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中国きしむ新常態
(上) 安定成長へ苦難の調整
習指導部、一段の減速に危機感 生産停滞、雇用に影
中国経済の減速感が一段と強まってきた。消費動向を示す社会消費品小売総額は10%程度の成長を維持するが、設備過剰が深刻な製造業では減産の動きが広がり、雇用にも影を落とし始めている。中国経済はかつてのような2桁成長を望めない「新常態(ニューノーマル)」に移行したとし、緩やかな成長の持続を目指す習近平指導部。成否は成長減速の混乱を抑えながら、痛みを伴う構造改革を実行できるかにかかっている。
「7〜8月に20日以上の休暇が与えられた。こんなことは今までなかった」。四川省成都にある独フォルクスワーゲン(VW)と中国・第一汽車の合弁工場。ある従業員は突然告げられた長期休暇の様子を地元メディアに語った。
自動車販売は昨年まで好調を維持してきたが、今春から急ブレーキがかかった。在庫が膨らんだ販売店は値引き競争を繰り広げており「9割が赤字」(自動車販売店の業界団体)との声もある。
中国国家統計局によると、工業主要産品69品目のうち2014年の生産量が前年を下回ったのは発電用ボイラーや冷蔵庫など16品目。15年1〜7月では建設資材の粗鋼、板ガラス、セメントや工作機械などが減産に転じ生産量が前年同期を下回った品目は31に増えた。同時期の自動車は0.2%増だったが、7月単月では11.2%減となるなど、ここへ来て生産の停滞が鮮明になっている。
減産の動きは雇用情勢にも影を落とす。1万人近い人員を抱える日系電子部品メーカーの福建省の工場。これまでは毎月10%程度の工員が離職し、人手不足から人員の補充は難航するのが常だった。それが6月以降、離職率は5%に半減、新規採用の募集には毎日数百人が訪れるようになった。同工場の幹部は「こんなことは初めて」と驚きを隠さない。
8月末には山東省の造船中堅、山東華海船業が破産した。非効率な国有企業が淘汰されずに存続する造船や鉄鋼、セメントなどの業界では設備過剰が一段と深刻さを増しており、企業破綻も表面化しつつある。
中国の15年4〜6月の実質国内総生産(GDP)成長率は1〜3月と同じ前年同期比7.0%となったが、実際はすでに7%を下回っているとみるエコノミストも少なくない。6月中旬以降の株式バブル崩壊、輸出不振などが相まって、15年の成長率は政府目標の「7%前後」を下回るとの見方も広がっている。
李克強首相が10日の講演で、大規模な景気刺激策を打ち出すよりも改革を優先する姿勢を示す一方、「目の前のことに対しては様々な手を打つ」としたのも、悲観論が広がっていることへの危機感の表れだ。
「今後5年間は構造転換の陣痛期」。トルコで5日閉幕した20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で楼継偉財政相はこう語った。陣痛に耐えきれず、改革の手綱を緩めれば将来に禍根を残すことになる。
消費主導経済に転換 大型の景気対策に頼らず
習近平指導部が掲げる「新常態(ニューノーマル)」は高齢化や環境・資源の制約などにより、かつてのような2桁の経済成長を望めなくなったことを認め、構造改革により1桁台後半の成長を持続させることを指す。大規模な財政出動を伴う景気対策はやらずに市場経済化を進め、先進国と同様に経済を投資主導から消費主導へ転換することを目指している。
習国家主席が初めて「新常態」に言及したのは昨年5月。胡錦濤前指導部が打ち出した大型景気対策が過剰設備などの問題を深刻化させたとの認識があった。
胡指導部は2008年のリーマン・ショック後、4兆元(当時の為替レートで57兆円)規模の大型経済対策を打ち出した。中国は世界に先駆けて高成長路線に復帰し、苦境に陥った世界経済を下支えする救世主の役割を果たした。一方で、非効率な国有企業による安易な設備投資に拍車がかかり、余剰マネーが資産バブルを生み出すという副作用を国内に残した。
今後の焦点は一定の成長率を保って金融システムや社会の動揺を避けながら、改革を着実に実行できるかどうかだ。上海駐在の邦銀幹部は「現時点で目立ったマネーの目詰まりは起きておらず、08年時の米国のような信用収縮は起きていない」と話すが、経済減速の余波は着実に範囲を広げている。政府は景気減速下で改革を進める難しいカジ取りを迫られる。
[日経新聞9月17日朝刊P.7]
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(中)「身の丈消費」主流に 富裕層の需要、国外流出
7月中旬、商業不動産大手、大連万達集団(ワンダ・グループ)の王健林董事長は取締役会でこう切り出した。「国内の百貨店の半分を閉鎖する」。明らかになったのは全国にある約90店のうち46店を閉鎖する大胆なリストラ計画だった。
中国では百貨店の閉鎖が相次ぎ、跡地は放置されたままだ(12日、天津市)
湖北省武漢にある北京王府井百貨の店舗では今夏から、割安品を扱うアウトレット店への改装工事が急ピッチで進む。王府井は計4店の業態転換を決めており、店舗閉鎖などのリストラも急ぐ方針だ。
習近平指導部が進める反腐敗運動や倹約令に加え、株式や不動産の値下がりで、百貨店が主力としていた高額品の売れ行きは急激に鈍化した。だが、苦境に追い込まれた理由はそれだけではない。若者を中心に急変する消費行動に対応し切れていないからだ。
「給料は上がらないし、住宅ローンなどの借金もある。できるだけ節約していかないと」
昨年、結婚したばかりで、大連市で暮らす会社員、王佳さん(28)は家計のやりくりに頭を悩ます。食事はなるべく自炊し、化粧品や洋服もブランド重視から、価格に見合った品質に重点を置くようになった。「ぜいたくな生活をするより、貯金をしつつ、たまに夫と旅行に行くのが楽しみ」と話す。
中国の消費者の中で影響力を増しているのが、王さんのような「80後(1980年代生まれの人)」を中心とする「身の丈消費」世代。競うように高い商品を買うことを嫌い、自分のライフスタイルにあった消費行動を取る傾向が強い。とはいえ「80後」世代がお金を使わないわけではない。
中国飯店協会のまとめによると、14年の外食市場は前年比9.7%増の2兆7860億元となったが、高級レストランは約6%減だった。成長をけん引したのはおしゃれな店構えながら安さと提供の早さが売りのファストフード型レストラン。ショッピングセンター(SC)に多く入り、80後や90後(90年代生まれの人)の若者が集う。
こうした世代を取り込むのに成功したのが、割安さや商品数の多さが強みのインターネット通販だ。今年1〜8月の販売額は2兆2401億元と、小売市場の1割を超えた。消費行動の変化を的確にとらえ、価格に見合った価値を提供できれば、若者世代も財布のひもを緩める。
百貨店など硬直的な品ぞろえの既存小売店が逃しているのは、若者の消費だけではない。
中国国家統計局によると、中国人が海外で宿泊や飲食、買い物などに使ったお金から、外国人が中国で支払ったお金を差し引いた国際旅行収支の赤字額は14年、前年比4割増の1079億米ドル(12兆9480億円)に達した。たとえば日本を訪れた中国人観光客には炊飯器や温水洗浄便座などが人気で、それだけ富裕層の消費が国外に流出していることになる。
刻々と変化する消費者の好みに柔軟に合わせた製品を開発し、最適な流通ルートで届ける仕組みをつくることができれば、中国内での消費はさらに増えるはずだ。
[日経新聞9月18日朝刊P.6]
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(下)国有企業、肥大止まらず 習改革、問われる覚悟
首都北京から東へ180キロメートルほどの位置にある中国河北省の唐山市。中国の製鉄工場の1割強が集積する鉄の町を、景気減速による需要減が直撃していた。
「鉄の町」で生産を休止したのは大半が民営企業という(9日、河北省唐山市)
「1カ月前に破産し、2000人が解雇された」。1984年に創業した民営製鉄企業、唐山貝氏体鋼鉄。コンクリートで塗り固められた門の周囲を公安担当者が警戒する前で、関係者が教えてくれた。
同市で資金繰りが行き詰まり生産を休止した工場の大半は民営企業だ。供給過剰で業績が悪化しているのは国有企業も同じだが、国有銀行が国有企業向け融資を打ち切ることはほとんどない。
取引先の相次ぐ倒産で売上高が50%落ち込んだという機械工具店の代表はあきらめ顔で話す。「国が救うのは国有企業だけだ」
「新常態(ニューノーマル)」として習近平指導部が目指す1桁台後半の安定成長を実現するためには、市場経済化を進めて非効率な国有企業を淘汰し、過剰設備の解消を進める改革が避けられない。だが、現場では逆に国有企業が民営企業を圧迫する「国進民退」が進みつつある。
国有資産監督管理委員会によると、中央政府傘下の大型国有企業113社の売上高合計は2014年、国内総生産(GDP)の39.5%に相当した。03年に比べると社数は72減ったが、比率は逆に6.9ポイント増えた。改革の必要性が叫ばれ続けたこの10年あまりで、国有企業の影響力は逆に増してきた。
「より大きく、より強く、より優秀な国有企業を生み出していく」
共産党と国務院(政府)は13日、連名で国有企業の大規模な企業再編を進める長期戦略を打ち出した。すでに今年6月には国有二大鉄道車両メーカーが合併し、世界の地下鉄車両シェアで5割を占める中国中車が誕生した。世界競争をにらんだ「官製再編」は一定の成果もあげつつあるが、国有企業のさらなる肥大化につながりかねない。
少なくとも165人が死亡した8月の天津港爆発事故は、国有企業のモラルハザード(倫理の欠如)を示す新たな一例となった。
爆発を起こした危険物倉庫会社のトップは国有化学大手、中国中化集団の元幹部で、共同経営者は天津港公安局長の息子だった。元幹部は共同経営者について「彼の父親の立場を知ってチャンスだと思ったよ」と周囲に漏らしていたという。
彼らに危険物取り扱いの事業免許を与えたのも、天津港集団という国有企業だ。倉庫会社は新興企業ながら国有大手や政府に張り巡らした「コネ」を駆使し、不当に許認可と利益を得ていた疑いが出ている。
98年に就任した朱鎔基・元首相は様々な抵抗に遭いながらも国有企業の分割・民営化を推し進め、4千万人以上の大規模リストラを断行した。経済や社会には一時的な痛みをもたらしたが、それが民営企業の躍進という新たな活力を生んだといわれる。
習指導部が同じ覚悟で改革を断行できなければ、「新常態」は絵に描いた餅に終わる。
小高航、阿部哲也、原島大介が担当しました。
[日経新聞9月19日朝刊P.6]
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