員を抱える日系電子部品メーカーの福建省の工場。これまでは毎月10%程度の工員が離職し、人手不足から人員の補充は難航するのが常だった。それが6月以降、離職率は5%に半減、新規採用の募集には毎日数百人が訪れるようになった。同工場の幹部は「こんなことは初めて」と驚きを隠さない。

 8月末には山東省の造船中堅、山東華海船業が破産した。非効率な国有企業が淘汰されずに存続する造船や鉄鋼、セメントなどの業界では設備過剰が一段と深刻さを増しており、企業破綻も表面化しつつある。

 中国の15年4〜6月の実質国内総生産(GDP)成長率は1〜3月と同じ前年同期比7.0%となったが、実際はすでに7%を下回っているとみるエコノミストも少なくない。6月中旬以降の株式バブル崩壊、輸出不振などが相まって、15年の成長率は政府目標の「7%前後」を下回るとの見方も広がっている。

 李克強首相が10日の講演で、大規模な景気刺激策を打ち出すよりも改革を優先する姿勢を示す一方、「目の前のことに対しては様々な手を打つ」としたのも、悲観論が広がっていることへの危機感の表れだ。

 「今後5年間は構造転換の陣痛期」。トルコで5日閉幕した20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で楼継偉財政相はこう語った。陣痛に耐えきれず、改革の手綱を緩めれば将来に禍根を残すことになる。


消費主導経済に転換 大型の景気対策に頼らず

 習近平指導部が掲げる「新常態(ニューノーマル)」は高齢化や環境・資源の制約などにより、かつてのような2桁の経済成長を望めなくなったことを認め、構造改革により1桁台後半の成長を持続させることを指す。大規模な財政出動を伴う景気対策はやらずに市場経済化を進め、先進国と同様に経済を投資主導から消費主導へ転換することを目指している。

 習国家主席が初めて「新常態」に言及したのは昨年5月。胡錦濤前指導部が打ち出した大型景気対策が過剰設備などの問題を深刻化させたとの認識があった。

 胡指導部は2008年のリーマン・ショック後、4兆元(当時の為替レートで57兆円)規模の大型経済対策を打ち出した。中国は世界に先駆けて高成長路線に復帰し、苦境に陥った世界経済を下支えする救世主の役割を果たした。一方で、非効率な国有企業による安易な設備投資に拍車がかかり、余剰マネーが資産バブルを生み出すという副作用を国内に残した。

 今後の焦点は一定の成長率を保って金融システムや社会の動揺を避けながら、改革を着実に実行できるかどうかだ。上海駐在の邦銀幹部は「現時点で目立ったマネーの目詰まりは起きておらず、08年時の米国のような信用収縮は起きていない」と話すが、経済減速の余波は着実に範囲を広げている。政府は景気減速下で改革を進める難しいカジ取りを迫られる。

[日経新聞9月17日朝刊P.7]

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(中)「身の丈消費」主流に 富裕層の需要、国外流出

 7月中旬、商業不動産大手、大連万達集団(ワンダ・グループ)の王健林董事長は取締役会でこう切り出した。「国内の百貨店の半分を閉鎖する」。明らかになったのは全国にある約90店のうち46店を閉鎖する大胆なリストラ計画だった。


中国では百貨店の閉鎖が相次ぎ、跡地は放置されたままだ(12日、天津市)

 湖北省武漢にある北京王府井百貨の店舗では今夏から、割安品を扱うアウトレット店への改装工事が急ピッチで進む。王府井は計4店の業態転換を決めており、店舗閉鎖などのリストラも急ぐ方針だ。

 習近平指導部が進める反腐敗運動や倹約令に加え、株式や不動産の値下がりで、百貨店が主力としていた高額品の売れ行きは急激に鈍化した。だが、苦境に追い込まれた理由はそれだけではない。若者を中心に急変する消費行動に対応し切れていないからだ。

 「給料は上がらないし、住宅ローンなどの借金もある。できるだけ節約していかないと」

 昨年、結婚したばかりで、大連市で暮らす会社員、王佳さん(28)は家計のやりくりに頭を悩ます。食事はなるべく自炊し、化粧品や洋服もブランド重視から、価格に見合った品質に重点を置くようになった。「ぜいたくな生活をするより、貯金をしつつ、たまに夫と旅行に行くのが楽しみ」と話す。

 中国の消費者の中で影響力を増しているのが、王さんのような「80後(1980年代生まれの人)」を中心とする「身の丈消費」世代。競うように高い商品を買うことを嫌い、自分のライフスタイルにあった消費行動を取る傾向が強い。とはいえ「80後」世代がお金を使わないわけではない。

 中国飯店協会のまとめによると、14年の外食市場は前年比9.7%増の2兆7860億元となったが、高級レストランは約6%減だった。成長をけん引したのはおしゃれな店構えながら安さと提供の早さが売りのファストフード型レストラン。ショッピングセンター(SC)に多く入り、80後や90後(90年代生まれの人)の若者が集う。

 こうした世代を取り込むのに成功したのが、割安さや商品数の多さが強みのインターネット通販だ。今年1〜8月の販売額は2兆2401億元と、小売市場の1割を超えた。消費行動の変化を的確にとらえ、価格に見合った価値を提供できれば、若者世代も財布のひもを緩める。

 百貨店など硬直的な品ぞろえの既存小売店が逃しているのは、若者の消費だけではない。

 中国国家統計局によると、中国人が海外で宿泊や飲食、買い物などに使ったお金から、外国人が中国で支払ったお金を差し引いた国際旅行収支の赤字額は14年、前年比4割増の1079億米ドル(12兆9480億円)に達した。たとえば日本を訪れた中国人観光客には炊飯器や温水洗浄便座などが人気で、それだけ富裕層の消費が国外に流出していることになる。

 刻々と変化する消費者の好みに柔軟に合わせた製品を開発し、最適な流通ルートで届ける仕組みをつくることができれば、中国内での消費はさらに増えるはずだ。

[日経新聞9月18日朝刊P.6]

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(下)国有企業、肥大止まらず 習改革、問われる覚悟

 首都北京から東へ180キロメートルほどの位置にある中国河北省の唐山市。中国の製鉄工場の1割強が集積する鉄の町を、景気減速による需要減が直撃していた。


「鉄の町」で生産を休止したのは大半が民営企業という(9日、河北省唐山市)

 「1カ月前に破産し、2000人が解雇された」。1984年に創業した民営製鉄企業、唐山貝氏体鋼鉄。コンクリートで塗り固められた門の周囲を公安担当者が警戒する前で、関係者が教えてくれた。

 同市で資金繰りが行き詰まり生産を休止した工場の大半は民営企業だ。供給過剰で業績が悪化しているのは国有企業も同じだが、国有銀行が国有企業向け融資を打ち切ることはほとんどない。

 取引先の相次ぐ倒産で売上高が50%落ち込んだという機械工具店の代表はあきらめ顔で話す。「国が救うのは国有企業だけだ」

 「新常態(ニューノーマル)」として習近平指導部が目指す1桁台後半の安定成長を実現するためには、市場経済化を進めて非効率な国有企業を淘汰し、過剰設備の解消を進める改革が避けられない。だが、現場では逆に国有企業が民営企業を圧迫する「国進民退」が進みつつある。

 国有資産監督管理委員会によると、中央政府傘下の大型国有企業113社の売上高合計は2014年、国内総生産(GDP)の39.5%に相当した。03年に比べると社数は72減ったが、比率は逆に6.9ポイント増えた。改革の必要性が叫ばれ続けたこの10年あまりで、国有企業の影響力は逆に増してきた。

 「より大きく、より強く、より優秀な国有企業を生み出していく」

 共産党と国務院(政府)は13日、連名で国有企業の大規模な企業再編を進める長期戦略を打ち出した。すでに今年6月には国有二大鉄道車両メーカーが合併し、世界の地下鉄車両シェアで5割を占める中国中車が誕生した。世界競争をにらんだ「官製再編」は一定の成果もあげつつあるが、国有企業のさらなる肥大化につながりかねない。

 少なくとも165人が死亡した8月の天津港爆発事故は、国有企業のモラルハザード(倫理の欠如)を示す新たな一例となった。

 爆発を起こした危険物倉庫会社のトップは国有化学大手、中国中化集団の元幹部で、共同経営者は天津港公安局長の息子だった。元幹部は共同経営者について「彼の父親の立場を知ってチャンスだと思ったよ」と周囲に漏らしていたという。

 彼らに危険物取り扱いの事業免許を与えたのも、天津港集団という国有企業だ。倉庫会社は新興企業ながら国有大手や政府に張り巡らした「コネ」を駆使し、不当に許認可と利益を得ていた疑いが出ている。

 98年に就任した朱鎔基・元首相は様々な抵抗に遭いながらも国有企業の分割・民営化を推し進め、4千万人以上の大規模リストラを断行した。経済や社会には一時的な痛みをもたらしたが、それが民営企業の躍進という新たな活力を生んだといわれる。

 習指導部が同じ覚悟で改革を断行できなければ、「新常態」は絵に描いた餅に終わる。

 小高航、阿部哲也、原島大介が担当しました。

[日経新聞9月19日朝刊P.6]

 

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コメント
 
1. 2015年9月22日 09:31:40 : jXbiWWJBCA
2015年9月22日 吉田陽介[日中関係研究所研究員]
中国政府が行う“社会規制”は非難されるべきものか
 9月3日に行われた軍事パレードは、中国の内外に「強い中国」をアピールし、中国は今後世界平和を守るために力を尽くすことを強調した。このパレードは中国の軍改革の成果、習近平国家主席の政権基盤の安定をアピールするという意味で、成功だったといえる。


 だが、その一方で、パレードが行われた北京では徹底した社会規制がしかれ、中国共産党が重視している「人民」の生活に影響を及ぼした。今回の軍事パレードに関する一連の規制措置は8月20日から9月3日までとられた。

 中国では、毎年春に開かれる全国「両会(全国人民代表大会・政治協商会議)」や毎年秋に開かれる中国共産党中央委員会全体会議など重要イベントの前には、地方から北京に入る人に対する管理を強化する。国際会議や重要なスポーツイベントが行われる前も規制が強化される。

 それに対し、一般の中国人のこれに対する見方は分かれる。ある人は「国のやることだから仕方ない」とあきらめ半分に語り、ある人は「このようなイベントは自分たちの生活には関係ないのに本当に迷惑」と語る。

 いずれにしても、規制の強化はあまり歓迎できるものではないのは確かである。中国は社会に対する厳しい管理が必要なのか、考えてみたい。

「不条理な規制」と批判した
FT中国語版の記事

 9月2日に『フィナンシャルタイムズ』中国語版に掲載された「大閲兵と大規制」と題する記事(以下FT記事と略)は、軍事パレードを前にした一般の中国人の考え方の一端を示している。記事によると、今日の中国は「不条理劇」の舞台であり、今回の社会規制もまたそうであったという。

 記事はいくつかの「不条理な規制」を紹介している。第一に、メディアに対する規制だ。勝利記念ムードを醸成するために、中国の関係部門はすべてのテレビ局の衛星放送は9月1日から5日までの期間、娯楽性のある番組を放送しないよう各テレビ局に求めたが、多くのネットユーザーは「勝利を祝うのではないか。戦争に負けたのでもあるまいし、どうして娯楽を禁止するのか」と突っ込みを入れたという。

 第二に、大気汚染に対する規制だ。軍事パレード当日の北京の大気汚染を防ぐために、北京とその周辺地域は自動車のナンバー規制を実施し、多くの工場も操業停止して、汚染排出物の減少に努めた。それだけでなく、河北省では一部の農家の土竈(どがま)まで使用禁止にし、料理の煙によって大気汚染が引き起こされないようにしたが、このような措置は本当に奇妙に感じると、FTは指摘する。

 第三に、イベントに対する規制だ。例えば、中国美術館は式典にあわせるため、8月23日より「中国人民抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利70周年記念美術作品展」を開催した。だが、この美術館の公告によると、「中国人民抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利70周年記念閲兵活動に合わせるため、関連部門の指示により、9月2日から3日は閉館する」となっていた。公告が発せられた後、「反ファシズム勝利70周年絵画展は反ファシズム勝利70周年活動によって中止になった」という笑い話が人々の間で広まった。

 その他にも規制があった。9月3日の軍事パレード当日、協和病院、同仁病院など北京の中心部の大きな病院の多くは診療活動をストップした。パレード前後、天安門広場付近、長安街周辺などが閉鎖され、住民が居住する団地も出入りが制限されただけでなく、スーパーやレストランも営業を停止した。このような厳しい規制に対し、あるネットユーザーは「いったい抗日戦争勝利を記念するのか、北京の厳戒態勢を記念するのか」と冗談交じりのコメントを残したという。

 記事はこれらの規制について、「このような不条理さが人々の心に深く入り込み、多くの中国人がこれが正常だと受け止め、はなはだしきは、“当たり前のこと”と感じることが最も恐ろしい」と述べ、行過ぎた当局の規制を批判した。また、大型イベントになればなるほど規制が厳しくなるというパラドックスが中国にあることも指摘した。そして今の中国の社会は「権力が権利に譲歩を迫っている」と結論付けた。

 一方で、FT記事の存在は、中国の社会が多様化したことを示している。改革開放前は、現在のように情報手段が発達していなかったため、一般の人々は自由に海外の情報にアクセスできなかった。また、当時の中国はソ連式の社会主義モデルを堅持していたため、徹底した管理がなされていた。これらの理由により、人々の考えは現在に比べて多様化していなかった。

 だが、改革開放以降、様々な考えが入ってきて、人々の思考やニーズが多様化している。軍事パレードの考え方にしてもそうで、あるブログは「政府は軍事パレードよりも、人々の生活改善などに取り組んだほうがいい」という市民の突っ込みを紹介した。FT記事も中国人の多様化した考えの一つである。

 FT記事は他のサイトにも拡散したが、中国政府の「痛いところ」を突いたため、一部を除いて閲覧が難しくなっている。また、軍事パレードに関する批判の突っ込みも削除されている。

市民に対する「社会管理」は
日常的に行われる

 現在、中国は改革を全面的に深め、経済面では市場経済の役割をさらに重視する方向で、経済活動の自由化を進めているが、その一方で社会の管理も強化されている。大型イベントのときだけでなく、日常でも規制がある。

 中国政府がとっている「社会管理」として、よく知られているのはまずネット規制である。グーグルやユーチューブなど特定のサイトが閲覧不可であるほか、中国大手の検索エンジン「百度」で検索する際に、検索対象の言葉に「ジャスミン革命」や「六・四(天安門事件)」など「敏感」な言葉が含まれていると、「中国の関連法律に触れる言葉がある」というメッセージが表示され、当たらず触らずの内容の検索結果が出てくる。また、当局を批判するようなブログはすぐに削除されてしまう。

 次に、急進的な民主化思想に対する取り締まりである。天安門事件以降、中国政府はソ連・東欧の経験も踏まえて、欧米式の民主主義思想が広まって主流思想になっていくことに神経を尖らせており、一部の活動家や人権派弁護士が取り締まりの対象になっている。習政権になってからは、政治改革の歩みがやや鈍り、早急な政治改革を求める声を規制の対象にしている。

 また、一般市民の生活でも、治安維持のために安全検査が強化されている。2008年の北京オリンピックを境にして、地下鉄の駅では乗車前に手荷物の安全検査が行われている。ここ数年は、中心部の駅ではさらに検査が強化されている。また、駅の構内ではラッシュ時など人が多い時間帯には、警官が立っている。彼らは道行く人をランダムに呼びとめ、身分証の提示を求める。

 さらに、企業に対しては労働安全や環境に対する規制が強まりつつある。とりわけ、環境面では、厳格な基準が設けられ、それを満たさないと強制措置をとられる。

急速な発展の歪みゆえに
規制せざるを得ない面も

 なぜ、このような社会管理を行う必要があるのか。それにはいくつかの理由が考えられる。

 第一に、社会の安定に主眼を置いているからだ。筆者は以前、習政権の政治について論じたコラムの中でも言及したが、現在習政権は改革を断行しており、それには安定した社会環境が必要不可欠である。また、最近は各地で暴力事件が多くなってきており、それを抑えるためにも管理はぜひとも必要なのである。

 また、ネット規制に関していえば、ネットの発達につれて、人々はネット空間で自分の意見を発表するようになったが、その中には政府が恐れている急進的な民主化思想を広げる主旨のものもあり、それは政府としては容認できない。また、ひとたび重大事件がおこれば、ネットを通じてあらゆるうわさが飛び交い、内容によっては社会不安を引き起こす可能性もある。そのため、社会を安定させるべくネット空間も管理しているのである。

 第二に、国際イメージを保つためである。現在中国の国際的地位は改革開放初期に比べて大きく向上し、世界の多くの国が中国に注目しており、世界に中国がどう見られているかを気にする必要が出てきた。今回の軍事パレードもそうだが、外国人客を招く大型イベントを開くにあたっては、中国の国際イメージを保つためにあらゆる規制措置をとる。大気汚染に関わる規制はその最たるものである。

 第三に、中国の発展がアンバランスであるため、治安の維持には強力な規制が必要だということだ。改革開放30余年を経て、中国人の生活は大幅に向上したが、その一方で発展から取り残された人もいる。現在は農村に住む人が出稼ぎのために大都市に行くことが可能なので、北京などの大都市には貧しい地方からの出稼ぎ者が入ってきていて、様々なレベルの住民が混在した社会となっている。皆の資質が高ければ強い規制は必要ないだろうが、そうでない人は往々にしてルールを守らないため、強くコントロールすることが求められる。

 第四に、人々の公共意識の欠如だ。改革開放により、欧米の経済管理のノウハウだけでなく、西側の民主的思想も入ってきた。そのため、思想面では、マルクス主義思想、自由主義・個人主義思想、中国の伝統的思想が混在するようになった。特に、若い人にとっては、個人主義は魅力的に映ったのだろう。結果として、「自分や自分の家族さえよければよく、その他の人のことは知らない」というような悪い面も出てきた。

 毛沢東時代を経験した人は「昔はみなまわりの人のことも考えて行動したものだが、今は自分さえよければそれでいいと考え、自己中心的な行動をとる人が増えてきている」と語る。その傾向は、公共意識の欠如をまねき、社会の秩序を往々にして乱す。

 以上の理由から、「社会管理」が日常的に強化されている。ただ、政府は人々のことをまったく考えずに管理措置を打ち出しているのかといえば、そうともいえない。今回の軍事パレードの規制についてみても、パレードのリハーサルを週末にしたり、地下鉄が止まるのを夜にするなど、一応の配慮はみられる。

 また、9月3日には、北京市がメディアを通じて市民に宛てた感謝状を発表しており、管理する側も人々に気を遣っている。ただ、先ほど述べた理由のため、今後も「社会管理」が消えていくことはないだろう。

社会の秩序を保つためには
国民の資質向上が不可欠

 政府による規制は批判もあるものの、いくらかは良い効果を出しているともいえる。

 今回の軍事パレードに関する規制についていうと、大気汚染規制は好ましい規制だった。ある中国人の友人は「規制のおかげで空気がきれいになって本当によかった。青空を毎日見られる天気だと、北京も捨てたもんじゃないなと思う」と語ったが、筆者もそう思った。規制について「やりすぎだ」という声も聞かれるが、すべてが人々にマイナスになるものではない。

 では、今後も規制は必要なのだろうか。筆者のみるところ、まだ必要だと思う。現在、中国はまだ発展を続けているところで、その過程ではまだまだ問題が多い。特に中国は国が大きく、発展の過程がアンバランスであるため、管理しないと秩序が保てなくなる。

 北京の地下鉄を例にとってみよう。朝夕のラッシュ時には駅は人でごったがえすので、乗客が著しくマナーを無視した行動をとらないように見張る監視者がホームに立っている。監視者は並んで乗車するよう指導し、割り込みなどする者には「何やってるんだ。並べ」と言って注意する。監視者がいる間はみな一応はマナーを守るが、ひとたび監視者が離れると、自分勝手にする。これは何も地下鉄だけの問題ではなく、他のところでも同様である。

 中国には「上に政策あれば、下に対策あり」という言葉がある。どんなに厳しい政策があっても、何とか抜け道を探して逃れようとする意味で、これは社会に浸透している。この傾向を正すには、国民全体に「ルールを守る」という意識を浸透させることが重要である。

 国民の意識の向上は、短期間で成し遂げられるものではなく、長期にわたる取り組みが必要となる。筆者のみるところ、現在の中国は、大都市に限ってみれば、中産階級の資質は上がってきており、確実に前進している。ただ、すべての人のモラル意識を上げるのはまだ先のことになるだろう。その過渡的措置として、やはり管理は必要と考える。

 併せて、管理を行う党・政府側にも、不正がないように管理が必要である。そのため、現在は「規律は法よりも厳しい」という考えのもと、党・政府の引き締めをしている。

 管理するにあたっては「なぜこのような管理をするか、これによってどのような問題が解決されるか」を丁寧に説明することも求められる。現在党・政府は民意を無視できなくなっており、かつてのようにトップダウンで何も言わずに規制措置をとるのでは国民の支持を得られない。党・政府は自らが目標にしている「オープンな形での権力運用」をしなければ、規制措置を「不条理劇」と感じる人が少なくなることはないだろう。
http://diamond.jp/articles/-/78872


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