1. 2015年9月20日 09:52:26
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http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45280 徳瑠里香私が見た世界の片隅で 2015年09月20日(日) 徳瑠里香 【ルポ】子どもたちの貧困?夢なんて持てない。「社会からの偏見」と「進学格差」 子どもを絶望させる社会に未来はない!Photo by iStocks 身近にある子どもたちの貧困 「大人の勝手な都合で不幸になる子どもたちをこれ以上増やさないでほしい。辛い思いをするのは俺たちだけで十分だ。僕はごくごく普通の家庭を築きたい。公園で家族と手をつないで歩いてみたい」 渡辺隆さん(仮名、専門1年生)は7歳のときに両親が離婚。父と家を出たが住む場所がなく車生活を余儀なくされた。3年間学校へも行けず、生活をするために盗みもした。 そんな生活のなかである日父が病に倒れ、その1年半後に亡くなる。ガリガリに痩せた渡辺さんは、やがて保護され児童養護施設で暮らすようになった。「俺が父ちゃんを苦しめたからだ」と自分を責め続け、1人布団の中で泣いた。 日本には虐待や育児放棄、親の貧困や精神的な病などが理由で、親と暮らせない子どもたちが約47,000人いる。そのうち約3,0000人の子どもたちが児童養護施設で生活する。 18歳になると子どもたちは施設を退所しなければならない。状況が改善し家庭に戻るケースもあれば、他の福祉施設に措置変更がなされることもあるが、そのほとんどが18歳で社会に出て自活を余儀なくされる。 「18歳は、大人ですか?」―そんな問いを投げかけ、児童養護施設の子どもたちの自立をサポートするNPOブリッジフォースマイルは、施設の子どもたちの夢を応援する「カナエール〜夢スピーチコンテスト」を2011年から毎年開催している。 今年6月末に開かれた東京公演で、トップバッターとして舞台に立った隆さんは、「オリンピック選手のスポーツトレーナーになる」という夢を語った。 社会からの偏見 「施設にいることがコンプレックスでずっと隠していました。自分が気にしすぎているだけかもしれませんが、みんなが離れていくんじゃないか、怖いんです。 “親に捨てられたかわいそうな子”という目で見られるだけで深く傷つきます。その偏見は社会から消えることはないと思います。 施設にいる子たちはなにも悪くないのに、自分たちはみんなと違う、普通じゃないと思わされてしまうんです」 児童養護施設で暮らす安部美咲さん(仮名、高校3年生)は淡々と思いを言葉にした。 日本にはいま全国に約600の児童養護施設があり、その形態によって生活環境は異なる。 近年は、施設においてもより家庭的な環境を整えることが重要視され、小規模化が進められているが、現状は約6割の施設が「大舎制」となっている。そこでは、一つの大きな建物に、食堂や浴場があり、子どもたちは個室〜8人部屋で生活をしている。 子どもの親代わりとなる施設職員は、日常生活の世話から学校行事への参加、進路相談などを行う。日本における施設職員の配置基準は、児童5.5人に対して1人となっている(平成27年4月より児童と職員の割合を4:1にした場合、その分補助金が加算される)。三勤交代で5.5人の親代わりとなる仕事はハードであるがゆえ、3年で退職する職員は54%にのぼる。 「施設は大人たちにとっては職場でも私たちにとっては家です。誰にも言えないような相談を“きまりだから”と観察日記に書かないでほしい。私たちは居場所がないからここ(施設)にいるんです。ルールが守れないなら出ていけと言われても、どこにも行く場所なんてない。 団体行動ではなく、一人で過ごすことができる、友達を呼ぶことができる、自分の家を持てるように自立したい」 語学や異文化を学ぶことが好きだという美咲さんは、もっと広い世界を知りたいと大学進学に向けて受験勉強に励む。その傍ら、入学資金等を稼ぐために日々アルバイトもこなす。 圧倒的な進学格差 児童養護施設退所者の大学進学率は約20%で全国平均75%を大幅に下回る。一方、大学進学後の中退率は30%と、その数は全国平均の約3倍。大学に進学しにくく中退しやすい、その一番の要因は「お金」だ。 児童養護施設退所者は、大学の学費に加え住居費も生活費もすべて自分で賄っていかなければならない。ある学生は、月120時間をアルバイトに費やしているがそれでも生活は苦しいという。 親を頼ることもできず、高校卒業と同時に施設に帰ることもできない18歳の若者にのしかかるその負担は、経済的にも精神的にも大きい。結果、児童養護施設出身者のうち、進学し卒業までするのは全体の14%となる。 ブリッジフォースマイルが児童養護施設で生活する高校生1,079人に行った調査によれば、進学希望率36.2%に対し、進学予想率は27.9%と下回る。「進学はしたいが、資金が足りないのでまず就職して、お金を貯めてから学校にいきたい」といった回答も数多く見られた。進学格差が、将来に対する「希望格差」を生み出している。 施設の子どもたちだって夢を持ってもいい 「児童養護施設の子たちは、自分が置かれた環境から、大学に進学するのは贅沢だ、夢なんて持ってはいけない、と思い込んでいる傾向にあります。 やりたいことを考える余裕がなかったり、得意なことがあったりしても、希望よりも給料や条件のいい安定を求めてしまいます。もちろんそれも選択肢の一つですが、初めからあきらめる必要はないし、無言の圧力のようなものをとっぱらいたいんです。施設出身者だって夢を持ってもいい。それが叶わなかったとしても、やり直しができる、ということを知ってほしいんです」 ブリッジフォースマイルの代表・林恵子さんはそんな思いをもって、4年前に「カナエール」を始めた。カナエールは、施設の子ども1人に対して大人3人がサポーターとなりチームを組んで、120日間準備を重ね、大衆を前に夢を語るスピーチコンテストだ。 出場した学生には、奨学金として一時金30万円と卒業するまで毎月3万円が支払われる。その奨学金は1口月2,000円(年24,000円)の継続的な個人の寄付で賄われている。15人のサポーターが集まると1人の学生を支援することができる。特徴は「顔が見える支援」をすること。 「児童養護施設の子どもたちの存在を知ってから何かしたいと思ったのですが、いまいち顔が見えなくて何をすればいいかわからなかったんです。施設で暮らす子はどんな子なのか、どんな支援を必要としているのか。 当時の私のように支援したい人がいて、支援を求めている子どもたちがいる。両者の顔の見える支援ができる仕組みを作りたいと思ったんです」(林さん) 実際にやってみると、支援をしたい人と求めている人を“ブリッジ”するのは思った以上に困難だったと林さんは振り返る。ブリッジフォースマイルは2014年、他のプログラムも含め467名の子どもたちを支援してきた。カナエールの奨学金継続寄付者数は東京と横浜で175人、福岡で151人となる。 「私たちはこのプログラムに参加する子たちを施設における“エリート”だと思っているんですが、それでも、初めは自分のことを振り返りたがらないし、施設にいることも認めたがらない。サポートする大人たちを前に心を閉ざしてしまう子も多いんです。 でも120日間のプログラムのなかで、自分の話を聞いてくれる人がいるんだ、と徐々に心を開き距離が縮まっていきます」 カナエールの運営をするブリッジフォースマイルの植村百合香さんはプログラムを通じて子どもたちの変化を目にしてきた。 「子どもたちは学校に行ってバイトもして、22時くらいから打ち合せをしたりするのでとても大変なんですが、その分、舞台に立ったときの達成感は大きいでしょう。約500人の前で自分の夢を語るなんて、大人でも緊張してしまうことですから。プログラムを通して、卒業するまでに意欲と自信を持ってもらいたいんですね」(植村さん) 今回のカナエール東京公演では、10人の学生たちから、声優や料理人、ジャーナリスト、検察事務官やブライダルプランナー、教師など多様な夢が飛び出した。舞台に立つ学生の後ろには、それぞれ3人の大人たちが見守る。奨学金をサポートする人たちを中心に約500人が集まった会場では、みな学生の言葉にしっかりと耳を傾け、涙する人もいた。まさに、顔の見える大人たちが、子どもたちの夢を支えている。 カナエールの様子(提供:ブリッジフォースマイル) 頼れる大人と、身近なロールモデルを 「6歳のときに父は家に帰ってこなくなり、11歳のときに母は亡くなりました。18年間これでもか、というくらい大切なものを失ってきた。家に帰っても誰もいない、そんな日でも習っていた機械体操に行けば居場所がありました。
そこで自分を見ていてくれる一人の大人がいたんです。『帰れ!』と泣かされたこともあったけど、『お前はずっと俺の教え子だから何かあったらいつでもこいよ』と言ってくれた先生がいたからがんばれます」 子どもたちと向き合うジュニアスポーツ指導員になりたいという土屋あずささん(仮名、大学1年生)は、自分を支えてくれる大人の存在の大切さを訴えた。 「1歳2ヵ月で施設に預けられたので親との思い出はありません。僕にとっては施設での生活が当たり前でした。施設の先生たちが自分の親代わりになって、自転車の練習に付き合ってくれたり、授業参観に来てくれたり、いつもそばで支えてくれました。もし僕が一般の家庭に生まれていたとしたら、先生たちに出会うことはなかった。そう思うと施設育ちでよかったと思います」 子どもたちのお腹も心も満たす料理人になりたいという岩崎康祐さん(仮名、専門1年生)は、施設で育っても夢は叶えられると、後輩たちに伝えたいと意気込む。 カナエールで語られる一番多い夢は、施設職員や先生だという。子どもたちの身近にいる大人たちの影響力は大きい。 「まだまだ身近な大人以外のロールモデルが少ないんですね。一緒に施設で暮らしていた先輩が、大学を卒業して就職をして本当に自立した姿を見せてくれれば、次の世代も続いていくと思います。同じ環境にいたほうが説得力もありますから。施設出身者から多様なロールモデルを出していくことがカナエールの一つのゴールです」(林さん) カナエールでは、会場に見に来ていた子どもたちが翌年のプログラムに参加するケースもあるという。少しずつ、自らの夢を叶えている若者たちも増えてきている。 今年10周年を迎えたブリッジフォースマイルの記念パーティーには、40人を超える施設出身者とボランティアサポーターや施設関係者、合計170人が集った。施設退所者にとって、ブリッジフォースマイルとそこに関わる大人たちの存在は、育った施設以外の一つの拠り所になっている。 「施設出身者が抱える大きな問題は、やはりお金と人間関係。退所して、そこでつまずいてしまう子たちが多いんです。私たちは小額でも奨学金を払うことで、子どもたちと継続的に関わりを持つようにしています。奨学金は、金銭面だけではなく、その子を一人にしないためのものでもあるんです。 施設も退所後の子どもたちのケアに努めていますが、職員が忙しいことはそこで育った子どもたちが一番わかっているから、頼らないケースも多いんですね。実家にも頼れないなかで、トラブルに巻き込まれたり失敗したりしたときに、どう自分の体制を整えられるか。一番大事なのは、危うい状況になったときに最後の拠り所があるかどうか、なんです。」(林さん) 私たちの気づかないところで、どこにも居場所のない子どもたちが苦しんでいるかもしれない。ブリッジフォースマイルはカナエール以外にも、施設を出る直前に生活スキルを磨く「巣立ちプロジェクト」や退所後のネットワーク「アトモプロジェクト」などにも取り組む。 「児童養護施設が、子どもの生活の場所として当たり前になって、偏見もなく、社会に出るときもなんのデメリットもないし、チャンスもある…そういう場所になったら私たちの活動はいらなくなるでしょう。必要とする施設の子たちがいる限りやり続けます。」(林さん) 児童養護施設の子どもたちに対する偏見や進学格差が消えない限り、ブリッジフォースマイルの挑戦は続く。 【カナエールの支援について】 継続寄付者が15人集まれば、1人の奨学生を支えることができます。 児童養護施設からの進学、卒業までをサポートするプログラム 詳細はこちらから→http://www.canayell.jp/support/donate/
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